七
……ハァ……ハァ。
俺も疲れたが、ハルピュイアもぐったりしている。しばらくしてハルピュイアが起き上がったのを見て、声をかけた。
「ついておいで」
「ぴゃん」
肯定の返事だろうか、出口に向かう俺の後ろを、おとなしくついてくる。
テラスの上で、ザックから包帯布を出し、捩じって説明する。
「ひも、わかる?このひもを持ってきて、なるべく丈夫な奴」
「ひも?」
「そう、君だけが頼みの綱なんだから、よろしく頼むよ」
「ひゃん」
そう返事して、ハルピュイアは飛び立っていった。「頼むぞー」と手を振る。
日当たりの良いテラスで、ほとんど寝ずに鍾乳洞を走破した俺はいつのまにか眠ってしまったようだ。
「ひもー」
うわっ、びっくりした。目を開けると、ハルピュイアが俺の顔を覗き込んでいた。足元にはロープが置いてある。
「ひも?」
確かに依存しているが、何となく見下された言い方に聞こえるのは気のせいか?
「俺はひもじゃない、ルッツだ、ルッツ」
「ぴゅっつ?」
うん、いいロープだ。こいつ、船着き場に行って持って来たな。丈夫さは申し分ないが、少し長さが足りないようだ。これでは、最後の5m、岩の上にジャンプすることになりそうだ。
「よーし、よくできた。少し長さが足りないから、もう1本頼む」
そう言って頭を撫ぜてやると、眼を細めて寄りかかり、細い目のまま見上げるように見つめてくる。
「よしよし、もう1本……って、え?」
まさか、もう一度オスとしての強さを見せろってか。
そう思って、顔を見つめ返すと。
「ひゃん」
肯定された。仕方なく、もう一度、鍾乳洞の中に連れて行く。
「……アアン、……アン……アァン……」
カルボさんは、これを3頭相手にやっているのか。どんだけすごいんだあの人は。
再度ひも探しに向かったハルピュイアは、今度は十分な長さの丈夫なロープを持って来た。ええい、最初っからこっちを持ってこいよ。
ロープを木にしっかりと結び、慎重に崖下の河原に降りていく。ハルピュイアにロープの回収を頼むと、ちゃんと結び目をほどいて持って来た。脚でほどくとは器用な奴である。
崖からすぐ淵になっているところもあるので、二重にしたロープを岩の周りに取り回したりしながら川べりを進む。日がだいぶ傾いた頃、ラミア族の森のすぐ下にたどり着いた。
木に登った誰かがこちらを見ているので、崖の木の根に掴まりながらよじ登る。
「ハァハァ、ヨパさん、お久しぶりです。」
「やぁ先生、何か砂に呑み込まれたらしいけど大丈夫だったのかい」
「はい、何とか脱出できました」
「そうか、パフが心配してたから行ってやるといい。おや、あいつ、射落とすかい?」
ヨパさんがラミアを警戒してか高い木の枝に止まっているハルピュイアを指差して言う。
「いやいや、彼女のおかげで助かったんで、落とさないでやってください」
「わかった、まぁ何もしてこないだろう」
俺は、心配していたというパフに無事を報告するため、教えてもらった道を森の中心部に向かって進んで行く。
「あっ、メグさ…………、違うか」
森に入ってすぐ、お腹の大きなラミアを見つけたので、てっきりメグさんだと思ったら違った。なんだかお腹の大きなラミアをやたらと見かける気がする。それと、あまり視線を感じない。
「先生――――っ」
家に近づくと、外に出ていて俺に気付いたパフが駆け(?)寄り、飛びついてきた。
「ただいま、何とか戻って来たよ」
「うん、……良かった……」
しがみつくパフに尋ねる。
「ローザさんは家?」
「うん?……はい」
返事を聞いて、家に上がらせてもらう。
「ローザさん、こんにちは」
「っ……ルッツ先生、良かった、無事だったんだ」
母娘で同じような反応だ。俺はザックから、鍾乳洞で見つけた刀を取り出した。
「あの、ヤークタさんの剣と言うのはこれですか?」
ローザさんは、刀を見つめて息をのむ。
「ああ、おそらくそうだと思う、どこでこれを?」
俺は、鍾乳洞で刀を見つけた時の様子を話した。
「当時は簡単に穴が通れたはずですから、落石にでも当たったか、オオサンショウウオに咬みつかれて大怪我をしたかでしょう。逃げたり、森で食べられたりしたわけではないと思います」
「ふーん、割と喧嘩っ早い人だったからそのオオサンショウウオにもケンカ売ったのかな」
「そうかもしれませんね、あいつらはやたらと丈夫で打たれ強いですから、戦い方を知らないと苦労しますし」
ハンザキの別名は、もはや称号とすら言えるレベルだ。
その夜は、ローザさんちに泊めてもらった。パフは一晩中俺にしがみついて離れなかった。




