第53話 "RED HAIR"
???side
学校の通学路。ヒラヒラと桜並木の桜が舞い散る中俺はまるで熟したリンゴのような【赤】を見つけた。
――いや。その言葉は不適切だったかもしれない。
なぜならその【あか】が纏う空気はリンゴのように甘い【赤】ではなく寧ろ日向の魂である“紅翼”のような鋭い【紅】のように感じたからだ。
だけどそれでもまだ俺は違和感を感じずにはいられなかった。
風が舞い桜吹雪が通り過ぎる中その【紅】の持ち主である彼女は――。
「The desire to be happy is common to all as of us……
――あなたは本当の幸せを知っているっすか?」
俺にそう語りながらニッコリと笑いかけるのだった。
その笑顔は今まで見たことのない笑顔。姉貴みたいな自信に満ちた笑顔ではなく知恵理みたいな明い太陽のような笑顔でもない――。
その笑顔はまるで今にも消えてなくなってしまうかのような儚く切ない弱々しい笑顔であった。
いくら追いかけても――いくら手を伸ばしでも――届くことのない空のような存在。俺にはとてもじゃないが手を出すことはできなかった。
そして俺は気付いた。彼女の桜吹雪に靡く艶やかな髪の毛がどんな色をしているのかを。
彼女の【あか】い髪の毛はおそらく天然のものだ。なぜかここには確かな確証がある。
だがその【あか】はリンゴのような甘い【赤】なんかではない。だけど日向の魂である日本刀"紅翼"のような鋭い尖った【紅】でもない。
なぜならあの【あか】はそんな生易しいものなんかではない。あの【あか】の正体。それは――。
妖美で危険な香りがするまるで"血"のような【朱】だったからだ。
ヒュォ――――ンッ!!!!!!
そして俺がその結論にたどり着いた次の瞬間今まで穏やかだった風が嵐のように吹き荒れる。
俺は謀られたかのように突然吹いたこの風に反射的に目を瞑ってしまう。
――また後で会いましょうっす♪
頭に響いてきたその言葉は俺の中に水のように流れ込んでくる。嵐風のような風に俺は目を開けることができなかった。
だがそれも一時的なもの。それから数秒もしないうちに体に打ち付けてきた風はやみ俺は自らの瞳を開く。
しかしそこには俺の求めていたものは見当たらない。あの"血"のような【朱】はどこにもなかった。
俺は最初今までのことがすべてもしかしたら俺自身が見ていた"幻想"や"幻"もしくは"夢"なのではないかと思った。
それは輝喜を失ってからの俺自身が時たまに輝喜の幻を見たりしてしまっていたこともあるから今回もそれだと考えてしまう。
でもその考えはすぐに打ち消された。
なぜならヒラヒラとピンク色の桜の花びらが散りゆく中で俺はそれとは別の色のものを握りしめてしたからだ。
どうして握りしめているのかはわからない。だけどそれは確かに【朱】い色をした長い髪の毛だった。
「本当の幸せか……」
俺は【朱】の彼女の言葉を思い出し無意識のうちにそう呟く。最初に呟かれた外国語の意味はさっぱりだけど後に呟かれた日本語のほうは理解できていた。
そして彼女の言葉に今の俺の境遇を合わせ俺は1つの言葉を得る。それは俺の願いが込められた言葉だった。
「俺の幸せ。それは昔みたいに日向や知恵理、それに姉貴――ナギねぇとあのバカ輝喜と一緒に笑いあうことだな……」
それこそが俺こと羽前真備が考えた願いだった。
真備side
「やぁ。どうかしたのかい羽前のついてるほう?」
「……その呼び方やめろっていつも言ってるだろ」
昼休みの食事時。我が学園は基本的に弁当持参のためクラスメートはそれぞれ思い思いの場所へ行って食事をとる。だが俺そのクラスから出て行く1人の女子生徒を引き止める。
茶眼にポニーテールにした黒髪の長髪。典型的な日本人の容姿をした彼女は首から一台のカメラをかけ急に引き止めた俺に懐疑そうにしながらこちらを見てくる。
俺はそんな彼女こと我が桜時学園新聞部部長にして桜時学園ランキングの製作者である【須藤百合】に「ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」と話を切り出し今朝の出来事を話し始めた。
今朝は何かがおかしかった。いや正確にはあのバカこと"輝喜"がいなくなってからだが今朝はいつにもましておかしかった気がする。その理由は至極簡単。我が姉【羽前凪】が原因だ。
なぜおかしいと思ったのかは今朝の姉貴の様子でだ。姉貴はあぁ見えてうちの家族の中では一番起きるのが遅い。その理由は簡単。【逃れられない】からだ。
姉貴の力【予知夢】これによって姉貴は夜に恐怖し眠ることに恐怖するようになった。だから姉貴は夜遅くまで部屋を明るくして起き朝はなるべく早起きして夜が明けるまで布団から出ないようにしている。だから姉貴は比較的早起きの俺ら家族の中じゃ一番遅く起きてくる。だが今朝は違った。
