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時の秒針  作者: †HYUGA†
第一章;時の番人編
37/76

第36話 幻影の風声鶴唳

タイトルの名前読めましたか〜?


タイトルの答えは作品の中にあるのでお楽しみに!!


問題nothingだ!!


水城side



 ……やはり、彼女もまた“羽前の姫”というわけわけか。



 威風堂々。その言葉が凛々しく似合う彼女を眺めながら俺はそう、妙に納得していた。


 下にいた刹那、レリエル、そして羽前真備の3人は気付いてないようだ。だが、上にいる俺達には彼女のことがはっきりと見えていた。


 彼女――羽前凪が、己の魂、風神(鉄扇)で力強く扇いだ瞬間に真備を囲んでいたホコリを全て攫ったところを。彼女の操る風はまるで彼女自身の手足のように操っていた。


 これはつまり、彼女は手に入れたのだ。





魂(魂狩)と身体(能力)との協調――【チューニング】の力を。




 ……だが、これも計画通りである。そもそも羽前の姫ともあろう女が――あの程度の力なわけがない。


 あるいは、もしかしたら楓のやつが手を貸したのかもな…。


 でも、それでも彼女の力を侮る理由にはならない。彼女も――そして羽前真備も、俺達と同等の力を手に入れたと言えよう。


 ……もしくは、俺達以上の力をな。ともあれ――




「……“ザコ”という言葉は撤回しなければいけないな。羽前凪」





 まぁ、羽前家は昔から質のいい能力者を出している名家…当然だがな。







凪side



「あ、姉貴!!無事だったのか!?」




 砕け散った部屋を仕切っていた大きな壁。その前で、真備は嬉しそうに埃まみれでそう笑顔を見せた。


 少しだけ赤いその瞳からは、あいつがあたしをどれだけ心配してくれたのか手に取るように伝わってくる。



 …ホント、心配性な弟なんだから。





「…ふ〜ん。なによ?あんた、まさかあたしに死んでてほしかったわけ?」


「ばっ…!?そんなこと誰も言ってねーだろ!?たく、もう…姉貴らしいぜ。あ〜ぁ、姉貴のことなんか心配するんじゃなかった…」




 だから、あたしはあいつを心配に応えるべく、いつものあたしを心掛ける。


 不機嫌そうに眉をひそめ、両手は腰にあて仁王立ち。なるべく子供らしさを見せないこの姿は間違いなくいつも通りのあたしだった。


 そんなあたしの意図を、無意識にしろ真備は受け取ったみたい。


 たった一言。お互いに交わしたこのやり取りだけで、あたし達はいつものあたし達を取り戻す。


 双子陰陽師としてのあるあたし達を。




「…ありがと、真備」


「あ?今なんか言ったか、姉貴?」


「うっさいわね!!あんたなんて、深夜のテレビショッピングくらいどーでもいいのよ!!」


「その基準はなんだ!?つか、なんか言ったのか聞いただけでこの扱いかよ!?」


「え?いまさら?」


「この世界に絶望した!!」




 はぁ…まったく、あんたになんかもう、絶対に言ってなんかやんないから。


 だって、恥ずかしいじゃない。バカ。



 地面にてorzの体制になってる真備。


`



 そんなこいつを見るあたしの口もとが、少しだけゆるむのはどうしようもできなかった。



 …さて、じゃあそういうわけで。




「相手、してくれるわよね?刹那?」


「っ!? 凪…」




 地面にヘタリと女の子座りをしている彼女、刹那にあたしは笑顔と一緒にそう語りかけた。


 真っ赤に目を腫らして、鼻も真っ赤にしちゃってる彼女は、あたしのその言葉に目を見開いていた。




「なっ…!! 凪、まさかまだオレに闘いを挑む気なのか!?」


「あら?悪いかしら?あたしって負けず嫌いなのよねぇ〜」




 ふふふ、と笑顔すらこぼしながら、あたしは刹那に応える。

 でも、そんなあたしを止める人間がもう1人――




「ば、馬鹿か!?このくそ姉貴!?ちったー自分の体のこと理解しやがってから物を言いやがれ!!!!」




 そのもう1人。あたしの弟、羽前真備は顔を真っ赤にしてあたしに叫ぶ。


 あの赤らみは決して羞恥心からくるものじゃない。完全にあいつ自身の怒りによるものだった。


 そして、あたしを心配するあいつの気持ちから来るものだった。


 …でも、だからこそ。





「はぁ?よけいなお世話よ」




 あたしは、あんたに甘えることはできないのだ。




「だいたいなんであんたにあたしの体についてとやかく言われなきゃいけないのよ?あたしの体はあたしのもの。そんなのも分からないの?」


「…ばっ!?この…クソ姉!?そんなことは自分の体よく見てから言いやがれ!?」


「んなことはどうでもいいのよ!!それともなに?あんた、あたしの体はあたしはあんたの奴隷になったつもりなんてないわよ!!」


