第38話 THUNDER NERVE
……約1ヶ月ぶりの投稿になります。
本当にごめんなさい!!
さて、復帰第一話は真備が活躍する話です。
ここ最近、主人公の日向やヒロインの知恵理に出番がなくて申し訳ありません!!
でも、過去最長のこの話楽しんでいってください!!
レリエルside
「死になさい」
…凪のその言葉に、俺は絶句してしまいました。
でも、それだけではありません。
俺には、凪のその言葉で、一瞬にしてその場が凍りついたように感じました。
「な、ナギちゃん?」
「……」
知恵理の恐る恐るといった感じの言葉。
俺と同じで絶句してしまっている日向。
見る必要がないくらい、鮮明に様子が思い浮かんできます。
…ちょっと純粋な二人には、少しきつすぎる言葉かもしれません。
と、その間にも真備には無数の矢が迫っていっています。でも、なぜ――
なぜ、凪はあのような言葉をこんな状況で口に出したのでしょうか?
そう俺が疑問に思っていると、さらに驚きの発言が飛び出してきました。あの人の口から――
「…わかったぜ」
『『えっ!?』』
真備のその言葉に俺達は言葉を揃え驚きました。
一体何が起こってるのでしょうか?
凪side
目の前に広がる光景に、あたしは恐怖心を感じてしまった。
真備を囲むようにずらりと並んだ大量の鏡。
それから放たれる無数の光の矢の数々――
絶望的だった。
「……」
真備の表情にも、最早諦めてに似たものがある。
もしかしたら【あの力】を使ったらこの場を切り抜けられるかもしれない。だけど、それだけは避けなければいけない。
なぜなら【あの力】は危険すぎるから。
だめよ。あれだけは…あれだけは使わせちゃだめ。あの力を使ったら…真備が…真備が…!!
『ナギねぇを…ハナ゛ゼェエ゛!!グガアァアアアアアアアアアアア!!!!』
「!?…こらー!!馬鹿弟!!」
真備の【あの力】を使った姿があたしの脳裏に浮かぶ。その瞬間、あたしは真備を叫び呼んだ。
「っ!?」
振り返った真備。だけど、その表情に焦りや恐れの表情はない。でも、あたしはその表情を無意識に予想していた。
あたしに顔を向けた真備。その顔には、どこか自重したような苦笑いが浮かんでいたのだ。
諦めに似た苦笑いが。
…まったく、あんたにその顔は似合わないわよ。
なに、柄にもなく悟ってんのよ。あんたはいつも通りみんなに馬鹿な所を見せてればいいんだから!!
…だから、あたしはあんたを絶望に落とすわ。だって、そうしないと――
あたしと同じようにはならないでしょ?
あんたもあたしと同じように【あいつ】にもまれてくることね。
きっと会えることを信じてるわ!!
そして、あたしは表面上で冷たい表情を作り上げ言い放った。
大事な弟を信じて…。
「死になさい」
その瞬間、真備の中で支えになってたなにもかもが崩れ落ちるのを感じた。
そうよ。絶望しなさい…真備。
真備side
「死になさい」
姉貴の口から放たれた拒絶の言葉…。
この言葉を聞いた俺はまさしく絶望に落とされたのだと思う。
このときほど姉貴を憎んだことはない。
なんせ、前を見れば無数の矢が迫り来る、ただでさえ絶望的な状況。
俺の精神はヒビの入ったガラスみたいにバラバラと崩れさっていく。
…最悪だな、今の状況。
ここまできたらもう、自暴自棄になってやる。俺は精神的に傷ついた体をゆすり起こして立ち上がった。
未だに矢が刺さった場所や、壁に打ちつけた背中がズキズキと痛む。
だけど、それが精神的に病んだ俺の心を起こす原動力にもなっていた。
痛みがなけりゃ、ショックでとっくの昔に壊れちまっているはずだからだ。
でも、俺は自分のこの状況が嫌だった。だから、もうろうとする意識の中、俺は姉貴の言葉に応える。
自分自身をぶち壊すために。
「…わかったぜ」
『『えっ!?』』
…なんか、姉貴と水城のやろー以外が驚きで叫んだみたいだがそんなのお構いなしだ。
俺は黙って、迫り来る無数の矢に体を向けて――自ら、矢を向かい入れる体制を作った。
さぁ…来い。俺を殺しにな。
これで、いいんだろ姉貴?
