第49話 魔の手と大脱出
知恵理に迫る絶対絶命の危機!!
日向はその翼を再び羽ばたかせ飛翔する!!
最大のピンチを迎える日向とその親友達!!彼らが助かるための方法とは?
第49話【大脱出】
それでは本編へ!!!!!!
日向side
「問題nothing。俺の勝利だ【雨の死神】」
俺は日本刀【桜】を鞘におさめると同時に真後ろにいるだろう死神にそう言い放つ。
――……あぁ、そして俺の敗北だ【紅翼の天使】
水城の声が頭に響いてきたのはそう言い放った後すぐだった。
水城が実際にそう言ったかは信じられなかったが俺はハッとして後ろを振り向こうとする。
バシャッ!!!!
しかし俺が後ろを振り向く前に何かが水面に落ちる音が俺の耳に届く。
その音の正体は振り返らずとも分かっている。
だけど俺は振り返らずにはいられなかった。
彼……【雨の死神】こと時の番人の時雨水城の姿を確認するために……。
「…………」
そして俺が振り向いた先には漆黒の長髪がまるで花のように水面に広がっていた。
――――水城だ。
彼はまるで事切れたかのように水面を漂う。
その姿に俺は改めて自分の勝利を確認するのだった。
『日向!!!』
不意に俺の耳を2つの聞き慣れた声がつんざく。
まったく……あの姉弟は仲がいいのか悪いのか……。
その声に俺は普段はお互いをこれ以上ないくらいに罵り合うも蓋を開けてみれば誰よりもお互いの事を思い合ってる双子の姿が脳裏に浮かんだ。
「日向……」
次に聞こえてきたのはこれまた聞き慣れた声……だけどいつものあいつに比べると幾分元気がないシビアな声だった。
複雑なんだろうな……あいつにとってこの状況は……。
そう思いつつ俺は声の主であるいつもは太陽のような笑顔を見せる少年――だけど実は誰よりも冷静な頭を持つ眼帯の親友を思い浮かべる。
そして……。
「……ヒナ君」
最後に俺が一番聞き慣れた声――俺が守りたかった幼馴染の声が俺に届いてきた。
大丈夫だよ……お前は俺が絶対守るから……。
そして俺が思い浮かべるのは俺の大切な銀色の髪をした幼馴染の姿――普段はドがつく天然なのに誰よりも俺を心配してくれる大切な存在だ……。
4人の声が混ざり合う中俺はつい嬉しくなり微笑みを浮かべる。
右手の人差し指と中指を立てるとそれを高く掲げて声の主達の方へ振り返った。
「問題nothing。心配かけて悪かったな」
すると4人は俺の微笑みを見たからか一瞬にして明るい笑顔となって俺を出迎えてくれた。
「まったく……ヒヤヒヤしたじゃねーかよ!!」
わりーな真備。お前は本当にいい奴だよ。
「べべべ別に心配なんかしてなかったんだから!!」
その割には嬉しそうだな凪。ツンデレ乙だ。
「日向……」
大丈夫だよ輝喜。お前の思いは察してるから。
「ヒナ君……お疲れ様」
あぁ、お前の声を聞くだけで俺は安心できるよチエ。
それぞれの思いを俺は笑顔で聞き入れる。
今ここで俺達と時の番人との闘いは終結したのだった。
――俺達に近づいてくる新たな脅威にも気付かずに。
物事の始まりは唐突に訪れる。
これは今回の事件で学んだことの1つ――現に今回の事件も昨日の夜唐突に訪れていた。
――では俺は何が言いたいのか?
それは俺達が水城との勝負に勝ったことで安心しきっていたということ。
“最悪の出来事”は唐突に訪れたということだ。
そう……“最悪の出来事”は唐突に訪れたのだった。
ドカーーーーーンッ!!!!!!
不意に耳の中をぶっ壊すような激動の破壊音が俺の耳をつんざいた。
その波状の音波は全身を貫き通し俺の平衡感覚を失わせる。
「な……なんだ!?」
唐突に訪れたその爆発音は真備と輝喜が衝突したときと同等なほど。
明らかなる“異変”だった。
「日向!!」
そのとき俺の頭に凪の叫びにも似た声が響く。
その叫び声が異変だと気付いた俺は凪の方に急いで振り向いた。
「日向!!上だ!!」
振り向いたと同時に今度は真備が俺に叫ぶ。
真備と凪はあの激動の爆発音でバランスを崩したらしく水の中に腰からどっぷりつかっていた。
そして俺はそんな2人の顔の形相に危機感を感じた俺は真備の言葉に従い上を見上げる。
「……!?」
その瞬間俺は理解した。
なぜ真備や凪が必死になって俺に呼びかけていたのかを……。
「くっ!!マジかよ!!」
俺は目の前の光景に顔を歪めた。
なぜなら俺の真上……つまり天井にひびが入り天井のコンクリートが落ちてきているのだ。
ガラガラッ……!!
