第3話 街での事件
知恵理side
私の目の前には大量の物騒な武器を持ったいわゆる不良と呼ばれる人達がいる。
そしてそれに敵対するように――私を守るために対峙する私の大親友もいました。
「あんた達なんかに絶対手を出させないんだから!!」
ナギちゃんはそう言って私に近づいてくる人達を次々と殴って倒していく。
女の子のさらに小さな体系のナギちゃんが私のために……。
なんで。なんでこんな事になったんだろう――
日向side(1時間前)
「あれ?あれって確か今日転校してきた……」
放課後。街に遊びに来た俺達は知恵理のその声に反応し立ち止まる。
そして俺は立ち止まった知恵理の目線が正面ではなく別の方向を見ていることに気がついた。
「知恵理??どうかしたのか?ビキニの姉ちゃんでもいたのか??」
「…あんた。そんなにあたしのビキニが見たかった?引くわ〜…」
「あははは〜マキビンは近親相姦が好きだったんですか〜引いちゃいますね〜」
「問題nothing。俺はお前がどこへ行っても友達だから…ちょっと引いちゃったけど…」
真備がおそらく知恵理を真っ赤にさせるため(天然な知恵理はこんな明らかな嘘でも信じることがある)に言ったであろう冗談。
だがそんなことをすると俺達が黙っていないのだ。全員で真備から一歩横にズレドン引きした振りをする。
すると撒き餌をした魚はすぐにかかってしまうのであった――捕獲完了。
「だ〜!!!!!!なんで俺が姉貴のビキニ姿を見たいってことになってんだよ!?」
「なんですかマキビン??見たくないんですか美少女のナギリンのビキニ??」
「俺はロリに興味はねーよ!?」
それは決して言ってはならない失言だった。
「…あんた。言ってくれるじゃない??まさか1日に2回もロリ扱いされるなんて…屈辱だわ…!!」
「へ??待て姉貴。その手錠はどこから取り出した!?ていうかそれで俺をどうするつもりだ!?……待て。早まるな……ギャ――ッ!!!!」
そして本日2回目となる真備の地を割るような叫び声が轟くのだった。
まぁもちろん無視したが。だってそれが俺らの文化だもん!!
「………………結局。チエリンは何を指さしたんですか??」
なぜかめちゃくちゃ葛藤したらしい輝喜の問い。まぁ今目の前で起こっている惨状(スリーパーホールド??)を見たら仕方ないような気もするけど――
とにかく。冷や汗が止まらない輝喜の問いに今まで呆然としてしまっていた知恵理は細い指である一点を指差した。
俺と輝喜はその指につられるように瞳をそちらに向ける。
するとそこには――
「長いしっぽ頭?」
「違いますよヒナタン。あれは今日転校してきた"李・悶君"です」
俺の繰り出したボケにすかさずつっこんでくる輝喜。さすがに3年の付き合いは伊達じゃない。
俺と知恵理はそんな輝喜に思わずいつの間にか拍手してしまっていた。
「まったく。何やってんのよあいつ……まるで変出者じゃない…」
そのとき不意に第4の声である凪の綺麗なが聞こえてくる。どうやら真備に対する折檻は終わったようだな。
向こうにて地面にゴミのように棄てられている真備も見えるし――南無南無。
「俺はまだ死んでねー!?」
う〜ん。"げんきのかけら"で何かが復活したような気がするがきっと気のせいだろう。
俺はそう思い込むことにした。めんどくさいし。
――さて話を戻そう。
俺達の目線の先。そこには確かに普通の人ならただキョロキョロしている変人に見えるだろう転校生"李・悶"がいる。
でも彼は転校生――いや。初めてこの桜時市に来た人間がどうなってしまうのかが分かる俺ならあの状態も頷けてしまう。
なぜならここは桜時市。日本で3番目に大きい町であるここに唯一ある繁華街である【街】と呼ばれるここはとにかく広いのだ。
少なくとも方向云々の問題ではない。故に――
「迷ってるな……あれ?」
「でしょうね。まぁ初めてこの街に来た人なら当然の反応よね」
俺の言葉にこの4人の中で唯一俺並みに頭が回る凪が同意してくれる。
でも凪は元々この街の出身だからそこまで彼の気持ちは分かってないと思う。現にちょっと不思議そうな顔してるし。
ちなみに残りの3人はというと――
知恵理は手をポンと叩き納得といった顔でうんうん頷いていて。
真備は頭の上に?マークを浮かべながらうねっており。
輝喜は相変わらずニコニコと笑みを浮かべ何を考えているんのか分からない。
――俺。本気でこいつらの将来が心配だわ。
「で?どうすんの日向??」
羽前凪さんよ。このタイミングでそれ訊くか?案外鬼畜なんですね。
あまりにキョロキョロしすぎて半径3メートル以内に誰も近付かなくなってる人間をどうするかって??
