第60話 寂しがりな魔女
すみません。自分でもかなりローペースになってるのは分かってるんですけど。
ちなみに人気投票の方もまだまだやってます。ぜひよろしくお願いします。
それでは本編へ〜
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???side
『―――"人殺し"―――』
誰が言ったのかは分からないその言葉。酷く邪悪で嫌悪感が漂ってしまうその言葉はまるで血の色をした鎖のようだった。
だがその言葉は確実に1人の少年の――いや。5人の少年少女の心に巨大な十字架となって重くのしかかっている。
ひたすら前を向いて歩こうとしても、彼らにはその言葉がある限り、後ろを振り返らないことを許さない。
それが彼らの心を覆ってしまった"罪"。そして"罰"の証なのだから――
「…そうさ。俺を誰だと思ってるんだ?俺は罪人。俺は許されざる者。それくらい分かってるさ」
そんな真っ黒な渦が飛び交う中。その中心にいる少年が呟くように語る。
自らの罪を分かっているからこそ少年――真備は口を開くのであった。無表情に。淡々とした口振りで。
「…だけどなぁ。俺をどう言おうが構いはしない。事実“俺があの男を殺した”のは間違いないからな」
「…ひぃいいい!!」
ゆっくりとゆっくりと口から出てくるその言葉は真備自身、気づかぬうちに殺気を孕んでいた。
なぜこうなってしまったのだろう?
なぜこうなってしまったのだろう?なぜこうなってしまったのだろう?なぜこうなってしまったのだろう?なぜこうなってしまったのだろう?
なぜこうなってしまったのだろう?なぜこうなってしまったのだろう?なぜこうなってしまったのだろう?
真備の頭の中で何度も何度も何度も――その言葉がループする。
真備自身。今日1日でこれほどまでに劇的なことが立て続けに続くとは思っていなかった。これまで起こったことを何もかも忘れて今日1日久しぶりに楽しもう。そう考えていた。
――だけどその結果がこれである。結果的に真備は自らの体に染み付いたそれを拭えなかった。
彼自身の隅々まで染み渡ったその罪と優しさから――
「…でもな。今のこの状況ではそれとこれとは話は別だ。俺はな…俺はな…今猛烈に苛立ってんだよ…!!」
『『………』』
――真備の口から出てきた地の底を割るようなその叱咤に散々悪口を言っていた周りが一気に押し黙る。
それはまるで覇気のように周りの者は感じたのだ。
「……」
『『っ…!!』』
それ以降も真備の睨みは続く。それに思わず周りにいた者は一歩後ろへと下がってしまっていた。
尋常ではない覇気。そして殺気が彼らのすべてを支配している。
今、この場を支配しているのは群民と化してしまったギャラリーではない。もちろんその視線の先にいる倒れた不良たちでもない。
彼らを――この空間を支配しているのは完全に視線の中心にいる真備であった。
――ギリギリ…ッ!!!!
その音は何の音なのか。
いやその場にいる人は全員がわかっていた。
この音は真備が強く歯を噛み締めたために起こった音。もしくは不良の返り血が付いてしまった拳を強く握りしめた音。
様々な憶測がそれぞれの頭に過ぎる。だが結局全員行き着いた結論は一緒であった。
――あれは。爆発までのカウントダウンだと。
「…あぁ〜あ。姉貴はさっきどっかに行っちゃったのが見えたし。ここまでの騒ぎになってるのに日向と知恵理が来ないってことは少なくともこの近くにはいないってことだよな〜……はぁー。もう本当に俺はどうなっても知らないからな……」
前髪が掛かり、目に影が射したような真備の姿。その状態でそう独り言を呟く。
その呟きは他の人にもしっかりと聞こえている。しかし彼らには真備の言わんとしていることはまったく分からない。
だがそれも一瞬のこと。いや一瞬にしてその考えが崩れ去る。真備がその顔をあげた瞬間に――その病んだような瞳を見た瞬間に――
「…おいお前ら。今この場には俺を止められる奴は誰もいない…どうなっても知らないからな…!!」
『『……(ピシッ)』』
このとき周りにいたギャラリーはやっと自らが侵した過ちに気がついた。
この少年に――真備に手を出したという過ちに――
「…さぁ。俺はいい加減我慢出来ねー…だからそろそろ最悪のデスパーティーを始めようぜえぇええ!!!!」