すでに落石に似た感じで落ちてくるコンクリートの塊は目と鼻の先まできていた。
だけど――俺の不死鳥の力をもってすれば十二分に間に合う。
そう思ったら決断即行動で俺は紅蓮の翼を広げるのだった。
バサッ!!バサッ!!
「………!!」
だけど飛び立とうとした瞬間に俺の中で何かが弾け飛んだ。
いや何かを忘れている気がしたのだ。
ギリギリ残っていた冷静な頭にインプットされた情報全てを使い答えを求める。
――すると俺の頭はすぐに答えを求められた。
「……そうかそういうことか」
そう言って俺は目の前に広がる漆黒の花を俺は見つめるのだった……。
知恵理side
「日向!!」
私の近くでナギちゃんの叫ぶ声が木霊してきました。
でもその声は私の朦朧とした意識を一気に覚醒させてるには十分すぎるもの。
私は“ヒナ君の名前”だけで敏感になっていたのです。
「ヒナ君!!うっ!!」
「知恵理!!!!」
慌ててヒナ君の名前を呼び起き上がろうとしたけど私は激しい頭痛に襲われました。
それと同時にコウ君の声がすぐ近くから聞こえてきて私は心配そうに名前を呼ばれます。
それに私は頭を抑えながら薄く目蓋を開き。
「大丈夫ですか?」
目の前に現れたコウ君の笑顔を見つめました。
そして私は気付きます。私はコウ君にお姫様だっこされていました。
でも私はそんなこと気にもとめません。なぜならもっと大切なものがあったからです。
「コウ君!!ヒナ君どうかしたの!?」
私は痛む頭を我慢せずにコウ君に大声でそう聞きました。
するとコウ君はただ無言で視線を私から外して別の方向を見ました。
その瞬間……。
ドカッ!!ドカッ!!ドカン!!
耳を塞ぎたくなるような激しい音が私を襲います。
その音に従って音のした方向を見てみると……。
ザパ―――――ン!!!!!!!!
その場所では白い大きな水しぶきが天高くに舞い上がっていました。
竜巻のように水が激しく舞うその光景はまるで竜が暴れまわるかのように激動しています。
シュンッ!!!!!!
そして次の瞬間水しぶきの中から紅く弾丸のように何かが弾け飛んできました。
丸く丸まった紅い塊。
ふと気付いたらその紅い塊は回転しながらこっちに向かってきます。
私がそう思って紅い塊を見たその瞬間……。
バサッ!!!バサッ!!!
塊を包んでいた紅い翼が閃いて幼馴染の天使が現れました。
腕に“雨の死神”を抱えながら……。
「……日向!!」
私を抱えるコウ君の顔が驚きに変わりました。
なぜなら今は未来を見る右目【未来図】の力を閉じているからです。
おそらく――いえ、たぶんコウ君もナギちゃんもマキ君もヒナ君が水城さんを助けるなんて考えていなかったと思います。
だけど私はヒナ君は水城さんを助けると確信してました。
だってヒナ君は誰よりも優しいんですから。
「コウ君……私…もう立て……る…よ?」
「え?」
私は顔に笑顔を作りながらコウ君にそう言います。
始めコウ君は驚いた顔で私を見ましたが私を見たコウ君はすぐに悟っていました。
そういうことは長い付き合いなので私にはすぐに分かります。
私達はそんな関係なんですから。
「……すみません知恵理」
「気に…しない……で」
そう言いながらコウ君私を水の溜まった地面に降ろすとヒナ君と水城さんのもとへ駆け寄っていきました。
コウ君はもともとあっちとの繋がりがあるから水城さんのことも心配になったんだと思います。
私達の関係はそのあたりのことはよく分かっていますからね。
バサッ!!!バサッ!!!