「なっ!?馬鹿な真似は止めろ真備!!」
「ダメー!!!マキ君!!!」
日向、知恵理、2人の声が俺の耳を貫く。
だけど、俺は聞く耳を持たない…。
ただ、目の前に迫ってくる無数の矢をひたすら睨みつけた。
既に刺さる一歩手前。俺は覚悟を決めた。
だが、そのとき、再びあの声が木霊した。
「真備!!!!!!!!」
その澄んだ大きな声に、俺は思わずビクつく。それは絶望の入り口へと俺を旅立たせた声。
姉貴の声だった。
姉貴は、あの小さな体のどこからそんな声を出せるのかというくらいの大声で…俺を呼んだのだ。
「…姉貴?」
唐突に呼ばれた俺は再び、姉貴のほうを振り向く。
その目に映った姉貴の顔は、さっきまでの冷たい顔じゃない。
…姉貴は、普段見たことないような、すげー穏やかな顔をしていた。
それは、さっきまでの冷徹な【姉貴】の顔じゃなくて、昔みたいな優しい【ナギねぇ】の顔――
そして、次に来た言葉に俺は…いや、その場にいた俺達は全員唖然としてしまった。
「生きなさい、真備」
…俺の体を矢が貫いたのはそれから一秒も経たないときだった。
???side
当代の羽前の姫は、拙者達の思っている以上に心が強い方なのかもしれぬな。
普通、大切に思っている実の弟に【死】を強要するような言葉はかけぬでござる。
しかし、当代の姫はそれを戸惑いなくやってのけた。
これは拙者にも【楓】にも予想外でござったよ。
…さて、拙者とてここまでされたら動かないわけにはいかぬな。
羽前の姫の願いを叶えるため、拙者は当代の羽前家当主、羽前真備殿のもとに行くでござる。
それが、初代羽前家当主様に仰せつかった拙者の役目でござるからな――
真備side
「…どこだ、ここ?」
俺の言葉と同時に辺りから同じ声が聞こえてくる。
だが、別に俺以外の人間がいるわけじゃーない。その証拠に聞こえてくる声は全て俺とまったく同じことを同じ声で言ってやがる。
つまり、山びこだ。
気づいとき、俺はどこかも分からない岩だらけの場所の一角に立っていた。いくら見渡しても周りにあるのは岩、岩、岩――
…はっきり言って状況がさっぱりだ。
と、そのときだった。
ゴロゴロ…
ピシャーーー!!!!!!
上空に広がる暗雲から激しい光が閃く。
そして、その光は一直線に俺の右横にあった岩山に激突、崩れ落ちた。
ドカーーーーン!!!!!!
「やっべ!!」
しかも狙ったように崩れてきた岩は俺を襲ってきやがる…!!
それを見た俺は一気に走り出した。
ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!
「ちっくしょおぉおおおおおお!!!!マジでなんなんだよおぉおおおお!!!!」
落ちてくる大量の岩を避ける、避ける、避ける!!俺は、走りつづけた!!
「くそっ!!なんでこんなところで死にかけなければいけねーんだよ!?
ていうか俺死んだんじゃなかったのかよ!!!!
訳わかんねーよ!!!!」
俺は、今自分の中で渦巻く疑問を八つ当たりのごとく、叫びながら必死に落ちてくる岩を避け続ける。
…だけど、いくら俺だって人間には変わりない。
油断は生まれてしまうものなのだ――
ガラガラ…!!!!
「ま、まずっ…!?」
本当に一瞬の油断だった。
落ちてくる岩にばかり目がいっていたばかりに、俺は見落としていたのだ。
目の前に広がる絶望的な光景を――
「くそっ!!崖っぷちにいたなんて!!!!」
ちくしょーっ!!俺の人生ここまでにしてたまるかっつんだ!!
まだ、死ぬわけにはいかねーんだよ!!
俺は助けなきゃいけねー。みんなを、知恵理を…ナギねぇを…!!
