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時の秒針  作者: †HYUGA†
第一章;時の番人編
51/76

第50話 時の守護者


いよいよ第1章最終回!!



なんか頑張りすぎてかなりページ数が多くなってしまいました。



では第五十話どうぞ!!

???side



ザ――――ッ!!!!



薄暗く視界が悪い巨大な部屋“時雨の間”に雨音のごとく水が降り注ぐ音がこだまする。


そんな中この部屋の中にいる7人はそれぞれ思い思いの場所にて待機していた。









――ある者は部屋の端で地面の水を操り水のない空間を作り出し。



「……………」



――ある者はその水のない空間にて鉄扇を構えて心を落ち着かせる。



「ふー……頼んだわよ真備。あんたに懸かってるんだからね」



――ある者はその横で右目を瞑り精神を統一させながら鋼鉄の扉に目を向け。



「大丈夫ですよ凪。真備は必ずやり遂げます」



――ある者は彼らの中で部屋の中央と上空を見上げながら祈り続ける。



(お願いマキ君……。頑張ってヒナ君……)









彼らがそれぞれの胸のうちに秘める思いは異なり散らばり――そして集結する。


その先にあるのは彼らが信じる2人の少年。



拳を突き抜ける“雷”を持つ【作り出す者】


刃を焼き付ける“炎”を持つ【破壊する者】



この作戦において2人の少年はそれぞれこの2つの役割を持ち全てを破壊する。


それは“この部屋”でしかできなく“あの2人”でしかできないことなのだ。









――ある者は部屋の中央にて唯一水に浸かり拳を握りしめる。



「頼んだぞ日向。俺が作り出す物をしっかり燃やせ」



――……そしてある者は部屋の上空にて紅の翼を羽ばたかせながら時を待つ。



「問題nothing真備。お前なら必ずやり遂げられる」









2人の少年もまたお互いの成功を祈りながら自分の仕事に集中する。


言葉はいらない。相手を見る必要もない。


ただお互いが信頼する親友がそこにいると知っているだけで2人は心を落ち着かせられるのだ。



それが日向と真備――いや知恵理や凪。そしてもちろん輝喜を含めた日向達の関係なのだ。




「……準備はいい?」




緊張したた感じで凪は部屋の中央と上空に向かって語りかける。




「問題nothing」


「パーティーはいつでも始められるぜ」




対して声をかけられた側の2人は内心こそ緊張しているも外面的には緊張した雰囲気を一切感じさせないように応えた。



だがその嘘は彼らの仲にはないに等しい。


緊張するなと言うほうがおかしいこの状況。一歩間違えばそのまま命を落としかねないこの状況。



緊張するなと言う方がおかしなこと。


ましてや彼らは先に言った通り“語らずとも通じあえる”関係。


感情や心情などプライベートなことこそ分からなくともそれくらいは彼らにとってさして問題ではないのだ。




「……最後にみんなであれやっとこうぜ?」




そしてそんな彼らの決まり事を真備は提案する。


喧嘩をする前には必ずこれなしにはやっていけないことだ。




「……そうですね。じゃあ誰のにしますか?」


「真備…のがいいんじゃない?破壊っていうとあたし達よりむしろ真備の分野なんだし?」




真備の提案に凪と輝喜の2人が同意する。


そして“誰”のをやるか決めると凪と輝喜の2人は上を見上げる。


それに吊られて真備と知恵理。それに水城が上を見上げた。


するとそこには……。




「……」


「ふふっ♪そうでしたね。それでこそヒナタンだ♪」




ニッコリと優しい笑顔を浮かべながら人差し指を天高く高らかと掲げた日向がいたのだった。




「遅いぞお前ら。俺は既に問題nothingだぜ」




優しい笑顔が一変。ニヤリとニヒルな笑顔を浮かべ上空から日向が見下ろす。


普通の人ならムカついたりするかもしれない状況だが誰もが日向のその様に怒りを見せることはない。


むしろ彼らは日向のその言葉に安心感すら覚えられたのだった。




「まったく……あんたはなんでそうなのよ?」


「それが日向……いやヒナタンなんですからね」


「やれるだけやる。それが俺らのパーティーだな」




凪、輝喜、真備の3人がそれぞれ言葉を出す。


3人は右手の人差し指を立てて今回の闘いでボロボロになったそれぞれの腕を上に向かってピンと伸ばし日向と同じ体制になる。


そのときの3人の顔は日向と同じようにニヒルに笑顔なっていた。




「……さすがは我が親愛なる親友達だよ」




それを見た日向はニヒルな笑顔を少し緩めて喜びの表情を出した。


そしてそのまま日向の顔は真備、凪、輝喜の順に目を移すと最後にある一点を見る。


彼女は日向達のその姿に嬉しそうな表情を見せながら俺にニッコリと笑いかけてきていた。


だが俺達は知っている。彼女は今まで守られる立場。おそらくこれからも彼女はその立場からは逃れられないと思う。


だからこそ彼女はそのことに後ろめたさを感じているのだ。




(そんな笑顔じゃ俺達……特に俺は騙されねーよ)




確かに彼女には闘う力はない。普通の人から見たら彼女は情けなくか弱い存在なのかもしれない。



だが――彼らはそんなことは一切思っていない。



彼らにとって彼女は太陽のような存在。


言葉に例えるなら“絶対にして不可侵”それくらい彼女は彼らにとって大切な存在なのだ。



そして彼らは彼女を守り彼女の笑顔に救われる彼女のための“守護者”


大切な人を守るのに対価は必要ない。


なぜなら彼女を守るのは彼らの誇りであり彼らの喜びなのだから。




(だけどそんなことお前は知らないんだよな……)




