第42話 時雨の間
輝喜と真備、果たしてその勝負の行方とは?
水城の部屋とはいったい?
そして、彼らに近づく影がもう一つ……。
では、本編をどうぞ!!
???side
「ここか……」
時は少し遡り、輝喜がまだ正体を明かしていないときに、一人の男が日向達がいる洋館の前に立っていた。
容姿は黒いフードに隠れているため伺うことはできない……。
だが、彼こそが昨日不良グループ【アンチチェーン】に知恵理と凪を襲うように依頼した張本人である人物だ。
「……時の番人も動き始めたと聞いたが所詮はたかだか東洋の島国にある弱小組織……【雨の死神】【破壊の旋律】そして【紅翼の天使】以外にこの組織には興味はない……」
男はフッと鼻で一回笑うと被っていたフードをとる。
そのとき露わになった顔はもし日向達が見ていたらおそらく輝喜のときと同じ反応をしただろう……。
だが、この場に日向達はいない。
だから男は悠々とその容姿をさらけ出すのだった。
「【破壊の旋律】が組織を離れている今が絶好の機会、我らが計画のために早く【時の少女】を奪うことにしますか」
その男の容姿は黒い瞳に整った顔立ち……そして彼の長い髪の毛は後ろで一括りに縛られていた……。
そう、フードをとったこの男は昨日、桜時学園に転校してきた男……。
「それが我ら【ユニオンクルーズ】の目的であり【ユニオンナンバーズ】の存在意義なんだからな」
その男【李・悶】は着ていたコートを脱ぎ捨てる。
彼が下に来ているのは両肩を露出させた戦闘用のチャイナ服……。
そして彼の左肩には【Ⅳ】の刺青が彫られていたのだった。
「地球という宇宙船の乗組員に選ばれし我らにご加護を……導師」
そう言うと彼は左手を前に出し力を込める。
そのときの悶の目つきはまさしく血に飢えた獣……今にも発狂しそうなくらい怖ろしい目となっていた。
だが、悶はそんなことお構いなしに左手の力を強くしていく。
叫びに似た呟きと共に……。
「発動!!!!【地獄の門】!!!!」
悶の左手周辺が赤く染まり金属の形に変形していく……。
爪は金属製の鋭く大きいものとなり、腕から肩にかけて刺々しい金属が覆うように形を造っていき……最終的には左手全体が金属製の武器となった。
(分かりにくい方はルルーシュのナイトメア【紅蓮】を参考にしてください)
ジャキッ!!
重々しい金属音を出しながら悶は左手を構えなおした。
「戦闘義手の魂狩【地獄の門】!!!!」
ユニオンナンバーズの魔の手が日向達に迫ろうとしていた……。
日向side
ドカーーーーンッ!!!!
目も開けられないほどの激しい【雷光】と【閃光】の中、とてつもない音が耳を貫く。
まるで飛行機のジェットエンジン。それが爆発音だと俺が気付くのにはさして時間はかからなかった。
「くっ!!」
その爆発がもたらしたのは激しい狂音だけじゃない。
次に俺達に襲いかかってきたのは爆発による爆風……。
俺はその風に耐えるために地面に刀を突き刺した!!
「キャーッ!!」
知恵理の叫び声が俺の耳にこだまする。
俺はこのときほど知恵理の側にいなかったことを後悔したことはなかった。
「ぐぐぐ…!!」
自分のことで精一杯だが、俺は必死に知恵理のいる鳥かごのほうを見る。
……そうだ!!
今のこの爆風に体を任せればもしかして……!!
頭をフル回転させてシミュレーションを行い俺は問題nothingだと確信した。
幸いこの部屋は狭いため風はあらぬ方向へと行ったり来たり。
それを確認した俺は……。
知恵理のいる鳥かごに思いっきり跳ぶのだった!!!!
「はーーっ!!!!」
ガシャンッ!!
勢いよく跳んだ俺は鳥かごにぶつかる。
「!?」
だけどぶつかった衝撃に俺は気をとられてしまい鉄格子を掴めない……!!
ガシッ!!