「…姉貴。ふざけんのも大概に――」


「あたしは真面目の真面目。大真面目よ!!」


「ざけんなあぁああああああああああああああ!!!!」




 あらあら、真備ったらついにキレちゃった。


 不満爆発。叫ぶ真備に、実を言うと、あたしは冷静さを保つのがやっとだった。


 このままだったら、真備はあたしを無理やり気絶させて否が応でも休ませるかもしれない。それくらい凄まじい勢いだったのだ。



 でも、あたしは予想してなかった場所から援護を受けた。


 刹那でも、無論、真備でもなく。ましてやレリエルでもない。




 あたしの――あたしたちの上、あいつからだった。




「ひゅー。さっすが凪だな。俺達のやらないことを平然とやり遂げる。そこに痺れる憧れる〜」




 その言葉は、明らかにこの場には不釣り合いな言葉であった。




「日向…」


「問題nothing。真備、病院での輝喜のときと同じ。お前の完敗だ」




 その声の主。日向野はそう言うと、優しく笑みをもらした。


 あ〜ぁ。結局はおいしいとこ持ってくのはあいつなのね…。少し嫉妬しちゃうわ。


 あたしの心境とは関係なく、話は進んでいく。




「日向!!!!お前…っ!!」


「ま、どう考えてもお前には勝ち目なんてナノミクロもなかったけどな…。それでも、俺もお前と同じ気持ちだから黙ってたけど」


「…?」




 真備の表情が固まった。


 当然だ。反対とばかり思ってた人間が自分の意見を肯定するのだから固まって当然よね。


 でも、あいつの言わんとしてることは分かった。あたしだって、同じ立場ならきっとそうする。


 だってあたし達は――




「当たり前だろ。誰が好き好んで“親友”をそんなとこにやるかっつーの」




 “親友”なんだから。




「でもさ、真備…」




 そして、親友だからこそ。あたし達は――


 あたし達は、日向を知恵理を、輝喜をそしてあんた、真備を。




「こいつは強いぜ?」




 信じられるのだ。



 あたし達はずっとそうしてきた。ずっとずっと、そしてこれから先もきっと。あたし達は…。



 “親友”でいられる。




「でも!!姉貴は怪我してんだぞ!?あんな体で闘えさせられっか!?」


「…それでも、お前を仕留めるくらいはできそうだぞ?」


「…確かに」





 …たぶんね。




「…ちょっとあんた達、それってどーゆうことよ?」


「え゛?い、いや…な、なんていうか…あの…その…ほ、ほら、姉貴ってさ…あの…バイオレンスって言うか、なんていうか…」


「御託はいいわ。結論を言いなさい」


「俺にとっては恐怖の対象なんです…っ!! ぐばっ!?」




 ほんと、あんた運がいいわ。本来なら石を投げたいとこなんだけど…ここ部屋だから“雪”しかないわ。


 まぁ大変。雪って固めたらこんなに硬くなるものなのね…野球ボールみたい。




「ぐぁっ!?なん、だと?雪ごときでこの威力。この姉、さらにできるようになったか…って?」




 あら?…あんたまさかあんた、一発で許されるなんて思っちゃいないわよね?




「ちょ、ちょっと待て…姉貴。そんな量の雪玉。いつの間に作ったんだ?」


「あははは!!“魔力”よ」


「“魔力”!?」




 魔力=魔王の力☆



 …違和感ないのがムカつくわ。だから――




「んなことどうでもいいのよ!?」


「え、えぇ〜」




 そう。そんなことどうでもいいのよ。


 あたしはね…要はあたしは、あんたを…ぶちのめせりゃいいんだからね!!




「てなわけで、真備…死ねぇえええええええ!!!!!!」


「理不尽だあぁああああああああああああっ!!!!!!」




―――――――――


――――――


―――





「よし。雪玉は全部投げきったわね」


「俺には迷惑極まりなかったけどな!?」




 ちっ!! うっさいわねこのバカ!! ほとんど避けやがりやがって。生意気よ。


 激しく息を切らしている真備をあたしはギロリと睨みつける。このバカ、ほとんどの雪玉を避けやがったのだ。


 山のようにあったのに。全部…。


 はぁ、こいつの身体能力の高さ、忘れてたわ。昔から体だけは丈夫なのよね…。少しは頭の方にも回ってくれりゃよかったのに。


 残念なやつだわ。




「…おい、姉貴。てめーなんで俺のことをそんな哀れんだ目で見てやがんだよ?」


「…気のせいよ」




 あんたはやればできる子。そうあってほしいわ。だから信じてる。


 あんたが勝つことを。


 そして信じてほしい。


 あたしが勝つことを。




「…お遊びはここまでよ。真備、あんたはさっさと自分の闘いに戻りなさい。じゃないと――」




 じゃないと――そろそろ、向こうが我慢の限界みたいだからね。




 ――シュルシュル…!!