彼らはその思いを1度も彼女に明かしたことはないのだ。


先に言った通り彼女は今日向にニッコリと笑いかけている。


しかし彼らには彼女の瞳の奥にある後ろめたさ。それと“寂しさ”がしっかり見えていた。



そんな彼女に彼らは今まで声をかけてあげられなかった。


彼女の気持ちを知りつつも彼女にどう声をかけてあげたらいいか分からなくて声をかけてあげられなかったのだ。



――だけど状況は変わった。



彼らは“力”を手に入れて彼女は“運命”を押し付けられる。


そんな彼らに彼女の気持ちは最早無視できないものになってきたのだ。


彼らは変わらなければいけない。今まで背けてきていた真実に目を向けなければいけなくなったのだ。


だから彼らは背けてきていた真実の方を向き1歩前に進み出て手を差し出すのだった。




「チエ……」


「ほぇ……?」




日向の声に嬉しそうな笑顔を浮かべていた知恵理の顔が崩れる。


そんな知恵理に日向はニヒルな笑顔を完全に崩すと再びニッコリと笑顔を見せ。










「さっさと右手挙げないと終わらせちまうぞ?」










日向の言葉に知恵理の思考はフリーズしてしまう。



だが知恵理はすぐにその言葉を理解するとさっきまでの偽りの嬉し笑いではない。


常に日向達に見せる――時の秒針を発動させたときと同じ正真正銘の笑顔を見せながら……。




「……う゛んっ!!」




力強くそう頷き祈るように合わせていた右手を天に突き出した。


その笑顔な瞳に涙を輝かせながら。




「……それでこそ俺が惚れた幼馴染だよ」




知恵理のその様子を見た日向は誰にも聞こえないようにそう呟く。



そして再び彼は顔を上げるとこの部屋全てに響きわたるように息を大きくすい上げた。


そのときの彼――日向の顔はとても輝いていた。




「真備!!凪!!輝喜!!それから……知恵理!!」




密閉された空間に日向の声が響くと同時に日向に名前を呼ばれた4人は掲げた右腕に力を入れる。


その先にあるのは“天”全てを破壊する神の天罰を表すのだ。




「俺達がしなければいけないことはなんだ!!!!」



「あんたバカ!?そんなの決まってんでしょ!!」


「ヒナタン。そんな当たり前な事聞かないで下さい」


「んなの決まってんだろーが日向?」


「ふふふっ。そんなの決まってるよね?ヒナ君?」




すると4人はほぼ同時にそれぞれの言葉で日向の言葉に応えると示し合わせたわけではないが日向を含めた5人は同時に息を吸い込んで……。





『天誅!!!!』





ほぼ同時にそう叫んだ。




そしてその瞬間。その場にいる人全員が動き出した。


この部屋から脱出するために。生きて太陽の光を見るために……。






日向side



俺達親友の間で声を揃え真備と俺と共闘のときの決めゼリフ“天誅”を叫ぶ。


するとまるで時が動き出したように全員の表情が鋭くなりそれぞれの動きを開始した。




「やってやるぜ……!!」




バシャッ!!!!バシャッ!!!!




そう言って動きを見せたのは唯一水に浸かっている真備だ。


真備は強い意志を持った目で鋼鉄の扉を睨みつけながら両手を一気に真下にある水に拳を突っ込む。



水上を殴り。水に流動させ。分子に分解して。新たな原子を創り出す。



それが真備に与えられた仕事。真備自身はそのことを理解してはいないだろう。


だがそれでも真備は疑うことなく自身に与えられた仕事を完遂させる。


なぜなら“頭が悪い”あいつに出来ることは親友を信じて行動することのみ。


いままでもそうやってあいつは人生と言う名のパーティーを勝ち抜いてきたのだ。


親友の中で誰よりも友情を大切にする真備にはそんなこと容易いんだよ。




「今夜最後のパーティーの始まりだ……」




そして今夜もあいつは親友達の言葉を信じて行動する。


それがあいつの生き方でありプライドなんだ。



あいつはそのプライドのために全てをなげうてるそんな男。だからあいつは俺の大切な親友なんだよ。



普段は恥ずかしくて言えない言葉を心の中でそう呟きながら俺は真備からなるべく距離を取る。


下で水城の力で出来た水に触れない空間にいる他の5人も同様だ。



なぜならあいつがこれからやることは……。









`






「雷の力!!!!全開!!!!!!」




ピシャ―――――ッ!!!!!!





リミッターなし正真正銘全力での能力解放だったからだ。




ブクブク……!!




両拳を水中に入れたまま雷の能力を完全解放することにより地面に溜まった大量の水はまるで沸騰したように音をたてる。


その力は水を伝い反応して周りに行き届く。


真備は自分の役割を十分すぎるほど果たしたのだった。




――真備。お前は雷の力を全力で水に打ち込め。




俺達が真備に指示したのはただそれだけ。


だがこの指示は俺達の脱出には必ずかかせないことであり最も重要な事なのだ。


それは真備が持つ雷の力がもたらす化学の力に関係がある。


それは……。




―――“電気分解”―――




それがこの作戦で利用する化学現象である。




もともと“電気分解”とは電解質溶液に2個の電極板を入れ電流を通して両電極の表面に化学変化を起こさせ物質を分解することと定義されている。




つまり今の真備の状態こそが“電気分解”を体で体現している状態なのだ。


両電極は水中に突っ込んだ真備の両拳。電流は真備の拳から出される雷の力。



そして電解質物質であるこの部屋に溜まった大量の水が分解されて発生する物質とは……。




【酸素】と【水素】




この2つの物質こそが俺達が求めていた物質なのだ。




「うおぉぉぉおお!!!!!!」




ブクブクブクブク……!!!!