ヒナ君は水城さんを抱えながらゆっくりと降りてきました。
その下ではコウ君が水城さんを受け取るために立ち今か今かとそれを待っているような気がしました。
「ふー……」
そしてその光景を私はまだ少しふらつく体を私が閉じ込められていた鳥籠に預けながら眺めています。
頭はまだフラフラするけどだいぶ落ち着いてきたかな?
とにかく私はまだ本調子じゃないけどだいぶ体が回復しました。
――ふと気付くと水城さんをコウ君に預けたヒナ君が私に微笑みながら手を振ってるのが見えた。
少し子供っぽいその仕草は私の顔をつい笑顔にしてしまう。
ヒナ君の笑顔は私にとってそれくらいの力がある特効薬になります。
「もうヒナ君たら……」
ヒナ君の笑顔に応えようと私は右手を軽く挙げて笑顔を作る。
ヒナ君も私の笑顔を見たからかさらに増して満面の笑みを作り私の方へ駆け寄ってきます。
それにマキ君とナギちゃんは呆れた顔をしながらも微笑ましそうに私達を温かく見てきてそれに気付いたのかコウ君もこちらを振り返りました。
その瞬間コウ君の右目が赤黒く光り輝いた。
「知恵理!!!!!!!」
コウ君の叫び声が部屋全体を震わせる。
それに合わせて発せられた言葉は――私の名前。
コウ君の声は確かに私の名前を叫んだ。
え……?コウ君なんで必死に私の名前を呼ぶの?
私は頭が混乱しそうになりました。
目の前ではコウ君が必死になって叫びマキ君とナギちゃんはそんなコウ君の異常を察知してグローブの“雷神”と鉄扇の“風神”を出す。
そしてヒナ君は……。
「日向!!急いで飛んで知恵理を救出してください!!」
「輝喜……………!?まさか“未来図”か!!」
ヒナ君はコウ君の赤い悪魔の瞳“未来図”を見て何かを察したかのように私に向かって飛翔してきます。
いったい何が起きてるの!?
混乱して私の頭がパンクしそうになりました。
みんながみんな私の知らないところで何かに慌ててる。
それだけは分かりましたけど私はただただことの成り行きを分からないまま見ることしかできません。
私がことの中心であるにも関わらず……。
「……!?チエ!!逃げろ!!」
「え……?」
未だにうまく体を動かせない私に突然ヒナ君は叫ぶ。
その瞬間だった。
ゾクッ……!!!
後ろからとてつもない威圧感を感じたのは。
ヒナ君みたいな温かく包み込むのとは違う。例えるなら水城さんみたいな冷たく大きい威圧感。
――うんうん。たぶんそれも違う。
水城さんはあの冷たい心の中に何か別――それこそヒナ君に似た何か――のものがあった。
でもこの威圧感にはそんなものは一切ない。
ただ純粋に私を恐怖に陥れることしか考えないそんな感じがした。
シャ――――ッ!!!!!!!!
後ろから何かが切り裂かれたような音が私を襲う。
聞いたことない音でした。
「……………」
だけど私はその音の正体を確かめるためにゆっくりと首を後ろに回していきます。
後ろを向くのが――相手の顔を見ることがこれほど怖いと思うことはこれまでありませんでした。
だけど私にできることはただ後ろを振り向いてどうやったらこの威圧感から逃げられるか考えるだけです。
だから私は振り返りました。
その先にある恐怖が一体何なのかを確かめるために……。
「………!!!」
――振り向いた私を待っていたのは鉄でできた腕。それだけでした。
そうそれだけ。脚もお腹も胸も背中も首も頭すらなくただ引き裂かれた【空間】から鉄の腕がただ飛び出しているだけ。
それだけ……でした。
「い……いやっ!!」
だけどたったそれだけでも私を恐怖に陥れるには十分すぎる何かがあった。
私を恐怖に陥れる威圧的な【空間】が……。
日向side
「くそっ!!あれが輝喜の未来図で見たものかよ!!」
俺は突如として現れた鉄の腕からチエを助け出すために滑空する。
今の俺はただチエに向かって飛翔することしか考えられなかった。
しかし水城との闘いで傷つき疲れきったこの体があまり思うように動いてくれない。
そんな状態に俺はかなり焦っていた。
バサッ!!!バサッ!!!
翼を羽ばたかせることしか考えず見つめる先の少女に迫る鉄の腕を引き裂くことだけを考えて俺は飛翔し続ける。
チエを失いたくなかった。
もう俺の目の前で大切なものを奪わせてたまるか!!
