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ラミアの森  作者: 林育造
最終章
34/44

結局、爆雷の二ツ名からは逃げられなかったようだ。

実際、他の人には爆発物など作れないのだから、やむを得ないのかもしれない。


さて、家畜化を目指して作ってみたイノシシ牧場だが、いざ始めていると問題点が山積みであった。前にも述べたと思うが、イノシシの能力を把握するまで、何頭を野に帰してやったかわからない。やつら、ものすごく意外なことにジャンプ力が半端ないのである。

体長1.5mくらいしかないイノシシが、平気で1.5mの高さがある柵を飛び越えるのだ。

ただし、柵を飛び越えて逃げたイノシシはほとんどいない。柵越えの能力を最も発揮したのは発情期のオスイノシシで、メスの柵の中に夜の間にやってきて交尾を済ませ、朝になったら帰っていくという芸を見せたようだ。繁殖予定のないメスがいきなりうり坊(子ども)を産んで驚いたことも一度や二度ではない。

脱走で驚いたのは、イノシシの穴を掘る能力である。夕方に異常がないのを確認して、たまたま夜に見に行ったところ穴を掘って脱走していた。これはいかん、他の個体がこの穴を通って脱走しては困ると暗い中急いで穴を埋め、次の日に餌をやりに行ったら餌をもらうためもう一度穴を掘って帰って来たやつがいた。つまりこいつは夜の間に自分が通ることのできる穴を2回掘ることが出来る訳である。

餌を貰いに帰ってくるあたりかわいいものだが、こいつ1頭のために柵の下を不必要に思えるほど補強するのも面倒だったので、この穴掘りが上手いイノシシはさっさと食ってしまった。

問題は、脱走問題ではない。

困ったのは、ノラ……いや、自由に生きているタイプの亜人間種(ヒューマノイド)たちである。

彼らにとって、イノシシはご飯である。それは、一向に構わない。

しかし、金銭感覚に乏しく、土地の所有なんてものに関心のない彼らにとって、イノシシ牧場は

「誰かが親切に、ご飯を一か所に集めておいてくれた所」

と言う程度の認識だったらしい。

最初は、単なる脱走だと思った。しかし、掘った後もないし、高い柵を越えられないはずの柵内から、イノシシが忽然と消えるのだ。

ついに、脱出できそうにない柵内からうり坊(子ども)が消えるに及んで、ようやく原因の見当がついたのだ……が。

そもそも、街中だって平気で狩りをする者だっている獣人たち。郊外のイノシシ牧場は、彼らにとって単なる狩場、いや狩場ですらなく、レストランのテーブルかも知れない。キツネや野犬に鶏を狙われる話を聞いたことがあるが、そんな感覚だろうか。

器用に扉を開けられる彼らに、どんな対策も無意味であった。鍵を付けようかとも思ったのだが、そんなことをしても柵の間から持って行くだろう。牧場は彼らにとって大変魅力的な場所だったようで、うわさが広まると次々にヒューマノイドたちがやって来た。悪いことをしているという感覚がない証拠に、俺に会うと挨拶さえしてきたくらいだ。

このままでは、無料のレストランである。


ここで、意外なことに役立ったのが、元マナド兵の労働奴隷たちである。

マナドとの交渉で、彼らは自己責任、旅費等自己負担でマナドに帰すことになっていた。そのため、服だけは支給して、追っ払ったのである。

ところが、マナドに帰ってみると、マスバンは留守にしていた。すでにあの世へ旅立っていたのだから無理もない。

彼らは他に働き口を探したらしいが、今までケンカするだけの単純なお仕事をやっていた彼らに、仕事はほとんどなかった。今までの行いはばれており、しかも顔面には模様付きなのだ。下手に雇ってマスバンと同一視されたり、仲間だと思われたら社会的に抹殺されてしまう。

そこで、何人かが予想外の行動に出た。なんと、ママサに舞い戻って来たのである。

ここで、

「ママサが原因なんだから何とかしろ」

という態度だったら、

「知らん、自業自得だろ?」

と追い返したと思うのだが、彼らは

「申し訳ありませんでした、なんとか仕事をください」

と言う態度だった。これなら使えないことはないだろうと思ったが、街中では治安上や気分の点でいろいろ問題が多い。

そこで彼らを、イノシシ牧場の見張りとして雇うことにした。

すると、中々まじめに働いてくれた。ここをクビになったら次はどこで働けるかわからないので彼らも必死だったのだろう。彼らにとっても簡単かつ単純な仕事だったのも良かったのかもしれない。

彼らを雇ってから、被害がめっきり減った。

イノシシ牧場によって、肉食中心の獣人たちにとって懸案であった食糧問題の解決の糸口が見えたのだ。このあと、獣人たちの人口が増え、ママサが大きな街になっていくきっかけとなった。


もう一つ困ったのが、イノシシの餌である。

イノシシは雑食で何でも食べるが、雑食と言う部分で人間とかぶるので、残飯をやればよいのではないかと考えていた。

しかし、その残飯が期待していたほど出ないのである。

それはそうだ、まだ食える部分があるのに、それを捨てるなどと言う発想は飽食を知るごく一部の物の歪んだ考えである。

多少残飯は存在するが、ほとんどが街に住むネズミタイプの獣人などに掻っ攫われてしまう。草をやれれば良いが草地にも限りがあり、遠出をすれば人型象(エレファス)の縄張りに入り込んで睨まれたりする。その上イノシシの頭数が増えてくると、草だけでも大変な量になった。

これは、ある意味ヌェムが助けてくれた。

酒、ワインなどでは、大量の搾りかすが出る。これらは通常肥料にされるのだが、単なる搾りかすより、イノシシ糞の堆肥の方が効果的だと思ってもらえたようだ。問題は運搬方法だけだったが、これも元マナド兵が仕事として行ってくれた。

こうして、餌と糞尿処理に一気に片が付き、ゲルツルード牧場はようやく軌道に乗り始めた。

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