 擦れる布の音。その音は聞き覚えのある彼女の魂の音だった。




 ――キ――ンッ!!!!




 布の音と共に、突如としてなにもない空間から現れた彼女。刹那の放った一撃をあたしは鉄扇――風神で受け止める。


 全身に伝わってくる、彼女の風が。教えてくれたのだ、風が。ドンピシャなタイミングだった。




「お話中よ。もう少し待っててくれないかしら?」


「ちっ…!!」




 ――ブンブンブンッ!!




 あたしの言葉に、彼女は悔しそうに舌打ちをすると、ぐるんぐるんとバク転をしてあたしから距離をとる。


 …相も変わらず人間離れの技を。この娘、体操選手にでもなるつもりなのかしらね?




「…大人しく気絶してくれればいいものを」


「今、聞き捨てならない言葉が聞こえたのは気のせいかしら?」




 やれやれ、さっきまでの刹那とは大違いね。


 …でも、気絶ってことはあたしを助けるつもりはあるみたい。


 さっきのあれ――あたしが死にかけたことが相当効いたみたいね。


 刹那。あんた、優しくなってるわよ?




「知るか!! オレはお前を…絶対に倒す!!」


「…どこの少年マンガの熱血主人公よ」




 最近は視ないと思ってた絶滅種なのに。目の前にいたわ。


 …やりにくいわね。あの馬鹿弟を相手してるみたいで。




「だあぁあああああ!!もう!!だから!!姉貴はもう闘うな!!傷口開いて死んでも文句言えねーんだぞ!?」




 で。オリジナルの馬鹿弟はというと――うっさいわね。しつこいわよ?


 未だに懲りることなくあたしが闘うのを止めようとする馬鹿弟。その気持ちはありがたいんだけどね。


 はっきり言って、今のあんたはね――




「うっさいわね馬鹿弟!!あんた…邪魔なのよ!!」




 ――ブンッ…!!!!




「へ?ぐはっ…!?」




 ――ズザアァアアア…!!




 滑り凪払われる真備。あたしの一払いで起こった風神の風は、あいつをも吹き飛ばす力となった。


 起き上がった真備は、なにが起こったのか分からないという顔をしている。


 刹那の方も、あたしの起こした風に驚きの表情を見せていた。でも、その驚きの理由はきっと根本的に違うだろう。


 なぜなら、さっきとは違い埃がないこの部屋ね視界はクリーンな状態。つまり、彼女には見えていたのだ。



 あたしが、風を自由自在に操る瞬間を。




「あ、ねき?まさか、今の…姉貴がやったのか?」


「…そうよ真備。今の風は正真正銘、あたしが起こした風。文句ある?」


「え?いや、ねーけど…」


「だったら、あんたはあんたの闘いに集中しなさい。言ったでしょ?お遊びは終わりだって…ここからは、あんたとあたし別々の闘いなんだから」




 ――シャキンッ…!!




「行きなさい真備。ここは、あたしの戦場よ」




 風神を開き、あたしは身構える。


 あいつを――刹那の目を覚まさせてやるために。




「…死ぬなよ?」





 その一言で充分。助けなんていらない。あたしが欲しかったのはそのたった一言だった。




「…当たり前じゃない」




 ――シャキンッ…!!




「さぁ、行くわよ!!刹那!!」





―――――――――


――――――


―――






「協調…凪、お前、オレだってできないのに…いつの間に…?」


「はん!!誰があんたになんか教えるもんですか!!」




 あたしはビシッと指を刹那に突きつけた。




「さぁ来なさい刹那!!あんたに…あんたに、あんたのやっていることがどれだけバカでマヌケなことかを教えてあげるから!!」




 そして、あんたを支配してるあの男の魂をこなごなに砕いてやる!!



 あの忌々しい男…時雨水城の束縛からね!!






 砕け散った壁の上で無表情にあたし達を見下ろしている水城。その視線にあたしは真っ向勝負のごとく彼を睨みつけた。


 水城のほうもあたしが睨みつけているのを確認すると、あたしと目線を合わせてくる。



 あんたのそのムカつく目…絶対にぶち壊してやるんだから…。




「じょ、上等だ凪!!もう一度、お前の血で真っ赤な血の味のかき氷を作ってやるよ!!」


「あいにくとあたし、かき氷は嫌いなのよね〜。冷たくて頭に響くから」


「だ、だったら否が応でも食わしてやんよ!!オレお手製のやつを直接地面にはわせてな!!」


「ふふ♪楽しみにしてるわね」




 挑発的に、あたしは片目を閉じ、舌を出してあたしは彼女の言葉に応える。


 そんなあたしに、刹那はさらに顔を真っ赤にさせていく。泣き虫な刹那は何処へか、再び闘いを好む彼女の姿がそこに現れた。


 …そうよ。あんたは泣き虫よりそっちの方がいいのよ。そして、そっちの方が――



 あたしの特性を遺憾なく発動できるわ。



 あたしの特性――




 【風声鶴唳】をね。





`





「さあ、来なさい子猫ちゃん。あんたのその自信、凪払ってあげるから!!」






刹那side



「さあ、来なさい子猫ちゃん。あんたのその自信、凪払ってあげるから!!」




 凪の戦いの合図と一緒に駆け出すオレ。


 だけど、内心ではかなり焦燥な心情にオレは陥っていた。




 ――キンッ…!!!!