だから俺は生きる!!!
でも、この状況…。あーっ!!くそっ!!
…日向!!…知恵理!!…輝喜!!…ナギねぇ!!
このさい誰でもいい!!俺を…俺を…!!
「助けやがれ〜〜!!!!!」
俺は必死になって助けを叫ぶ。
望みが薄いことは目に見えているにもかかわらず…最後の悪あがきという感じで必死に叫んだ。
そして――
「呼んだでござるか〜〜!!!!主〜〜!!!!」
「なっ!?」
奇跡が起こったのだった。
ガシッ!!
叫び声と一緒に崖っぷちから落ちそうになっていた俺は襟首を掴まれ一気に引き上げられた。
しかも、俺の体は自慢じゃないが日向や輝喜に比べて筋肉質、さらに身長や体格が少しばかり大きいため体重は一割り増しくらい重いのだ!!
だが、この男は【軽々】と俺を【片手】で持ち上げやがった!?
どんだけ馬鹿力なんだよ!?
「うぐっ!?マジかよ!?」
「少しの間だけ辛抱してくだされ主!!拙者が安全な所までお連れするでござるよ!!!」
まあ、それは一向に構わないし、むしろありがたいんだけど…。
一つ問題がある。
まず、男が掴んでいるのは俺の首元の襟首であること。
そして、やつはそのまま俺を抱え上げて上空に向かい大ジャンプをしているわけだ。
結果――
「ギャー!!首が締まる!!締まってますよ!!」
「心配いらぬでござるよ主!!もう少しの辛抱でござる!!」
いや、まじで俺死にそうなんですけど!?
「ぐえっ……もう……無理っぽい……ん……です…け………ど…」
もしかして、この人、俺を殺しにきたんじゃないの?
いや、冗談じゃなく本気と書いてマジで…。
それが俺の意識があるうちに思った最後の事だった…。
「あ、主〜〜〜〜!!!!!」
―――――――――
――――――
―――
―
「う、う〜ん…?」
妙に固く寝にくい地面の感触と首に感じる締め付けたような鈍い痛みに俺は目を覚まされる。
俺は寝ている状態から上半身だけを起こして辺りを見渡してみたが、生憎目が霞んでいてよくは周りの情景を見渡すことはできない。
しかし、目が見えないことははっきり言ってさほど問題ではなかった。
なんせ、355度(5度少ない!! by日向)どこを見渡しても見えているのは同じ茶色の物体だけだったからだ。
…そう、やはり俺はあの岩しかない空間の中にいることを再認識させられた。
「…夢じゃなかったんだな」
そう呟き、俺は手をニ、三回ギュッと握る。
現実逃避するように呟やく俺に返される言葉はないて思っていた。
…やつの存在を知るまでは。
「少なくとも主にとってはこれは夢でござるよ」
古風で、尚且つ大人っぽいしゃべり方、さらには輝喜並みに話しやすそうな気のよさそうなオッサンがいた。
…年は30代の前半くらいだが、色黒で渋めにカッコいいから20代でも十分通りそうだ。
背は俺より20センチは高く、筋肉質の体。
だが、一番の特徴はオッサンの格好だった。
なんというか…野生児?と、いうのが一番の印象だ。どこのターザンですか…と言いたい。
そんな格好をしていた。
さて、大方の容姿を説明したところで話を戻そうと思う。
「…俺にとっては夢?いや、それより主ってどういうことだよ?」
「うむ、まずは順を追って説明するでござるか」
そう言うとオッサンは一息つく。
静かに目を閉じて深く深呼吸をし、目を閉じたまま再び口を動かし始めた。
「まず、最初の言葉…主にとっては夢だということでござるが…そのままの意味でござる」
「…と、いうと?」
「主は、《 》殿の矢を受けたことは覚えているでござるか?」
「…覚えている。…けど、その名前は使わないでくれないか?」
「…承知した。して、矢を受けたことは覚えていると?」
「あぁ、ちゃんと覚えてるぜ…それが?」
「つまり、主はあの時気絶してしまい、これは気絶した主が見ている夢だということでござるよ」
「…なるほど」
それくらいなら俺の頭でも理解できた。
でも、どうも納得できない所もある。
…まず、なんだこの夢のリアリティは?