もちろん答えは決まってんだろ――
「あれを無視しろっていうのか?鬼畜先生?」
「誰が鬼畜よ!?あんたも真備みたいになりたいの!?」
すいません。今度からは自分の言う言葉には気をつけます。
「まぁ当然よね」
――それは彼を助けるのが当然だということか?それとも俺の心の中の呟きに対してなのか?
――分からん。
「それじゃ!!決断即行動」
結局俺の心の中の疑問は解けることなく凪はそう宣言するとずんずんと彼の方に向かって進んでいった。
やっぱ凪はなかなかの姉御肌だな。今度から姉さんって呼んでみよ。
そう思いつつ俺も凪を追いかけるのだった。
凪side
「ちょっとそこのあんた!!」
あたしは彼の目の前に仁王立ちしてきつめの言葉でそう呼びかける。
あたしの声に反応した李君は始めあたしが声をかけたことに気がついてないらしくスルーした。
ちなみに李君は小学校にあがるまで日本に住んでいたらしくて実は日本語がペラペラだから日本語で話しかけも問題ないみたい。
それにそもそも中国語なんて知らないからどうしようもないんだけどね。
あたしは彼の反応に思わずため息し。そして今度は分かりやすいように彼の肩を叩いてもう一度呼びかけた。
「ちょっと。無視すんじゃないわよあんた。あたしが呼んでるのは目の前にいる【李・悶】て中国人なの」
「え…それって僕?」
「そうよ。あんたのこと。ちなみにあたしのこと覚える?」
「あ…え〜ぇと。確か同じクラスだったと…」
彼は少し考えるような仕草をし。そして何か思い出したようにあたしの方を再び向き直すのだった。
「同じクラスの……羽前さん?」
「そ。大正解。でも名字で呼ばれると馬鹿弟と同じに思われているみたいで嫌なの。だからあたしの事は凪と呼ぶこと?分かった?」
「あ。はい分かりました凪さん」
「うんよろしい。あたし物わかりがいい奴は案外好きよ【悶】」
「え…今僕の名前を…?」
「あら?悪いことしちゃった?なんかあたしだけ名前呼びじゃ不公平でしょ?だからあなたの名前をあたしが呼ぶときは悶と呼ぶわ」
「う…うん。わかったよ」
少し弱腰だけど悪い奴じゃなさそうね。あたしは初めて接触した悶のことをそう評価しながら悶と握手するのだった。
するとそのときやっと日向達がやってくる。まったくおそいのよ。
あたしはノロマなあたしの親友達に文句を言いたくなる。その心を抑えて彼にあたしの親友達を紹介するのだった。
「悶。紹介するわあたしの親友の知恵理。日向。輝喜。馬鹿弟よ!!」
「ちょっと待て姉貴!!俺だけどう考えてもおかしかっただろ!?」
「あら?あたし何か間違ってたかしら?」
あたしは真備以外の3人の方を向く。
すると3人のうちあたしと合わせて腹黒い3人組と呼ばれる2人(日向と輝喜)はそれぞれ顔を見合わせると「ニヤリ」と怪しい笑みをする。
それはあたしたちにとっての了解したという意味の合図であった。
もしかしたらこの「ニヤリ」が中等部の生徒に腹黒トリオと呼ばれる原因かもしれない。まぁ楽しいからどうでもいいけどね!!
「問題nothing。俺は真備の事をちゃんと分かってるから」
「日向…お前それほどまでに俺のこと――」
「凪!!真備が馬鹿なのは学校中の常識だろ!!いまさら言わせんなよ!!」
――グサッ!!
あ〜あ。真備が真正面から日向の赤い槍に突かれたわ。
最初に真備に安心させといて一気に突き落とす。さすがは日向。学年で唯一あたしと張り合う学力を持つだけあるわ。
「違うよヒナタン。僕達なら分かるでしょ♪マキビンはみんなが考える以上の馬鹿の逸材だよ♪」
――グササッ!!
