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無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


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第百八話 敵国の孤児だった少年が、帝国の将校になった

将校任官式で、青年フェルンは剣を受け取る手をためらった。

彼はかつて王国側の孤児であり、帝国の兵士に助けられた。

その経歴を理由に、部隊の一部から忠誠を疑われていた。

シリウスは演壇から降り、青年の前に立った。

「お前はどちらの国の人間だ」

任官を疑う兵は「同郷の者が敵になったら撃てるのか」と尋ねた。

フェルンはすぐに答えなかった。

「撃つ前に、なぜ敵になったのか確かめたいです」

その答えに、軍規を軽んじるのかという反発も起きた。

意地の悪い質問をした古参兵に、フェルンは答えた。

「橋が壊れた時、両側から来た人が修理しました。私はあの橋を守る軍人になりたい」

会場は静まり返った。

シリウスはその答えを褒める代わりに、任官審査の記録を公開させた。

試験の成績も実地訓練の評価も、他の候補者と同じ基準で採点されていた。

任官式の前日、フェルンは古参将校のもとへ呼び出された。

机には、彼の出生地と避難歴を調べた書類が置かれている。

「君の父は王国軍にいたそうだな」

「はい。戦死しました」

「その王国軍と戦った帝国に、なぜ忠誠を誓える」

フェルンは答えを用意していた。

救ってくれた帝国兵への恩、学校で受けた教育、国境警備への志願理由。

しかし口に出そうとすると、どれも父の死を軽く扱う言葉に思えた。

「父が生きていたら、反対したかもしれません」と彼は言った。

「それでも、父のように帰れなくなる人を減らしたいんです」

将校は書類を閉じた。

「立派な答えだ。だが立派な言葉だけで、部下は守れない」


翌朝の実地試験では、国境の橋で荷車が故障したという想定が出された。

通行人を退かせて軍用車両を優先すれば、試験は早く終わる。

フェルンは兵を配置した後、村の道案内を呼んだ。

「こちらの小道なら、救急の荷車を先に通せます」

「軍の予定は遅れるぞ」と試験官が言った。

「遅延の理由は私が報告します。病人を止めた理由は、報告書に書きたくありません」

試験官は表情を変えなかった。

だが評価票には、予定外の住民への対応が詳細に記された。

式の当日、フェルンの胸には二つの思いがあった。

父が生きた国への愛情と、自分を育てた国への感謝。

どちらかを消さなければ軍人になれないのなら、その軍服を着る意味はない。

宣誓の後、彼はシリウスに尋ねた。

「私は、二つの国にいい顔をしているだけでしょうか」

「どちらにも都合の悪いことを言えるなら、違う」

フェルンは少し笑った。

「それは嫌われそうです」

「嫌われることより、守るべき人を見失う方を恐れろ」

最初の任務の地図には、国境線の横に村の通学路が細く描かれていた。

フェルンはそこへ赤い印をつけず、まず学校の始業時刻を調べに向かった。

最初の巡回で、フェルンは父の故郷に近い村を通った。

道端で老人が軍服を見て立ち止まり、「帝国の犬か」と吐き捨てた。

部下が抗議しようとしたが、フェルンは手で制した。

「通行の邪魔になっていない。進もう」


その夜、部下は不満を漏らした。

「侮辱を放置すれば軍の威信が傷つきます」

フェルンは火を見つめて答えた。

「威信を守るために村人を黙らせたら、俺たちは何を守る軍なんだ」

翌朝、老人の家の前に倒木があり、道が塞がれていた。

フェルンは許可を得て部下と片づけた。

老人は礼を言わなかった。

ただ、帰り際に一杯の水を差し出した。

フェルンは両手で受け取った。

任官後、フェルンは国境の混成部隊へ赴任した。

最初の仕事は敵を探すことではなく、洪水で閉ざされた道の避難誘導だった。

彼が掲げた合図旗に、両国の村人が走り寄った。

剣を抜かずに人を集められる将校を、シリウスは心強く思った。

フェルンは任官式の夜、古い孤児院へ立ち寄った。

院長は階級章を見て喜んだが、幼い子供は「偉くなったら、ここには来ないの」と尋ねた。

フェルンは答えに詰まり、翌週の休日を帳面に書き込んだ。

「来る。約束を守れなかったら、叱ってくれ」

その約束は、どんな軍規よりも彼の背筋を伸ばした。

士官学校の卒業式で、フェルンは誰よりも背筋を伸ばしていた。

制服の襟には帝国の紋章がある。

けれど彼が生まれたのは、かつて帝国軍と戦った王国の小さな村だった。

「敵国の孤児に、兵を預けるのですか」

式の前日、古参将校がシリウスに抗議した。

フェルンの成績は優秀だった。

だが、その経歴を理由に任官を取り消せという声が出ていた。

「彼の判断に問題があるなら、記録を示してほしい」

「血筋の問題です」

「血筋は命令を出さない。人間が出す」

シリウスはそれ以上言わなかった。

怒鳴り返しても、偏見を持つ者に言い訳を与えるだけだ。

任官式の後、フェルンは自分を育てた孤児院を訪ねた。

院長は肩章を見て涙ぐんだが、年少の少年は「将校になったら、もうここへ来ないんだろう」と背を向けた。

フェルンは答えに迷った。

軍務が始まれば自由な時間は減る。

それでも「帰ってくる」と軽く約束するのは違う気がした。

「毎月、手紙を書く。書けない月は理由も知らせる」

少年は「それなら読めるようにならないと」と呟いた。

フェルンは翌朝、古い教科書を一冊届けた。

守るべき相手の顔を忘れないための、彼なりの最初の任務だった。

フェルンは試験の一つで、命令違反と評価されていた。

演習中、橋の上で負傷者を見つけ、予定の進軍を遅らせたのである。

審査官は規律違反としたが、フェルンは報告書にこう書いた。

『橋を守る任務は、橋を渡る人間を守る任務でもある』

シリウスはその記録を読み、本人を呼んだ。

「君の判断で、味方が危険にさらされた可能性はある」

「はい。そこは間違えました。救護班を先に呼ぶべきでした」

「では、なぜ隠さなかった」

「隠したら、次の人が同じ間違いをします」

その答えは、かつて軍師を志したシリウス自身が言えなかった言葉だった。

卒業式の朝、フェルンの養母が古い外套を持って現れた。

孤児院から引き取った日、彼が着ていたものだ。

袖は短く、肩には継ぎ当てがある。

「これを捨てないでね」と養母は言った。

「あなたがどこから来たか、忘れないために」

フェルンは外套を抱いた。

「忘れません。でも、そこに戻るために軍人になるわけでもありません」

式場では、帝国の言葉で宣誓が始まった。

フェルンは一節を終えると、王国の言葉でも同じ誓いを述べた。

ざわめきが起きる。

「二つの国の人間を守ると、私は誓います」

古参将校は厳しい顔のままだった。

だが式の後、彼はフェルンに地図を差し出した。

「国境警備の初任務だ。君ならどう配置する」

フェルンは即答しなかった。

「まず、村人がどの道を使うか調べます」

将校は眉を動かした。

「兵の配置を聞いている」

「村人の道を知らずに兵を置けば、守るつもりで塞いでしまいます」


しばらくして、将校は小さく頷いた。

「では、調べてこい」

フェルンは敬礼し、式場を出た。

肩の階級章はまだ新しい。

だが彼の仕事は、そこから始まるのだった。

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