雄叫びにも似た叫び声をあげながら雷の力を水中に流し込む真備。


その力を流し込むたびに真備の周りからは水が分解されて“酸素”と“水素”が発生し続けていた。




「もういいわ真備。あんたの仕事はお終い♪」




ピリッ……!!ピリッ……!!




突然真備にかけられた男性よりもかなり高い凪の言葉に真備は動きを止める。


拳に入っていた力は抜けていき能力を全開で使ったせいかその顔に真備元来の瑞々しさはあまり感じられなかった。


だけでその顔にあったのは落胆の顔ではない。何かをやり遂げたような嬉れ嬉れとした顔がそこにはあった。




「さすがはあたしの双子の馬鹿弟ね……完璧よ!!!!」


「へへっ……サンキューな俺の双子の姉貴……」




力なく凪のそう応える真備。そしてそのまま力なく立ち構えるとフラフラと凪達の元へと歩き出すのだった。




「さてと……」




ヴォ――ンッ!!!!!!!




真備が大方こちら側に近づいたのを確認した凪は真剣な面もちで呟くと手に持った鉄扇の魂狩“風神”で一閃させる。


すると凪が振るった鉄扇からはまるで突風が駆け抜けたような激しい音と一緒に風が駆け抜けた。




「……ここからはあたし達の仕事よ輝喜」


「えぇ。俺が持つ全ての力を使ってあなたをサポートします」




凪の言葉に応えた輝喜は風神を構える凪のすぐ後ろにつく。


そして輝喜は凪と共に先にある鋼鉄の扉を見据えると輝喜にしかない輝喜だけの力を解放させた。




「凪!!俺があなたを未来へと誘います!!!!」


「頼んだわ!!あたしに予知夢の中みたいな絶望を見せないでよ!!!!」




凪の言葉を聞いた輝喜は妖しく赤に光り輝く右目を見開いた。




「凪。最初に右30度くらいに向かって強い風を一振りしてください。次に扉の方向。つまり正面約5度くらいに3回巻き上げるような風を送り出してそこから再び右斜め65度くらいに突風みたいな風をお願いします。さらに左に片寄った酸素と水素の割合を右と同じにするために左斜め45度くらいに台風並の大きな風を送って終わりです!!!!」




一呼吸も置かない間に出されたそれらの指示を出した輝喜。


未来図の力を使ってどこに風を送れば好都合なのかを図ったのだ。




「突風よ靡け!!!!!!!」




ヴォ――ンッ!!!!!!!


ヴォ――ンッ!!!!!!!


ヴォ――ンッ!!!!!!!




そして凪は輝喜の指示通りに風神を振るわせると凪の“風”の能力により何本もの風か踊るように舞い散っていった。


それは俺の“炎”や真備の“雷”輝喜の“光”のように目を見える能力ではない。



だがそのときの凪が振るった何本もの風は空のようにとても澄み切った綺麗な色に見えた。




「あたし達の仕事も終わったわ」


「後は任せましたよ日向」




凪と輝喜はそう言うと俺に視線を送ってくるそのときにはすでに凪達の元へと辿り着いた真備。それにずっと俺を信じて見上げていたチエが俺に全てを託したと送ってきた。




「……こっちは任せておけ」




俺が全員が集まった水のないあの空間に目を向けていると水城の静かな声が木霊してくる。


敵であった者――それも親友の輝喜や信頼できる刹那とは違う。


あいつ“時雨水城”の言葉に俺は少したじろぐ。だが俺はその言葉に嫌悪感を感じることはなかった。


むしろ……。




「俺の大事な親友だ。傷付けたらぶっ殺してやる」


「……肝に命じておく」




あいつの言葉。死闘をしたあいつの言葉だからこそ俺は信じた。


刃と刃。文字通り魂と魂をぶつけ合った俺達だからこそお互いに信用ができた。




「……【渦潮・天象】」




ザパ―――ンッ!!!!!!!!




水城がそう呟くとあいつらの周りに竜巻のように渦潮が立ち上る。


それはつまり俺とチエ達とを完全に遮絶することになった。




――お願いヒナ君。




完全に渦潮チエ達を覆う前。チエと目があったときアイコンタクトでチエからそのメッセージが送られてきた。


こういうときは幼馴染はとても便利だと思う。




「問題nothingだ」




そして俺はチエ見えなくなると誰もいなくなった空間で1人呟くのだった。




ボ―――――ッ!!!!!!!!!!




誰もいないただ暗く薄気味悪い空間に赤く燃えたぎる銀色の刀を構える。そこにあるのは立ち上る渦潮の柱と鉄の扉の2つだけ。


だがそれは目が見える範囲という限定条件がついた場合での話だ。


実際にはあの扉の前には真備と凪。そして輝喜が作り出してくれた希望がある。



まず真備に水を電気分解させたのは水を分解して火をつけると燃える水素と燃えるのを助ける酸素を作り出すため。その際水を通して感電しないために水城に水のない空間を作らせた。


次に凪と輝喜が風を使って大気を動かしてなるべく水素と酸素を扉の周りに動かした。その際輝喜の未来図を使ってなるべく安全かつ扉を破壊できる場所へと動かした。


最後に水城の“渦潮・天象”これは扉を破壊した瞬間にチエ達に被害が及ばないようにする防衛手段のため。なぜなら……。





俺が今から扉の前にあるあの水素と酸素に発火するからだ。





「日輪流炎術“四式”!!」




俺は日本刀に灯した炎を最大にまで巨大化させる。


真備はその身体の中にあった全ての能力を使って俺のために水素と酸素を作り出してくれた。


だったら俺もそれにしっから応える。身体の中に残った全ての能力を使って俺は必ずあの扉を破壊する。




ボ―――――ッ!!!!!!!!




