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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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第11話 王都襲撃、そして勇者

――ゴォォォン!


 鐘の音が、王都中に響いている。


 さっきまで賑やかだった冒険者ギルドは、一瞬で別の場所になっていた。


「全員、落ち着いて!」


 アリシアさんが叫ぶ。


 騎士たちが一斉に動き出す。


 剣を抜く者。


 魔法を準備する者。


 ギルドの入口を封鎖する者。


「何が起きてるんだ!?」


「魔族の襲撃か!?」


「空の魔法陣は何だ!?」


 冒険者たちも騒ぎ始めた。


 私は窓の外を見る。


 王都の空。


 そこには、さっきよりも大きくなった黒い魔法陣が浮かんでいた。


 そして。


 その中央にある巨大な赤い目。


 まるで。


 私を見ているようだった。


「……ミア」


 レオンが私の隣に立つ。


「大丈夫か?」


「はい」


 私は頷いた。


「でも……あの人、どうして私の名前を知ってるんでしょう?」


「それが問題なんだ」


 シエラが険しい顔をする。


「王都全体に声を届けるほどの魔法。しかも、あの魔力……」


「強いの?」


 私が聞く。


「強いなんてものじゃない」


 シエラは空を見上げる。


「私には、あれがどれほどの魔力なのか測れない」


「そうなんですか」


「ええ」


 シエラが苦笑する。


「……あなたと同じね」


「?」


 私は首を傾げた。


     ◇


 空から。


 黒い影が降ってきた。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 いや。


 数え切れない。


「来るぞ!」


 誰かが叫んだ。


 ――ドォン!


 王都の広場に黒い魔物が着地した。


 体長は三メートルほど。


 黒い皮膚。


 赤い目。


 背中から生えた巨大な翼。


「魔族……!」


 騎士の一人が叫ぶ。


 魔物たちは武器を構える。


「人間どもよ」


 その中の一体が口を開いた。


「我らの目的はただ一つ」


 赤い目が。


 こちらを向く。


「――ミア・ルナベル」


 私の名前が呼ばれた。


「私?」


「そうだ」


 魔族が笑う。


「お前を渡せ」


「嫌です」


 私は即答した。


「……え?」


 魔族が固まった。


 私も少し考える。


「だって、私、まだ王都に来たばかりですよ?」


「そういう問題ではない!」


「違うんですか?」


「違う!」


 クロエが隣で笑いをこらえている。


「ミア……今それ言う?」


「だって」


 私は困った。


「私、何も悪いことしてませんよ?」


 魔族が頭を抱える。


「……こいつ、本当に何も知らないのか?」


 その呟きが聞こえた。


「何を知らないんですか?」


「――黙れ!」


 魔族が腕を振り上げた。


「捕らえろ!」


 一斉に魔物たちが動く。


「来るぞ!」


 レオンが剣を構えた。


「ミアは下がって!」


「はい!」


 私は後ろへ下がった。


 レオンが前へ出る。


 シエラが魔法を放つ。


 クロエは影のように敵の背後へ回り。


 ガルドが巨大な盾を構える。


「行くぞ!」


 戦闘が始まった。


     ◇


「――炎槍!」


 シエラの魔法が魔族を貫く。


「ぐっ!」


 一体が吹き飛ぶ。


「やった!」


 私が声を上げる。


「まだだ!」


 レオンが叫ぶ。


 別の魔族が迫っていた。


 レオンが剣で受け止める。


 ――ガキィン!


「くっ……!」


 押されている。


「レオン!」


 私は思わず前へ出た。


「来るな!」


「でも!」


「大丈夫だ!」


 レオンは歯を食いしばっている。


 私は立ち止まった。


 どうしよう。


 何か。


 私にもできることは――


「……あ」


 昨日と同じ。


 黒牙狼王。


 灰色迷宮のオーク。


 みんな。


 私が手を出したら飛んでいった。


 でも。


 私はレベル1。


 剣も魔法も使えない。


 だから。


 たぶん。


 たいしたことはできない。


「……でも」


 友達が戦っている。


 それだけは。


 嫌だった。


「みんなを――」


 私は拳を握った。


「守りたい」


 魔族がレオンを吹き飛ばした。


「レオン!」


 私は走った。


「ミア!」


 レオンが叫ぶ。


 魔族がこちらを見る。


「小娘が!」


 巨大な腕が振り下ろされた。


 私は。


 その腕に。


 手を伸ばした。


「……えいっ」


 ――ドンッ!!