さっきのシーンなんて本当に俺死ぬかと思ったぞ。
しかも、さっきから首締められたときの圧迫感もジンジン感じている。明らかにおかしい。
それに目の前にいるオッサンもそうだ。
こいつは、俺の夢の中にいるのに明らかに意志を持って行動している。
そして、オッサンの俺を呼ぶときの呼び方――なんで主なんだ?
「それについてもちゃんと説明するでござる」
「読心術!?」
「うむ、主の考えていることは手取り足取り分かったでござるよ」
「…俺にプライバシーねぇじゃん」
「…冗談でござる」
「冗談だったの!?」
やべー…このオッサン、侮れねーぜ…。
「…本当に冗談はここまで、これからは真面目な話をするでござる」
そう言ったオッサンはいつの間にか開いていた目をまた静かに閉じた。
どうやら真剣な話のときは目を閉じる癖があるようである。
「主は最後に、姫様――凪様が言ったお言葉を覚えておいでか?」
…あぁ、あの言葉か。
俺にとって、レリエルに受けた傷より傷ついた言葉だったからしっかり覚えてる。
すごく言い辛いがな。
「【死になさい】だろ?」
「…違うでござる」
え?違うのか?
「それは最後から二番目に言った言葉でござる。もっとよく思い出すでござるよ」
…最後に言った言葉。
どう考えても思い出せない。姉貴が最後に言った言葉は俺の耳には届かなかった、ということなのか?
…でも、いいや。
どうせ俺は姉貴に見捨てられたんだから、最後の言葉は俺にとって最悪の言葉なんだろうな。
だから、そんな言葉はっきり言って――
思い出したくない。
「……」
だから、俺は黙秘することを選んだ。
これが、昔から俺が自己防衛をするときにやる行動である。無視して…黙って…やりすごす。
どうせ、口じゃ負ける俺が学んだ防衛術。それがこれだった。
「…どうしたでござるか主?」
「……」
「…分からないでござるか?」
「……」
「…主?」
「……」
オッサンが俺の肩を掴んで、ガシガシと揺さぶってくる。
が、それでも俺は頑として口を開こうとしなかった。
…それが俺の逃げ方であり、俺のやり方。
俺はこれまで、こうしてその場をやり過ごしてきたんだ。
でも、このオッサンにこの手は通じなかった。
「…主、ちょっと少しばかり度が過ぎますぞ」
オッサンはさっきまでの気さくで話しやすそうな雰囲気から一転、怒りを孕んだ鋭い視線を俺に向けてくる。
その視線は今まで味わったどんな威圧よりも…怖かった。
姉貴の横暴とも呼べる暴力より。水城の攻撃を受けたときより。光の矢に囲まれたときより――
恐怖で戦慄した。
「な、なんだよ?」
「…主」
オッサンが放つ言葉はその一言のみ、だが、その一言に俺は思わず肩を震わした。
…完全に気合い負けしたのだ。
俺の変化に気づいたのか気づいてないのか、オッサンは俺の肩に乗せた手をどかす。俺はその動作一つ一つに怯えを覚えてしまっていた。
そして、オッサンが俺の正面に立ったそのとき。
バキッ!!!!!!
俺は激しい痛みを顔に感じたと思ったら、地面に倒れてしまっていた。
…そう、俺は目の前の男に殴られたのだ。
そのことに気がついた俺は、勢いよく立ち上がりオッサンを睨みつける。
「てめぇ…何しやがっ!!」
バキッ!!!!!!
今度は反対側の頬を打たれる。
俺は再び地面に落ちてしまっていた。
「…いてぇ」
「痛いでござるか?」
地面に倒れたままの俺にオッサンは冷たい目で見下ろして言い放つ。
「拙者がなぜ主を殴ったか分かるでござるか?」
「…知るかよ」
無愛想に俺はオッサンの言葉に答える。
そんな俺にオッサンは深くため息をつき、地面に倒れたままの俺に向かってしゃべりだした。
「…主は知らないかもしれぬが、拙者には親友とも呼べる女性がいるでござる」
「…?」
「その女性はとある陰陽師の家にいる姫を保護しているでござるが…その女性はあろう事かその姫に恨まれているでござる」
…あれ?