あ〜輝喜がニコニコとまるで聖母マリアのような笑顔(男の子なのになんであんな笑顔できるのよ??)を浮かべながら容赦なく白い槍で真備を貫いたわ。
輝喜に到ってはなに考えてんのかさっぱりだから逆に怖いのよね――
輝喜。恐ろしい子!?
「もうヒナ君もコウ君も…言い過ぎだよ?」
あら?知恵理?
まぁ知恵理の性格ならここは真備の味方をするでしょうね。
知恵理が【ド天然】じゃなければ真備にとって救世主なのに――
「そ…そうか。知恵理は俺のことをわかって――」
真備。我が最愛なるバカな弟。きっとあんたの考えているそれは違うは……。
たぶん知恵理はあんたをどん底のどん底。地球の反対側まで落とす最終兵器よ。
だから真備。あたし達のことは気にしなくていいから――逝ってこい。
「まったくみんなそんなこと言っちゃだめだよ!!確かにマキ君は馬鹿だけどとってもいい人なのよ!!確かにテストの成績は万年最下位だけど私達のことをしっかり考えてくれてるし。いつも何かバカなことするけど友情を誰よりも重んじるし。クラスのみんなからもバカな扱いされるけど…あれ?どうかしたのマキ君?」
「頼む。知恵理…許してくれ…」
あはははは!!もう最高!!
真備の奴。知恵理の桜色の槍で「ズガガガガ」ってとどめをさされたわ!!
知恵理の攻撃は悪意がないぶん効果2倍ね……哀れだわ……。
そんなあたし達の会話にほら悶も自然と笑顔になって打ち解けていく。まぁここは真備に感謝――
「あははは……よろしくお願いします。知恵理さん。日向さん。輝喜さん……馬鹿弟さん!!」
スパアァァアアン!!
想定外だったわ。
まさか…まさか…ここで悶が乗ってくるなんて…!?
その突然の乱入者にあたし達。通称"腹黒トリオ"は呆然となってしまう。
今までは知恵理までの3コンボが最高だったけど4コンボしたらどうなるのかしら?
おそらく今の真備には日向の赤い槍。輝喜の白い槍。知恵理の桜色の槍。そして……悶の黄金の槍がささっているはず。まぁ少なくても崩れ落ちているでしょうね――
振り返ったら。真備が立ったまま気絶していた。
――あんた。そこまでショックだったのね。
「わぉ見てヒナ君。マキ君が立ったまま気絶してるよ…どうしよう?」
「…俺に聞くな知恵理。さすがにこれは問題nothingとは言えないからな」
「…1発なぐればいいんじゃない?」
そう言ってあたしは拳を作るが――
「待て凪!!瀕死のやつにとどめさしてどうする!?」
「そうだよナギちゃん!!そんなことしたらマキ君が死んじゃうよ〜」
日向と知恵理が必死になって止めに入った。
よく見てみれば後ろでは悶と輝喜が殴る以外の方法で冷や汗をかきながら必死に真備を起こそうとしている。
それを見たあたしは「…分かったわ」と言って渋々――本当に渋々とその場をひいたのだった。
日向side(30分後)
「で。この結果か…」
俺の隣の凪が哀愁を漂わさせつつ呟く。だがそれも仕方のないことだ。
まずはここまでの経緯を聞いてくれ。あの後俺達はなかなか目覚めない真備を放置して悶に"街"を案内した。
ちなみにさっきから出て来ている"街"というのは桜時市にある繁華街の通称だ。さっきも言ったと思うけどここがまたハンパなくでかい。
元々別の町にあった孤児院出身の俺と知恵理も初めてここに来たときはあまりのスケールの大きさに思わず呆然としてしまったぐらいである。
でも桜時市に住む以上この繁華街"街"は絶対に離れられない存在だ。
なぜなら生活必需品を買う施設や娯楽施設。それに学校へ行くため電車の駅も全部ここにある。
だから俺達は真備が起きるまでの間その"街"を悶に案内したんだけど――どうやらその間に真備が目覚めて行方不明になったみたいである。
「どうするんですか?」
「さぁ〜」
凪が悶の質問に肩をすくめてみせる。その表情はかなり面倒くさげだ。
なぜならあいつには"普通"の創作が出来ないからである。
「マキ君はね。機械音痴だから携帯持ってないの」
「おまけにマキビンは方向音痴だからここに戻ってくる確立もnothingです」