それは獣のほうこうのような凄まじい叫び声であった。
――――――――
―――――
―――
―
「水城さん。これはいったいどうなってるっすか…」
真備の叫び声は桜時市の繁華街"街"に響き渡りすぐ近くの喫茶店にいた女生徒の耳にも届いていた。
《……どうやら羽前の血。それと真備自身の性格が原因なのだろう》
そして彼女が耳に当てる携帯電話の先にも。
そこは真備達がいる広場がすべて見渡すことができる広場前のビルの二階にある喫茶店。そこには紅髪の少女――"天野うずめ"が携帯を耳に当てながら真備の様子を見ていた。
「羽前の血…それはどういう意味っすか?」
《……羽前の血。陰陽師羽前家の人間の役割は人を護ること。おそらく真備はその血のせいで――》
「あの少女を守りたい。そしてそれの延長で自分と自分の仲間の危険になるものを取り除きたい。こんなところっすか?」
《……そうだ》
うずめの言葉に電話の相手である男――"時雨水城"は是だと答える。
電話越しでもわかるくらいに彼は無感情だということが伝わってくる。そしてその声はうずめにとって最早聞き慣れた声。
だからうずめに与えられた仕事はただ1つ。機械に入力するかのように彼に真備達の状況を伝えるだけなのである。
「…どうやら状況が変わったみたいっす」
《……報告を続けろ》
「はいっす!!」
そしてうずめが電話に集中している十数秒の間に外の様子――真備を取り囲む状況が劇的な変化を迎えていた。
うずめはその様子を事細かに電話越しの相手、水城に伝えていく。淡々と告げられるうずめの言葉に水城は終始無言であった。
店員を含めたこの喫茶店にいるすべての人物は大半、興味本位で外の情景を観察している。
そんな空気の中、珍しいもの見たさではない目で見て、尚且つ淡々と電話をし続けるうずめは異様だったかもしれない。
だがその場にいる人はほぼすべて外の珍しい光景を観ることに夢中になっており、彼女のそんな様子を気にするものは1人もいない。
うずめ自身もそれが分かっていて堂々と水城との電話を続けていた。
――でも彼女は気付いていない。同じ店内、しかも背中合わせに座ったところにうずめと同じく異様な雰囲気を出している少年がいることに。
「――と、こんなところっすかな。他に知りたい情報はあるっすか?」
《……いや、理解した。だからこれからお前にやってもらいたいことがある》
水城という機械に対する入力を終えたうずめ。その結果、入力された数字をもとに計算を終えた水城はその答えを提示する。
「――分かったっす。うちは真備さんのことを見張っていればいいっすね?」
《……あぁ。頼んだぞ》
水城からの指示。【羽前真備から目を離すな】この指示に対してうずめは肯定の意を表す。
そしてもう1つ――
《……それとうずめ。分かっていると思うが――》
「心配皆無っす。ちゃんと分かってるっすよ…」
それはうずめがもう一度この街へと来る前に指示されていた内容。どんな理由でかは定かではない。
だがうずめはその内容を絶対に破ろうとは思っていなかった。その内容とは――
【水城の指示があるまで絶対に戦闘行為に手を出してはならない】ということ。
「…じゃあ水城さん。うちもそろそろ動き始めるっす」
《……分かった。俺も明後日には行く。それまであいつらを頼んだぞ》
「はいっす。任せてくださいっす水城さん…」
――……Pi♪
ゆっくりと携帯を閉じるうずめ。その朱い髪とは裏腹に水色のその携帯電話に映る自らの姿はまるでこの携帯を買った彼女のようであった。
それにうずめは嬉しい気持ちになる。朱い髪が水色に見えるその姿は彼女の憧れだったからだ。
「…ん?あ…あぁ、すみませんっす。ここに映る自分を見てるとつい嬉しくなっちゃいますっすから」
慌てたように弁解をするうずめ。だけど彼女の前には誰もいなかった…。
だがうずめはそんなことは気にしない。寧ろさらに嬉しそうに頬を綻ばせると飲みかけのジュースを一気に飲み干した。
――それは2人だけの秘め事。2人だけの空間。2人だけの世界…。
それはほかの誰にも理解されたことがない関係。
だけど2人の関係について触れるのはもう少しだけ後の話である――
真備side
「…なぜ邪魔する??」
桜時市の繁華街"街"その中心にて俺は1人の少女に手を掴まれていた。
