第5話 知られざる陰謀
日向side
「ヒナ君!!!!」
知恵理の声に俺は不適な笑みを作りながら「よぉ」と片手を上げた。
「よぉ。知恵理。問題nothingだったか?」
「うん!!大丈夫だよ!!」
俺の言葉に笑顔で応える知恵理。だがその頬にはまだ真新しい涙が流れたような後がある。
泣いてたのは分かってたけど、その顔を見た俺は思わず舌打ちしたくなった。
「あんた遅すぎんのよ?罰金つけるわよ?」
「そう言うなよ凪。これでもお前ら探すのに結構苦労したんだから…」
俺は凪の言葉にさっきまでのことを回想していく。悶が勝手にどっか行っちゃったからとりあえず知恵理達の所に戻ろうと思って戻ってきたら影も形もなし。
慌ててみんなに連絡入れようと思ったら悶は出会ったばかりで番号しらないし、機械音痴の真備は携帯持ってないし、輝喜には通じないしで大変だったんだからな。
「はぁー…」
「どうかしたのヒナ君?なんでため息ついてるの?」
「…気にするな」
俺の苦労は知らないほうがいいのさ――
「さてと。それはともかくとして…凪。俺達がこれからしなくちゃいけないことはなんだ?」
「…ふん!!日向。そんな決まりきったこと言われなくても分かってるわ」
そこまで言うと俺と凪はゆっくり息を吐く。たぶんここからは知恵理にはちょっと厳しい映像かもな――
でも、知恵理にまで手を出さなければここまですることはなかったのに…知恵理に手を出したのが運の尽きだったな。
凪の言葉の後、俺は持っているパイプを凪は自分の指を突きつける。これは俺達の決めゼリフ、知恵理に手を出した罪をつぐなってもらうためのな!!
『『断罪!!!!』』
その言葉と共に俺はパイプを握りしめ、凪は拳を堅く締め付け、俺達という恐怖に震える不良達のもとへ向けて一気に駆け出していった――
水城side
「…おぉ〜やっと始まったな」
隣にいる刹那はそう言うと楽しげに笑みを浮かべる。
俺達は今、不知火日向と羽前凪が喧嘩をしている様子が見えるビルの上。つまり桜時市の【街】と呼ばれる繁華街の一角にある裏路地がよく見えるビルの上にいる。
そしてこの場にいる俺と刹那、それともう一人フードを被った男が日向と羽前凪という少女の喧嘩を見下ろしていた。
フードの男については学校に潜入させた工作員だから日向達の前で誤って本名を呼ばないように俺達はあえてコードネームで呼ぶ。そして、彼のコードネームは【レリエル】だから、俺達はこの作戦中のみ彼をレリエルと呼ぶ。
「……レリエル」
「何ですか?水城」
「……お前から見てこの喧嘩どうなると思う?」
俺がそう問いかけるとレリエルはいっときじっと喧嘩をみた後深いため息と一緒に答える。
「あれはもう大人と子供の喧嘩ですね。 日向はともかく凪のほうもあれは戦闘訓練を受けた人間の動きです。すぐに決着つきますよ」
そしてレリエルはさも当たり前のようにしてそう答えた。
――……だがまあ妥当な答えだな。
俺の目から見てもあれは見ていて馬鹿馬鹿しく思うほど実力に差がありすぎる。
あの羽前凪の動きにはくるいはない。完全に喧嘩なれしている者の動きだ。
そしてもう1人。不知火日向の方は――
「……長めの棒を武器にするとはやはり刀の感覚は抜けてないようだな…日向」
俺の独り言を聞くとレリエルは「フッ」と一回鼻で笑うと黒のフードが外れないように軽やかに立ち上がり、ビルの角へと歩いていく。
その動きに刹那が唇を震わせた。
「どうしたんだ?レリエル?」
「そろそろ終わりそうですから戻るんですよ」
「そっか…」
刹那はさも興味なさげにそう呟くと再び下(日向達)を向く。しかしレリエルは再びこちらに振り返り。
「そうだ刹那…」
「ふえ?」
彼の顔を隠すフードにより表情こそ見えないがその雰囲気でレリエルはニヤリとした顔なのが分かる。
そしてその視線は刹那のある部分に注がれていたのだった――
「あまりお菓子ばかり食べてると太りますよ?」
レリエルの言葉にきょとんとした刹那の周りにはスナック菓子の山。それを見てレリエルはもう一度鼻で笑うとビルから飛び降りた。
「うるせー!!俺の勝手だろー!!」
刹那の叫びを聞きながら俺は相変わらずレリエルは刹那の扱い方をうまいと思っていた。
日向side
「これで最後っと!!」
――ダ―――ンッ!!!!!!