 雪化粧が風神と交わる。だけどさっきまでとは攻撃の重みが違う!!


 文字通り、凪の放つ一撃の威力が格段に違うのだ。


だが、それも仕方がない。なぜなら、協調ができるA級能力者とできないB級能力者とでは戦闘力は――



 天と地の差があるんだよ。



 そして、ここで一番の問題だ。


 確かに俺は魂狩の性質の1つである【特性】を操ることができる。


 もともと【特性】は協調ができる能力者にのみ使える性質――つまりはA級能力者以上にしか使えない力だ。


 でも、俺は特異な存在…協調もできずに【特性】が使える…。



 …回りくどいのは止めよう。つまり――





 俺は【B級能力者】ということだ。





 そして、今、協調を使えるようになった凪は【A級能力者】ということになる。


 立場逆転ということだ。




「刹那!!1つだけヒントをあげるわ。あたしの風には気をつけなさいよ?」


「何意味わかんないこと言ってんだよ!?」


「ふふふ、それはこうゆうことよ!!」




 そう言って、笑みを浮かべた凪は風神を扇ぐ。


 風に注意しろってどういうことなんだ!?




 ――ヒュウウゥゥゥ…




 凪の一言でオレは警戒のあまり思わず目を閉じる。するとすぐに、凪が扇いで巻き起こった風が俺の全身を包み込んだ。


 だけど、それだけ。


 凪の風が通り過ぎても俺の体には何も変化は起きなかった。




「…どういうつもりだ?」




 射すように俺は凪を睨みつける。


 そんな俺の視線に対して凪は、なぜかすっとんきょんな顔を俺に向け、パチパチとまばたきをしていた。




「…あら?なんで、何もおこんないの?」


「…オレが知るかよ」




 …こいつ、いったい何がしたいんだよ?




「ん〜ほら?カマイタチってあるでしょ?あれみたいに鋭い風があんたの体に突き刺さるかな〜って思って」


「…で?何も起こらなかったわけだ」




 まぁ、凪のやりたいことは分かった。それに、理解もできた。


 カマイタチとは突如として鎌で斬ったような傷が現れる現象だ。その原因はおそらく風だと思うし、実質そうなんだと思う。


 …でも、凪が起こした風では俺の体は傷1つ、つかなかった。



 これが意味していること、それは――




「どうやら、あたしってまだ協調の扱いにはなれてないみたいね〜」


「自分で言うということは自覚があるようだな」




 そう、凪はまだ魂狩を完全には掌握しきれてない。



 これは大チャンスだ!!



 凪が完全に協調を使いきれるようになる前に…倒してやる!!



 俺の魂の特性――




 【雪隠れ】で!!





「確実にしとめてやる!?」




 ――シュルシュル…!!




 そう宣言した俺は、微妙に凪の血が滲んでいる羽衣――雪化粧を全身に巻きつける。


 【静寂の雪・風花】これこそがオレの雪化粧の特性――【雪隠れ】の正体だ。


 今度こそ、雪化粧を真っ赤に染め上げる、血染めの染料にしてやるよ!!




「まずい!!あの構えは!!」




 日向の声が俺の耳に響く。でも…すでに手遅れだぜ!!


 俺がこの大勢に入ったら…準備万端の合図なんだ。さぁ、行くぜ凪!!




「来るなら来なさい刹那!!」




 そう言って、凪は最後の悪あがきという感じで風神を扇ぎ風を送ってくる。


 だが、その風は一筋としてカマイタチのように鋭い風とはならず、優しいまま俺の全身に降り注いだ。




 …オレは再び勝利を確信した!!



 凪がこの技を防ぐことはほぼ不可能!!いや、日向であれ、真備であれ、きっと不可能のはず。


 …これを防げるのは特殊な力である【あれ】が使えるレリエルだけだしな。


 だからオレは確信した。大事なことだからもう一度だけ言う。俺は勝利を確信した!!




「いくぜ、凪!!静かなる恐怖を味わえ!!