今朝。姉貴は俺が起きた瞬間には家を出ようとしていた。さすがの俺もあれには焦った。なんせ夜に恐怖している姉貴が夜も明けていないのに制服に着替えて鞄を持ち学校に行こうとしていたのだ。焦るに決まっている。
俺はあまりの出来事に一瞬金縛りにあうもその後すぐ姉貴を追いかけるために玄関を出る。だが姉貴はすでにそこにはいなかった。
俺はこの事態にショックを受けた。なぜなら姉貴の異常行動。それは姉貴自身が何かに悩んでいることの現れだと思ったからである。でも姉貴はまた俺に相談することなく1人で抱え込んでいる。だから俺は呆然としてしまったのだった。
そして、そんな朝に俺こと"真備"はあの美少女と出会った。桜吹雪が散る中その少女は血のような【朱】い髪を持ち何かを知っているかのように俺に微笑みかけてくる。
そんな少女の事が気になって俺は午前の授業中ずっと彼女のことばかりを考えていた。
だから俺は彼女に声をかけたのだ。この学園で一番の情報通である彼女に――。
「――なるほど。朱い髪をした少女か。それは興味深い情報だ」
「なんだ。その様子ならお前でも知らないみたいだな……珍しい」
「いや。そういうわけではないんだが……私が興味深いのは彼女の容姿でも彼女の言葉でもない。彼女がこの学園にいるということなんだ」
「……というと?」
俺の問いつめるような視線に百合は「うむ」と頷き首から下げたカメラをピッピッとと操作するとしばらくして「あった」と頷き俺にカメラの画面を差し向けた。
そしてそこには今朝の彼女。それに付け加えて予想外の人物が映されていた。
俺はその画像に目を見張り食い入るように凝視する。なぜならそこに写っていたのは他でもない。俺の【親友】だったからだ――。
「君が探し求めていたのはこの子だろう?」
「……ウソだろ?なんでこいつが写ってんだよ」
「うむ。このときは何度この写真を記事にしようと思ったか……だがたまたまこの写真を撮った本人に見つかってしまってね。懐柔されてしまったのさ」
「んなことはどうでもいいんだよ!!!!!!!!!!」
その刹那。俺の空気を張り裂けんばかりの大騒音が教室に――いや、学園中に響き渡る。
確かに百合の写真には俺が今朝出会った朱い髪をした少女が写っている。だがその場所は所謂体育館の裏。普段は人通りがない少し暗い場所だ。しかし彼女はそこである人物と真剣な面持ちで話している。黒髪に優しそうな笑顔。そして眼帯をつけミステリアスな雰囲気を漂わせつつも常に美しい容姿持つ少年。その少年――もとい俺の親友の名前は――
「【美濃輝喜】お前や不知火の大親友にして謎の失踪をした少年か…」
「……すまん。今その話をされると本気で止まらなくなりそうなんだ」
――そう。その少年の名前は"美濃輝喜"俺と姉貴。それに日向と知恵理の大親友にして――時の番人で随一の力を持つ【光】の能力者。
俺はここ最近この名前を聞くたびに何かに当たりたい衝動にかけられる。なぜならあいつは俺達とはもういられないと言いやがったからだ。
――俺はもうあなた方と一緒にはいられません。
あのとき輝喜から言われた言葉が何度も頭の中でループする。俺はこの言葉が頭に響くたびに何度も――何度も――何度も――激しく自身を嫌悪し「なぜ気付かなかったんだ」と後悔の念が溢れてきた。
まったく。こんなんでよく友情が大事なんて言えたもんだな。
そしてそれと同時に俺はあいつにも――輝喜にも同じ気持ちがわいていた。確かに気付かなかった俺も悪かったかもしれない。だが俺はあいつの態度が気に入らなかった。
今回の事件――半月前の事件については事が事だけに別に相談してこなくてもよかった。そこはバカな俺にだって相談できないことくらい分かる。分かるけれども――
俺はあいつのその姿勢が気に入らなかった。隠し事をしていたというのもある。だが俺が一番気に入らなかったのはそんなことじゃない。
――あいつが【偽りの姿】を俺達に見せていたということだ。
隠し事なんていっぱいある。現に姉貴だって俺がしゃべっちまったとはいえ予知夢のことを日向たちには話していなかったし、日向や知恵理だって兄貴がいたことを俺達には話してくれていなかった。
そして――俺自身も話していないことがある。俺の右肩にある【蓮華の花】の刺青についてとか――。
だけど互いに隠し事を持っていたそんな俺達でも友達になれた。親友になれた。思いのまま自らの真の姿をさらけ出せていた。だから俺はあいつが気に入らない。
自らの真の姿を隠し、親友である俺達を騙し、自分自身を騙し続けていたあの男が。だからまず会ったら一発ぶん殴る!!