俺はリーダー格と思われる2人を除いた不良の最後の1人の背中に回ると首の後ろの急所を的確にパイプで打ちつける。
――…バタッ
その音と共に男は他の気絶している不良達と同じ運命をたどる。
そして、これにて俺のノルマは達成したということだ。
「遅いわよ日向。待ちくたびれたじゃない…」
一足先に自分のノルマを終えた凪はリーダー格だと思われる男を逃がさないように警戒しながらそう口を動かす。
それに対して俺は1回深く息を吐くとそれに応えるのだった。
「しょうがないだろ。俺の方がノルマ多かったんだから…」
「あら日向?何か文句あんの?あたしは女の子なんだからそんなの当たり前でしょ?あんた頭いいんだからそれくらい分かるでしょう?」
「少なくとも大の男相手に回し蹴りやら飛び蹴りやらするやつがいうセリフではないよな?」
目元をひきつらせながら凪の周りに転がった不良達の末路を見て俺はそう呟く。少なくともお前に関してはもう少し女の子らしくなった方がいい。内面的にも【外見的】にも…。
そう思った瞬間。絶対零度のような寒気と殺気を凪の方から感じたのはきっと気のせいだろう…。
俺は後ろで睨む凪を無視する。だってあの目、滅茶苦茶怖いんだもん。
「ヒナ君大丈夫?どこか怪我してない?」
そのとき知恵理が心配そうに駆け寄って来る。俺は安心させる意味も込めて知恵理の頭を撫でる。
知恵理の銀色の髪はとても撫でやすくサラサラだ…。知恵理の方も「えへへ…」と嬉しそうに笑顔を見せている。
だがそのとき、俺はこの行動の浅はかさを知る。ここは街の中。百歩譲ってそこまではいい。よくはないがそこはいい。
しかしこの場にやつがいることを忘れていたのだ…。
「さて、問題nothingに事件が終わったが…」
「…日向。いくら冷静に誤魔化してもあたしはちゃんとあんたらのラブコメシーンを見たからね?」
「うっ!?やっぱりですか…」
真っ赤になる俺。知恵理の方も恥ずかしいのか顔をうつむかせてしまっている。
そして俺も自分の顔が赤くなっているのを誤魔化すために一度大きく咳払いをするのだった。
「こほん。その話はおいといて…」
「おいといて」
俺の言葉に知恵理が続ける。真っ赤な顔で精一杯苦笑いを作り、そう誤魔化す俺達。
それに凪は一瞬呆れた顔をするもどこか諦めた感じでポツリと呟やくのだった。
「ま、いいか…」
そして、俺と凪はリーダー格男に向き直った。
知恵理は思わず俺の学ランの袖を握りしめてしまったようだ。まぁ怖い思いしたんだから当然か……。
「さて駿河正臣さん。先ほどのお話を教えて頂きましょうか?」
凪の勝ち誇ったような顔にその男――駿河正臣は少し脅えた表情となる。
だがそこはさすがに俺達を毎回折檻しているドSの姐さん(あねさん)。そして俺と輝喜と合わせて腹黒3人組と呼ばれる羽前さんちの凪さん。
ニヤリとイヤらしい笑みを浮かべると駿河の前で腕を組み仁王立ちした。
「…あぁーあ。駿河正臣とやら…ご愁傷様」
そしてその姿を見た俺も動き始める。凪が腕を組み仁王立ちしたということは、これから何が起こるか分かった俺はすぐさま行動を始めたのだ。
「ち〜え〜り〜ちゃ〜ん。いい子だからこっちに来ましょ〜ね〜」
「ふぇ!?ヒナ君どうしてそんな風に指をワキワキさせてこっちに来るの!?」
突然の俺の奇行におびえ気味に後ずさりする知恵理。でもそんなこと関係ない。
俺は乾いた笑みを浮かべる知恵理に滲みより…滲みより…。
「覚悟!!知恵理!!!!」
「ひょえぇええええ!!??」
そのままの勢いで知恵理を捕獲!!暴れる知恵理を無理やり凪のいるのとは逆方向を向かせ、両手で知恵理の両耳を塞いだ。
「ぎゃあぁああああ!!??」
それと同時に鳴り響く駿河正臣の叫び声。どうやら間に合ったみたいだな…。
俺は暴れる知恵理を抑えながら「フゥー」と息をつくのだった。
――――――――
―――――
―――