……まあ、鉄格子を掴む気はさらさらなかったけどな。
「ひ、ひな君……!!」
「問題nnthing……知恵理……」
俺の掴む目標はただ一つ。
最も大切な銀髪の少女だけだったからな……。
「……安心しろ知恵理……俺がそばにいるから……」
「ありがとう……【日向】」
そう言って俺達は鉄格子ごしに抱き合うのだった……。
……………………
……………
……
…
……どれくらいたったのか?爆風はいつの間にかやんでいた。
そのことに最初に気がついたのはたぶん俺……。
いや、水城は気づいていたかもしれないがあいつの場合は例外。
たぶんあいつは気がついても言葉一つ話さないだろうからな……。
ま、ともかく爆発のせいで耳の感覚はさっぱりないんだけど……抱き締めた腕の感覚があったことに俺は顔をほころばさせるのだった。
「……知恵理?」
「はえ?」
知恵理はまだ爆発が終わったことに気づいてなかったみたいだな。
でも……無事でよかった……。
知恵理の無事に安心した俺は抱き締めた手を緩め、知恵理の頭を撫でる。
この動作は知恵理が最も好きな動作だから知恵理はそれだけで安心し、笑顔になった。
俺が一番好きな笑顔に……。
そして俺が頭を撫でたことで知恵理はある程度落ち着くことができたみたいだ。
……でも、本当は俺も知恵理も不安でいっぱいだった。
「……ひな君。コウ君とマキ君……」
「問題nothing。わかってるよ」
笑顔から一転、不安そうで悲しそうな顔を浮かべながら俺を見る知恵理。
そんな知恵理の言葉を俺は優しく遮り、変形の間を見渡すために鉄格子に掴まりながら体を回転させるのだった……。
振り返った先に真備と輝喜の姿はどこにも見あたらなかった……。
「は!?」
「嘘……!!」
その映像に俺は声を荒げ、知恵理は口元を手で抑え目を見開く。
「……すみません。俺はここにいます」
真上から輝喜の声が聞こえるまでの話だったけどな。
「イッテーーーッ!!!!」
そのとき!!真備の声が部屋中に響き渡った!!
……隣の部屋。つまり【回復の間】からだ。
いったい何が起こってるんだよ!?
「はははは……ヒナタンの思ってることはだいたい想像つきますよ」
真上……つまり天井から鳥かごを吊り下げている鎖に輝喜掴まっている輝喜はそう言っていつもの笑顔を見せるのだった。
「……で、なんで輝喜はそんなところにいるんだ?」
「えぇ、簡単に言うとただ爆発に吹っ飛ばされただけです」
本当に簡単かつ簡潔な説明をありがとう。
その説明だけで状況理解をすることができた。
大まかに言うとさっきの爆発で輝喜はここまで、真備は隣の部屋まで吹っ飛ばされたってことか……。
……あそこに人一人くらいの穴が壁にあいてるし。
ていうか、この部屋の壁って鋼鉄製じゃなかったっけ?
「ちなみにこの部屋の壁はデモンさんの【アマテラス】と同じ装甲になってるんですよ?」
「……いらない情報をありがとう輝喜……本当によく無事だったな……真備」
あれって俺の紅翼でも傷つけられなかったよな?
……どんだけの勢いで吹っ飛ばされたんだよ。
俺がそんな二人に呆れていたそのとき……。
ガラッ!!
「う〜……イテテテッ……」
隣の部屋との穴から人影……真備が現れたのだった。
全身の傷からはすでに血は流れていない。
どうやら心配はいらないようだな。
「……無事でしたか」
「……あぁ、おかげさまでな」
二人はそう言って苦笑いを浮かべあった。
その姿にはすでにお互いに対する敵対意識はない。
本当に……いつもの二人の姿だった……。
「あ〜ぁ!!結局決着つかなかったな!!」
「そうですね……真備の言う通りですね」
真備の言葉に輝喜が同意する。
ま、俺と知恵理との約束だからな。
だから……。
「……マキ君。……コウ君。……まだ闘うの?」
……知恵理、そんなに心配しなくてもいいって。
真備も輝喜も約束を破るやつじゃないし、二人とも優しい顔してるだろ?
