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ラミアの森  作者: 林育造
第3章
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「あ、やあぁん、だめっ、噛んじゃうっ」


起きると、パフが脚にしがみついて首を横に振っていた。

どうも、寝ている間に俺が尻尾にしがみついて頬ずりしたのが原因らしい。それはそうか、ラミアの上半身にしがみつく人間はいくらでもいるだろうが、尻尾を愛でる奴は普通いない。

俺が尻尾を撫でまわしたのでくすぐったくなり、身を捩って俺の脚にしがみついて我慢するために思わず噛みついてしまいそうになり、必死でこらえていたのである。うむ、かわいい。

そろそろ昼になろうとしている。少しは疲れがとれているようだ。

「さて」

「あぁん、先生、大丈夫?」

俺が起き上がったのでパフもこちらを向いた。

「うん、森の状況を確認しないと」

鎮火したつもりだが、風向きが変わったりすると再び燃え広がりかねない。一応、ラミア達が川から水を汲んできて後始末をしていたようだが。


結局、森の5分の1くらいが燃えてしまった。マナド兵は全滅、ラミア側は数名死者を出したが、最初の戦闘によるもので、火災による死者はいなかった。ただ、火の粉が飛んだり、消火しようとしがみついた枝が炭化していて燻ぶる下草の上に落ちてしまい、火傷をした人は何人かいる。森からユキノシタのような植物を採ってきて潰して塗っているのは、薬草なのだろう。

俺と同じようにラミア族の家で休ませてもらった者と、森の木陰で纏まって休んでいた者とがいたが、ママサ兵を集合させ、消火活動で負傷した者がいないか確認する。

「えっと。3人足りないが」

「すでに報告のためママサに戻りました」

うわ、彼らもほとんど寝ていないはずだ。ママサに戻ったらご苦労様と言っておこう。

しかし、結果的にご苦労様を言うことはなかった。今後の対応をそれなりに考えながら街に戻ると、なぜか

『爆雷のルッツ』

などという 二つ名? が拡がっていたのである。賞賛の称号のように思われるのだが、何だこの恥ずかしさと敗北感は。



「……というわけだ。注射の仕方は今までもやっているからわかっているとして、抽出方法と投与のタイミング、注意すべきこともわかったな」

「うん……、わかったけど、本当に行くの?」

俺は狂犬病ワクチンの作成方法と使用方法をヌェムに伝えていた。度重なる侵攻に加え、ラミア族が住む森にまで手を出してきたマナドに対し、言いたいことがたくさんあるのだ。直接行って、言ってやらないと気が済まない。状況から見て俺に直接の危害を加えてくることはなさそうなのだが、拘束される可能性を考えてダイナマイトも1本再び作成してある。前回3分の1が不発だったので、導火線は特に念入りに作っておいた。

評議会ではママサとしての報復攻撃論もあったのだが、ママサ軍は都市への攻撃など前提にしておらず、装備や武器が大規模戦闘に向いていない。だいたい、都市を攻めるには対人戦闘以外に攻城戦の能力も必要である。ママサ軍の人数では到底足りない。対都市として考えれば、俺一人の方が機動力が大きいので有利なくらいだ。

差し違えるつもりはないが、俺が帰って来なくても困らないように、ヌェムには薬の作り方や注意点を伝えてある。ほとんどの薬草採取はカルボ師匠やラミア族たちが協力してくれるだろう。


店の外に出ると、パーチさんがやって来た。パーチさんはパフが落ちてきたときに貰って行こうとし、マナド兵の遠吠え連絡をマナド方言と言い放った近所の人狼ルーガルーである。彼の名前の発音はポァーチに近く、つい『ポチ』と言ってしまいそうになるので困らないときにはルーガルーさんと呼ぶようにしている。

「やぁ、ルッツ先生。何かマナドに乗り込むんだって?」

「そのつもりですが、どこから話が伝わりましたか?」

「そりゃあカルボに薬草採取頼んだり、ごそごそ保存食かき集めたりしてりゃぁな。行先はなんとなくだが、近所中の噂だぜ」

「あちゃー、そんなことになってますか」

「おぅよ。でだ、連絡とかで協力できるんじゃないかってついて行こうかと思ってな。あれからマナド方言も少しは分かるようになったしよ。こう見えても食いもんは自給自足できるから荷物は増えないぜ」

なるほど、確かに何かあった時に状況を伝えてくれる人がいれば心強い。


ポンチョ風のマントを纏い、ザックに保存食をたっぷり詰めればいよいよ出発である。

マントは暑いが、寝袋もないので携帯の寝床代わりだ。


街の外へ出て、決意と共に空を見上げていると、ハイロさんが息せき切って走って来た。

「ハアハア……、ルッツ、マナド行くんだって?」

「ハイロさん、また飲んでますね。おひとつどうぞ」

そう言って、腰のポーチから瓶詰の煮物を取り出す。

「いやいやいや、そのキノコは食いたくねぇ」

ぶんぶんと首を振って受け取ろうとしない。ちっ、ばれたか。

「で、どうしたんです」

「あぁ、ナナアからマナドへの抗議文と言う書簡を預かって来た。何でも、特使として行って来い、だそうだ」

そう言われてみると、ハイロさんは俺の2倍はあろうかと言う荷物を持っている。

評議会には俺が乗り込むのに反対の人も多かったので、密かに行こうと思っていたのだが、結局ばれてしまったようだ。しかし、抗議文を起草、作成してくれるとは頑張って来いと言う意思表示と思って良いかな。

「そうですか、今、荷物がガチャッて音たてましたけど、酒だったら荷物持つの手伝いませんからね」

しっかり釘を刺しておく。

「大丈夫、こう見えても体力に自信あんだ」

うん、そのあたりは信用している。何しろマナド軍兵士ですら満足に動けないフラフラの状態で数kmを歩いて見せたのだし、評議会もたどり着けないような人を特使にはしないだろう。

「何かあった時には自力で逃げてくださいね」

「なんだ、何かある予定なんだ」

「いや、そういうわけではないですが、マナドもどう対応してくるかわかりませんし」

「まぁ、そうだな。もちろんそのあたりも気にしなくていい」


さてと、今度こそ

「ハッピーッ」

「ひゃーんっ」

呼んでしばらくすると、ハッピーが舞い降りてくる。高所からの警戒は有効かつ必要なので、ハッピーだけは元から連れて行くつもりだった。


さぁ、行くか。

もち米?あるとは思いますけど

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