日本刀に灯され炎は十分すぎるほどだ。


そして俺はここにいる全てを救うために刀で空間を切り裂いた!!





「―――“斬炎”―――」





ザ――――ンッ!!!!!!!!




切り裂いた日本刀から放たれたのは炎でできた斬撃の日輪流炎術“斬炎”


だがその大きさは水城と闘っていたときに放ったあのときの“斬炎”とは大きさも威力も桁違い。


俺の能力全てを注ぎ込んだあの“斬炎”に俺は全てをかけたのだった。




「いっけぇぇえええ!!!!」




ドカ―――――ンッ!!!!!!




そして部屋に大爆発を知らせる破壊音がすべてを震えさせるのだった。






知恵理side



ドカ―――――ンッ!!!!!!




「ヒナ君!!!!????」




私の周りを囲む渦潮の先から私の耳に爆発音が木霊してきました。


それに私は思わずヒナ君の名前を叫ぶ。


それはナギちゃんやマキ君。それにコウ君にも衝撃的でした。




「そ…そんな……だって!!日向は……!!」


「くそっ!!あいつ間に合わなかったのか!!!!」




ナギちゃんの瞳にはうっすらと涙が浮かび上がりマキ君は悔しそうに地面を殴りつけました。


そしてコウ君は……。




「……離して下さい水城」


「……この“渦潮・天象”からは出られない。お前も分かってるだろう」




無理やりにでも渦潮の外に出ようとして水城さんに腕を掴まれて制止させられていました。


だけど止める水城さんの無表情も少しだけひきつっているように見えます。


私はここにいる全員がヒナ君を心配しているのを感じました。




「水城。早く渦潮を止めなさい!!!!」




ナギちゃんは抵抗を止めて大人しくなったコウ君を離した水城さんにつかみかかりました。


だけど水城さんはそんなナギちゃん――いえ私達全員が避けていた言葉を……。




「……だから今はまだ無理だ。今出れば爆発に巻き込まれる危険性がある。貴様らは日向の“死”を無駄にするのか?」




私の耳に心にそして魂にその言葉は響いてきました。




「……ってめ!!!!!!ざけんじゃねー!!!!!!」




バキッ!!!!




水城さんの言葉にマキ君は怒りを抑えられず水城さんの頬を殴りました。


周りを見てみると他の全員が水城さんを睨みつけています。




「ちょっと知恵理!!!!あんたも何か言いなさい!!!!」




そんな中で唯一水城さんを睨みつけることなくまた怒りを見せることなかった私にナギちゃんが水城さんを睨みつけながら言いました。




「……みんな」




だけど私はナギちゃんの言葉に優しく語りかけました。


だって私はたとえヒナ君が作戦通りに渦潮の中に飛び込んでこなかったとしても。


たとえヒナ君があの爆発に巻き込まれてもしても。





「ヒナ君は大丈夫。絶対に問題nothingだって♪」




私はヒナ君を信じてる。


絶対ヒナ君は生きてまた私に笑顔を見せてくれる。


だから私は水城さんを責めないし水城さんの言葉なんて眼中にありませんでした。




『……』




私の言葉に水城さんを含めた全員が唖然とした目で私を見てきました。


たぶんみんな私が一番水城さんに怒りを見せてると思ったと思います。


だけど私はそんなみんなにニッコリと笑顔をみせると……。




「ヒナ君を心配するのなんてもう慣れちゃった」




そう言ってみんな見えるようにベッと舌を出しました。


そんな私を見たみんなは今まで怒りに満ちた目を納めると今度は私と同じように静かに立ちすくみ……。




「ゴメンね知恵理……あたし…あんたの気持ち考えなかった」




謝ってきたのはナギちゃんだけ。マキ君とコウ君は私の行動に何も言えなくなっていました。


でも仕方ないかな?だってこんな気持ち女の子にしか分からないから……ね。



私はナギちゃんの言葉を聞くと再びみんなにニッコリと微笑み最後にヒナ君とアイコンタクトをとった辺りに目を向ける。



あのとき私はヒナ君を信じてお願いという言葉を送りました。


だから今回も信じてるからねヒナ君。




――問題nothingだ。




あのとき渦潮でヒナ君が消えた後に聞こえてきた言葉を私は再び聞いたような気がしました。




――――――――


―――――


―――





「……もうそろそろいいだろう」




あれから何分たったかは分かりません。その間私はずっと手を組み合わせて祈っていましたが水城さんの言葉に閉じていた目を見開きました。




「水城さん!!」


「……慌てるな。もう少し鎮静していろ」




私の言葉に水城さんは静かにそう告げると大鎌の村鮫を振るう。


すると私達を囲んでいた渦潮は静かに崩壊して今まで青一色だった世界は暗い漆黒と爆発で起きた赤い炎が見えてきました。



そしてもう1つ……。










「よぉお前ら。だいぶ遅かったじゃねーか?」





その声は私が聞きたくて聞きたくてずって待ち望んでいた声。


ヒナ君は私達がいた場所から3メートルも離れていない場所で翼を折りたたんで崩れてきた瓦礫の上に座りながら私達に手を振っていました。




「ヒナ君!!!!」




そんなヒナ君の無事な姿を見た私はいてもたってもいられずに。




ガバッ!!!!




