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ラミアの森  作者: 林育造
最終章
39/44

ヌーハの街は、街と村の中間くらいの大きさの所だった。宿屋はないようなので、元村長らしい代表の所に宿泊の交渉に行く。移動中、行きかう人々を見ていたパーチさんが、

「なんだか年寄りと大きい子どものいないとこだなぁ」

という。言われてみれば、若い者と小さな子どもばかり目につく。街全体の住人の年齢層が偏っている感じだ。会ってみると代表も見かけ30代くらいだった。宿を乞うと快く了承してくれたが、森へ行ってみるつもりだというと、

「あー、ラミア様に悪さはしないでな」

と言われた。知り合いを探しに来ただけで悪さをするつもりはないが、ラミア様?


ヌーハから見える2つの森のうち、一方は街から少し川の上流の方にあり、もう一つは山の方にある。川沿いのものは規模があまり大きくないが、山の方のは山を巻いて向こう側まで広がっている。山の向こう側は別の川の流域になっており、そのまますぐ海につながっているという。距離はどちらもヌーハから歩いて3時間と言うところだ。

朝起きて、代表の家で朝食を食べさせてもらう。肉片と野菜が少し入った穀物の雑炊かお粥のようなものである。代表にお礼を述べるとともにしばらく逗留するつもりであることを告げ、荷物を預かってもらって川沿いの森へ行ってみる。確かに大きな森ではないが、ラミア族は全く見当たらない。ママサ近くの森の個体密度で考えると10人くらいしかいられそうにない大きさなので無理はないかもしれない。


一通り見て出会えなかったので、山の方の森へ向かうことにする。真っ直ぐ行こうとすると、腰より高い里芋のような葉の草が生い茂った、踏み分け道すら全くない草原を突っ切ることになり、藪漕ぎも大変そうだし何がいるかわからない不安もある。パーチさんが全力で突っ走れば3時間もかからないだろうが、俺がそんなに早く移動できる保証はない。素直に一度ヌーハ近くまでに戻り、草がまばらな草原の縁に沿って向かうことにする。


「なぁ、先生。ふと思ったんだが」

「うん?」

「人間っていうのは、ラミアがきれいな石を持ってるとして、そのラミアに気楽に声をかけるものなのかい?」

言われてみればその通りである。自分が気にしていないのでそこまで考えていなかったが、気軽にラミアに話しかけるような人間と言うのはあまりいないかも知れない。

「あまりいないかもしれないけど、ヌーハで『ラミア様』とか言っていたし、交流があるのかも」

近づいてみると、大きな森である。ママサ近くの森に負けてはいない。ヌーハの街からの距離も手ごろだし、ラミア族がいても不思議ではない。

だが、それにしては気配がない。街で「ラミア様」と言っていたのだから誰かいるはずなのだが。

近くの草叢でガサガサと音がする。警戒しながら音のした方に行ってみると、イノシシの足跡があった。この草の多さでは、我々だけでは捕まえるのは難しいか。

「――ッ、血の臭いがするっ……て、先生、ズボンの裾が真っ赤だぜ」

そう言われて、ズボンの後ろ側を見ると、膝の裏側から下が血で真っ赤になっている。あわてて裾をまくってみると、膝の後ろについていた中指くらいの大きさの何かがボトリと地面に落ちた。あー、ずっと無事だったので油断していた。でかいヤマビルである。裾から入り込んで足を登り、膝の後ろ側に咬みついたらしい。血を吸われるのはともかく、こいつらにやられるとなかなか血が止まらないので服が血だらけになるのが困りものだ。

このやろっ、と恨みを込めて踏み潰し、注意深く地面を見ると何匹も尺取虫のような動きでこっちを窺っているのがいる。まずい、イノシシの足跡があった時点で気付くべきだった。日陰を求めて草叢に近づきすぎたようだ。


草の少ない、暑い斜面を迂回(まわ)って森に近づいて行く。だいぶ森に近づいたころ、ラミア族が二人、樹の低い位置にある太い枝に乗っかっているのが見えた。一人は背中に傷痕があるのでメグさんだろう。

「おーい、メグさーーん」

こちらを見たメグさんは樹から降り、こちらにやって来た。

「ルッツ先生、久しぶりだね、どうしてこんなところまで?」

「えっと、元はと言えばメグさんが持って来たという、矢じりを尖らすための砂粒を砕く石のことで」

「ああ、あの赤い石が何か?」

そこで俺は、あの石は人間が宝石として装飾に使うことがあり、高値で取引される場合があること、そのため落ちている場所が分かると、人が押し寄せる可能性があることを話し、口止めを頼んだ。

「おぅ、そうすると、あの石が転がっていることが分かると人間(エサ)が向こうから来てくれるんだな」

ちょっと説明を間違えたらしい。

「といいますか、結構な荒くれとか来るかもしれませんし……危険は危険だと思いますよ」

「ふふっ、そうかい。ならまぁ、黙っとくよ」

「メグさん、そちらの方は」

ザザザッ、と音がして、さっき樹の上にいたもう一人のラミアがやって来た。見ると、綺麗なラミア族が佇んでいた。何が綺麗と言って、髪は真っ白、尻尾の蛇の部分にはふつう模様があるのだが、その模様は黄色く、眼が紅かった。

「アル……ビノ?」

そう、その個体はラミアのアルビノ個体だった。みんな似ているラミア族だが、この個体(ひと)は誰が見てもわかる。この個体(ひと)が「ラミア様」なのだろう。


「ああ、この人間(ひと)はルッツ先生、あたしが元居た森近くの街の薬師さんだ」

「ルッツさんですか、初めまして」

「初めまして、ママサのルッツです。こちらは、今回同行してもらったパーチさん」

「初めまして」

「あぁ、初めまして」

あんまり(いっぴき)他種族と話さない(オオカミっぽい)パーチさんが面食らったように挨拶をしている。あれ、そういえば、アルビノさんの名前は?

「この()ね、名前がないんだよ。あぁ、そうだ、ルッツ先生、ちょっと服脱いでくれないか」


突然、何事ですかメグさん。

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