春が来ない家
家に帰ると誰もいなかった。当たり前だ。俺には兄弟もいないし、母親は仕事、父親は別居中。そんな寂しい家庭で俺は母さんを待つ。掃除や洗濯、料理を終わっても、母さんはまだ帰ってこない。公園で遊ぶ子供たちの声が聞こえなくなり、風が吹く音しか聞こえなくなった。
そろそろ、寝ようかと思ったところで母さんが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
それだけのやり取りだけで寂しさは吹っ飛び、心が満たされた。リビングにきた母さんが俺に向かって微笑む。それに対して、俺は「ご飯いる?」と返した。
「晩御飯なに?」
「肉じゃがだよ。」
それを聞いた母さんはコートをかけにいく。その間に、俺はあらかじめ作っといた二人分の料理をレンジで温め、食卓に並べる。二人そろったら、席について一言。
「「いただきます。」」
一緒にそう言うと、お互い、黙々と食べることに集中するだけ。たまに今日の出来事をチラッと話す。少ない会話のやり取りだが、母親と仲が悪いわけではない。これはお互いのことをわかりきっているから、交わす会話が少ないのだ。
食べ終わると母さんはシャワーを浴びに行き、俺は食器を洗いに台所へ向かった。それが終わると、あとは寝るだけ。いつも通りの生活だ。
だけど、たまに母さんの寝室からすすり泣く母さんの声が聞こえる。
まだ、過去に囚われたままの母親を哀れに思い、俺は呟く
「あの人らのことを忘れてしまえば良いのに。」
そして、俺は眠りについた。