「うわっ!!!!????」




ヒナ君のもとに駆け出してそのままの勢いでヒナ君に抱きつきました。


最初こそは驚いたヒナ君でしたがいっときすると慣れたのか優しく私の髪を撫でてくれる。



――ヒナ君はズルい。だって私がどうやったら喜ぶのか全部知ってるんだもん。



私はヒナ君に抱きしめられて髪を撫でられながらそう思いました。



でもだからこそ私はそんなヒナ君が大好きなんです。




「心配かけたみたいだな」


「そんなのもう慣れちゃったよ」




そう言いながらも私の瞳には涙が溢れ出ていました。






日向side



「おいおいマジで生きてやがったよ」




チエが俺に抱きついてきて驚きながらも最早情景反射でチエの髪を撫でているとまるで呆れたような真備の声が聞こえてくる。


そして辺りを見渡してみるとやはりというか俺達を見て真備、凪、輝喜の3人がニヤニヤとした顔で俺とチエを見ていた。




「真備。それじゃあまるで俺に死んでほしかったみたいな言い方だぜ?」


「んだよ冗談が通じねーやろーだな」




そう言うと真備はガハハハと豪快に笑いながら近くの輝喜の背中をバシバシ叩く。




「真備。ものすっごく痛いのですが?」


「気にすんなって輝喜!!」




ガハハハと輝喜の言葉を無視してさらに叩く真備。


そんな真備に輝喜もヤレヤレといった感じ疲れた表情をしていた。



だけど――その顔をよく見てみると輝喜は笑っていた。


ただし楽しそうにニコニコといった感じの笑いではなく寂しげに――そうまるで別れを惜しむような悲しげな笑いを……。




「あーもう!!!!黙りなさいこんの馬鹿弟!!!!」




輝喜の表情を眺めているとついに堪忍袋の尾が切れたのか凪が真備を怒鳴りつけた。


手を使わない辺り弟のことを気遣ってはいるがな。


俺が凪と真備の微笑ましくもシュールな姉弟喧嘩を見ていると今度は2人から離れた輝喜が俺に話しかけてきた。




「それで?」


「ん?それでって何のこと言ってんだ?」




俺の言葉に輝喜は大きくため息をつく。


その顔は俺の言葉にさらに呆れ顔が増していた。




「何言ってるのはこちらのセリフですよ。であなたはどうやってあの爆風に耐えたのですか?」




輝喜の言葉に俺はあぁと頷くとチエを抱きしめた腕を離す。


チエの方もどうして俺が無事だったのかが知りたいらしく黙って俺の方を見つめながら涙を拭っていた。


よく見ると真備と凪も喧嘩を止めて水城も刺すような目で俺を見ている。


そんな空気の中俺は……。




「俺が無事だった理由。それはこいつのおかげだ」




バサッ!!!!バサッ!!!!




背中で折り畳んでいた紅蓮の翼。紅翼の特性でもある翼【不死鳥】を開いた。




「……そういうことか」




水城は分かったらしく静かに呟いた声が俺の耳に届いた。


他のみんなも――チエや真備ですら黙って頷いている。


俺はそんなみんなに応えるようにして再び背中の翼を納めると語り出した。




「不死鳥の神髄は“驚異的再生能力”つまり俺は水素と酸素に発火させるために“斬炎”を放った後間に合わないと思った瞬間に不死鳥で全身を覆い隠して難を逃れたというわけさ」




俺がみんなに応えるようにそう説明した瞬間。




バサッ!!!!!!




俺の背中に栄えていた紅蓮の翼はその役目を終えたとばかりに桜吹雪ねように俺の背中から舞い散った。


そんな光景に少し驚いたチエ、真備、凪、輝喜の4人。


水城の方は見たことあるのかはたまたいつも無表情だからかただ黙ってこの光景を見ていた。




「え?ヒナ…君?」


「あぁ。心配しなくてもいいよチエ。全力で放った“斬炎”と爆発を防いだことで能力がきれて翼が消えただけだから」




俺の言葉を聞いてチエ達4人は安心した顔になる。


そのとき部屋の中に一筋の光がさしてきた。




「んだ?この光?」


「バカね真備。これは爆発で穴があいたところからさしてきた光よ。つまりこれは……」


「はぁー。昨日もあんまし寝れてねーのにまさか今日は徹夜かよ……」




凪の言葉に俺は深い深い溜め息をつきながらそう呟いた。


そんな俺の言葉にチエ達4人は苦笑いを浮かべた後真備が吹き出したのを境に全員で笑い出す。



それで今回の事件は終わりでよかった。


そうだったらどれだけよかったのだが……。




ガラッ!!!!!!




朝日が差し込む時雨の間に嫌な音が響く。


俺はその音にすぐさま反応して辺りを見渡した。




「……あれほどの爆発だ。もともとが古い洋館のここが崩れないわけないだろ」




だが水城のその言葉により俺達は自分達のいる状態を再確認できた。


つまりは俺達は再び死の危険性に直面しているということだ。




「問題nothingじゃねーよ」




翼を失った俺は背中に冷や汗が流れるのを感じすぐさまチエの手を握る。


その手はさっきまでの嬉々とした感じではなく恐怖で震えていた。




「さっさと逃げるぞ」




そして俺はその場にいる全員にそう声をかける。


その言葉にその場にいる全員が強く頷くとダメージを負った体を気遣いながら駆け出そうとした。





――1人を除いて。






刹那side


暗くて寒くて怖い。そんな感情が永遠と俺の中をグルグルと渦巻いていた。


寒い。暗い。寂しい。出てくるのはそんな負の感情だけ……。


俺は永遠の闇に捕らわれていた。




「【……】任せた!!!!」




周りの音すらどうでもいい空間。そんな空間にいたら俺は他のことなんてどうでもよくなる。



こんな空間に落とされたのは確かに始まりは凪が俺に見せたあの大量のGのせいではある。


だが今俺の中で渦巻いているのはあんな甘いものではない。


これまで生きてきた13年間のうち12年間を過ごしてきたあの生活を思い出してしまったのだ。



小さな負の感情から大きな負の感情へと繋がっていく。


輝喜みたいに過去を覚えていないから苦しむんじゃない。過去を知っているからこそ俺は苦しんでいた。




「……いつまで現実逃避をしているつもりだ?」




真っ暗な空間に静かな声が響いてきた。


俺はその喋り方。声の音程に聞き覚えがある。


それはいつも俺と行動を共にし俺を“この世界”で拾ってくれた男水城の声だ。




「ほっといてくれ」




だが俺は水城声にそれだけ言うと再び暗黒の世界へと入っていく。


そんな俺を見て水城は深く溜め息をつくと黙って俺に近づいてきた。



このとき俺は知らなかった。これこそが俺の暗闇にさす光だということに……。




バキッ!!!!!!