【静寂の雪・風花】!!」




 巻き上げた雪化粧が激しく光りす。その、次の瞬間…。



 俺は姿を消したのであった。






日向side



「凪のやついったいどういうつもりなんだ?」




 真備が2つの部屋の隔てていた壁を破壊してくれたおかげで、俺と知恵理は凪と刹那の戦闘をより詳しく見れるようになっていた。


 だけど、さっきから凪の様子がおかしい。



 しかし、それは些細な違和感だ。


 おそらくレリエルや水城、それに刹那も気付いてないと思うほどの些細な違い。 でも、俺達には分かる。





 凪の言動、行動、そして戦闘スタイル全てに対して、俺達は違和感を感じずにはいられなかった。




「ヒナ君」


「なんだ、知恵理?」


「ナギちゃんの様子少しおかしくない?」


「…やっぱ、知恵理もそう思うか?」




 俺達の中で、一番鈍い知恵理ですら気付いているんだ。真備や輝喜が気付いてないはずがない。


 …いったい何なんだ?この違和感は?



俺が思考の無限ループに入りかけていたそのとき…刹那が動いた。




「確実にしとめてやる!?」




 何かを悟ったような刹那の眼差し。まさか、凪の違和感に気付いたのか?


 いや、そんなはずはない…なんといっても凪のあの違いは、長年連れ添った俺達がやっとこさ気付けるほどの違いだ。


 …ということはやつはいったい何を悟ったんだ?




 ――シュルシュル…!!




 そのとき聞き慣れない音が俺達の耳に入ってくる。


 いや違う、聞き慣れないというのは語弊があった。正確にはつい最近まで聞き慣れなてなかった音だ。


 何か布が擦れるような…この意外にも不快に感じる音…。俺は、はっとした。


 間違いない!!




「まずい!!あの構えは!!」




 知恵理が何が何だかわからないという顔で俺のほうを向く。


 ただでさえ、喧嘩慣れしてない知恵理では、さっき、微妙に見えただけの構えで技を見抜くのは無理だったのだろう。



 刹那はまるで勝ち誇ったような顔で凪を見つめている。


 その顔はさっきまで泣いていたか弱い女の子のイメージは一切なく、ただ純粋に獲物を捕らえた肉食獣のような目だ。


 そしてこの部屋にいるもう一人の少女、凪。彼女の方はというと――




「……」




 凪の表情。そこからは表情が掴めない。


 いや、水城のように無表情というわけじゃないんだ。


 ただ、今の凪の表情…それが――



 ゲームで遊んでいるときのような楽しげな表情になっていたのだ。




「ヒナ君、ナギちゃんのあの顔って…?」


「…だな、あの顔、見ただけでゾクゾクする。あの顔の時のあいつは…危険でしかないからな」




 危険。危険なのだ。あの顔をした凪は危険という言葉以上に似合う言葉はない。


 だから、あの凪の笑顔のことを俺達は99%の畏怖と1%の敬意を持ってこう呼んでいる。



 【魔女の笑み】と。




「来るなら来なさい。刹那」




 凪は、あの楽しげな笑顔を一切崩すことなく風神で扇いで風を巻き起こす。それが逆に俺達の中の恐怖を駆り立てる。


 しかし、凪が巻き起こした風は刹那に傷一つつけることなくただ刹那の水色の長髪をなびかせるばかりだった。


 …さっきのカマイタチの未遂といい、今の風といい凪のやつ、いったい何考えてやがんだよ?



 あいつらしくもない…。凪、お前は頭を使った策略を得意とする知略家のはずだろ?


 なのになぜお前はそんなマヌケな行動を…?



 お前は何考えてんだよ?



 刹那があの技を使ったら十中八九勝てないことは分かりきっている。少なくとも、俺では勝つことはできないと思う。




 なのに…なぜなんだ?なぜなんだ…凪?





「いくぜ…

【静寂の雪・風花】」




 そして、静寂の間は再び静かなる時間に包まれた。






刹那side



 …おかしい。


 オレは今、目の前で起こっている現象に首を傾げるばかりだった。


 羽衣に包まれて姿を隠すオレ。しかも、ただ隠しているだけではない。


 殺気、気配、足音でさえもオレは長年の経験で、かき消せるようになっている。だけど――



 だけど!!



 しかし!!



 それでも!!



 どうしても!!



 凪に攻撃を与えることができないのだ!?


 さっきから俺は隠れた状態から何度も凪に攻撃を仕掛けていた。


 だが、忘れてはいけないのがこの技の唯一の弱点。体に羽衣を巻いたまま――つまり、姿を消したまま攻撃はできないということだ。


 ゆえに、オレは凪に攻撃する瞬間は必ず姿を現さなければならない。


 だが、オレはどうしても凪に攻撃できないでいた。オレが、いくら死角をついても、凪は必ず俺が姿を現す場所を確実に探り当ててくる。



 オレの攻撃が全て見限られている。そうとしか考えられない状況だった。




 ――シュルシュル…!!




「はぁあああああ!!!!」




 ――ガキンッ!!!!