だから何も心配いらないよ……知恵理。
「……ふふっ、そんなに心配しないでくださいチエリン♪」
「だな。俺達の闘いはここまでだ……」
輝喜はいつもの口調に直して。真備は少し自重ぎみに知恵理を安心させようとする。
そして、二人は苦笑いしながら真備は【雷神】を輝喜は【恍穿弓】を上に掲げるのだった。
「このパーティーは……」
「俺達の闘いは……」
『引き分けだ(です)!!』
二人で合わせて答えた瞬間、二人の手にあった【雷神】と【恍穿弓】が姿を消したのだった。
「はぁー……まったくあんたたちは……」
今まで言葉を出してなかった凪が少し呆れながらも嬉しそうに言う。
「マキ君……コウ君……」
知恵理は若干目に涙を貯めながらも必死に笑顔を創っている。
今回はうれし涙だから特に止めるつもりはないさ。
「ま、問題nothingってことなだな」
そして俺もちょっとクールぽくそう言うが……。
やっぱだめだ。嬉しすぎてどうやっても顔がにやけてしまう。
そんな俺を見た真備と輝喜もお互いに顔を合わせ、今度は真備は少し口元をにやけさせ、輝喜は溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
「あぁ、問題nothingってことだな!!」
「えぇ、問題nothingですね!!」
「……おいコラ、俺の口癖勝手に使うんじゃねーよ……真備?輝喜?」
俺の口癖と口調を真似しやがった。
……別にいいけどな。
「……ヒナ君?」
「……今回だけは許してやるか(ボソ)」
そう呟いて俺は知恵理のサラサラな銀髪を撫でる。
その顔に優しい笑みを浮かべながら……。
「ふふっ、ヒナタンとチエリンはいつも通りですね♪」
「はぁー……まったくよ、さっきはお互い抱き合ってたしね……」
「おっ!?マジかよ!?いや〜やっぱお前らただの幼なじみじゃないんじゃねーのか?」
「えっ!?そ、そんな……私と……ヒナ君は……その……」
「問題nothing……じゃねーよ!!てめーら、俺と知恵理で遊ぶんじゃねー!!!!」
たくっ、何なんだよコイツらは……。
毎度毎度俺と知恵理をからかいやがって……。
……でも、やっぱ俺達はこうじゃなくっちゃな。
もしかしたら輝喜と笑いあえるのはこれが最後なのかもしれないし……。
……………………
………………
…………
……
「……もういいのか?」
俺達が数分の間笑いあったころ、ついにあの男が口を開いてきた。
あいも変わらず無表情な顔で、口調も何も一定のままで。
「……あぁ、問題nothingだ」
水城の言葉に俺達の顔は引き締まる。
だがそれも当たり前なこと……。
……なぜなら、この声はまた新たな闘いの始まりを告げるものだからだ。
「……次はお前の部屋か、水城?」
「……あぁ、そうだ」
俺の言葉にも淡々と表情を崩さずに答える水城。
そして水城は真っ黒な服の腰あたりに手を突っ込むのだった。
「またそれかよ」
出てきたのは輝喜がこの部屋に入ったときに持っていたリモコンと同じものである。
そのリモコンで今からすること……。
考える必要がなくわかった。
「……では、これから私の部屋に案内させていただこう」
ポチッ
水城はそう言うとリモコンのボタンの一つを押したのだった……。
ゴゴゴゴゴ……!!
再び動き始める【変形の間】
白く大きなタイルが何枚も合わさったような壁は、一枚一枚裏返っていく。
その裏は今まで見えていた白い壁とは真逆、一枚一枚が真っ黒だった。
ガタンッ!!ガタンッ!!
その色は現すのなら漆黒の夜、今までの純白のタイルがまるで昼間のようで明るかったからこの状況は本当に真逆である。
ザーーーーッ!!!!
『!?』
俺、知恵理、真備、凪は次に聞こえてきた音に思わずビクつく。
慌ててそっちのほうを向くとそこにはさっきまで偽物の輝喜がいたところ。
そこから大量の水が流れ落ちていた。
「な、なんだ!?」
ガタンッ!!
俺が水が溢れている場所を見て驚いていると次は俺、知恵理、輝喜がいる鳥かごが少しずつ下がり始めた。
ザーーーーッ!!!!
少しずつ鳥かごが降り続ける中、部屋の中では着々と水が溜まっていく。
気付けば元々下にいた真備はすねの半分くらい。凪に至っては膝のあたりにまで水が来ていた。
だけど、そこまで。
そこまで水が溜まると水のなだれ落ちる音がいっきになくなった。
ガチャンッ!!
……それと同時に俺達を乗せた鳥かごは地面へと到着する。
いつの間にかさっきまでの【静寂の間】【鏡の間】ね雰囲気とはかなり変わっていた。
壁が全部黒くなったため薄暗く、少しの明かりでやっと部屋全体を見渡せられるほど。
足元は膝、もしくはすねの辺りまで水で溢れかえってる。
しかも……。
ポツリッ……ポツリッ……。
頭上から水滴が落ちてきて俺達の頭を濡らす。
それはだんだんと大降りになり、やがて……。
ザーーーーッ!!!!