頭の中に描かれたのは記憶にある“兄貴”が最後に笑顔を見せた場面。
俺の記憶の中から薄れていくあの笑顔だった。
ガシャンッ……!!!!!!!
チエを襲う金属の腕が鳴らした音が俺の耳を通じて頭に鳴り響く。
それと同時に俺の頭の中の映像も切り替わった。
――チエ……。
変わって頭に流れ込んできたのはいつも俺に見せてくれるチエの笑顔だった。
毎日毎日……俺を温かく包み込んでくれる“太陽”のような微笑みを。
俺は…俺は…あの温もりを失いたくない。
あの幸せを…安らぎを…あの愛しさを……失いたくない。
「うあぁああああ!!!!!!」
キンッ!!!!!!
そう思った俺はただ闇雲に桜を鞘におさめた。
日輪の炎【飛炎】【斬炎】は効果範囲が大きすぎてチエにまで当たっちまう。
逆に【焔壁】は効果範囲が狭すぎるうえ飛んだまま使役できない。
だったら俺にできることはただ1つ。
「【日輪流炎術】」
俺の“速さ”をもってあの腕を切り落とす!!!
「【三式】!!!」
シュンッ!!!!!!
チエの顔を俺の体で霞めながら通り過ぎる。
1秒にも満たないその瞬間後ろの腕に振り返っていたチエの顔が驚きと喜びになっていた。
「ヒ…ナ……く…ん」
その声は確かに俺の耳に届き俺を導いた。
そして俺はチエを助けるために銀色に輝く刀身を漆黒の鞘から抜き去る。
――間に合え……!!!
刀を鞘から抜き出すその勢いのまま相手を切り裂く神速の技。
それは俺が最も得意で最も俺の魂にあった戦闘術。
神速の居合い切りで鞘から刀を抜刀する瞬間に発火させる瞬炎。
その真なる力は……。
「【瞬陽】!!!!!!!!」
ガンッ!!!!!!!!
「燃え尽きろ!!!!!!」
――切り裂いた敵をそのまま火葬まで導く力なり。
「そして地獄に堕ちろ」
俺は神速の勢いで滑空しギリギリのところで鉄の腕に居合い切りを放ちチエに届かせる前にそれを阻止した。
水城のときとは違う。水城のときのように日本刀の刃の“峰”ではなく“刃”で受け止めた。
なぜなら俺は本気でこの腕を切り落とす勢いだったからだ。
居合い切りは確かに俺が最も得意とし最も俺の魂にあった戦闘術である。
だけどそれは同時に俺の日輪流炎術で最も相手を殺しやすい技でもあるのだ。
だから真の力は水城には使わず今回は使う。
あれは“敵”だからだ。
ボ――――ッ!!!!!!!!
そして鉄の腕は発火する。
その炎は腕から肩へとつたいやがて全身を焼き尽くす。
過去の俺から流れてきた記憶ではこの技を使い人を殺したことはないし今も殺す気持ちはない。
すぐにこいつを引っ張り出してなぜチエを襲ったかを聞き出すつもりだった。
でもそれが俺とチエにとっての命取りとなった。
「地獄道の扉【開門】」
その声は突如として時雨の間全体に響き渡る。
しかしそれは引き裂かれた空間から燃え盛りながら伸びる鉄の腕から発せられた言葉ではなかった。
どこから発せられているのか。はたまたどのようにして発せられているのか。
それすらも分からなかった。
「―――"拒絶門"―――」
――"きょぜつのもん"――
静かに――しかしはっきりと放たれたその言葉。
それは俺達を虚構へと連れて行く悪魔の呟きだった。
シャ――――ッ!!!!!!!!
シャ――――ッ!!!!!!!!
シャ――――ッ!!!!!!!!
シャ――――ッ!!!!!!!!
次々と鳴り響いてくる空間を切り裂く音。
それと同時に俺とチエの周りの空間が次々と引き裂かれあの鉄の腕が大量に出てきた。
「幻術師……」
呆然とした口調で俺はそう呟く。
目に見えるのはこっちに延びてくる数十本の鉄の腕。それは間違いなく俺を絶望へと追い詰める。
手に持つ“桜”を握る手は弱まり目の焦点を合わせられず体が硬直してしまいうまく動かせることができなくなった。
そこで俺は全てを失う覚悟を持ったのである。
――だけど俺はそれでもチエだけは離すつもりはなかった。
ギュッ……!!