俺はそう決意して拳を固めるのだった。そしてその足掛かりを俺は偶然とはいえやっと見つけることができた。
儚げに――切なさしげに笑顔を見せる血のような朱い少女を――
「……で?百合。この女の名前はなんていうんだ?」
「そうだな。ではいい加減気になるようだから彼女の名前を教えるとしよう」
そこまで言うと百合はいったん息を置き机からある物品を取り出す。全体的に真っ黒で大きな画面を持ち持ち運びができる最新ハイテク機械。
くしくもそれは俺がお金を貯めて買おうとしたところ「機械音痴のマキビンが使えるわけありません♪」と輝喜に力強く止められた物品。アイパッドだった。
そのアイフォンをピッピッとと操作する百合。そしてある一覧を開くと俺に見えるようにこちらに画面を向けてきた。
「……羽前弟。これが君が探している少女の情報だ。そして私がこれから彼女の情報を一カ所上書きするが……たぶん君が一番疑問に思うのもここだろうな」
「……どういうことだ?」
俺は彼女の言葉に首を傾げつつも一番上に書いてある名前、その下にある身長に体重。挙げ句の果てにはスリーサイズまで記してある場所を無視して一番下にあるその場所を凝視する。
それは【桜時学園美女ランキング】で姉貴と同点2位(ちなみに1位は知恵理)という情報の下に書いてあるある一文の説明。それに彼女はさらにピッピッとと文字盤を操作してもう一文書き加える。俺の強張った視線を気にすることもなく――
「なっ!?マジかこれ!?」
「あぁ。君の情報が正しいのならこの記述は間違いないよ……」
その情報は俺の期待にさらに応えてくれる希望の情報。まさしく天からの贈り物だった。
「いいかい?君の探している彼女。彼女はこれまで学園を休学していた。それも"ある少年"がいなくなった時と同じ時期からな」
「…やっぱりこいつはあいつと関係あるってことか」
俺の目の前にある画面。そこに表示されていたのは1人の少女。
年齢は13歳。容姿は血のような朱い髪に桜時学園の美女ランキングで姉貴と同じ2位になるくらいに端麗と言える美少女。
そして――あいつが消えた"2週間前"から学園を休学していた少女。その彼女の名前は――
「―【"天野うずめ"】―」
我が親友である"輝喜"とおそらく何らかの関係があるであろう少女。
それに――今朝のあの出来事もあってか俺自身が今現在最も気になっている人間である。
???side
真備が少女の名前を知ったのと同時刻。同じ学園内のとある建物の影に1人の少女がいた。
彼女の名前は"天野うずめ"真備が追い求めている少女である。
「……はい。……はい。……了解したっす」
人通りの少ないその場所。そこで水色の携帯電話を片耳にあてながら言葉を発する彼女の表情は真剣そのもの。
桜が舞い散る桜並木にて儚げに笑う彼女も様になっていたがこんな日陰にて真剣な表情をする彼女もまた様になっていた。
そしてその彼女の電話の相手はというと――
「…じゃあ任務を続行するっす【水城】さん」
《……分かった。くれぐれも"ヤツら"にはバレないようにしろ》
「もちろんっす!!!!絶対に【ユニオン・クルーズ】にはバレないようにするっすよ!!!」
《……俺もあと少ししたらそっちに向かう。それまで輝喜と【3人】で頼んだ》
「了解したっすよ」
そこまで話すと水城は"pi"と携帯を切る。
そして残されたうずめの方はというと"プープー"と無機質な音が流れる電話を耳にあてたまま深く息を吐き出した。
その瞬間。まるで嵐のような風が吹き荒れ彼女の血のような髪を吹き飛ばすかのように大きく靡かせる。
そのとき彼女はその風に全てを乗せるかのようにそっと呟く。今朝彼女が最も気になる存在である彼に放った言葉と同じ言葉を――
「The desire to be happy is common to all as of us……」
―幸せでありたい
と願うのは
誰でも同じだ―
