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ラミアの森  作者: 林育造
第3章
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これだけの準備をしたうえで、俺は俺にできることを進めていった。

まず、ママサの評議委員になった、というか、させられた。評議委員は定員とかがあるわけではなく、他の評議委員の推薦により、多数に認められるとなることができる。これは一つにはマナド移住の意思がないことを明確にするため。それから、戦略的な連絡をやりやすくするためである。

ママサにも兵はいるが、これは守備隊としての位置づけで、警察と消防を合わせたようなものだ。日常的に体力維持の訓練はしているが、戦闘訓練をしているわけではない。だからマナド兵の侵攻があったとき、戦闘になればおそらくかなり不利な戦いを強いられることになるだろう。それを防ぐためには、早期発見、早期制圧が必須である。武器を持っていてなおかつ撤退と言う選択肢がない者は、よほどの戦力差を見せつけられない限り降参することはない。戦闘にならないようにするには、戦意を喪失させるほどの圧倒的な戦力差が必要なのだ。その点で俺は戦略的にはあまり役に立たないが、兵器作成の面ではそれなりに役に立つ自信がある。その運用と説明をするためには、評議委員であった方がやりやすい。


次に、狂犬病のワクチンをほぼ完成させ、それなりの数をそろえるようにした。

マナド周辺はまだもって流行地であり、マナド軍が狂犬病に罹った野獣や患者を運んできて、ママサの街で放つなどということをする可能性を考えたためである。運搬に危険を伴うはずなので簡単に実行に移せる作戦ではないが、実行に移されればママサのダメージは大きなものとなる。用心するに越したことはない。逆に、ワクチンがあればこちらは同様の作戦をはるかに安全に実行できることになり、一定の抑止力になるだろう。


そのために、多数のウサギを集め、狂犬病に罹らせる必要がある。これが、意外に大変で危険なのである。発病するともはや普通の精神状態ではいられないので、「このウサギに咬みついて下さい」と頼むことはできない。つまり、狂犬病に罹った者に咬まれたウサギを探す必要があるのである。これは流行地を彷徨うことと同義であり、極めて危険な行動と言える。ヘタをすると、自分がワクチンの材料になりかねない。誰かにやってもらおうにも、簡単に頼めることではない。

しかも、狂犬病に罹ったウサギを解体処理できるのは基本的に俺だけである。

食べるためにウサギを捌くことは多いが、ワクチン作りは脳を取り出し、処理しなくてはならず、通常の料理などとは違って解剖に近い。これも簡単に人に頼める作業ではない。もちろん、いずれは他の人にもやってもらわなければならないが。


ワクチンの接種については、注射器がかなりの精度の物が作れるようになった。

ガラスを筒状にしたもの、つまりシリンダーを大量に作り、ピストンも大量に作って、一つずつ形が合うか確かめていくのである。この方法をキノブさんが始めたばかりの頃は、実用に耐えるほどきれいに一致するのは奇跡のような確率だったが、キノブさんの先輩にあたるトールさんの協力が得られるようになってシリンダーの形を作る方法が安定してからは、何とかそれなりの数作れるようになった。

肝心の注射針は銅と亜鉛で真鍮の管を作り、加熱しては転がして細くしていく。針の太さまで細くなったところで切断、片側の穴を広げてシリンダーの先に嵌め込めるようにし、先端を鋭角に切る。

ここで使うのが、トクサと言う植物である。緑色の棒のような草なのだが、これを切り開いて乾燥すると、真鍮を研ぐことができるシート状のものができるのだ。これを使って丁寧に針の先を尖らせると、注射針の付いた注射器の完成である。


ワクチンと注射器の完成で、狂犬病の脅威が極めて小さくなった。これでマナドの侵攻がなかったとしても、狂犬病ワクチンができたことは十分ママサの利益になったのではないかと思う。


それから手を付けたのが、イノシシの家畜化である。

それは、メグさんとのこんな会話がきっかけだった。

「おや、それはメグさんの子ですね」

ラミア族は胎生なのか卵胎生なのかわからないが、かなり大きくなってから生まれてくる。

「あぁ、無事生まれた。また子どもができるとは思わなかった。名前はルティと言うんだよ、パフに『私がルティって付けようと思ってたのに』と怒られたよ」

「……えぇっ……ルティですか?」

……はい、そういえばまだキャンセルを言い出せてません。

「ふふ、ミアは『私はゲールにするっ』と言っていたぞ」

「女の子と分かっているのにその名前はどうかと思いますが……、ルティ、気のせいか少しやせてませんか?」

「ああ、そろそろ肉を与える時期なんだが、なかなか食事を十分に採らせることができなくてね」

「えっ、メグさんは猟の腕もいいと思うのにどうしてですか」

「そりゃぁ一度に20人も子どもが生まれたら、獲っても獲ってもなかなか行き渡らないよ。自分で獲ったからと言って自分の子どもだけに食べさせるわけにいかないしね」

そうか、ラミア族は協力して狩りをし、獲物を分け合うのだった。

従来イノシシは狩りで捕まえるしかなく、安定供給が難しかったのだが、今回ラミア族のベビーラッシュでその不足が非常に顕著になったのである。子どもが生まれるまでは最初の餌(マナド兵)でなんとかなったのだが、成長するときに必要な餌が不足したのだ。そこでイノシシの安定供給目指して、家畜化に取り組んだわけだ。


この世界のイノシシも、家畜としての適性があった。人を恐れず、何でも食べ、効率よく殖える。俺はママサの山側にある湿地の近くに柵で囲いを作り(作業したのはもちろん元マナド兵)、カルボさんが苦労して生け捕りにしたイノシシを譲ってもらい放してみた。最初は柵を飛び越して逃げられ、柵を高くしたら下に穴を掘って逃げられた。

「おいおい、俺は逃がすために捕まえているんじゃないぞ」

そんなことを言いながらも、危険な生け捕りを続けてくれたカルボさんに感謝である。色々な意味で頭が上がらない。それでも、イノシシの能力がわかってからは逃げられることはほとんどなくなった。さらに、産まれた子ども(ウリ坊)が餌を貰えることを覚えた後は、逃げ出すような奴は全くいなくなった。


それから、兵器の作成のため石組の丈夫な建物を作ってもらい、水を引いて中で作業できるようにしてもらった。

完成してしまえば木で作ろうが石で作ろうが関係ない威力があるので只の気休めだが、とりあえず作成中は丈夫な建物で作業できる方が周囲(まわり)は安全である。


ルッツ先生(くすりや)舐めんなよ。

きのぶさん、とーるさんはいずれも実在する凄腕の職人ですが、フルネームじゃなければ大丈夫……ですよね?

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