この話、どっかで聞いたことがあるような…?
「その女性は、姫にとある力を授けているのでござる」
…え?
それってまさか…。
「その力の名前は…未来予知、つまり【予知夢】でござる」
「ちょっ!!それってまさか!?」
その言葉に驚いた俺は再び寝そべっていた地面から勢いよく立ち上がった。
それに気づいた様子でオッサンは真実を語る。
「…そうでござる。その姫とは羽前家の長女であり、主の姉上である羽前凪、そして拙者の親友の名前は【楓】九尾の楓でござる」
俺はその名前を聞いた瞬間このオッサンの正体にも行き当たった。
その名前は俺に最も関係ある名前、姉貴の九尾と同じように俺を守るために俺を守護している妖。
「お前の名前は…!?」
「【紅羽】」
オッサンの静かな声に俺は確信を得る。
やはり、このオッサンは羽前家に代々仕え、俺を守るために、俺の体へと遣わされた守護妖――
「…【犬神】か」
俺の言葉にオッサン…いや、犬神の紅羽はゆっくりと頷いたのだった。
羽前家には未熟な時期当主を守護するために二匹の守護獣がいる。
一匹は姫、つまり女児を守護している【九尾の楓】これから起こるであろう不幸を見せる【予知夢】の力を女児に与えて、危険を回避させるのがその役目だ。
そして、もう一匹が時期当主となる男児を守護する【犬神の紅羽】つまり俺の目の前にいるこいつである。
残念ながら、姉貴の予知夢のように紅羽の力は俺には教えてもらえなかった。
だけど、俺は昔一度だけその力を発動したことがある――らしい。
俺にはそのときの記憶はないけど、姉貴は覚えてるそうだ。
絶対に、そのときのことは教えてくれなかったけどな。
でも、今の問題はそんなことではない。
今は姉貴と九尾の話をなぜしたかということだ。
そう思った俺は紅羽の話に耳を傾ける。
「…主はさきほど、なぜ姫様がいきなり協調を使えるようになったか、わかるでござるか?」
「…わからん」
これは本心から来るものだ。
あのとき、姉貴の名前を日向と知恵理が呼んだとき…俺は何も考えられなくなった。必死に姉貴の現状を探ろうと姉貴を呼び叫び、姉貴との部屋の境目を必死に殴った。
…でも、姉貴は無事にだっただけでなく、協調を使えるようになってその場にいたのだ。
これが、俺の知る姉貴が協調を使えるまでの経緯。
はっきり言って俺にとっては不思議でしかないのだ。
だから、俺はその話を真剣に聞き入る。
そこにはすでにさっきまでの俺はいなかった。
「あなたの姉上、つまり羽前の姫は姫の心の中にある空間で楓の出す試練を行い、無事協調を手に入れたのでござる」
「…え?」
「……主に分かりやすく言うと楓と修行したということでござる」
さすがはずっと俺の中にいた紅羽だ。
俺が理解してないということがよく分かっている。
「しかして、ここで冒頭にもどるでござる」
「冒頭?」
「…姫が主に言った最後の言葉でござるよ」
「!?」
その一言で俺は顔を強ばらせた。
今の俺にしてみればそれは禁句。
紅羽もそれは分かっているようでさっきこのことを言った言葉は今までで一番優しかった。
そして、今も…紅羽は俺に優しく微笑みかけてくれている。
「…主、確かに主にとってみれば【死になさい】という言葉は厳しい言葉かもしれぬでござる。でも、本当によく思い出してみるでござる。本当に、本当に最後に姫が言った言葉を――」
…鋼弥が言ったことがもしかしたら鍵だったのかもしれない。
そのとき、俺の頭の中に大量の映像がフラッシュバックしてきた。
姉貴に【死になさい】と言われたときの絶望。
その言葉で自暴自棄になり矢に自ら飛び込む自分。日向、知恵理から来る叫び声。そして――
「っ!?」
俺の頭の中に、はっきりと響き渡った。
姉貴の――ナギねぇの最後の言葉が。
「…思い出したでござるか?」
「あぁ…はっきりと…思い出したよ…」
…その言葉は明らかな矛盾。
その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員が唖然としたことを覚えている。
…だけど、俺にしてみれば救いの言葉。
その言葉は今まで曇っていた俺の中を明るく照らすには十分すぎる言葉であった。
その言葉は――
「…【生きなさい】」
その言葉を口ずさんだ瞬間、俺の瞳から涙が溢れ出す。我慢することができなかった。
紅羽のほうも微笑みながら俺を眺めている。
あーぁ…バカじゃねーの。あのくそ姉貴…。いつも、俺のこと散々バカバカ言ってるくせ…自分の言ってること…ちゃんと考えろっつーの。
死ねって言ったくせ、生きろって…。
そんなこと言われちゃ…俺は…俺は――
「…死にたくない」
「…主」
俺の呟きに紅羽は首を傾げた。
だが、俺は無視する。そして、叫ぶ。今の自分の気持ちをすべて乗せて。
俺は心の底から力いっぱい叫んだ。
「俺は生きたいんだあぁあああああああああ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
突然の俺の大声に、紅羽は驚いたのか、後ろに倒れて、尻餅をつく。
だが、俺にとっては全然関係ない!!