まぁこういうことだ。ちなみにこれまであいつの迷子のせいで放課後遊べなくなった回数――計測不能。
それほどまでにあいつは何度も何度も何度も何度も迷子になってるのだ。
――あいつって友達としてはいいやつだけど人間としては最低だったんだな。
はぁ…鬱になりそうだ。
「しょうがない。手分けして探すか…」
俺の提案に4人は黙って頷くだけだった。
――――――――
―――――
―――
―
今俺は悶と一緒に行動している。
組み合わせ決めはさして問題なかった。
携帯を持つ俺が持たない悶と組み。輝喜が1人で行動。女子で体力がない知恵理と凪が最初の場所に待機となった。
そして今現在。俺は悶と2人で街の南の方に向かっていく道を歩いている。
人混みが多すぎて迷ってしまいそうだが俺達はその中で真備を探す。しかも厄介なことに今は放課後。俺達と同じ制服を来たやつがうじゃうじゃいた。
これは今回もまた真備を探し出すのに苦労しそうである。
「すみません日向さん」
「どうした悶?真備が見つかったか?」
悶は突然意味深な笑みを漏らしながら俺を呼び止める。その笑みはどこか不気味に感じる。
そして不思議な顔をしている俺にさらに悶は続けた。
「いえ…まだ見つかってませんが…。僕はみなさんがとても仲がいいなぁと思いまして」
「はぁ〜?」
俺は一瞬悶が何を言ったのかわからなかった。そんな唐突な話をされても俺の方が困る。
思わず今度は顔を歪めてしまう。謂わば「こいつ何言ってんの??」って顔である。
だが唐突な事で混乱した俺は改めて頭を冷やして言葉の意味を考え直してみる。するとそれは俺達には当たり前のことだった。
「…あぁ。知恵理や真備。凪に輝喜のことか……まぁな。なんていうか出会い方が出会い方だったからな……繋がりは大きいんだよ」
そう言っている俺の顔はこれでもかってくらい優しくなっているだろうな。
「出会い方?」
「詳しいことは避けたいんだがまさに偶然の産物だと言ったらいいのかな??」
まぁそんな生易しい言葉なんかじゃないけど。
真備も凪も俺達と出会った時は酷かった。それを知恵理が救い出してやったんだったな。まぁあんなドタバタ劇はもう一生やりたくないけど。
輝喜に至っては逆に俺達が助けられた。でもあの事件は極力忘れたい。忘れられないけど…な。
ふと真備。凪。輝喜との出会いを思い出していたときふとある言葉が浮かんできた。それは俺にとって一番嫌いで一番好きな言葉――
「【運命】」
「運命??」
「あぁ。臭いこと言うかもしれないけど俺達の出会いはまさにそれだと思う。別に宿命だろうが天命だろうが変わらないけど…あの出会いじゃなければ今の俺達はいないよ」
そう。もし真備と凪。2人と出会ったとき――初めてクラスが一緒になったとき【とある理由】により虐められていた2人に同じく銀髪だと虐められていた知恵理が声をかけなければ――
もし輝喜と出会ったとき――中等部の入学式のとき。あの場でナンパされた知恵理が輝喜に助けられずそのまま連れ去られていれば――
俺達はきっと別々の道を歩いていたと思う。
そうあれは運命だった。運命的な出会いなんかではない。俺達は――
「俺達は――運命を切り開いて出会ったんだ」
真っ直ぐと悶の顔を見据えた俺は悶にそう宣言する。そのとき俺は周りの音なんて聞こえてなんてない。
俺達の横を行き交う人の声や渋滞した車のクラクション。それらの音がその瞬間止まったように感じた。
まるで時が止まったかのように。
「…なるほど。それがあなた達の原点なのですね」
「…あぁ」
そして時は動き出す。どうやら俺達の時間を示す時計はまだ壊れていなかったらしい。
悶の言葉が止まった時計を動かす鍵となり。電池となり。ゼンマイとなる。
そして再び新たな時を刻むために秒針は進み出したのだった。
『『…………………』』
お互いに何も言わず対峙する俺達。街を歩く人はそんな俺達を気にも止めない。
賑やかな周りに反して静かになる俺と悶。そんな静寂とも言える空間はまるで夜のようだ。
そして遂に静寂は破られる。夜のような闇のような声によって――
「…運命を切り開いた。僕はそうは思いません」