「……ヒナ君?」
硬直してしまいうまく動かせない体を無理やり動かして俺はチエを抱きしめる。
そしてチエに一度微笑みを見せると目の前から飛び出してくる数十本の鉄の腕を睨みつけた。
「チエは……渡さない!!」
俺はさらにチエを強く抱きしめて体を盾にするようにしてチエの前へと回りそう叫んだ。
そうしている間にチエはその綺麗に輝く双瞳からハラハラと涙が流れ落ちてきていた。
サラッ……
「チエ俺はお前を一緒にいる。問題nothingだろ?」
最後にチエのサラサラとした銀色の髪の毛を撫でながらそう呟いた。
チエの涙を見た俺はこれがチエの一番好きな行為だと知っているからなるべく安心させたかったのだ。
そして俺は――ゆっくりと目蓋を閉じた。
ガシャンッ!!!!!!
鉄の腕を動かしたときに鳴っていた金属音が部屋中に鳴り響く。
その音は俺に対しての最後の猶予だったのかもしれない。
「くそっ!!日向!!知恵理!!待ってろ!!」
「諦めんじゃないわよ!!このっ……馬鹿!!」
見なくても分かる。
真備と凪が俺達を助けるためにこっちに走ってきていることが……。
だけどたとえ能力者の利益“驚異的身体能力”を持つ2人でも飛翔できる俺とは違って部屋に溜まった水の抵抗を受けながらこっちに来るにはかなりの時間がかかる。
ほぼ確実に俺達のところに来るのは無理だろう。
でもそれでも――2人のその声は嬉しかった。
――そして……。
ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!
俺の耳に何かが突き刺さる音が聞こえた。
それは終わりを告げる音なのか――それとも俺の死を告げる音なのか?
分からない。俺には何も分からなかった。
一体俺はどうなったのか?チエは無事なのか?今目を開けたら目の前はどうなってるのか?なぜ体に痛みがないのか?
様々な疑問が俺の頭をぐるぐると周りながら葛藤する。
でも一番の疑問は……。
なぜ――抱きしめたチエの温かさを感じるんだ?
と……体に全くといっていいほど痛みがないことだった。
「ヒナ君……」
「えっ!?」
唐突にチエの声が聞こえてきたのはそのときだ。
すでに自分は死んだものだと思っていた俺は少し切なげなチエの声に驚きの声を出した。
「俺…生きてるのか?」
「うん…ヒナ君はちゃんと生きてるし私もちゃんと生きてるよ」
その言葉を言われた俺は始め何を言われたのか分からなかった。
だが冷静な頭が俺のもとに帰ってくるとすぐに状況を理解してまた新たな疑問を持った。
「でも俺はあの腕に貫かれたんじゃあ……」
「ヒナ君目を開けてみて」
新たな疑問に対するチエの返答はそんな優しい言葉。
そんなチエの言葉だからこそ俺は信頼してチエの言われたとおり瞑っていた両瞳を開く。
「……!!!!!!」
そして最初に――いや飛び込んできた全ての映像が俺の疑問の答えとなっていた。
「これが……私達が今も生きている答えだよヒナ君」
「……やってくれるじゃないか」
ハハハッと乾いた笑みを浮かべながら俺は目の前に広がる光景を目の当たりにする。
それはとても美しい光景だった。
周りには何も見えずただ青い青いブルーのみが映し出される世界。
銀世界ならぬ蒼世界であった。
――間違いなく“あいつ”の仕業だな……まったくどういう風の吹き回しなんだか……。
俺がチエを離さないと思った思いは実を結び現実となりて現れる。
辺り一面の蒼世界……。
村鮫の【水結晶】でできた俺達を囲むように舞い上がる渦潮によって。
「【渦潮・天象】」
それは今朝学校で見せられた渦潮でできた水城の防御用に用いられた技。
それは竜巻に似た水の渦となって舞い上がり全ての技を飲み込み破壊する。
これは今朝レリエルこと俺の親友美濃輝喜が語ったことである。
そして俺は今目の前でそれを実感していた。
巻き込まれては流されていき渦の中心へと運ばれて粉々に粉砕される幻術でできたの鉄の腕。
それはあまりに残酷であまりに頼りがいのありすぎる水のシールドだった。
――……こいつらには手出しはさせない。
それは現実にあった言葉なのかはたまた俺のただの妄想なのか……。
俺はそこで水城の声を聞いたような気がした。
ザッパーンッ!!!!!!!