俺はズカズカと紅羽のほうに近づいていくと、未だに尻餅をついている紅羽の両肩に手を置いて、たたみかけるように言葉を放った。
「紅羽!!教えてくれ!!どうやったら俺は生きられる!!どうやったらここから出られる!!どうやったらまた日向に、知恵理に、輝喜に、何より姉貴……いや、ナギねぇに会えるんだ!!!!」
俺は必死に悲願する。形振りなんか構ってられない。俺は、ただ自分の願いを紅羽にぶつけた。
しかし、そんな俺の様子に相反するように、紅羽から返ってきたのは――
【笑い声】だった。
「ぷっ!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは〜!!!!!!」
突然、目の前で大声で笑い出した紅羽の笑い声に俺は呆然としてしまう。
だが、一向に笑い終わらない紅羽に俺はただただ口をポカンと開けてしまうばかりだった。
「くくっ…姫の願いを……聞き入れるために……くくっ…せっかく主を心の中まで……招待したのに…くくっ……主は自分で答えをだしてしまったときた……くくっ…さすがは我が主と……言ったところだな……くくっ」
…なぜだろう。
悪意がまったくないと分かっているのに、無償に腹がたってくる。
俺は煮えてくる気持ちを必死に押さえ込み、紅羽に話しかけた。
「…紅羽、俺、何か変なこと言ったか?」
すると、紅羽はさっきまでの笑いをどこかに捨て、真面目な顔つきで話し始める。
「…姫が【死になさい】と言ったのは、主をこの世界に連れてくるためでござる」
「俺を?」
俺の質問に紅羽は大きく頷いた。
「姫はいままで二回【楓】に会っているでござる。その二回とも、姫は気絶状態で会っているでござるから、主も気絶状態になったら拙者に会えると思ったのでござろう」
話が長すぎて何が何だか分からないが、俺はとりあえず頷いた。
「…つまり、気絶させてここに来させるためにあの言葉をかけたということでござる」
「簡略化してもらい、すんません」
やっぱ、このオッサンは侮れねぇな…。
俺の心情を読みとったこの男のことを、俺はつくづくそう思った。
「で、ここに主がついたのはいいでござるが、拙者がこれから教えようとしたことを教える前に主は気づいてしまったのでござる」
「…つまり?」
「つまりでござる――」
そう言うと、紅羽は俺の頭にポンと掌を置く。
その手はとても…温かかった。
「【生きたい】という意志を持つこと。それが主を強くするでござる」
それは、俺の決心が固まった瞬間だった。
「…時間でござるな」
「えっ!?」
頭から退いた掌。そのとき聴こえた紅羽の声に、俺は慌てて紅羽のほうを向く。
…だが、俺が顔を正面に向けたときには、すでに紅羽の顔は霞んでしまっていた。
もう時間がないということだ。
「…最後にこれだけは言っておくでござる。生存本能のままに行動するでござる。さすれば、主の新の力が現れるでござる」
目がかすんでいてうまく見ることができない。
だけど、これだけは言える…。
紅羽の顔は、どこかうれしそうな顔をしているというのは確かだった。
だから、俺は紅羽にこの言葉を贈る。
今の俺の気持ち。そして、ナギねぇの気持ちを全部詰め込んで――
最高の感謝の言葉を。
「ありがとう…礼を言う」
俺の言葉に、紅羽は何も答えない。
ただ、遠くを仰ぎ見る紅羽の姿に、俺はあの男――【水城】の姿を合わせて見てしまう。
そして、紅羽は再び目を瞑り…静に呟くだった。
「…目覚めの時間でござる。主に…羽前真備に…最高の幸運があらんことを…」