「…………」


 静寂。


 魔族の姿が。


 消えた。


「……あれ?」


 私は目を瞬かせる。


 次の瞬間。


 王都の城壁の向こう。


 何かが飛んでいった。


 ――ゴォォォォォン!!


 地面が揺れる。


 遠くの建物が震える。


 空を舞っていた黒い魔法陣まで。


 バキンッ!


 音を立てて砕け散った。


「…………」


 全員が。


 私を見る。


「…………」


 私も。


 みんなを見る。


「……逃げました?」


 クロエが口を開けたまま固まっている。


「いや……」


 レオンが呟く。


「逃げたというより……」


「……吹き飛ばした」


 シエラが続けた。


「……また」


 ガルドが短く言った。


「?」


 私は首を傾げる。


「どうしたんですか?」


 アリシアさんが。


 震える手で剣を下ろした。


「あなた……」


「はい?」


「今、何をしました?」


「えっと」


 私は考える。


「押しました」


「…………」


「手で」


「…………」


 誰も何も言わなかった。


     ◇


 その頃。


 王都から数十キロ離れた場所。


 巨大なクレーターができていた。


 その中心に。


 先ほどの魔族が倒れている。


「……馬鹿な」


 魔族は震えていた。


「触れただけだぞ……?」


 自分の腕を見る。


 骨が折れている。


 身体中に亀裂が走っている。


「これほどの力……」


 魔族は空を見上げた。


「まさか……」


 そして。


 震える声で呟いた。


「――本物の勇者……」


     ◇


 王都。


 冒険者ギルド。


 アリシアさんは私の前に立っていた。


「ミア・ルナベル」


「はい」


「あなたは、自分が何者なのか……」


 アリシアさんは言葉を選ぶように黙った。


「……何も知らないのですね?」


「はい」


 私は素直に答えた。


「私、普通の村娘ですよ」


 アリシアさんの表情が引きつった。


「……普通」


 クロエが小さく呟く。


「どこが?」


「クロエ?」


「何でもない」


 すると。


 ギルドの奥から。


 慌ただしい足音が聞こえてきた。


「アリシア隊長!」


 一人の騎士が駆け込んでくる。


「国王陛下から緊急命令です!」


「内容は?」


「はい!」


 騎士は息を整える。


「――ミア・ルナベルを」


 一瞬。


 全員が静かになった。


「至急、王城へ連れて来るようにとのことです」


「……分かりました」


 アリシアさんが頷く。


 そして。


 私を見る。


「ミアさん」


「はい」


「あなたには、王城へ来てもらいます」


「分かりました!」


 私は元気よく答えた。


「王様に会えるんですね!」


「……はい」


「楽しみです!」


 レオンが頭を抱えた。


「お前……緊張感なさすぎるだろ」


「だって王様ですよ?」


「そこじゃない……」


 その時。


 ギルドの外から。


 また鐘が鳴った。


 ――ゴォォォン。


 今度は。


 一度だけ。


 王都の人々が空を見上げる。


 そして。


 誰も気づいていなかった。


 王城の最上階。


 誰にも入ることを許されていない部屋で。


 一人の老人が。


 古びた書物を開いていた。


 そのページには。


 私の名前が書かれている。


 ――ミア・ルナベル。


 その下には。


 こう記されていた。


 『勇者』


 そして。


 そのさらに下。


 何百年も前に書かれた文字があった。


 『ただし、この者を勇者と呼んではならない』


 老人は。


 震える手でページをめくった。


 そこには。


 さらに恐ろしい一文が書かれていた。


 『彼女は勇者ではない』


 『勇者より上位の存在である』


 老人は。


 小さく呟いた。


「……ついに」


「目覚めたのか」


 その頃。


 王城へ向かう馬車の中で。


 私は窓の外を眺めていた。


「王様って、どんな人なんでしょう?」


 まだ私は知らない。


 これから王城で。


 私自身の出生について。


 そして。


 父――アレン・ルナベルについて。


 決して知ってはいけなかった真実を。


 知ることになることを。

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