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ラミアの森  作者: 林育造
第3章
23/44

マナドとの交渉には、ママサ評議会のルジャさんとナナアさんが当たることになり、ママサからの書簡と収監中の私兵の名簿を携え、警備担当兵25名と共にマナドに向かった。


俺はキノブさん――注射針や注射器のシリンダーを作ってくれている細工師だ――に頼んで広口瓶とその蓋を作ってもらい、ジャムや角煮といった保存食を試作し、一行に渡した。長距離移動にはやはりおいしい携行食が欠かせない。その結果、携行食は概ね好評だった。これについては成功したと考えて良いだろう。


しかし、マナドとの交渉の結果はママサにとってあまり良いものではなかった。

ルジャさんによると、マナドの言い分は次のとおりである。

1 賠償請求は拒否する。理由は、マナド兵は破壊活動などしていないからで、今回の名簿に載っているのは一般のマナド市民である。従って、ママサは謂われなくマナド市民を拘束し、身代金を要求している。これに応える必要はない。

2 捕虜であるマスバンの私兵の扱いについては、善良なマナド市民であり、即刻釈放することを要求された。彼らが兵士として市場を破壊したとするのはママサのでっち上げである。

3 さらに、ママサの薬師はマナドへの移住と狂犬病治療薬(ワクチン)をマナドに渡すことを約束しており、速やかに実行されるように求める。

とのことだった。

2週間に及ぶ交渉の末に交渉は決裂し、ルジャさんたちは帰還した。まぁ見ての通り、言いがかりも甚だしい。

そっちがその気なら、こっちもそれ相応の対応をして差し上げようじゃないの。


結局あのあと、うちに妻として居ついてしまったヌェムによると、俺はこの時”ものすごく黒い嗤い”をしていたという。

当たり前である。自分たちがやったことの報いは受けてもらわねば。


まず、マスバンの私兵の扱いであるが、補償金(身代金)が支払われない以上、捕虜として只飯を食わす必要はない。ピラーニャの餌にするのは今までの食事代が無駄になるので、彼らの身分は今後、労働奴隷である。

私兵は各々罪人奴隷であることを示す刺青を入れられ、宿舎とは名ばかりの、粗末な建物に収監された。この刺青というものは、元は戦士が体に入れていたものだ。戦士の戦いでは負けた方は無傷で済むはずがなく、首が飛んだり、あちこち齧られてバラバラになることは日常茶飯事である。そのとき、個人の生死の確認には首がなくとも本人であることがわかる体が必要で、その確認のために使われていたのだ。しかし、街となった今では戦士と言う仕事がなく、兵士は制服を着ているので階級章や制服そのもので個人が特定でき、いつの間にか奴隷の区別に使われるようになったものだ。

刺青は顔と、腕、首に入れられ、隠すことはできない。

だが、逆にこうなると却って自由に動けることになる。

奴隷が勝手に街を出て行っても、生き延びることは難しい。街の人も見ただけでどういう奴隷かということがわかるので、安易に食事を与えたりしない。だから、食事を貰える宿舎に戻ってくる方が安全なのである。例え逃げて野垂れ死んでも、誰も困らない。そのため奴隷であることをはっきりさせることによって、わざわざ鎖をつけたりしなくても管理できるものなのだ。


次に、対マナドの防衛強化についてである。賠償金の支払いを拒否した挙句に、まだ俺とワクチンを要求するようなことを言っている以上、今度は本当に侵攻してくるかもしれない。というか、その可能性大である。

まず、どこまでマナド兵が侵攻してきたときに食い止めるかという防衛ラインの設定である。

これはほぼ確実にタンブーを通り、マリリ川を越えてくるルートを採る筈なので、橋を越えてきたところで対応することになった。

橋を渡ったところに岩を置き、そこを起点に2本の道を作った。一方は、広くて通りやすそうなもので、ラミア族の住む森のすぐ前を通り、ぐるっと回ってママサに通じている。要するに、ラミア族の目の前を通らないとママサに行けない道である。

もう一方は岩の所から真っ直ぐママサに向かっている細い道で、不自然にブッシュの中を通り抜けたり、円形に土の色が変わっている部分を丁寧に迂回していたりする。

細い方の道の初めの所には、森の近くに残っていた白骨死体の骨をこれ見よがしに置いた。心理的に、細くて骨が落ちているような道は選びにくいはずだ。さらに、円形の部分は迂回せずに突っ切ればなんともないが、道に沿って歩くと深い落とし穴が掘ってあったりする。

他にも仕掛け満載の、ラミアに捕まりに行くか、トラップだらけの道を選ぶかという仕掛けなのだ。

これらの工事を行ったのは、もちろん元私兵の奴隷たちである。


マナド兵が接近してきた場合に、その発見のためには遠くが見えるシステムが必要である。俺は望遠鏡でも作ろうかと思ったが、透明度の高いレンズを作るのが困難で水晶の加工も難しかったために諦め、高見櫓を作るに留めた。高さ20mくらいあり、余裕で橋の近くまで一望できる。


さらに接近してきたとき、なるべくなら殺さずに撤退させたい。別に殺すのが嫌と言うわけではなく、せっかくの資源を無駄遣いしたくないだけである。肉になってやって来るより、生きたままやって来る方がラミアたちも喜ぶだろう。肉になってしまったら食べることしかできないが、生きたままなら子どもの素にできるのだ。


だがもし、ママサの街の中にまで侵入して来たら、なるべく殺さないとか言ってはいられない。この時はママサの人に被害を出さず、敵兵のみ殲滅することが求められる。まぁこれについては、簡単な近接武器を作成するつもりである。


一気に20人もの子どもが生まれたラミア族は、子育て組が森の中央部に移動したため、周辺部の人数がやや少なくなった。その中にはパフやミアの姿もある。トラップ道路の建設中に、マナド兵が来たら誑し込んで良いと伝えておいた。パフは

「えー、ルッツ先生予約しておいたのにー」

などと言っていたがミアは

「うん、わかった」

と明るく返事をしてくれた。

この後、俺はかなり危ない兵器を作成するつもりなので、戦闘になった時にあまりマナド兵に近づかないように注意しておいた。ラミア族が戦闘に巻き込まれて怪我でもしたら大変である。

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