ここに送り込んだときの、ナギねぇの最後の言葉のように、再びあそこに行く俺に向けて送られた紅羽の最後の言葉は――
最高のものだった。
「さらばでござる、主。どうか、知恵理殿を…日向殿を支えてやってくれでござる。
拙者や【時雨様】のようにならないように…」
レリエルside
今、目の前で起こった出来事。
それを俺は絶望感すら感じながら呆然と、眺めていました。
俺の目の前では、自ら矢に体を向けた真備が、血みどろの姿で倒れ。
俺は、その光景をただ見つめるだけしかできません。自分がやったこととはいえ、俺は俺自身の腕がとても憎かった。
彼を…真備を射てしまったこの手が――
…真備の体はボロボロでした。
肩や腹、脚などはもちろん。…心臓があるはずの左胸にも一本、矢が深々と刺さっていました。
それはあきらかな致命傷。見れば分かります。
真備は今、死にかけているということは――
「…凪、どういうつもりですか?」
俺はこの状況の二番目の原因である彼女に、言葉を振ります。
あの凪の言葉、あの言葉を聞いた後から真備は確実に自暴自棄になっていました。直接的ではないとはいえ【死になさい】という言葉は確実に真備を絶望へと追い込んだと思います。
…いや、そんなことは言い訳でしかありませんね。
だって、この状況の一番の原因は――
「…加害者のあんたに言われたくないわよ…レリエル」
俺なのですから。
「…でもね、レリエル。勘違いしないでよね」
「…え?」
勘違い…とは?
「レリエル。あたしはね…信じてるのよ」
そのとき、俺は信じられないものを目にしました。
ありえない。絶対にありえない…そんな光景を。
「あたしの馬鹿弟は…これぐらいのことじゃ、絶対にくたばらない――」
確実に、身体中のいたるところに致命傷となる矢を受けた彼が――
「大バカやろうだってね」
立ち上がる姿を。
そんな…そんな…。こんなことって…。
「あら?案外早かったのね…。ま、馬鹿弟にしちゃ上出来よ」
全身に刺さった矢。それを気にする様子もなく、立ち上がる真備。その姿に、俺はただただ驚愕するしかありませんでした。
ズッグシャ…!!
ズッグシャ…!!
ズッグシャ…!!
…立ち上がった真備は、俺が撃ち込んだ矢を次々と抜いていきます。
もちろん、致命傷となっているであろう左胸に刺さった矢も…。
その場にいる俺達全員が、その光景をただ、眺めることしかできませんでした。
カランッカランッ…。
そして、全身に突き刺さったの矢を引き抜いた真備は、矢を打ち捨てる。
そこまでやった真備は、起き上がってから初めてこちらを向きました。
「よぉ…レリエル」
「っ!?」
これまで、伏せていたたからさっぱり気付きませんでしたが…彼の瞳には、決して狂気な感情はありませんでした。
俺に対する憎しみも。俺に対する悲しみも。まったく見えません。
今の彼の瞳は、まるでなにも知らない子供のように…純真で、まっすぐなもの…。
俺なんかでは、もう絶対にできない。そんな、優しい瞳をしてました。
「…真備。正直に言います。あなたは、もう…闘える体ではありません」
俺が触れてはいけないもの。そんな気がしました。だから、俺は速やかに彼を闘いから遠ざけたかった。
でも、このとき俺は気付いてませんでした。
彼は…真備は…。
闘い《パーティー》を何よりも楽しみにしている人間《戦闘狂》だということを。
「あ゛ぁ…なぁ、レリエル?そぉゆーのマジでウゼーんだけどさぁ?」
「なっ…!?」
真備の言葉に、俺は固まってしまいました。
彼の瞳が…一気に、鷹のように鋭く尖ったから。
シュンッ…!!
