表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラミアの森  作者: 林育造
第3章
25/44

「ルッツ、持って来たよ」

「お疲れ、中に入れて」

ヌェムが持って来たのは大量の酒、酒、酒、それから同じく大量の酢と手に入る限りの塩である。さらに、評議会に頼んで用意してもらったのが銅の棒、亜鉛の板。

酢はアセチル化に必要だし、酢と銅、亜鉛があると、非常に効率は悪いし常に気泡を取るために振動を与えている必要があるが電池になる。食塩水を電気分解すると、塩素と水素が得られる。反応させて塩酸を作れば、いくつかの反応が少し効率的になるし、硝酸や硫酸も何とかなる。


「あー、危ないからこの札を出してるときは絶対近づくんじゃないぞ」

この石造りの建物は、入口の扉に木の札をかけられるようになっている。木の札は黄色く塗られ、遠くから見ても目立つようになっている。黄色い札は、俺が中で危険なことをやっているときに出しておくのだ。

「うん、わかった」

ヌェムが即答する。そんなやり取りに、銅を運んできたナナアさんが、

「酒を持ち込んだ外から見えない小屋に入って、妻に来るなと言って、本当に妻が来ないようにするにはどうすればいいんですか」

とこっそり聞いてきたので

「開けるなと言った容器を開けて毒虫に咬みつかれたり、泥水やウサギの内臓を何回か頭からかぶれば勝手に来なくなります」

と答えておいた。ナナアさんが何をしたいのか知らないが、ヌェムは実際にはもう少しひどい目に会っている。しかし、そちらを実行に移して怪我でもすれば、治療法を知らないであろうナナアさんでは大騒ぎになるかもしれない。


その日の午後から、俺は実験小屋(ラボ)に籠った。


「……うェっ、げほハっ……ホァックしょーイ」

ぜぇぜぇ、あー、ちゃんと作成できることは分かったし効果の確認もできたが、ドラフトが欲しい。げほっ。


密閉眼鏡でもいい。


「おーい先生、何事だい」

俺が蹲って嘔吐いていると、遠巻きにしたルーガルーたちが声をかけてきた。そのさらに外側にはウェアウルフたちの姿が見える。なるほど、彼らにとってあまりの異常事態に様子を見に来たものの、近くには寄って来れなかったようだ。

「あぁ、ごめん。マナドが攻めて来たらこれをぶっかけてやろうと思ってね」

「それはとんでもないな。ぶっかけられるのも嫌だが、運びたくもない」

「そうか……わかった、運ぶ時は我々が運ぶよ」

「うむ、そうしてもらえるとありがたい」

やはり鼻の利く者たちには、結構きついようだ。


フェノールもあるし、いっそ、ピクリン酸も作ってしまおうか。トリ()ニトロ()トルエン()よりは作りやすいが、あれは不安定な物質だから保管が大変だしなぁ。保管方法をどうするかなぁ……ん?

そうだ、保管方法と言えば。

マナド兵を無力化するのはいいとして、無力化した後どうすればいいんだ?


前回、47名からの兵がやって来たが、半数が捕虜、残り20名ほどがラミア族の栄養になった。捕虜の名簿は渡したので、子どもの素になった20名については戦死扱いになっているだろう。実際戦死したのと変わらないし。

だが、次回は侵攻するつもりでやってくる筈で、そうなるとママサを圧倒できる兵力でやって来るに違いない。マナドはマリリ川の下流、海のすぐ近くにあるとはいえ、兵士が全員出征してしまったら、マナドの守りが疎かになってしまうだろう。それを考えると、最大でマナド兵の半数、約200名ほどは侵攻に充てられる。


それを、ラミア族に一部対応してもらうとして、今、森に住んでいるラミア族はおそらく約200名。この前の件で20名が子育て中なので、あと10人も子どもが生まれたら、

ラミア族の人口爆発がおこり、食糧不足になるに違いない。家畜化しようとしているイノシシをほとんど渡したとしても、育ち盛り30人分を含むラミア族の食糧には追いつかない。

だとすると、マナド兵が森の方を迂回してきたとしても、あまり人数を減じることなくやって来ることになる。

そんな人数でやってきても、無力化自体は可能だ。多分。

しかし、無力化した後、詰め込んでおく施設がない。

奴隷化しようにも、さすがにその人数だと結託して不穏な行動をとられると対応が難しい。


2日後、狼煙用発煙筒の交換と定期連絡をするためヨパさんが街に来たので、そのあたりのことを聞いてみた。評議会にはラミア族に防衛協力してもらうとしか伝えておらず、方法は言ってないので密かにである。

「今の所、何人くらいだったらマナド兵に対応(を獲物に)できますか」

「そうだね、15人くらいなら何とかなるんじゃないか」

「そんなに生まれて、食糧不足になったりしませんか」

「生まれた子が全員育つとは思っていないよ。だがそれは生まれてくる人数が多くても少なくても同じこと。丈夫な子もそうでない子もいるのだから、強い子が生き残るのは自然なことさ」

「なるほど」

前世で死亡率の低い国にいたので、生まれた子がほとんど育つのは当然と思っていたが、そんなことは常識ではない。たくさん子どもが生まれても、育つのは強い個体だけだし、その方が集団の維持には都合が良いことを忘れていたようだ。


「残った兵士を捕まえたら、どうすればいいと思いますか?」

「んっ、どういうことだい?」

「いえ、大勢でやってきたら、捕まえても収容しておく場所がないだろうと思うのですよ」

「ほう、捕まえる自信はあるんだね、イノシシの餌にでもすれば」

「食べきれないと思います」

それに、いずれその人食いイノシシを食用にするのは気分が悪い。

「自分たちで穴を掘らせて埋めてしまえ」

「捕まえることはできますが、言うことを聞かせる手段はないんです」

少しずつ埋めていくとすると、その間収容しておく場所がない。

「だったら身ぐるみ剥いで追い返せばいいじゃないか」

「素直に帰ってくれますかね」

身ぐるみ剥いだら、移動だけでも命懸けなのだ。素直に帰ってくれるだろうか。

「マナドと言うのは下流にあるんだろ、いかだにでも積んで流してしまえよ」


その手があったか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