辺りが静まるのが分かる。俺の中に猛る荒々しい感情を含めて。
「…だめ。…もうこれ以上。…傷つけないで」
「…お前はそれでいいのか?こいつらはお前を傷つけようとした奴らだぞ?」
ゆっくりと途切れ途切れに伝えられた彼女の言葉に、俺は彼女を見ることなく逆にそう問いかけた。
掴まれた手から彼女の温かさが伝わってくる。
「…お前じゃない。… I の名前は。
【ミーシャ=イヴファニカ=アイゼンドール】
呼ぶときは"イヴ"と呼んでほしい…父様と母様はそう呼ぶから…」
「…分かった"イヴ"。じゃあ改めて聞くが本当にお前はいいんだな?」
俺は俺の腕を掴んだ彼女の小さい手を握り返し彼女を正面から見るように体を向け、彼女に再度問いかける。
でもイヴはゆっくりとはっきりと頷く。しかもイヴの瞳に濁りはまったくと言っていいほどない。
俺はその瞳を見た瞬間、身体中の力が一気に抜けていった…。そう、俺の完全なる敗北だった。
「…分かった。お前がそこまで言うならパーティーは中止だな」
「…!!…本当?」
俺の言葉に笑顔を見せながら万弁の笑みを浮かべるイヴ。俺はそんな彼女を安心させるように優しく頭を撫でた。そしてその俺は既にいつも通りの俺へと戻っていた。
あいつらといるときの俺とまったく同じ、穏やかな顔をした俺へと――
なんでだろうな。こいつを見てると、なんか知恵理や姉貴とは違う感情が湧いてくるな。
恋愛感情とかそんなんじゃない。どこか"妹"の世話をしているような…そんな温かくて心地がいい感じが…。
そう思いつつ、俺は顔を緩めていくのであった。
「…スキだらけだぜ!!社会のゴミいぃいいい!!」
『『…!?』』
――そんなとき、俺の周りにあった和やかな雰囲気をぶち壊す叫びが上がる。
それは俺の真後ろにいた不良の1人であった…!!
『きゃあぁああ!!』
『あいつ!!喧嘩にナイフを使う気かよ!?』
『お願い!!逃げてぇええ!!』
辺りにそんな声が響き渡る。それは明らかに俺への危険を知らせる赤信号だった。
「くそっ!!」
気づかないうちに俺は叫び散らす。周りの声を聞く限り、どうやら不良の1人がナイフを取り出したらしい。
後ろから走ってくる音が聞こえてくる。敵はすぐそこまで迫っていやがる!!
――くそ!!イヴの顔を見るために体を反転させたのがミスった原因が!!
軽率な行動だった。俺は心の中で一分前の自分へと恨みを持つ。だがもちろん時間は待ってくれない。
幸いこの距離なら俺の瞬発力でもまだ避けることができる。ならば横飛びでナイフをかわして――
「シャハハハハ!!いいのかな?避けちゃってもいいのかな?お前が避けちゃったらおまえの前のかわいこちゃんが傷だらけになっちゃうぜぇえええええ!!シャハハハハ!!」
「…!!しまった!?」
――奴のいうこと。おそき適当に言葉を並べて口に出したみたいだが的を射てやがった…!!
もしここで俺がこいつのナイフを避けようもんならナイフの刃先はそのまま俺の先にいるイヴへと向かっていく!!
その事実に気がついた俺は歯を噛み締める。もうここまで状況が悪化しちまってんなら俺に残された道はあと1つしかない。
「ヤメロぉおおおおお!!」
――それは俺自身がイヴの壁となり盾となるということ。
荒々しく握られたイヴの手を振りほどいた俺は羽前家の血筋に備わる。人間を護るという防衛本能の名のもとにイヴの前へと立ちはだかった。
振り返った俺が見たのは俺に向かってくる1人の男。手には10㎝くらいの折りたたみ式のナイフを持ち俺に向かって走ってきていた。
それを見守るギャラリーの奴らは見てられないのか大半が目を瞑って何かを一生懸命叫んでる。
俺が見たのはそこまでだ。そこからはもう俺自身目を開けてられなかった。最後の最後になってどうやら恐怖心が勝っちまったみたいだな…。
――あぁ…あれで刺されたら痛いんだろうな…。
最後にみた情景がわずか数秒間に何度も何度もビデオみたいに流れていく。
だが結局、俺の目にはっきりと残っているのはこれから俺を刺すのであろうあのナイフの輝きだけ。それを思うと思わず笑みが漏れちまった…。
「死ねぇえええええ!!社会のゴミいぃいいい!!」
――ガツ――――ンッ!!!!
俺の最後を伝える音はそんなまるで人に何かがぶつかったかのようなマヌケな音だった――って…あれ?