 オレは再度、凪の死角から攻撃を仕掛ける。だが、人の肌を斬った感覚は指には決して残らない。


 そこにあるのは、金属をぶった斬ったときに感じる手のしびれだけ。攻撃をふさがれたという、その認識だけだった。なんだ?なにが起こってるんだ!?いったい、いったいどうなってやがんだよ!?



 オレの居場所は完全に分かってないはず…。なのに、凪はなんで俺が攻撃する場所を完全に当てやがるんだよ!?


 本当に何が起こってるんだ!?




「…だいぶ参ってるみたいね?刹那」




 不意の言葉に、オレは息を潜める。


 オレの風花は、姿を消す技…不本意に言葉を出して凪に場所を知られるわけにはいかない。


 だから、俺は凪の言葉を軽く無視して凪の近くに身構えた。




「…そう、そっちが無視するならこっちが勝手に喋らせてもらうわ」




 ここからは種明かしということか?


 …じゃあ、存分に聴かせてもらおーじゃねーかよ。凪、お前がいったいどんなイカサマをしていたのかをな!!




「沈黙は肯定として受け取るわ。じゃあ話しましょうか…あたしの全てを」




 そう言うと、凪は風神を一扇させた。


 風はオレの頬を優しく撫でる。だが、やはりその風に殺傷能力はなく、ただただオレを包み込むだけだった。




「…まず最初に謝っておくわね。あたしの今までの言動は、ほぼ…嘘よ」




 なっ!?




「あたしは魂狩の性質の1つ【協調(チューニング)】を使いこなせる。ただ、カマイタチみたいな殺傷能力を持った風は、生憎とあたしの守備範囲外だったってだけでね」




 …どういうことなんだ?




「分からないかしら?つまりはね…あたしの風神は、攻撃用の魂狩じゃなかったのよ」




 ――ヒュオォオオン!!




 その瞬間、再び部屋全体に風が巻き起こり、部屋全体に吹き渡った。


 でも、部屋の中にいる総勢8名には何の変化も起こらない。


 もちろん、隠れているオレ自身にも。だが、オレが凪から目を離したその一瞬。それが命取りになった。




「つーかまぇーた♪」




 俺が考え込んだそのとき、いつの間にか俺のいる場所の目の前にいた凪が俺の頭をかき撫でる。


 そのあまりに予想外な状況に、オレは為すすべなく彼女の腕の中へとおさまっていた。




「…ふぇ?」




 …思わず、オレらしからぬそんなマヌケな声を出してしまう。


 でも、それも無理なかった。


 なぜならいままでこの技を破ったことがあるのは、特殊な力があるレリエルだけだったからだ。



 でも、凪は俺の位置を簡単に…しかも、正確に当てたのである。


 この事態に、オレは思考が追い付かなかった。


 最早隠れている意味はない。オレは、体に巻きつけた雪化粧を剥がす。




 ――シュルシュル…!!




 布が擦れる音。それと一緒に、オレは再び彼女の前へと姿を現すのであった。






凪side



「…どうしてわかったんだ?」




 あたしの前に、再び姿を現した彼女――刹那は、まるで拗ねた幼子のように顔をしかめていた。


 本当、かわいいわ。




「まず、あたしが協調を完全に掌握していて風を完全に操れるってことはわかったわよね?」




 刹那はコクリと頷く。でも、その表情に困惑な感情が消えることはない。


 あの技を破られたことが、そうとうショックだったみたいね。




 だったら、教えてあげるわ。【真実(嘘)】をね…。




「…それで?どうしてオレの居場所がわかったんだよ?」


「簡単な話よ。あんたのその技は確かに姿、足音、気配、殺気、どれも消すことができるわよね?」


「…あぁ」




 【静寂の雪・風花】



 この技を使いこなす彼女は正直、かなりすごいと思うわ。だけど、それだけじゃだめ。


 チューニングを使えるようになった、今のあたしを騙すためにはそれだけじゃだめなのよ。


 だってあたしは――




 【風】の能力者なんだからね。




「でも、それだけじゃ足りないのよ。あんたの技には、もう1つ足りないものがあったのよ。あたしは、そのもう1つあるあんたが動いた証拠を捕らえてたのよ!!」


「…っ!?」




 鳩が豆鉄砲で撃たれたような顔ってまさにこんな顔かしら?