「ぐっ!!!!」




俺は頬に鋭い感覚を感じるとその場に倒れ込んでしまう。


今までの水城なら俺に話しかけてくることはあれど殴られることなんてなかった。


だから俺はその行動に驚き顔をあげる。


するとそこにいたのは黒髪のロングヘアーで死神のような漆黒のコートを纏い無表情な顔をした男ではなく。








「わりーな。俺は姉貴みたいに手加減できないんだよ」





――鋭い眼光を俺に向けながらグローブをつけた手を握りしめる茶髪の男。




【羽前真備】だった。




俺は予想外な真備の登場に驚き目を見開く。


言葉はでなかった。


だけど真備は俺が何を言いたいのか分かったらしくもう一度深く溜め息をつく。




「……お前。俺より頭悪いんじゃないか?」




真備の言葉に俺は鋭く目を吊り上げる。




「どういう意味だよ」


「そのままの意味だ。俺達の話聞いてなかったのか?この屋敷はじきに倒壊するんだよ。なのにお前は動きもせず……」




頭を抑えて心底呆れたようにそう言うと真備はこれまでで一番強い眼光を俺に浴びせた。




「お前……死にたいのか?」


「……!?」




低く恐怖に値するそんなテノール声が俺の耳を貫いた。


見なくても分かる。やつは――真備は今怒っている。




「な、なんだよ……」


「お前がとるべき行動は2択に1択。俺と今から全力で逃げるか。この場に残って生涯を終わらせるか……さっさと選べ」




普段から水城の冷たい声を聞いているから聞き慣れたと思っていた。


だけど真備の声はそれとはまた別物。


真備の声は俺の心まで届く絶対零度な冷たさを秘めていた。


有無を言わさないような声に俺は恐れをいだきながら応えるのだった。




「……生きたいです」


「あ゛?聞こえねーぞ!?」




小さな声で言った俺に怒ったのかはたまた本当に聞こえなかったのか真備の怒号が響き渡った。


一瞬ビクついてしまった俺。だけど負けじと息を大きく吸い上げて今できる精一杯の声で叫んだ。




「生きたいです!!!!!!」




俺は目をつむり真備の反応を待った。


両手は叫んだときに強く握りしめたままで脚は真備への恐怖で震えてしまっている。



だけど俺に待ち受けていたのは……。




ファサ……




頭に感じる温かく大きな手の感覚。それを感じた俺はすぐに目を開けた。




「それでいいんだよ」




するとそこにあったのはさっきまでの恐怖を感じる鋭い眼光でも低いテノール声でもなかった。


そこにあったのは屈強のない温かい笑顔とさっきまでの恐怖がぬけたテノール声。




「俺は生きたい。そして誰にも死んでほしくない……もちろんお前にも」




そして再び屈強のない温かい笑顔を俺に向けてくる。


俺はその温かい笑顔に見惚れてしまった。




「あ…///う…///え…///」




恥ずかしくてつい目を逸らしてしまう。


だがそんな俺を無視して真備は俺の腕を掴んで立ち上がらせた。




「はぅー///」




手を握られた瞬間に俺の顔は真っ赤に沸騰してしまった。




「つってもこいつはさっきある犬っころに気付かされたんだけどな!!!!……ん?どうしたんだ!?」




もうダメ。俺はこの人の笑顔と考え方にやられちゃったみたいだ。




「ほら!!さっさと行くぞ!!」


「え?あ…はい……」




俺は真備に手を引かれて走り出した。


顔を真っ赤にしながら……。



俺の暗闇に光が訪れた気がした。力強く刹那的な輝きを放つ光。


“雷”のような光を……。






日向side



「あいつはまだ来ないの!?」




俺達が洋館を脱出してから数分がたつ。


だがいっこうに姿をあらわさない真備に凪は苛立ちを高めていた。




「ヒナ君……マキ君とセッちゃん来ないよー」




俺の横ではチエが俺の袖を引きながら泣きそうな顔で俺に言ってくる。


そんなチエを安心させるために俺はチエの頭を撫でながら微笑みかけた。




「大丈夫だよチエ。絶対に問題nothingだから」


「ヒナくぅん……」




泣きそうな瞳で俺に訴えかけてくるチエに俺はそう言うことしかできない。


翼を失った俺は無力だった。




「あーっ!!もうっ!!さっさと来なさい馬鹿弟!!!!」


「凪も落ち着け。何のために真備に行かせたと思ってるんだ?」


「でも……」


「大丈夫。あいつの魂はまだ死んでない。だからきっと使えるはずだ」




凪に言い聞かせるように俺は言う。


だが実際問題俺自身も洋館から出てこない2人が心配で仕方なかった。


おそらくもうこの洋館は数分ともたない。



――その前に……早く出てこい!!真備!!




ピリッ……!!