はっきりと聞こえたのは確かにその音。
ナイフが俺へと刺さって起きた「ブスッ」という鈍い音ではなくなぜか何かがぶつかったかのようなそんな音…。
あまりに場違いなその音のせいかあたり一面からこれまで聞こえていたギャラリーの声はコツンと消えてしまっていた。
――明らかにおかしい状況。そこで俺はやっと自らの瞳を開く。すると俺の目の前にあったのは…。
「…【いちご牛乳】」
あ〜最初に言っとくがこれは別に、洒落や冗談なんかではない。俺の目の前には確かに倒れた不良といちご牛乳の紙パックがあった。
ちなみに不良のほうは飛び出したいちご牛乳の中身によって全身が赤白い液体で覆われている。
――うん。キモイな。
なんか知らんがマジでこの不良に同情しちまった。
「…やれやれ。街で何か騒ぎが起こっているから着てみれば…お前だったか羽前真備」
「…げぇええ〜」
――そのとき、このいちご牛乳の射手であろう声が辺りに轟く。もう一度言うが声が轟いたのだ。
オペラ歌手にでもなりたいのか?と聴きたくなるようなその声。
俺はその声の主を見て思いっきり隠すつもりもなく顔をしかめた。
まぁ【いちご牛乳】が飛んできた時点であらかたの予想はついていたけどまさかマジでこんな街中で会うとは思ってもいなかったぜ…。
あぁ…本当に今日は厄日だな俺…。こうなるんだったら朝の正座占い見てくるんだったぜ…。俺は思いっきりため息を吐き呼ぶ。彼の名前を――
「【政宗】なんでお前がここにいるんだよ」
「うぬ。そんな事決まっておろう…我は暇つぶしにここへ訪れたのだよ」
「…せめてそこは嘘でもお前を助けにきたくらい言ってほしかった…」
「たわけ。我がなぜ貴様のような輩を助けなければならぬのだ?笑わせるな!!ハッハッハッハッ!!」
「あんたはそれでも中等部の【生徒会長】かぁああああああああ!!!!」
――不本意だが。今日一番の叫び声を上げた瞬間であった。
さて、とりあえずこいつの紹介をする。こいつの名前は【周防政宗】さっきも言ったがうちの学校の生徒会長だ。
容姿はとにかく偉そうな男(メガネは忘れるな)を思い描いてほしい。おそらくそれが奴の姿だ。
しゃべり方もとにかく偉そう、とにかく何かにつけて偉そうな態度を取りたがるのがこいつなんだ。
――ちなみに隠してるつもりだが実は【いちご牛乳】が好物でいつも持ち歩いてるらしい…。
「…うむ65点と言ったところか。勢いはあるが如何せん捻りがたりぬツッコミだったな…ちゅー」
「なんだよお前!?何なんだよお前!?何ツッコミに点数点けてんだよ!?あとしゃべりながらいちご牛乳飲むのやめーい!?」
怒涛のツッコミ三連発。だが目の前のこいつは涼しい顔しながら相変わらずいちご牛乳を飲んでやがる。
このシリアスパートからいきなりぶち壊こわされたこの空気どうすんだよ…
後ろのギャラリーもこのいきなりの展開に口ポカーンじゃねーかよ。何か今更ながら俺なにやってんだらうな…。
おまけにあのいちご牛乳という名前の白獨液を浴びた不良も起き上がって来て――あ、もしかしてヤバい?