波が押し寄せてくるような音が響き渡ると同時に俺達の周りの蒼世界は時雨の間の薄暗さへと早変わりする。
そんな頃にはこの部屋に存在する【空間】はすべて元通りになっていた……。
水城side
目覚めた瞬間に目にした光景。それは日向と知恵理の2人が大量の鉄の腕に囲まれた映像だった。
それを見た俺はなぜ自分が生きているのかという疑問はどうでもよくなり村鮫を反射的に振るっていた。
「……【渦潮・天象】」
ザッパーンッ!!!!!!!
俺の声とともに日向と知恵理の周りの水が彼らを囲むように舞い上がり2人の身体を包み込む。
村鮫の特性は【水結晶】俺が触れた水ならどこにあっても自由に好きな形に固められる能力だ。
だからこんなことは造作もない。
だから問題はそこではなかった。問題は日向と知恵理をあの腕は傷つけようとしたということ。
それだけの一瞬の光景で俺の頭はすぐに沸点に達していた。
「……こいつらには手出しはさせない」
キッと鉄の腕を睨みつけた俺は村鮫のタクトを揮い舞い上がり竜巻のような渦潮を操る。
あれが幻術なのは一目みただけで分かった。
だがもちろんあの技にはそれを見分ける力もないし俺だって基本的には“戦士”だから本物を掴むことは不可能。
しかしあの技にはそんなこと必要ない。ただ飛び込んできたものすべてを破壊すればそのうち1つが本物。
それだけで充分だ。
「……鎮静しろ」
そして最後に大鎌“村鮫”で遠くの物を斬るように渦潮を一刀両断する。
すると渦潮だった水は一気に弾け飛びその姿を自ら破壊させる。これでさっきまでの静寂な空間へと早変わりするのだった。
「……ザコがいきがるな」
「……どういう風の吹き回しですか水城?」
俺を支えていた輝喜肥えをかけてきたのはそのときだ。
しかし俺はそんな輝喜の質問に対して馬鹿にしたようにフッと鼻で1回笑うと目を瞑り独り言ねように呟いた。
「……“時の少女”を護る。それが“時の番人”の仕事だ」
俺は再び目蓋を開かせるとどこを見ることもなく視線を上へと上げた。
そして誰にも聞こえないように――誰にも聞かせないように俺は心の中で呟くのだった。
――……そうだろ“空”?
知恵理side
「水城…いったいどういうつもりだ?」
みんなで1度集合して話し合おうとしたとき始めに出てきた言葉はヒナ君から水城さんに向けてのその1言でした。
まだうまく歩けない私に手を貸しながらも少し睨みながら水城さんにそう問いたヒナ君。
でも水城さんはヒナ君の言葉を聞くと逆にあの無表情な目でヒナ君を見つめながら問いかけました。
「……それはこっちのセリフだ」
「なに……」
水城さんの言葉にヒナ君は少しだけ不思議そうな顔をすると再び水城さんを睨みつける。
それに負けじと水城さんも無表情のままヒナ君を見ていました。
『…………』
一触即発。この2人なら戸惑いなく第2ラウンドをしそうです。
でも私はそうしてほしくありません。だから私はこの危険な空気を壊しました。
パシッ!!