俺が心の中で真備の名前を呼んだ瞬間。俺は確かにその音を聞いた。


それと同時に何かがすぐ真横を駆け抜けるような感覚を俺は味あう。


それを感じた俺は笑顔をこぼすのだった。




ドガ――ンッ!!!!ドガ――ンッ!!!!ダ―ンッ!!!!ダ―ンッ!!!!ダ―ンッ!!!!




そのとき激しく激動的な音と共に目の前の洋館が一気に崩れ去った。


そんな様子を見ながら俺はもしあの中にいたら……と考えてしまい冷や汗をかいてしまう。


だけど……誰も巻き込まれずにすんだからいいけどな。




「危なかったな真備」


「はぁ…はぁ…ギリギリの方が面白いじゃねーか」




俺の後ろで息をきらしながらきつそうに話す真備の声に真備が出てきたことに気付いていなかったらしいチエと凪は急いで振り返った。




「真備!!!!」


「マキ君!!!!」




後ろを振り返ったチエと凪は嬉しそうな声を出して真備を見つめている。


俺もその声に振り返るとそこには息を絶え絶えにしながらも真っ赤に顔を赤くした刹那をお姫様だっこする真備が優しく微笑んでいた。




「さすがは“雷光神経”速かったな」


「はぁ…はぁ…お前に言われても……嫌みにしか聞こえねー……つーの」




真っ赤な刹那を地面に降ろしながら律儀に俺の言葉に応える真備。


そんな姿に俺はやっと安心して紅翼をしまうのだった。




「終わったんだな……」


「うん。終わったんだよヒナ君」




俺の呟きにチエが応えてくれる。


その声を聞いた瞬間。俺は全身の力が全部抜け落ちたように感じた。




ドサッ!!!!




「あれ?おかしいな……」




足元の力がほぼ皆無になり脚は完全に自立できなくなった俺はその場に座り込んでしまう。


よく見るとどうやら俺にくっついていたチエも俺に巻き込まれて座り込んでしまったみたいだ。




「はははは。ヒナ君私も腰が抜けちゃったみたい」




俺に苦笑いを見せながらチエがそう言うと俺も苦笑いをしてしまった。


そんな俺達に一本ずつ手が差し伸べられる。


だが俺達に手を差し出した本人に俺達は少し驚きの表情を浮かべるのだった。




「……どうした。遠慮はいらない」


「……あ、あぁ。ありがとな」


「ありがとうございます」




呆然となりつつも俺とチエはその言葉に甘えて手を掴んだ。



雨の死神【時雨水城】の手を。



俺達が手をつかんだのを確認すると水城はいっきに俺達を立ち上がらせる。


相変わらず無表情だったけどな。




「……気にするな。俺はお前と真備。それに凪に言いたいことがあっただけだ」




そして無表情のまま水城は俺達全員を見るように辺りを見渡した。


その視線に気がついたのか真備と凪。それに輝喜と刹那も水城の方を向く。


全員に注目された水城。だが次に水城が取った行動は誰彼関わらず全員が驚愕した。




シャキンッ!!!!




「……」




気付いたときには水城が無言で俺の首筋に村鮫の刃をあてていた。




「くっ!!“風神”!!!」


「来い“洸穿弓”!!!」


「発動“雪化粧”!!!」




その瞬間。すでに雷神を発動させている真備以外の3人が魂狩を発動させる。


普通ならあちら側のはずの輝喜や刹那ですら発動させていた。


そんな一触即発の空気の中。刃を当てられた張本人である俺とチエはなぜか落ち着いていた。




「水城さん。どういうつもりですか?」


「……話があると言ったはずだ」




いつもののほほんとした声じゃない凜とした格好良さのあるチエの声が空気を震わした。


それに応える水城はいつも通り冷たい声のままだがその無表情の先に真剣な表情を俺は見る。


そんな近づきがたい空気の中でも関係なく俺はその中に脚を踏み入れた。




「話ってなんだ?」




刃を当てられている状態だから俺の口調は強くなる。


睨みをきかせながら少し声を低くしてそう問いかけると水城は少し目を鋭くしながら応えた。




「……なに簡単な話だ。俺はお前たちに1つ問いかけるだけだ」




水城はそう言うと俺のすぐ横へと視線を移す。


そこにいたのはさっきからずっと俺の袖を掴んでいるチエ。


水城は彼女を見ると今度はこの場にいる全員に聞こえるように声を大きめに語り出した。




「……この少女は“時”の力を持っている。それが何を現すか……」


「世界の人間がチエを求めてくる。そう言いたいんだろ?」




水城が語り出した瞬間俺は水城に睨みをきかせながらそう言った。


周りにいる水城以外の5人――いや表情に出てないだけでおそらく水城自身も俺の言葉に驚きを見せていた。


そんな中今度は俺がみんなに聞こえるように少し大きな声で語り始める。




「チエの能力“時”これは“10導能力者”と呼ばれる世界を創り出したとされる10の能力の1つ。だけどチエが持つ時の能力は時を渡る“時渡し”の力を持っているから世界で最も強い能力。また戦士にも幻術師にも分類されず攻撃能力を持たないため最も弱い能力とも言われている……お前が言いたいのはこんな所か?」