「キ〜サ〜マ〜!!!!そこの社会のゴミ共々中等部の癖に何しやがる!?」
地獄の底から舞い戻ってきたかのような声。その声の主はしっかりとナイフを持ち俺とイヴ、それに政宗をしっかりと見据えていた。
やっぱりあんな紙パックごときじゃあ気絶させるまでには至らなかったということだな――
「… THAT MAN(あの男)また I を虐めるの?」
「…あぁ。でも安心しろイヴ。こっちにはあの男がいるからな」
脅えているのかプルプルと肩を震わすイヴに俺は安心させるための意味を込めて、彼女の手をギュッと握り締める。
でも俺は今度は特に慌てることはない。なぜなら頼もしい味方――政宗が俺の前にいるからだ。
そして俺の頼もしい味方。政宗の方は相変わらず余裕そうにいちご牛乳を飲み続けている。もちろんその表情に慌てた様子は皆無であった。
「ちゅー…よくもめんどくさいこと巻き込んでくれたな"羽前真備"」
「気にすんなって政宗。去年のクラスメートだろ?」
「ふははは。よくもぬけぬけとそんなことを言えるな羽前真備。貴様、去年の11月まで我の名前を知らなかったではないか」
「それはそれ。これはこれだ。あのころは関係ない…大事なのは今だろ?」
「ふ…違いない」
そこまで語り合うと俺たちは「ははははは!!」と高らかに笑いあう。
さて、俺達のそんな様子に今度は逆に不良のほうが慌て始める。武器を持ったという圧倒的に有利な状況。
だけど相手はひるむどころか高らかと笑い出す始末だ。これは混乱もするだろう。――そして不良はこの場で最もしてはいけないことをしてしまうのであった。
「な…何笑ってやがんだこの中坊があぁああああ!!」
俺達の――政宗の前にて無計画に突撃するという大きな過ちを――
「…なぁ政宗。これはあれだよな?向こうから切りかかってきてるから正当防衛だよな?」
「うむ。そうだな…だけど羽前真備。お前は手を出すな」
「それゃまたなんで?」
「無論。決まっているであろう」
そこまで言った瞬間。俺とイヴの前から政宗が消える…。人が立ち去った後の風ってこんなに気持ちがいいものなんだな…。
頭の中、ゆっくりとそう思った俺はイヴの手をしっかり握りしめていた。
――ドガ―――ッン!!!!!!
刹那、俺達の耳に有り得ないくらいの衝撃音が伝わってくる。…あーぁ、こんな街中でよくもどうどうとぶっ放したぜ…。
「ぐっ…な、なんだそれ……なんで中坊がそんなものを…」
「…出直してこい愚民。貴様などでは話にならぬわ」
――護身用のバズーカを。
人間、生きていくためには自らを武装しなくちゃいけないと言うことだ。
それが中等部の生徒会長にして大手【周防グループ】の会長の息子。そして何より――
「桜時学園:高等部2年5組【中原元太】桜時学園の【理事長の孫】として貴様に退学を言い渡す」
理事長の孫であるこいつに逆らおうものなら即座に退学になっちまうからな。
「うむ。悪は滅びた…これにて一件落着!!アッハッハッハッハッハー!!」
「ジャパネーズお奉行?」
「俺からしてみればお前も十分な悪役なような気がするんだけどな…」
――――――――
―――――
―――
―
「ほら、飲むがいい」
あの後すぐに政宗が理事長の孫だと高らかに宣言してから俺達の周りにいたギャラリーは散り散りになっていった。
まぁ義務教育じゃない高等部は誰だって退学にはなりたくないだろうからな…。
「お。サンキュー政宗」
「…ありがとう。 YOU はとってもいい人」
だから俺達はこうして街の一角にあるベンチに腰を下ろしてくつろぐことができていた。
「ちゅー…うん。偶には甘いものもいいな…」
「ちゅー」
俺とイヴは政宗から受け取ったいちご牛乳のパックのストローに口をつける。
うん。運動後の甘いものはやっぱりおいしいな。
「…ところで政宗。お前なんでバズーカなんかぶっ放したんだよ?」
そこにきて俺はふと疑問に思ったことを政宗に聞いてみる。なぜならあのとき政宗はバズーカを使わなくても"あれ程度"の不良なら簡単に倒せることができたからだ。
だってこいつは――
「…うむ。貴様に言われるのは少々癪だが確かに我ならあの程度の男。簡単にのすこともできただろう」
「…じゃあなんでやらなかったんだよ。桜時学園喧嘩の強いやつランキング第5位【周防政宗】?」
「我もお前らと同じくらいその称号が嫌いなのをお前は知らぬのか…?それと貴様は我よりもランクは上であろう…」
――そうだ。こいつは桜時学園で日向、俺、輝喜、姉貴の次に喧嘩が強い男。
こいつの場合は護身術として学んだ【サバット】という蹴り技主体の攻撃を得意とする武術の使い手。たぶんマジでやったら俺達もヤバいくらいのやり手だ。
だから俺はこいつがなんでさっきそれを使わなかったのかが疑問なのだった…のだが――。
「…まぁそれはいい。うむ。なぜ我が蹴り技を使わなかったのかということだが――こちらの方が派手だと思ったからだ!!」
「そんな理由かあぁあああああああ!!!!」
使わなかったあまりのくだらなさすぎる理由に俺は思いっきり叫んでいた。
「… I 始めてみた。これが MANZAI なんだ。お父様とお母様にも見せてあげたい」
「なぁ羽前真備。それはそうと彼女の服装はいったいなんなのだ?」
――あの。お2人様、俺の叫びは無視ですか?