それは俺の言葉を真っ向から否定する悶の言葉であった。
それは本意なのか不本意なのかは分からない。だけど若干顔に影がかかっているのはきっと気のせいではないと思う。
「どういうことだ?」
それに対して俺は悶の返しに驚きつつ若干ムキになってそう返した。
自分の言った言葉を――しかも親友たちとの出会いの言葉を否定されたのだから当然である。
だが悶はそんな少しきつめの俺の言葉にも慌てず冷静に言葉を繋いだ。
「…人との出会いに偶然なんてない。あるのは必然のみ…それこそ運命なんて存在しない。あるのは地球という惑星の意志…」
「…地球の意志……」
悶の口から次々と出てきた言葉に俺はゴクリと唾を飲み込む。圧倒されたのだその雰囲気に。
「これは僕が信仰している宗教の教典に載っているある一文を僕なりに解釈したものです」
「…宗教。仏教じゃないよな??」
「えぇ。残念ながら宗教にあまり関心のない日本人の方々にはあまり分からないかもしれませんが」
――確かに。現代の日本人はあまり宗教に関心がないと言われている。
ヒンドゥー教やイスラム教みたいに守るべき会則はないし。クリスマスやお正月をやったりするのもそうだ。
このとき俺はつくづく変わった国に生まれちまったと苦笑いしてしまうのであった。
「…こうして考えてみると僕とあなたの考えは似ているかもしれませんね」
その言葉に俺は「似ている…??」と疑問符を浮かべてしまう。
そんな俺に悶はニッコリと知恵理や輝喜並みの見ほれてしまいそうな笑顔を見せると俺の胸の中心に指を指した。
「日向さん。あなたが考えるのは【運命という言葉を否定してその先に運命以外の結末を創る】ということ」
そして今度はゆっくりと自らの胸に手のひらを当て目を閉じてまるで瞑想するかのような体制となる。
それはある意味笑顔よりも美しい人間の姿なのかもしれないように思えた。
「僕が信仰している宗教が考えるのは【運命という言葉の存在自体を否定して全ての出会いは地球が司っている】という考え」
最後に再び瞳を開けると彼は俺に向かってゆっくりと胸に当てていた手を差し出した。
その真意は定かではない。だけどこの握手を求める手。これに触れるのと触れないのとではこれから先が大きく変わるように思えた。
「…日向さん。僕達は結果としてお互いに【運命】を否定している。僕達は似たもの同士なんです」
その言葉は俺の頭の中にまるでトンカチで叩かれたかのように響いてくる。
それは何かしらの誘惑のように。それは何かしらの幻想のように。そしてそれは何かしらの――愛情のように俺の右手を彼の右手に惹きつかせる。
――そして今度は俺が笑顔を見せる番だった。
「…なぁ悶。言っておくけど……俺は別に【運命】を否定してるわけではないんだ」
「え??でも運命を切り開いてきたとさっき――」
「…確かに俺はこれまで運命を切り開いてきた。それは自分で望んだことだからそれについても否定はしない。……それに確かに俺は【運命】という言葉が大嫌いだ」
【運命】それは俺を苦しめる1番の言葉。
【運命】なんてものがなければ真備は"あの家"に生まれることなく虐められることもなかった。
【運命】なんてものがなければ凪が今でも夜に恐怖することはなかった。
【運命】なんてものがなければあの日――【あの人】が死ぬこともなかった。
「…だけど。それでも俺は【運命】という言葉を信じてるし。【運命】という言葉が――大好きなんだ」
「…!?【運命】を信じると言うんですか」
心の底から驚いたという感じの悶の表情。俺はそんな彼に突きつける。俺が運命を信じる理由を――
「…悶。俺はさっきあいつらとの出会いは偶然の産物だって言ったよな??…実は1人だけそれに当てはまらない奴がいるんだよ」
――そう1人だけ。あいつら4人の中で唯一自ら運命を切り開いたのではなく出会った奴。
運命を【受け入れた】結果出会った"幼馴染"がな。
「…その名前は知恵理。姫ノ城知恵理。俺とあいつの出会いは運命を切り開いたわけでも。ましてや必然なんかじゃない。…俺とあいつは【運命】だったんだよ」