 口をポカンと開かせて、目を見開いて…すごくマヌケに見えるわね。




「で、でも、今までもこの技は使ってきたけどそんな弱点はなかったような…」


「えぇ、むしろこの技はほぼ完璧よ。まるで死角はないわ…。だけど、その証拠はいつもくっきりと現れていたわ。何のことか分かる?」


「…ぜんぜん」




 まぁ、気付かなくても仕方ないか。


 今まで気付かせてくれる人もいなかったんだろうし。



 なぜなら、この弱点は分かりにくい。…いや、実際、あたしにしか分からないもの。これは、【風】の能力的であるあたしだからこそ分かる違い。


 あたしが協調の完全掌握ができるようになったからこそ分かったことなのだ。それは――




「あんたが、動いたときに体が空気をきって起こった【風】よ」


「…【風】?」


「そうよ、体は少し動かしただけでも微量の風を発生させるの。

 暑いときに手で扇ぐのがいい例でしょ?あたしはその微量の風を風神の力で察知していたってわけ。

 だから、あたしはあんたの場所を正確に探り当てられたのよ☆」




 最後にとびきりのウィンクをしてあたしは刹那への説明を終わらせた。


 だけど、まだ話してないこともある。


 むしろ、そっちのほうが本題だ。こんなの…あたしの能力の“一部”に過ぎないんだから…。


 …さて、いつになったら気付くかしらね?






 この戦いの決着がすでについてるということに。







刹那side



「つまり、もう【風花】はきかないということか」




 凪の説明を聞いたオレは、この問題がどうしようもないことを知った。


長年の修行でオレは殺気、気配を完全に消す技術は身につけている。


 でも、空気を震わせることなく移動する技術は持ち合わせてない。と、いうより――不可能だ。


 だから、もう凪にはオレの技――【風花】はきかない。通じないのだ。




「そういうことよ、あたしにはあんたの【風花】は意味を為さない…さぁ、どうするの刹那?」


「…どうするって言われても、オレができることはもう1つしかねーじゃねーかよ」




 そうだ。オレには、あの技しかない。あの技しかなかった…。



 だから【風花】が封じられた今、オレに残された勝利条件はただ1つ。


 あいつに勝つ。そのためには――




 ――シュルシュル!!




 あいつを、凪を肉弾戦で破るのみだ…!!



 雪化粧を――羽衣広げ、オレは臨戦態勢をとる。大丈夫…やれる。オレならきっと…やれる!!


 オレはキッと、あいつを睨みつける。挑発を仕掛けたのだ。だが、それでも凪はオレの威嚇的な瞳に応えない。



 むしろ――






「…そ、あんたはそっちを選ぶのね」




 むしろ、あいつは余裕の表情で身構えてやがった。おかしい、明らかにおかしい。


 まさかあいつ、昨日の晩、真備と2人掛かりでもオレに体術で勝てなかったのを覚えてないのか?




 そんなわけない。なら…なんで?



 …いや、大丈夫。きっと大丈夫だ。オレの運動能力は、あいつらと比べてたら群を抜いて高いんだ。


 なんせ【人間の力】じゃないんだから。



 必ず勝てる!!!!




「いくぜぇえええええ!!」






`


 そう思ったオレは、凪に向かって駆け出した。


 勝算は十二分にある。いや、勝算しかない。オレなら…オレなら…!!


 そして、オレはあいつに刃(雪化粧)を向けた。






「…残念よ、刹那。ここで降参してれば苦しまなくてもよかったのに」




 …でも、このときオレは…気付いてなかった。




「…そう、分かったわ。だったらせめて、あんたの恐怖を限界まで高めてあげるから。…一瞬で――」




 この闘いが、もう――





「一瞬で…気を失うように」





 決着が、ついているということに。






 ――ブオォオオオンッ!!




 …その風は、またしてもオレを包み込んだ。



 凪の手に握られた、鉄扇から放たれた一筋の風は、優しく…そして、強く…オレの全身に降り注いだのだ。




 決して攻撃的な風ではない。むしろ、オレを守るかのように吹き抜けた風。


 その刹那、オレは――




 ――カサカサッ…




 戦慄した。






 決して大きいとは言えないその音。だが、オレを金縛りのように動けなくするには、その音の大きさは十分すぎた。


 …そんなはずない。頭の中でその言葉が何度もループする。


 でも…頭ではそう考えていても、実際にその音は存在していた。


 でも、なんで?




 確かにこの洋館に初めて来たときは大量にいた。初めてあれを見たときには気を失ってしまうほど大量にいた。けど――



 あれは全部、デモン特性の【クラッシュ殺虫剤】で一匹残らず殲滅したはずだ!!



 なのに!?どうして!?



 恐怖のためか、体はピクリとも動かない。


 ましてや頭の中はオーバーヒート寸前だった。




「い、いや…やだ…よ…」




 意識が虚ろになる。そんなオレの口から発せられた声は、まるで凍えたように震えていた。




「…ごめんね、刹那」




 さっきよりも、かなり近い場所で凪の声がこえる。だけど、今はそんなこと構っていられない。


 迫り来る恐怖。ただそれに恐怖を抱くだけだった。




 ――カサカサッ…

――カサカサッ…

 ――カサカサッ…

――カサカサッ…




 しかも、やってくるあれは一匹や二匹じゃない。…無数だ。


 ここまできたら、もう否定はできない。やつらがこの場にいることを。




「や、ややや、や、やめて…来ないで…」


「……どうした刹那?」




 み、水城?お前は分からないのか?