俺はただただ顔をひきつらせてしまうばかりだった。
「…でも確かにな」
「…???」
ポツリと呟く俺。それが聞こえたのかイヴは首を傾げる。
確かに政宗の意見には同感だ。イヴはただでさえ目立つ容姿をしてる。そんな女の子がなぜ街中でこんな格好を…?
もう一度だけチラリとイヴの格好を見てみる。黒い制服に似たミニスカート状の服にトンガリ帽子、そして箒を持った右手。
どこからどう見ても魔女っ娘にしか見えない。なんでイヴはこんな格好でこの街に来たんだ…?
「もしイヴファニカとやら。お前はなぜそのような格好をしている?」
いい加減気になったのか政宗が尋ねる。だが――
「…この格好。お父様とお母様が"最後"に可愛いと言ってくれた格好だから」
なぜか現実はとてつもないほど重たい話へとこじれていっていた。
「…それはすまなかった。我はどうやら軽率なことを言ってしまったらしい」
「大丈夫。 I は気にしない。だってお父様とお母様、それに兄様達も遠い遠い空の上の国に行っただけだから」
俺はかつてその言葉を聞いたことがあった。
『なぁ日向…知恵理…。お前ら家族はいないのか?』
『…いるよマキ君。私達にも大事な大事な家族が…』
『…問題nothing。そうだな知恵理。俺達には確かにいるな…大事な大事な家族が…』
『『遠い遠い…空の上の国に…な(ね)』』
――あのときの日向と知恵理の顔は今でも忘れられない。
あの後、姉貴にこのことを話したとき「あんた!!何てこと聞いてんのよ!?」と怒られたのもいい思い出だ。だからこの言葉の意味は俺にも分かった。
「…別に同情はいらない。 I は今までも1人で生きてきたから…だから同情なんてしないで…」
――そしてあの2人を間近で見てきた俺だからこそ、こいつの思いを感じ取ることもできた。
でも…俺は結局そこまで。俺には彼女には何もしてあげられない。
家族を失い、心のより所を失った【寂しがりな魔女】にはな――
???side
「…いた。やっと見つけたぞ羽前真備」
真備達3人よりも離れた場所。そこにその男はいた。
普通の人に比べたらかなり大柄で染めたような濁った赤い髪をした1人の青年。
「ふん!!別に探してなんかいなかったんだからな!!」
――【的場一】が。
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作「今回もまた新キャラが登場しました〜」
真「なんか最近新キャラの登場率高くないか?」
作「そんなことはきにしなーい!!ぶっちゃけ第3章への布石だったりするんですけど…まぁきにしなーい!!」
真「いいのかな…?」
作「じゃあそろそろ新キャラさんの登場です!!今回の新キャラ!!【周防政宗】さんです!!どうぞ〜!!」
政「ふむ。来てやったぞ愚民ども!!」
真「相変わらず偉そうだなーお前。もっと謙虚に生きろよなー」
政「黙れ羽前真備。貴様を退学にするぞ?」
真「へーへー。すんませんでしたー」
作「はい。では今回の新キャラさんの紹介です。名前は【周防政宗】中等部の生徒会長であります。
特技はサバットという蹴り技主体の武術で実は桜時学園:喧嘩の強いやつランキングの第5位!!
ちなみに実家は周防グループという大企業で桜時学園の理事長の孫でもありまーす!!」
政「うむ。我の輝かしい経歴だな…ちゅー」
真「でも意外なこともあるんだよな〜案外可愛いところとか〜」
作「はい。実はいちご牛乳が好物で毎日のように飲んでいるのが確認されてます」
政「む…バカなことを言うな愚民ども。我がそんな甘いものを飲むとでも思って居るのか?嘆かわしい…ちゅー」
真「…よし。それはとりあえずその手に持ったいちご牛乳を置いてから言おうな…説得力皆無だぞ」
作「はい。じゃあそろそろ次回予告行きたいと思いま〜す!!
それは一本の電話から始まった。続いていく伝等の連鎖。そして、そのすべての始まりは意外な人物だった。
次回【その声、誰の声?】」
日「問題nothingだぜ!!」
真「だ〜か〜ら〜!!それはどこからどう見てもいちご牛乳だろ!?いい加減認めろよ!?」
政「いや。これはブラック珈琲であって決していちご牛乳などではない!!」
真「じゃあパックに付いたその可愛らしい苺のプリントは何だよ!?」
政「これはさきほど我が貼ったアップリケだ!!」
真「いや!?無理あるから!?」
次回に続く!!