やがて豪雨のごとく俺達をずぶ濡れにさせた。
そんな中でいつの間にか部屋の中央に立っていた水城は話し始めた。
「……この部屋は【夜の豪雨】をイメージして造られている」
キンッ!!
水城の手から光る物体が放たれる。
それは俺のほうに投げられた物……俺は迷わずにそれをキャッチした。
パシッ!!
「……鍵?」
それは知恵理の髪のように輝く純銀でできた鍵……。
だが、俺にはそれの使い道がすぐにわかった。
「……いいのか?」
「……構わない。寧ろこの部屋でその鳥かごの中にいるのは命を捨てるようなものだからな」
……俺はその言葉を聞き、俺は迷うことなく知恵理がいる鳥かごに向かう。
目的はただ一つだ。
「……ヒナ君どうしたの?」
「ちょっと待ってろ。今出してやるから」
俺は知恵理が閉じこめられている鳥かごの鍵穴にさっき渡された鍵を差す。
そしてそれをゆっくりと回すと……。
カチャッ!!
鳥かごの鍵は何の抵抗もなく開け放たれるのだった。
「水城!?」
その光景を見ていた輝喜は驚きの声色で水城の名前を呼んだ。
でも、それを気にすることなく水城は話を続ける。
「……では、この部屋の説明をしよう」
そう言うと水城は水で満ちた地面を差す。
「……この部屋の特徴はこの水だ。この水は足場を悪くする働きと【俺の特性】を100パーセント発揮するためにある」
水城はそこまで言って今度は真上を指差した。
「……そしてもう一つの特徴は上から降り注ぐこの雨。この部屋はいわば水槽と同じ状況……ここまで言えば分かるだろ?」
……水城の言葉は俺にとってありがたいことであり……最悪な言葉だった。
「なるほど、だから知恵理を解放したのか……」
「……そうだ」
俺はこのとき少しだけ水城に感謝した。
水城の言う通りだったらこの部屋はいわば水が溜まっていくバケツ。
知恵理があんな鳥かごにいたら水が上がったら間違いなく助からないからな。
「……さて、そろそろ始めるか」
水城は右手を前に突き出す。
漆黒の服装に漆黒の髪、それにどこまでも無表情を崩さない顔。
部屋の中は真夜中みたいに真っ暗、さらに今上から降ってきているのは雨に似た大量の水。
「……【村鮫】……発動……」
ザーーーーッ!!!!
それに【村鮫(大鎌)】が加わるとまさしくその姿は……。
「……【雨の死神】」
ザシュッ!!
村鮫の発動により発生した滝のような水を水城が切り裂く。
そこから現れたのは大鎌を担いだ水城だ。
「……【時雨の間】にようこそ【紅翼の天使】」
……その表情を少しも緩めることなく無表情で言う水城。
だけど明らかにこの部屋は俺対策の部屋としか思えなかった。
まず、俺の能力は【炎】それだけでも不利なのに……。
水城、知ってるか?
……俺はな……。
……泳げないんだよ。
作「ちわー!!今回は日向の秘密について教えちゃいます!!」
輝「と言っても一回出てきたことなんですけどね」
知「でもヒナ君の唯一とも言える弱点だし……みんなに覚えてもらうためにもう一回言ってたほうがいいんじゃないかな?」
日「……余計なお世話だ」
作「てなわけで日向の秘密を教えちゃいます!!」
日「え?俺の言葉無視!?」
作「ではその秘密とは……」
日「や、やめろー!!!!」
バサッ!!
【日向は実は泳げない!!】
作「……というわけです」
日「なんでばらすんだよ!?」
作「問題nothingだ!!」
日「ぜんぜん問題nothingじゃないからな!?つうか俺の口癖勝手に使うな!!」
ガツンッ!!
作「げふっ!?」
日「……いっとき寝てろ」
そして作者は○○○○○だった……。
作「って俺どうなったの!?」
輝「復活早いですね」
作「こんなんじゃおちおち寝てもいられないよ……てなわけで次回予告!!」
知「どうぞ( ^-^)_旦〜」
作「次回はいよいよ本格的に日向VS水城の闘いが始まります!!
日向が圧倒的に不利な状況……。
そんな中で水城がついに特性を発動させる!!
次回【雨粒の結晶】」
日「問題nothingだぜ!!」
知「ところでヒナ君はなんで泳げないの?」
日(過去)「それは必要なかったからだよチエ」
知「え?」
日(過去)「ま、その理由もあと少しで分かるから……」
知「???」
追伸・実際にあと少ししたら日向が泳げない理由が明らかになります。
次回に続く!!