――だってそうだろ??同じ孤児院に引き取られ。孤児院が無くなったときもお互いに引き取り手がなかったから同じ街の同じマンションで暮らし。隣室同士。
結果的に今では半同棲みたいな暮らしときた。
これを運命と言わずに何という。全てがまるで磁石のように俺はあいつから離れられない。
――たぶん俺がこれまで過ごしてきた人生の半分はあいつのものだと断言できる。そしてあいつの人生も半分俺の物だったと。
だから俺はこれからもあいつを――
「――だから俺は【運命】という言葉を嫌いにはなれないんだ」
俺のその言葉に悶は押し黙ってしまう。
だがそれから数秒も立たないうちに出しっぱなしにしていた手を降ろす。
そしてさっきと同じ笑顔を浮かべると口を開くのだった。
「…まぁ人の考えは森羅万象。宇宙のように数多くあり…宇宙のように謎に満ちてますからね…」
悶side
"俺は"目の前を歩く日向に目を向けながらさっきの会話を思い出している。
あのとき――あの日向の考えを聞いたときもしかしたらと考えたがやはり日向を取り込むのは不可能だったみたいだな。
――でもまぁいい。チルドレンは5人揃ってるし問題ないか。
そう考え俺は前を歩く日向に気付かれないように路地裏へと姿を隠していく。
この人混みだ。後ではぐれたとでも言っておけばいいだろう。
路地裏へと続く暗い湿っぽい不気味な道。そこを歩きながら俺はおもむろにポケットから携帯を取り出しボタンを押していった。
――pipipipi……
「……あぁ俺だ。こちらの問題は片付いた…あぁ…じゃあ予定通りに頼んだぞ」
――……Pi♪
「さて見ものだな日向。…お前は大事なものを失ってしまいそうになったときどう踊るんだ??」
知恵理side
「…はぁ〜。何でこんな事になったのよ…」
桜時市の路地裏に響くナギちゃんの呟き。薄暗く湿っぽいそこに私達は連れ込まれていました。
ことの始まりは少し前の話です。
私とナギちゃんはヒナ君がここにいろと駅前の噴水広場に居たんだけど――ナンパされちゃいました。
いつもならヒナ君やナギちゃんが追い払うんだけど今回の相手はしつこかったらしくそのまま路地裏へと強引に連れて行かれました。
でも。ナギちゃんはそれが狙いだったらしく路地裏に着いた瞬間私に一言入れると拳を構え――
「さぁあんた達!!片っ端からかかってきなさい!?」
そして冒頭に戻る。
`
作「こんにちは!!前回日向に指摘を受けたので今回は別の奴に来てもらいました〜」
知恵理(以下"知")「こんちには〜ヒナ君の代わりにきました知恵理で〜す。よろしくお願いします♪」
作「では、せっかく知恵理が来たので今回は知恵理への質問コーナーとしたいと思います」
知「よろしくおねがいします☆」
作「じゃあさっそく質問を…まずは日向との同棲生活はどうですか?」
知「ふぇ?いや…///そんなこと…そもそも同棲してないし…///なんで最初の質問がそれなんですか?」
作「個人的な質問です。ではどうぞ!!」
日「何がどうぞだ!!この腐れ作者があぁああああああ!!!!」
作「ぎゃあぁあああ!?」
日「知恵理!!大丈夫か?作者に何もされなかったか?」
知「う…うん。だいじょぶだよヒナ君」
日「よ…よかった知恵理。さぁ、こんなとこいないでさっさと帰ろうぜ?」
知「うん♪早く帰らないと夕飯の支度ができないからね♪」
作「あ…あの。俺のことは無視ですか?あの…あぁ行っちゃった。でもこれで2人ともハッピーだと分かったな。じゃあ次回予告。
知恵理と凪に訪れたピンチ。だが凪は慌てることはない。
不良達に立ち向かう凪。まさにその姿は喧嘩の達人だった?
次回【喧嘩の達人?】」
日「問題nothingだぜ!!」
日「さ〜く〜しゃ〜さん♪あっそびーましょ?」
作「あれ?日向は知恵理と帰ったはずじゃあ…」
凪「そ。だからこれは日向と繋がった携帯電話よ?もちろん日向から事情は聞いたわ。だから…あたしと遊びましょうか作者さん?」
作「へ?い…いや…出来れば遠慮したいかな〜なんて…や、やめて!!お願い!!ぎゃあぁあああ!?」
次回に続く!!