あんな衝撃的なことを俺は言われたから俺は一言一句間違うことなくそう言い切る。


俺の謎の言葉を交えた発言に真備どころか輝喜や凪、刹那も首を傾げていたが俺が言いたいことは理解したみたいだ。


そしてさすがの水城も俺のこの言葉の羅列には驚いたみたいで少し表情を固くするもすぐに元通りの無表情に戻すと話し始めた。




「……どこでそのことを知った?」




俺は水城の鋭い眼光に当てられながら睨み返すと同時に言い放った。




「そんなの決まってんだろ?“過去の俺”だよ……」




俺の言葉にチエは息をのむ。他のみんなもそれなりに驚きの表情を見せていた。


だがそんな中。1人だけ冷静で冷たい瞳を俺に向ける人物がいる。


目の前にいる時雨水城だ。


水城はゆっくりと目をつむると一度深く息を吐き出す。


そして瞳を開くと俺に突きつける村鮫を持つ手に力を入れると俺をしっかり見据えながら口を開いた。




「……そこまで分かっているなら話は簡単だ」




俺を睨みつけるとはまた違う。少しだけ鋭くなった瞳の中に俺を写しながら水城はそう言うと今度は瞳を右にずらす。


そこにいたのは。




「……“羽前凪”」


「え?な…何?」




いきなりフルネームで呼ばれて慌てた様子の凪。


そして水城の瞳は左方向に移すと瞳の中にある人物も変わる。




「……“羽前真備”」


「お……おう……」




真備の方も水城にいきなりフルネームで呼ばれて少し翻弄する。


そんな真備と凪の反応を確認した水城は再び俺。つまり最後の人物へと瞳が向けられた。




「……“不知火日向”」


「……」




真備達とは違い刃を突きつけられた俺は冷静に無言で水城だけを見る。


だが水城は俺達の行動に興味を示すことなく話を進めた。


話の核心部分へと……。




「……さっき日向が言った通り知恵理はこれからも狙われる」




チエが俺の袖をギュッと握りしめるのを感じる。


そんなチエに俺は少しだけ微笑みかけると再び水城を睨みつけた。




「で?何が言いたいんだ?」


「……俺は今から貴様ら3人に命令する」




命令という言葉に俺は嫌悪感を持つ。


だがここは敢えてその感情を抑えて水城の話に耳を傾ける。


そして水城の口から出てきた言葉は今までの水城からは想像できない。だが俺達には……。



“当たり前”の言葉だった。







`





「……貴様ら3人は時の少女を守る“守護者”となれ」





はっきりとしかし曖昧にその言葉が耳に入ってきた。


それはこの場にいる人全員に当てはまったことで全員が全員水城が何を言ったのか分からなかった。



だけどそれも数秒のこと。数秒したら水城の言葉を全員が理解し俺達は真剣な面持ちでそれに応えるのだった。




「問題nothing。そんなの当たり前だ」


「当たり前でしょ!!知恵理はあたし達が守る!!」


「親友は見捨てない。それが俺のポリシーだ」




3人の意志。3人の勇気。3人の祈り……言い方こそ違えど言えることは同じである。


それは大切な親友であり大切な女の子として1人の少女を守りたいという意志。


その屈強な意志はこれから決して折れることはない。




「……それでいい」




シャキン……




俺達の意志を確認にした水城は俺の首筋から刃を外す。


そしてその様子を見ている2つの瞳。


いや違う片目はすでに眼帯で塞いでいるため1つの目が俺達を見ていた。




その瞳が現すのは怒りなのか悲しみなのかはたまた願いなのか……。



しかしこれだけは言える。



彼“美濃輝喜”は俺達のことを優しく寂しげな瞳で見ているということだ。


それが少しだけ輝喜の瞳を見た俺の見解である。







彼の――“美濃輝喜”の親友である“不知火日向”としての見解なのである。


作「第五十話いかがでしたか?」


凪「久しぶりに刹那の登場かと思った何?あいつまさか馬鹿弟に惚れちゃった!?」


輝「意外な展開ですね〜」


作「でもこれは最初からこれは計画してたんですよ」


凪&輝『そうなんだ』


凪「ちなみに今計画している他のカップリングはあるの?」


輝「……凪?その質問は今しちゃいけないんじゃありませんか?」


凪「何でよ?別にいいじゃない?」


作「……ちなみに凪。気付いてるのか?」


凪「ん?何をよ?」


輝「いいですか凪?今回の話で刹那は真備に惚れちゃいましたよね?」


凪「えぇそうね」


作「そんでもって知恵理はどう見たって日向のことが大好きだろ?」


凪「うん確かにあれは見てて焦れったいわよね」


輝「……どうやら本当に気づいてないみたいですね」


凪「……?あんた達さっきから何が言いたいのよ?」


作「はぁー……凪。どうして今回お前と輝喜を呼んだと思ってるんだ?」


凪「そりゃ……たまたまでしょ」


輝「いえ違います。俺とあなただけカップリングがないからです」


凪「…………!?」


作「……気付いたみたいだな」


凪「な!!な!?な!!??」


輝「そうです。あなたの思っている通り現在好きな人がいない“女性キャラ”はあなた1人なんです!!」


作「で。さっきみたいに計画しているカップリングを話すとなると必須的に凪のことを話さなきゃいけないわけ?」


凪「あ!?え?え?え―!!??」


輝「ことの重大性にここまで気付かないなんて……」


作「ある意味凪も鈍感だということだな。てなわけで次回予告行きます!!


背中合わせで共に闘ってきた親友。


太陽のような笑顔で心を温めてくれた親友。


激しくぶつかり合いそれでも笑いあった親友……。


そんな親友“美濃輝喜”との……。


次回【エピローグ 別れ】」


日「俺達はいつまでも親友だからな……」


輝「……何かこの日向のセリフの後で言うのはかなり引けるのですが……実際問題凪のカップリングの予定はあるんですか?」


作「あぁ。実は第n……」


凪「言うなー!!!!この【検問消去】がー!!!!」



バコーンッ!!!!



作「くぺっ!!??」


輝「……首って殴ったら本当に180度曲がるんですね」


凪「な!!に!!か!!??」


輝「……次回に続く」



次回に続く!!

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