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ラミアの森  作者: 林育造
第2章
13/44

森から帰って2ヶ月。

あれから変わったことと言えば……。


特にないな。


俺はラミア族の繁殖方法を知ってしまったわけだが、それをみんなに伝えることはしていない。伝えて人間とラミア族との間の距離を遠くして壁を作る必要もないし、餌になるような男は聞いたところで警戒心が薄いのだからやっぱり餌になるだろうからな。いや、逆に「俺は大丈夫」と自分を過信した者が餌になりに行くことが増えるかもしれない。それはそれで困らないが。

少し変わったことと言えば、なぜかヌェムが店に乗り込んできて勝手に手伝いを始めた。俺は別に構わないし、向こうの親も何も言ってこないからそのままにしている。

ただ、うちの店で手伝いをする以上、来客は人間族だけではないのだし、獣人、ラミア族にも対応できないと困るので、どんな客が来ても動揺しないようには伝えた。

意外なことに、ヌェムは来客の対応を卒なくこなした

考えてみれば酒屋に来る客もいろいろなんだし、気にすることはなかったかな。

酒場のような酔っ払いが少ない分、酒を飲めるなら誰でも来る可能性があるわけだ。

面白かったのは、メグさんがやって来た時だった。

ヌェムは最初びくついていたのだが、ラミア族が女には手を出さないことを伝えてメグさんがそれを肯定すると安心したのか普通に話をし始めた。さらにメグさんがラミア族の中でも酒好きであることがわかると話が弾んだようだ。

「えー、そんな強い酒をしょっちゅう飲むんですかぁ」

「昼間はともかく、夜の見張りは退屈なものだ。感覚がおかしくならない分には問題ない」

「でも、一晩で1本は人間の(酒に)強い人でもそうそう飲みませんよ」

メグさんは弓も使うらしく、ごくたまに矢じりの部分に咬みついて自分で毒を塗り、射ることもあるそうだ。獲物に当たれば必殺の一撃となるわけだが、外したら毒の無駄遣いになるのと、当たったら当たったで肉が崩れて運びにくくなることが多いので滅多にやらないらしい。その弓の命中率が酒を飲むとどうなるか試したことがあり、そのときには2本飲んでも命中率はほとんど落ちなかったという。

『リアル蟒蛇(うわばみ)だな』

「いやー、酒の樽にでも浸かっていたいくらいだぞ」

『……』

うん、なんだか酒ビンに漬けられているヘビのイメージが見えた。メグさん、それは酒の種類が変わってしまいませんか?



「ウォォォォォォォォォォオォ―――ン」

多分まだ夜中、遠くに狼男(ウェアウルフ)のだろうか、遠吠えが聞こえる。なぜか横でヌェムが寝息を立てている。うん、うちのベッドの数は増えていないぞ。

街の周辺は、一部の獣人(ウェアキャット)の発情期以外夜は静かだ。狼男(ウェアウルフ)の遠吠えも珍しい。人間には何を伝えているのかわからないものの、彼らの遠吠えは縄張りの主張ではなく、何らかの情報伝達と言われている。離れた街の間では情報が伝わりにくいものだが、狼男(ウェアウルフ)人狼(ルーガルー)たちは離れた場所の情報を正確に知っていることが多いからである。この夜も、随分遅くまで遠吠えが続いていた。

「ルッツ、朝よ」

そんな遠吠えを聞いて遅くに寝たからだろう、いつもより遅くまで寝ていたらヌェムに起こされた。なんと、一応朝食が用意してある。干したブドウを練りこんで焼いたパン、肉と野菜のスープ、ウサギ肉の塩焼き……。

「おい、このウサギ肉はまさか」

「えっ、使っちゃいけなかった?」

「却下!うちに住むのは構わないが、それなら食糧庫と材料庫の区別はつけてくれ」

狂犬病のワクチンの完成度を高めるべく、いろいろやっている。基本的に声が体を動かしているのだろうが、俺もだいぶ扱いがわかってきた。というか、声の考え方や行動が、俺本人と一致してきたというか馴染んできたという感じである。ワクチンの原料として狂犬病に罹ったウサギを使うため、積極的に集めているのだ。それが置いてあるのは薬品・薬草などを置く材料庫。しかし、一部の薬草やウサギは食糧でもあるため、ヌェムは食料に使えると思ったらしい。

「むぅ、せっかく作ってくれたのに品数が減っちまったな」

パンと具の多いスープ、それだけでも一般的な家庭の食事に比べればそこそこ豪華なはずである。パンは小麦粉に水を加えて練ったものだが、干しブドウを練りこんでしばらく置いておくとやわらかく膨らむので流行っている。ついでに言っておくと、干しブドウが買えないなら葡萄酒の搾りかすでも同じことが可能である。

「ごめん、そんな危ない肉だとは思わなかった」

「いや、加熱すればおそらく大丈夫なんだが気分的に嫌だ」


「ルッツ、大変よ」

そんなことがあったので、市場に正しい食材を買いに行ったヌェムが昼前だというのにあわてて帰ってきた。

「どうした」

「マナドから兵がたくさんやって来るらしいわ」

マナドはそこそこ大きな都市である。距離的にはラミアの森向こうを流れるマリリ川の遥か下流、俺の故郷タンブーのさらに東になるので、かなり離れている。

「なんでまた、何のために」

都市や街は自前の兵力として軍を持っている。都市と都市の間の戦争なんて最近では滅多に起こらないが、全く無防備だと兵士に払う給料が不必要な分だけ食糧などを備蓄することができ、それを他都市に狙われるというジレンマに陥るので、都市や街の規模に応じた軍を持っていることが多い。前に述べた理由で構成するのはほとんどが人間族(ヒューマン)である。

「目的は、狂犬病ワクチンと、それを作る薬師の確保だって」

聞いた言葉の意味をよく考え、思考する。自分で言うのもなんだが、思考がとてもゆっくりなのがわかる。狂犬病のワクチンを作れる薬師って、一人しかいないはずだな?

「それって俺じゃん。ていうか、情報源は?」

人狼(ルーガルー)情報だから出所は確かよ。マナド周辺で狂犬病が流行していて、それが原因じゃないかって」


昨日遅くまで呼応していた遠吠えの原因はそれか。

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