「いたっ!?」
「ヒナ君!!助けてもらったら助けてくれた人に必ずお礼を言わなきゃだめ!!これは人としての最低限のマナーなんだからね!?めっ!!」
ヒナ君の頭を軽く叩いた私は少しだけ痛そうな顔をするヒナ君を少し叱りつけます。
するとみんな予想外だったのかセッちゃんと無表情な水城さん以外のみんなは私の顔を見てポカンとしてました。
『…………』
そして再び沈黙が流れます。
でも今度の沈黙は一触即発な空気は一切なくただみんな呆然としているだけでした。
だけどそんな誰もが呆然とした沈黙を破ったのは……。
「はぁー俺はガキかよ」
沈黙を破った人物。私が叱りつけたヒナ君は少し自嘲ぎみになりながらそう呟いて水城さんの方に向き直り。
「助かった。ありがとう」
そう言って水城さんに頭を下げました。
「私からもお礼をいわせてください。ありがとうございました」
それに続いて私も水城さんに頭を下げお礼の気持ちを述べます。
それが人としての最低限のマナーでありこの場の空気を変えることであり水城さんへの感謝の気持ちを表す行為であるからです。
そして私達の行為に対して水城さんは僅かに手を挙げて。
「……礼には及ばない」
とそれだけ語るといつも通りの無表情な顔でそう言いました。
そして少しだけ間を取って今度は水城さんから話し始めました。
「……では聞かせろ。なぜ貴様は俺を殺さなかった?」
常に情に流されない水城さんらしい言い回し。
だけどヒナ君も水城さんの無表情に対抗するくらいに顔を歪ませてそっと呟きました。
「“ただの気まぐれ”という名前の弱さだよ」
その言葉に私達は納得して水城さんは少し驚いたような雰囲気になります。
相変わらずの無表情ですが水城さんは少し顔を伏せるとため息を出し。
「……そういえばお前はそういう奴だったな」
とそれだけ呟いて黙り込んでしまいました。
それを見た私達は誰も何も言うことなくこの話を終わらせ新しい話題を出します。
でもこれからは本題とも言うべき大問題……ヒナ君達の顔は誰もが真剣な顔つきになった。
「……輝喜現在の状況を説明してくれ」
「えぇ、分かりました」
マキ君がコウ君にそう促してコウ君もそれに頷くとポケットからあのリモコンを出して私達に見せるように掲げる。
そして私達の現在の状況を話し始めました。
「このリモコンはこの部屋の操作全体をするためのもの。これは今まで皆さん見てきましたから分かりますよね?」
全員が黙って頷く。
「……そしてここにある赤いボタンがこの変形の間の鋼鉄の扉を開くためのボタンです。ですが……」
コウ君はリモコンの一番右上の端にある大きな赤いボタンをポチッと押す。
だけど部屋は何も変化は現れません。
「コウ君…どういうこと?」
マキ君以外薄暗いこの部屋の中でも分かるくらいに顔が青くなっている中私はコウ君にそう聞いた。
するとそれに答えてくれたのはヒナ君でした。
「いいかチエ?俺達はこの部屋の中にいる。この部屋の入り口はあの鋼鉄の馬鹿でかい扉しかない。そしてその馬鹿でかい鋼鉄の扉は開かない。ここまで言えば分かるだろ?」
「マジかよ……」
マキ君が何か分かったみたいにそう呟く。
そしてかくうえ私もヒナ君の言葉で現在の私達の状況を改めて知りました。
私達は今この部屋に……。
「閉じこめられたの?」
「……そういうことだ」
少し悔しそうにヒナ君は言うと歯をかみしめながら目を伏せました。
その姿を見た私は支えてもらってる右腕に力を入れてヒナ君の腕に抱きつき少し目を閉じてヒナ君を感じる。
このとき私は自分の非力さを改めて感じました。
ヒナ君みないに頭がいいわけじゃなくマキ君みないに運動ができるわけでもない。そんな私にできることは……。
きっとヒナ君はどうしたら無事に脱出できるか考えてくれる。
私はそう信じることだけでした。
日向side
くそっ!!何も思いかねぇ!!
俺は――俺達は内心かなり焦っていた。
現状はかなり最悪な展開へと激動的に突き進み俺達を追いつめている。
そもそもこの部屋“時雨の間”は水を入れるバケツのような状態の部屋。
天井から降ってくる雨に似せた水はすでに地上で俺達の脚を覆い隠さんとするくらいまで上がってきている。
それに付け加えて部屋の入り口が塞がれたとなるとかなり絶望的だ。
そんな状態に俺達は追い込まれていた。
ギュッ……!!
俺の腕には水で身体が冷えて震えてしまっているチエがギュッと抱きついている。
周りを見渡せば水城は無表情を崩さないままただただ目を伏せているが他のメンバーは真備は凪を輝喜は刹那をそれぞれ抱きかかえながら寒さに耐えている。
特に凪と刹那はミニスカートだから脚が完全に露出しているためかなり寒そうだ。
「くそっ!!」
そんな状況を見て冷静さを保っていられるわけなく俺は脚下の水を殴りつけた。
バシャッ!!