―
「…で?しゃべる気になったかしら?」
「ガタガタガタガタ…」
あれから数分。俺はたった今、目の前で起こった情景へと指で十字をきっていた。
ちなみに前にも言ったが俺は決してクリスチャンではない。そこのところは忘れないでいただきたい。
「むぅ…ヒナ君。そんな事してないでちゃんとこっちを見なさい!!」
ちなみに俺は、目の前で唇を尖らせて唸りながらそっぽを向いている幼馴染に頭を下げている。
知恵理は俺――というか俺達の母親みたいな存在だからな…。だから俺はどうしても知恵理には頭が上がらないわけだ。
「まったく。分かったヒナ君?これからはあんなことしたらダメだからね?」
「問題nothing。これからは気をつけます…」
そこに来てやっと俺は頭を上げる。そこには腰に左手を当てて右手の人差し指だけを俺の顔の前に持ってきている知恵理の姿。マジで母親みたいだな…。
しかも知恵理のやつ。あまりに似合いすぎだろ。
そう思い俺は思わず苦笑いをしてしまった。やっぱこうなったのは俺のせいなのかね…?
「…まぁ分かったなら良いんだけど…。ねぇヒナ君?ナギちゃん、駿河さんに何したの?」
知恵理の目線が凪と駿河の方へ移る。でも確かに俺に耳と目を封じられた知恵理には不思議でたまらないと思う。
だけど、俺の目的はそれだったから何の問題もない。だってあれは見せられるものじゃないからな…。だから――
「知恵理。俺はいつまでも今のままの君でいてほしいよ」
「…ヒナ君。なんでそんな優しい目をしてるの?」
「問題nothing。気にするな」
そこまで言って俺は凪と駿河に顔を向けた。
「…で。もう一度聞くけどなんであたし達を襲ったのよ?」
「あはは〜…いや〜…僕達は頼まれたんですよ〜…あの〜…――」
未だに脅えているのか言葉がうまく出て来ない駿河。でもしっかりと聞き取れる言葉が返ってきたのだった。
「――あの〜…フードを〜…被った〜…男に〜…」
【フードを被った男】確かに聞こえたその言葉に俺達は眉を歪める。初めはふざけてるのかと思った。だが駿河の様子をみる限り、そんな風にはとうてい見えない。
駿河は話を続ける。
「あの男が〜…依頼〜…したのは〜…そこの女を〜…誘拐紛い〜…するという〜…依頼だった〜…」
「つまり知恵理を連れてこいってことね」
「でも〜…下調べで〜…調べてるうちに〜…あんたたちの〜…ことを知った〜」
その言葉は聞き捨てならなかった。
俺の頭の中にあのときの情景が浮かぶ。輝喜と出会い…真備が傷ついたあのときのことが…3年前のあの日の情景が。
「ちょっと待て。それはつまり学園の新聞部が作ってるランキングのことか?それとも…【あの事件】のことか?」
俺は思わず凪と駿河の間に入り込みそう問う。こればかりは聞き流すことができなかったからだ。
俺の質問の意味。それは知恵理にも凪にも分かっている。俺達はなるべくこのことを知られたくなかった。
【あの事件】で一番傷ついている俺と知恵理の親友で凪の"大事"な弟であるあいつに…。
「…いや〜俺達が調べたのは〜ランキングのことだよ〜あの事件なんて言われても〜分からない〜」
返ってきた言葉に俺は少しだけ安心した息を吐き出す。だが完全には安心できなかった。
ランキングの方もあの事件の副産物には変わりない。結局俺達はまだあの事件に縛り付けられているのだ。
「…ランキングの方ということは確かさっき言ってたわよね?分かってるのはあたしが4位だということだけ?」
話の腰を折った俺を咎めることなく、凪は駿河に問いかける。
ランキングの4位って…そこまで分かってるのか?ということはたぶん俺の事も…そしてあいつらの事も。
このときの俺の予想は当たっていた。凪の言葉に駿河はゆっくり首を横に振る。その動作に俺は確信した。
「俺が知ってるのは〜そこにいる【不知火日向】が〜喧嘩の強い奴ランキングの〜1位だということも〜それと後の2人も〜知ってます〜」
