↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/31

第16話 母の名前、ルナ

――ルナ。


 その名前を。


 私は何度も頭の中で繰り返していた。


「……ルナ」


 口に出してみる。


 不思議な名前だった。


 知らないはずなのに。


 どこか懐かしい。


「ミア」


 レイヴェンが私を呼んだ。


「はい」


「その名前を……母親から聞いたことはないか?」


「ありません」


 私は首を振った。


「母さんの名前は、マリアです」


「……マリア」


 レイヴェンが考え込む。


「そう名乗っているのか」


「はい」


「なるほど……」


 その言い方が。


 少し気になった。


「どういう意味ですか?」


「いや」


 レイヴェンは答えなかった。


「今はまだ話せない」


「どうして?」


「知れば、お前は村へ戻れなくなる」


「……」


 私は黙った。


 村。


 母さん。


 私の家。


 いつもの生活。


 全部。


 遠くなってしまう気がした。


「私……」


 私は小さく呟いた。


「普通に暮らしたかっただけなのに」


 レイヴェンが目を伏せる。


「……すまない」


     ◇


 その後。


 私たちは王城を出た。


 王国から正式な調査許可が下りたため、しばらく王都に滞在することになった。


 宿屋へ向かう途中。


「お腹空いた!」


 クロエが突然叫んだ。


「さっきまであんな戦いをしてたんだから当然だろ」


 レオンが笑う。


「私もお腹空きました」


 私は手を挙げた。


「ミアも?」


「はい!」


「……なら飯にするか」


 ガルドも頷いた。


「賛成だ」


 私たちは近くの食堂へ入った。


     ◇


「いただきます!」


 目の前には。


 大きな肉料理。


 パン。


 スープ。


 野菜。


 私は嬉しくなった。


「王都のご飯って美味しいですね!」


「まだ何も食べてないだろ」


 レオンが笑う。


「見ただけで分かります!」


「どういう理屈だよ」


 みんなが笑った。


 少しだけ。


 いつもの空気が戻ってきた。


 私は。


 こういう時間が好きだった。


 強い魔物も。


 王様も。


 古代遺跡も。


 父さんの謎も。


 今は忘れて。


 仲間とご飯を食べる。


 それだけで。


 私は幸せだった。


「ミア」


 シエラが話しかける。


「何ですか?」


「王城で見つけた記録だけど」


「はい」


「明日、王立図書館へ行きましょう」


「図書館?」


「ええ」


 シエラは古い紙を取り出した。


「アレン・ルナベルについて、王城の記録だけでは足りないわ」


「何か分かるんですか?」


「千年前の記録を調べれば、おそらく――」


 シエラが紙を指差す。


「『始原の女神ルナ』についても何か出てくるはず」


 私は。


 スープを飲む手を止めた。


「……ルナ」


「そう」


 シエラが頷く。


「さっきの扉に刻まれていた名前」


 私は。


 銀色の羽を取り出した。


 レイヴェンから受け取ったもの。


「これも調べたいです」


「もちろん」


 シエラが微笑む。


「一緒に調べましょう」


「はい!」


     ◇


 その夜。


 宿屋。


 私は一人。


 窓辺に座っていた。


 銀色の羽を眺める。


 月明かりを受けて。


 淡く光っている。


「……母さん」


 私は呟く。


「あなたは何を隠してるの?」


 返事はない。


 当然だ。


 母さんは。


 ここにはいない。


 でも。


 羽に触れた瞬間。


 ――ふわっ。


 視界が白くなった。


「え?」


 目の前に。


 村の景色が広がった。


 私が暮らしていた村。


 まだ幼かった頃。


 そして。


 母さんがいた。


「……母さん?」


 違う。


 これは。


 記憶だ。


 幼い私が。


 泣いている。


『お母さん……』


『大丈夫よ、ミア』


 母さんが。


 私を抱きしめている。


『あなたは何も怖がらなくていいの』


『でも……』


『あなたは普通の女の子よ』


 母さんが。


 優しく笑う。


『だから――』


 その瞬間。


 記憶の中の母さんの目が。


 赤く光った。


『この力を、絶対に使ってはいけない』


「……!」


 私は息を呑む。


『約束して』


 幼い私は。


 頷いていた。


『うん……』


 そして。


 記憶が切れる。


「……今のは」


 私は羽を落とした。


 手が震えている。


「私……」


 幼い頃。


 何かを。


 母さんに封じられていた。


     ◇


 翌朝。


「ミア!」


 クロエが部屋の扉を叩く。


「起きてる?」


「はい!」


「朝ご飯――」


 扉が開く。


「……って」


 クロエが止まった。


「どうしたの?」


 私は。


 鏡を見ていた。


 自分の瞳を。


「ミア?」


「……昨日から」


 私は自分の目を見る。


「目の色が少し違う気がするんです」


「え?」


 クロエが近づく。


「普通の赤じゃない?」


「そうですか?」


「うん」


 クロエが首を傾げる。


「昨日まではもっと明るい赤だった気がするけど……」


「気のせいじゃないですか?」


「そうかな」


 その時。


 部屋の窓が。


 突然。


 ――ガタッ!


 揺れた。


「風?」


 窓を開ける。


 王都の空。


 雲一つない。


 でも。


 遠く。


 王都の外壁の向こうから。


 黒い煙が上がっている。


「……何?」


 クロエが呟く。


 次の瞬間。


 王都中に。


 警報が鳴り響いた。


 ――ゴォォォン!


 ――ゴォォォン!


「また……?」


 私たちは急いで宿を出た。


 街では。


 騎士たちが走り回っている。


「何があったんですか!?」


 私が聞く。


 通りを走る騎士が叫んだ。


「王都南門が襲撃された!」


「魔族ですか!?」


「違う!」


 騎士が振り返る。


「魔物でもない!」


「じゃあ何が――」


「人間だ!」


 その言葉に。


 私は固まった。


「人間?」


「黒いローブの集団だ!」


 レオンが剣を握る。


「昨日の連中か……!」


 シエラの顔が険しくなる。


「目的は?」


 騎士が叫ぶ。


「王立図書館の地下――」


 その瞬間。


 私の短剣が。


 激しく震えた。


 ――ドクン!


「……!」


 そして。


 短剣から。


 あの声が聞こえた。


『警告』


『始原の記録が侵入者によって破壊されています』


 私は目を見開いた。


「始原の記録……?」


『対象――』


 一瞬。


 声が途切れる。


 そして。


『アレン・ルナベル』


 私は。


 息を呑んだ。


「父さん……?」


 短剣が。


 さらに強く光る。


『記録消去まで――』


『残り三十分』


 私は走り出した。


「みんな!」


 レオンたちも走る。


「待って、ミア!」


「王立図書館へ!」


 父さんの記録が。


 消されようとしている。


 そして。


 その記録の中には。


 きっと。


 母さんの秘密も。


 私の秘密も。


 全部。


 書かれている。


 王立図書館へ向かう途中。


 私は知らなかった。


 地下深く。


 黒いローブの男が。


 一冊の本を手にして。


 笑っていることを。


「ようやく見つけた」


 本の表紙には。


 古い文字で。


 こう書かれていた。


 『始原の女神と、その娘』


 男は。


 ページを開く。


 そして。


 そこに書かれた名前を見て。


 笑った。


「――ミア・ルナベル」


 その瞬間。


 本の中の文字が。


 一つずつ。


 赤く燃え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。