強く叩いた水は弾けるように空中を舞い俺とチエに降りかかった。
その結果。結構な量が俺とチエの身体にかかり全身をびしょ濡れにしたのだった。
「ごめん!!チエ!!」
少し気が動転してしまっていた俺は慌ててチエに謝罪する。
すると今まで俺の腕に抱きついていたチエはその両方の眼をゆっくりと開くと俺にニッコリと笑みを浮かべてくれた。
「大丈夫だよヒナ君」
優しくかけられるその言葉に俺は――俺達はただ聞きほれてしまう。
こんな状況だからこそチエの温かい言葉は俺達の身体の冷えをゆっくりと温めてくれた。
「みんなも……大丈夫。私達は必ず助かるよ」
今度は俺だけではなくみんなにかけられた言葉。
それだけで俺はこいつの凄さを改めて実感しることができる。
どんな状況でも言葉1つで全員を救ってしまうチエのことが……。
「ふぅー……」
チエの言葉を聞いた俺は一度大きく深呼吸をするともう一度辺りを見渡した。
まず見えてきたのはすぐ目の前で周りにいる俺達を見渡している俺の親友で友達思いの“真備”能力は【雷】
そしてその真備に背負われながら俺と同じように心を落ち着かせるために目をつむっているのは“凪”能力は【風】だ。
次に見えたのはその隣で刹那をお姫様抱っこしながら何か考えている親友の1人“輝喜”能力は【光】で右目には未来を見る力がやどる【未来図】の力がある。
彼にお姫様抱っこされている刹那は未だにあの恐怖が抜けないのか意識が朦朧としていた。
そしてそれから少し離れた場所に1人で立っている黒の長髪の男は“水城”能力は【雨】
上を見上げれば高いところに天井がありそこから大量の水が雨みたいにふってきている。
下を見れ溜まりに溜まった水が脚を覆い隠さんとしていた。
これが現在俺にある情報の全て。すなわちこれを使ってこの部屋を……!!
『あった!!!!!!』
俺が叫んだと同時にもう1人俺よりも高い声があがる。凪だ。
「凪…方法があったのか?」
「えぇ…たぶんあたしの考えていることはあんたの考えてることと一緒よ」
だとしたら……これの問題点も分かっているはずだな。
そしてそれの解決策も。
「タイミングの問題は?」
「輝喜が“未来図”で何とかしてくれるでしょ」
「俺達に被害が来ないためには?」
「その問題はきっと彼が解決してくれると思いますよ」
そこに第3の声が加わってくる。輝喜だ。
輝喜は何かを含むような言い方をするとクスリと笑いながら後ろを振り返った。
「ですよね水城?」
「……俺に指図するな」
ぶっきらぼうに水城はそう言うと手に持った村鮫を肩に担ぎこちらを無表情のまましっかりと見た。
「……俺は何をすればいい?」
その言葉を聞いた俺は条件が完璧に揃ったことを確認した。
隣で不思議そうに首を傾げるチエ。俺は彼女の頭にポンと片手を置くと微笑んだ。
「ありがとよチエ。お前のおかげで問題nothingだぜ」
「……ほぇ?」
ポカンと可愛らしく口を開けたチエに俺はもう一度微笑むと全員のほうを向く。
凪と輝喜と目を合わせて頷きあった俺はこの作戦のキーポイントとなる真備と水城に説明するため最初に口を開いた。
「【電気分解】を使う」
その単語に真備は首を傾げるのだった。
作「次回予告!!!!!!」
真&輝『早っ!?』
輝「ちょっとすみません作者!!いきなり次回予告なんていくらなんでも早すぎですよ!?」
真「ていうかなんで今回は俺と輝喜しかいないんだよ!!」
作「…………」
真&輝『作者?』
作「…………(-_-)zzz」
真&輝『寝てるっ!!??』
真「ちょっ!!どういうことだよ!?作者が寝るなんて!?」
輝「それによく見たら俺達以外もちゃんと居ました」
真「マジで!?」
輝「えぇ……寝てますけど」
真「……はい?」
知「すやすや(10時寝)」
凪「くーくー…(寝る子は育つ)」
日「すぴー…(こいつはいつも通り)」
作「ちなみに今は深夜3時だから俺も眠いんだよ」
真「あ。作者起きた」
輝「つまり起きてる俺達のほうが異常なんですね」
作「だから俺もさっさと次回予告してさっさと寝る。
さて次回はいよいよ第一章最終回!!
日向は新たな一歩を踏み出すために翼を広げ知恵理は未来のために決意する。
2人の新たなスタートに凪は笑顔を見せ真備は拳を固める。
そして“時の番人”に輝喜は選択させられ新たな恋も巻き起こる。
次回【時の守護者】」
日「問題nothinzzz……」
真「だめだこりゃ」
輝「しまりがありませんね」
作「まぁそういうことだから俺は寝る。おやすみ」
真&輝『おやすみなさい』
次回に続く!!