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ラミアの森  作者: 林育造
第2章
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狂犬病ワクチンと、それを作る薬師の確保?


そのまま、俺をどうこうしようということらしい。

だが、なぜこのママサの街にワクチンとその作成者が存在していることがマナドに知られているのか……。

「あ……、いや、時期が合わないか」

「どうしたの?」

「いや、ワクチンの存在はともかく、なぜ薬師がそれを作っているのが知られているのかなと思ってな」

「そういえば、この街の人にしかワクチン使ったことはないよね」

「ん、一応心当たりはあるんだが、反応が早すぎる」


狂犬病のワクチンは咬まれた人が出た時に使っていたのだが、1ヶ月半くらい前、うわさで聞いたとかいう人がワクチンを投与してくれとやって来たのだ。聞けば咬まれたわけではなく、咬まれるかもしれないから予防したいと言う。まだ咬まれていないのなら最悪の場合ワクチンによって発病する可能性があるからと断ったのだが、

「これから流行地域で狂犬病に罹った者の相手をしなければならないのです。ほぼ確実に咬まれると思うので、発病の可能性があるにしてもより安全な方に賭けたいのです」

と熱心に頼まれ、葛藤の末投与することにしたのだ。

だがそれでも、以前なら拒否していたと思う。

ワクチンは直接体に投与、つまり注入するため、針のようなものを体に刺す必要がある。前は引き延ばしたガラスの管でやっていたのだが、折れる不安があったため、何とか金属の細い針が作れないかと思い、試行錯誤していた。

「少し前に、鍛冶屋に針作ってもらったろ?」

「うん、それが?」

酒の蒸留というのは意外に複雑な装置が必要である。効率を気にしなければ簡単な装置で事足りるのだが、それでは商売にならない。だから蒸留酒を作っているような造り酒屋は、細かい金属加工ができる腕の良い鍛冶屋を知っているはずだ。そう思ってヌェムの伝で鍛冶屋に針の制作を頼んでいたのだ。管状にした金属を熱して軟らかくし、転がして細くする作業をひたすら繰り返すらしい。最初は銅の針を作ろうとしたのだがやわらかくて曲がってしまうため、声が銅に亜鉛を混ぜて硬くするように助言した(何か「金ができた」とか騒ぎになったので銅の色が薄まっただけだと説明するのに苦労させられた)。

森から帰ってすぐにその針ができてきたので、ちょっと使用して見たかったのかもしれない。

「あの針ができてきてすぐ、『予防のためにワクチンを使って欲しい』と言う人が来て、投与したことがある。あの人がマナドの人だったのかもしれない」

「ふーん、マナドの話だったかどうか忘れたけど、みんなが尻込みする中、患者の制圧に率先して乗り込んで行った人がいるっているのは聞いたことがあるわね」

「そうか……、ただその人だとしても、咬まれたけど発病しなかったのかどうか確認するには時間がかかるから、ワクチンの効果を見てから動いたにしては対応が早すぎるよな」


だが、不確実な情報で動くわけにはいかない。どうしようかと思っていたところ、何日かしてママサの評議会の者を名乗る人がやって来た。

「こんにちは、ゲルツルード先生でしょうか」

「そんな大層な者ではありませんが、私がゲルツルードです」

「マナド方面から、兵が先生の奪取に向けて動いているという報告がありました。協議の結果、しばらくはなるべく安全な場所にいていただこうということになり、評議会で隠れる場所を用意しましたのでそちらに必要な物を持って移動していただきたいのです。食糧や身の回りの品はこちらで用意します。あ、奥様もご一緒で大丈夫です」

「はいっ」

俺が返事するより早く、その日も店にいたヌェムが元気よく返事をする。コラ待てヌェム、おまえ今どの言葉に反応した?


いくつか確認したところによると、まず店の位置は知られていると思われるので、兵は店に来るだろうと思われること、50人程度と言う兵の人数から見て、かなり本気で俺を連れて行こうとしているらしいこと、進行の速さから考えるとあと3週間くらいで到着するだろうということなどがわかった。

ママサの街にしても俺がいなくなるとワクチンはじめいろいろ不都合があるというのも説明してもらった。ワクチン以外にも、それなりに高い評価をしてもらっているらしい。


結局、機材や薬品などはなぜか嬉々として避難の準備をするヌェムの実家(と言っても2軒隣りの酒屋)に預け、完成している分のワクチンと身の回りのいくつかの品を持って評議会が用意してくれた隠れ家に移動した。隠れ家と言っても普通の家で、店と離れているだけの場所である。

今回、奪取するのが目的で俺に死んでもらっては困るため、無茶な攻撃や無駄な殺戮はないはずである。しかも、顔を知っているのはいたとしても直接ワクチンを投与した1名だけのため、少し変装して別の場所にいれば兵糧と滞在費用がなくなった段階で撤退するという目論見である。


ただ、うちの店は薬屋として利用している人たちが意外に多く、特にラミア族なんかは他の店を利用しない(できない)ため、なるべく早く事態には収束してもらいたい。一応、しばらく店を空けることは偵察と言う名目で出た狩りの時に、街に来る可能性が高い見張りのレナさんたちに伝えてある。兵と一緒になって街中を探し回られたら大変だ。


そんな用意が終わって、評議会情報からきっかり3週間後、45名のマナド軍がやってきた。事前情報と比べて2名少なくなっており、途中で撤退したものと思われる。

この調子ではそんなに時間がかからず撤退してくれるのではないかとのんびり構えていたら、意外なところから状況が変化してしまった。


怪我人が大量に発生したのである。

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