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ラミアの森  作者: 林育造
第3章
26/44

 感想欄にて、身ぐるみ剥いで追い返さなくても、食ってしまえば良いのではないかというご意見を複数いただいた。


 ラミアは、毒装備しているとはいえ、擬態でヒトを騙すのに特化しているため、単体での攻撃力は決して高くありません。ウッフンではなく、齧られそうになったら抵抗を受けるでしょう。


 あなたの家の玄関に、大家(ルッツ)さんからの

「畑を荒らしているのを捕まえたから食べてね」

というメモのついた、脚を縛ったイノシシが生きたまま30頭転がっているとします。

冷蔵庫は、ありません。

苦労して外へ出ると、もう150頭ほどいるようです。お隣さんにおすそ分けしようと思ったら、

「食べたばっかりでお腹いっぱいだからいらない」と。


 そんな状況だと思うのです。

ご飯を食べているだけの簡単なお仕事です


郊外に出かけ、のんびりご飯を食べているだけのお仕事です。

戦闘力などは、必要ありません。当然ながら食事、送迎付き。

報酬:1日銀貨3枚。 お問い合わせは……


おいしい仕事のはずなのに、なぜほとんど誰も応募してこないんだ?

募集案内の前で、ルッツは首を傾げていた。

マナド軍の侵攻が近そうだということで、森経由の道と落とし穴以外に、もう少しトラップを仕組もうとバイトを募集しようとしたのだが、応募者がいないのだ。

確かに多少は危険だが、だからと言って問い合わせする気にならないような日給ではないはずだ。


文面が悪いのかな、どう直そうかと思っていると、評議会議長に声をかけられた。

「ゲルツルード殿、どうされました」

「いや、例の作戦のために人員募集の張り紙をしたのですが、結構目立っていると思うのにほとんどだれも問い合わせすらしてこないのです」

「あー、それは……単に字が読めないのではないですか」


言われて気が付いた。字が読めるなんて、評議委員とその子弟くらいのもんだ。俺もこの街に来てから文字を覚えたからな。普通の感覚では字など学ぶ必要がないし学ぼうともしないものなのだ。ルッツの感覚はやはり()に引っ張られてたんだな。字が読めなければ、どんなおいしい条件のことが書いてあっても気付くはずがない。自分たちに向けて書いてあると思わないのだから、「何が書いてあるのか」と聞くことすらないだろう。だとすると、逆にこれは使えるのではないだろうか。俺は急いで新しい張り紙を作成した。



評議会からの重要なお知らせ:マナド軍の侵攻に備え、来月25日から30日まで、郊外のティンギ山脈の麓で兵の訓練をします。この6日間は街の防衛が疎かになりますから、各自注意してください。その間、評議会はトラップ商店の2階を借りて活動を行っています。緊急の用件のある方はそちらにお越しください。     4月1日 ママサ評議会



もちろん、罠である。

もしママサに密偵が入り込んでいれば、この期間は街の警備が疎かになっており、しかも評議委員である俺の居場所も明確になっていることに気付くはずだ。マナド軍侵攻の、またとない機会だととらえるだろう。こちらからすれば、侵攻の時期と場所が予測できることになる。ママサの人たちは字が読めないから、不安には思わないし、読めるような者はどういう張り紙か理解している。

当日は念のため、兵士でもなんでもない者に制服を着せ、ティンギ山脈の方に行かせれば良い。


きっちり5月25日、狼煙が上がった。

白い煙の塊が一つ、二つ……200人か。予想通りの日、人数である。

マリリ川に架かる橋とママサの間に広がる荒野の途中まで移動し、迎え撃つ準備をする。

さあ、どのルートで来るか。


前回の混成部隊と異なり、今回の指揮官は良く考えているようだ。橋のところで、部隊を3つに分けやがった。

そのまま広い、森の前を通る道を通る者。

岩の間を抜け、骨が散らばる細い道を通る者。

そのいずれでもない、道の無い荒野を突っ切る者。

最後のルートは、正直予想外だった。

半日後、彼らは迎撃に出た我々の前に再集合していた。

森の前を通って来たであろう集団は、少し人数を減らしているようだ。他の集団に比べ、人数が少ない。

荒野を通ってきた集団は、疲れているものの状態に変化はなさそうだ。

最も消耗しているのは、細い道を通ってきた集団であろう。

みごとに落とし穴に嵌ってくれたようだ。泥だらけで、あちこち血が滲んでいる。

当然、只の落とし穴ではない。

木の棒で支えることによって、大勢が一度に落ちるように仕組んだことはもちろんのこと、凶悪なのは落とし穴の中である。

這い上がれないほど深い穴は掘るのに時間がかかるし、掘ったとしても人数が多ければ時間はかかるが脱出できてしまう。中に刃物を仕込むのも意外に難しい。そこで泥の中にワクチン作成で使った残りのウサギ肉・内臓を入れてある。泥の中はいい具合に酸欠になっているだろう。さらに割れたガラス瓶や電池に使った金属片も混ぜ込んである。落ちれば傷だらけになるのは必至だ。


――破傷風トラップ――

今回、無力化・制圧できるとは思うが、捕虜の収容場所もないし、人数が多すぎて食糧にすることもできない見込みのため、装備を剥ぎ取り筏にでも乗せてマナドに帰すつもりでいる。だがその結果、ママサに侵攻しても無傷で帰れると再侵攻を繰り返されてもたまらない。そこで、落とし穴の中に酸欠・高栄養環境を作ることで破傷風菌を増殖させ、さらにガラス・金属片を仕込むことで落とし穴に落ちたら破傷風に感染しやすくしてみたのだ。

兵士ほどの体力があれば、破傷風の死亡率は高くないだろうが、それでも症状が出ればかなりの苦痛のはずだ。要は、ママサに侵攻すれば無事では済まないことが伝わればよいのである。

ただし、潜伏期間は1週間程度のはずだから、すぐに効果が出るわけではない。


我々が迎え撃ったことで、「なぜこいつらがここにいるんだ」とでも思ったのだろう、少し驚いたような表情のマナド軍めがけ、3ヶ所からイノシシの膀胱に入れた液体を思いっきり振りまき、ぶっかけた。


「ワアアアアァァ」

「ぐええええェェェ」

「げほっ……げほっ」

急に苦しみ、悶絶するマナド軍兵士たち。


ベンゼンの蒸留に手間取り、温度を下げられず収率が上がらなかったが、その分大量に用意することができた。


撒いたのはクロロアセトフェノン、催涙ガスの原液である。


眼を開けられず、呼吸も満足にできなければ消耗し、戦闘能力はなくなる。

夕方には約180人、手枷と足枷を付け終わった。

あとは台車に乗せて川まで運び、用意しておいた筏に積むだけだ。

暗い中の移動は面倒なので、朝までそのままにしておき、翌日

「戻って来るなよー」

と、川に流してやった。

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