それは彼女自身も――そしてこの世の中にいる全ての人間の永遠の願いである。
しかし彼女はその願いを叶えられることはなかった。彼女自身の体に存在する【能力】と彼女の中に流れる【血】によって――
「……ねぇ。あんさんはどう思うっすか?こんなうち――いや【うち達】が幸せを願うのは滑稽だと思うっすか?」
彼女――うずめは誰もいない自分自身の影を見ながらそう問いかける。だが当たり前だがその呟きに応えてくれる人は誰もいない。
でもうずめはその呟きを呟いた影を見ながら満足そうに笑いきびすを切り歩き出した。その応えと共に――
「【未来】は誰にも分からないっすか……。あんさんらしい応えっすね」
そして彼女はその名前を呼ぶ。彼女自身を導いてくれる【彼女】の名前を――
「ありがとうっす。いつも後ろ向きなうちと一緒にいてくれて……【刹那】」
誰もいない彼女の隣。だが彼女がその名前を呟いた瞬間。彼女の目の前には確かにその少女が微笑んでいた。
水色の綺麗な長髪をポニーテールに括った美少女と呼べる少女――
【天野刹那】が。
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作「今回はちょっと敵キャラ情報はお休み!!今回出てきた新キャラについて紹介したいと思います!!」
知「はい!!作者さん!!質問です!!最近私の出番が少ないような気がします!!」
作「ぐっ!?そこを言われると……でも次回はちゃんと出るから我慢して!!」
知「本当ですか?」
作「本当です!!あと時間が押してるのでそろそろ登場して貰いましょう!!今回の新キャラ【須藤百合】さんでーす!!」
百「ふむ。私なんか紹介してくれるとはありがたい」
知「あ。ユリちゃんだ〜」
作「というわけで改めて今回の新キャラ【須藤百合】さんです。容姿は黒い長髪をポニーテールにした茶眼の典型的な日本人の容姿をしております」
知「いいな〜。私なんて純粋な日本人なのに髪の毛銀色なんだよ〜」
作「まぁ…その辺ははっきり言って俺の趣味なんだけど……今回はいいです。じゃあさらに付け加えます。彼女は桜時学園の新聞部部長で例のランキングの編集者です。ちなみに彼女自身も【桜時学園美女ランキング】の第8位でもあります」
百「ちなみにこれは投票性だから公平に選んである」
知「でもそれで私が1位なのが信じられないんたけどね……」
百「気にするなチーちゃん。これも公平なる審議の結果。民主主義万歳だ」
知「そうなのかな?じゃあユリちゃんが【喧嘩の強い奴ランキング】の18位なのも?」
百「ぐっ!?それを言われるとな……。でも君の周りにもいっぱいいるじゃないか。主に上のランキングの1位とか2位とか3位とか4位の化け物が――」
知「……ユリちゃん。あの4人と比べるのはダメだよ?だって人間じゃないもん!!」
作「はい!!てなわけで次回予告行きます!!だっていつもながら俺空気だもん!!さて次回は――
【朱の少女】と【白の少年】の情報を知った真備は彼の親友達のもとへと向かう。
そして真備の情報を知った3人はさっそく彼女を探そうと決意するもその瞬間彼らに影が差す。
それはこれから彼らが探そうとしていた【朱の少女】の影だった……
次回【天より野に舞う】」
日「問題nothingだぜ!!」
日「てなわけで俺登場!!」
知&百『はい?』
凪「まったく……ひどいいわれようね」
真「俺達はいったい何に思われてんだよ……」
輝「まぁ。天然のチエリンが言うことですからね」
知「え!?ヒナ君にナギちゃん。マキ君にコウ君まで!?みんなどうしたの!?」
日「いや〜なんかビビッと何か感じてなぁ〜ここに来てみれば案の定〜」
輝「本編ではまだ仲直りしていませんけど同じく」
凪&真『以下同文』
日「というわけで…O☆SI☆O☆KI☆しないとな〜」
知「ひょえ〜!!!!????」
百「……ここはドナドナを歌うべきだろうか?」
作「結局俺空気!!」
次回に続く!!