その刹那、俺の前から真備は跡形もなく、姿を消してしまっていました。そう、それはまるで――
【電光石火】のごとく。
「なっ!!いったいどこに…」
俺のこの疑問はすぐに解決しました。
そう、それは「あっ」と言う暇すら与えられないほど単純に。
「ねぇ…レリエル。そぉゆーのはさぁ、こいつを見てから言ってくれよ」
その声に、聞き間違いをすることはありません。
間違いなく、羽前真備の声でした。
けれども問題はその声が聞こえてくる方向――
真備の声は、間違いなく、俺の真後ろから聞こえてきました。
「!!?」
慌てて俺は振り返る。
でも、彼のスピードには適いません。
なぜなら彼は…人間の出せるスピードを、軽く越えていましたから。
「レリエル…これで、さっきまで受けていた矢は全部…チャラだ!!!!」
真備の叫び声に似た言葉を聞いたときには俺の目の前まで真備の拳が迫っていました。
そして――
バキッ!!!!
真備が放った渾身の拳は、見事に俺の右頬にヒット。俺を地面に殴り倒しました。
「…今の俺の体を流れる神経は、すべて【雷】
俺の脚は…俺の拳は…すべて雷と同等の速さとなる。…これが、俺の――」
バタッ!!
「…これが、俺の雷神の持つ特性【雷公弁】だ」
殴られた勢いで、3メートル近く、遠くに飛ばされ倒れる俺…。
しかし、俺の不幸はそれだけではありませんでした。
ファサッ…
殴られたときに拳圧で、巻き起こされた風。
そして、その風は見事に俺の【真実(正体)】を覆い隠す【闇】をはがしたのでした…。
「え…?」
「っ!? 嘘…でしょ」
俺の正体を知らなかった日向と凪の目が見開かれるのを感じます。
でも、それは当然であり、仕方のないこと…。
なぜなら、俺は――
「やっぱり、レリエルの正体はお前だったんだな」
なぜなら、俺は…あなた方を裏切っているずるいずるいあなた方の【親友】…。
「…………輝喜…………」
【美濃輝喜】なんですから…。
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作「今回は宣伝をしたいと思いま〜す!!」
作以外『イエ〜〜イ!!!』
…………。
凪「じゃないわよ!!」
作「うわっ!?ビックリした〜」
知「ナギちゃんどうしたの?」
凪「知恵理……あんたはまだこの作品すら書き上げていないこいつが新しい小説を出したことをどうも思わないの!?」
作「ザクっ!?」
日「おまけに今回は1ヶ月も更新遅らすし」
作「グフっ!?」
輝「はははは……しかも、まだ向こうは一話目なのにね〜……」
作「ドムっ!?」
真「……さっきから作者の言うことガンダムになってるけど?」
作「……気にすんな、ガンダムは男の夢なんだから……」
真「……そうか」
…………。
作「新連載!!!
【†CROSS・ROAD†】!!
主人公は何でも屋を経営するお人好し!!
ヒロインは生徒会長にして学校のアイドル!!
主人公の親友は町で最強の不良!!
ヒロインの親友はオタクな情報屋!!
この4人を中心として彼ら4人が過ごす日常と非日常を描く話!!
【†CROSS・ROAD†】
もよろしくおねがいしまーす!!!_(._.)_」
作以外『結局宣伝するんだ!?』
作「まあ、いいじゃないですか〜。
では、次回予告行きます!!
……ついに正体を表したレリエル、その姿は彼らがよく知るあいつだった!!
真備が特性を使いこなせるようになり全力で戦う親友達!!!!
その姿に……。
次回【堕天使な親友】」
日「問題nothingだぜ!!」
作「では、今後も【時の秒針】【†CROSS・ROAD†】をよろしくおねがいしまーす!!」
作以外『おねがいしまーす!!』
次回に続く!!