「コウ君とマキ君のことも…」
知恵理にもあの記憶はつらいと思う。知恵理は確かにランキングには入ってはいない。でもあの事件の根本的原因は知恵理にあるとも言えるからだ。
「…で。話を戻すけど結局、あんた達を焚き付けたのは誰なわけ?」
「それは〜…」
話の流れが確実に俺達をネガティブにしていく。そう思ったのか凪が話を戻す。
でも確かにそこが俺達にとって最大の疑問だ。誰がどんな理由で知恵理を連れ去ろうとしたのか。それは確認したかった。
だけど駿河は凪の鋭い視線に目を背けるばかり。おそらくフードの男というくらいだ。雇っただけのこいつらに正体を明かしてるわけがない。
凪の方もたぶんそれは分かってるはずだ。だから無理やり聞き出そうとはしないのだろう。
行き止まりかと俺達は考える。だが思いも寄らぬところから声がかかった。
「…じゃあ駿河さん。その人との合流地点はどこでしたか?」
「……!?」
唐突に聞こえてきた知恵理の真剣な声。それは凪にとって盲点だったらしく「はっ」とした顔になる。
「…そうか。少なくとも知恵理を連れ去った後に知恵理を引き渡すためにもう一度どこかで会うということね!!知恵理!!あんた天才だわ!!」
「えへへ」
凪の言葉に知恵理はニコニコと笑顔を浮かべる。…辛いな。この顔を見てると。
「…残念だけど知恵理。それはたぶんできない」
だけど言わなければならない。知恵理の案に対する否定の言葉を――
「どういうことよ日向?」
再び刺すような睨みが今度は俺に向けられる。だけど俺はひるむことはなかった。
俺は一瞬だけ知恵理の不安そうな表情にこのことを言うか迷いが生じる。でもこれではだめなんだと最後には口を開いていった。
「…いいか2人とも。こいつらの依頼者はフードを被って顔を隠すほど用心深い男だ。そんな男が失敗時のパターンを考えてなかったと思うか?たぶんヤツはこういう時のために、集合場所は後で連絡するように知らせてあるはずだ…違うか?」
流れるような俺の言葉に駿河は一回だけ頷いた。
「なるほどね…敵はなかなか頭がいいというわけか…」
「…ごめんねヒナ君。役に立てなくて」
心底残念そうな顔の知恵理。俺はそんな知恵理の頭をポンポンと2回撫で、駿河に向き直した。
「…じゃあ駿河正臣。あんたが知ってるこてはもうないのね?」
凪の問いかけに駿河はコクリと頷く。
だがその瞬間だった。
――…ガ―――ンッ!!!!
駿河に正面から近づいていた凪のボディブローが綺麗に彼の体をとらえる。
そんな綺麗すぎるボディブローのせいか駿河はゆっくりとその瞼を閉じていくのであった。
こうして【街】での事件は終息する。だがこのときすでに新たな火種が俺達を手招きしているは考えてもいなかった。
新たな出会い。そして俺達の【運命】を根本的に変えるほどの新たな火種が――
`
作「…え〜前回は何かとすみませんでした。あの後、凪と真備にはきつくいっておきましたので」
日「確かに前回はあれだったしな…凪自身かなり反省してたし…」
輝「というより落ち込んでたよね〜?なんかだいぶキャラ崩壊しちゃってたもん♪」
作「いや、あれは最早キャラ崩壊どころの問題じゃなかったような気がするんだけど…」
日「問題nothing。とは言えないよな…」
輝「ナギリン。どんまいですね」
作「今回はここまで。次回の時の秒針は――
街での事件が終結する。だが、それはまた新しい事件への布石だった。
夜、真備と凪の2人と別れる日向と知恵理の前に堕天使が降り立つ。果たして堕天使の正体とは?
次回【堕天使レリエル】」
日「問題nothingだぜ!!」
凪「あたしったら…いったい何を…?」
真「落ち着けって姉貴。次回は俺達が主役の部分もあるんだしさ…」
凪「でもあたしのトラウマに関することでしょ?もうあたし鬱だわ…」
真「…頑張ろうぜ姉貴」
次回に続く!!