 あの…黒くて、テカテカしてて、醜い姿をした地球上で最も憎むべき存在の1つである【やつ】が近くにいるのが…?




 ――カサカサッ…

――カサカサッ…

 ――カサカサッ…

――カサカサッ…




 辺りからどんどんオレに向かって迫ってくる。



 オレは必死で悲願した。



 …でも、そんなのやつらには関係ない。




 ――ブ〜〜〜ン…




 そして、ついに…高速で空気をきる音がオレの耳に入ってきた。と、そう思った瞬間――




 ――ピトッ!?




 黒光りする【やつ】――暗黒生物Xが、オレの足元に現れた。この醜い姿…間違いない!?


 それを見たとき、オレは何かがはち切れたように大声で叫んだ!!!!




「いやあぁあああああああ!!!!ゴキブリ〜〜!!!???」




 ゴキブリ(やつ)が…現れたのだ。






知恵理side



「…はぇ?」




 私はいきなり動かなくなったセッちゃんが突然叫んだ言葉に、呆然となってしまう。


 いきなり座り込んだと思ったらいきなり――と、さけんだのだから。




「…ごめん、ヒナ君。私、からだには自信があったんだけど――」


「…いつも思うんだけどさ。お前ってときどき狙ってそーゆーこと言ってないか?」


「ふぇ?ヒナ君?」




 狙ってって…何を?




「…いや、聞いた俺がバカだったな。で?何が言いたいんだ?」


「あ…うん。あのねヒナ君。セッちゃん、何ていったのかな…って?」


「…【ゴキブリ】…だな」


「…やっぱり?」


「あぁ。だから、お前のからだ――もとい、耳が悪くなった訳じゃない。なぜなら、俺にもそう聞こえたからだ」


「あはははは…」




 真顔でそう言うヒナ君に、私は思わず苦笑いを浮かべる。でも…やっぱり間違ってなかったんだ。


 セッちゃん。なんでいきなりそんなこと叫んだんだろう?だって――




 セッちゃんの周りにはゴキブリなんて一匹もいないんだから。




「うわあぁあああん!!やだよ〜やだよ〜!!虫なんてみんな消えちゃえ!!いなくなっちゃえ!!恐くないもん。恐くないもん。…う、う、うわあぁあああん!!」




 なのに、セッちゃんのあの怖がりよう。セッちゃんの身にいったいなにが…?




「…どうしたんだ?刹那のやつ?」


「うん。セッちゃん、何かに取り付かれたみたいだよ?」


「…俺なら分かりますよ。ご両人?」




 そのとき、ここ数日で聞き慣れた無機質な声が私達の耳に入ってきました。


 その声につられて下を見てみると。



 座り込んで痛そうに背中をさすっているマキ君と――その隣で、弓をしまって壁の隙間からナギちゃんとセッちゃんの様子を見ているレリエルさんがいました。


 そして、当然私たちに声をかけたのは――




「…レリエルさん?」


「ありがとうございます。知恵理」




 柔らかな口調。それはたぶん、私がレリエルさんの本名を言わなかったことに対する御礼みたい。




「……何が分かった?」


「そうせかさないでください水城。今、説明しますから――」


「その必要はないわ、レリエル。それは、あたし自身が説明するから」


「――そうですか凪?残念です」




 レリエルさんの言葉をナギちゃんが横から制します。対してレリエルさんは、少し残念そう。




「まずあたしのさっきまでの行動…思い起こしてみなさい」


「行動…?」


「そうよ知恵理。さっきまでのあたしの――ごめん、あんたには難しかったわね」




 むぅ…、ナギちゃんヒドいよぉ…。


 まぁ、確かに分からないけど…


 でも、あたしがむくれているうちに、私達の中の1人がその理由に思い当たったようでした。それは――




「【風】だな」


「そうよ日向。大正解♪」




 私のすぐ隣、ヒナ君でした。ナギちゃんの話は続きます。




「日向の言うとおり、あたしは刹那の攻撃を避けながら、刹那に少しずつ風を浴びせたのよ」


「ま、待て姉貴!!なんで風を送ることで刹那があんな行動に出たんだ!?意味わかんねーよ!?」




 その瞬間、ヒナ君を始め、ナギちゃん、コウ君が石みたいに固まっちゃいました。



 ど、どうしたんだろ?





「っ!? ま、まさか…馬鹿弟にそれを指摘されるなんて…」


『『世も末だな(ね〜)…』』


「お前ら失礼にもほどがあるぞ!!??」




 あはははは…うん。私もそう思うよマキ君…。


 否定はできないけど…。




「あ〜面倒だからその話は終わりでいいわ」


「終わらせるな!?」


「……いいから早く話せ」




 そのとき、あまり大きくはないけど、変わらない無表情な水城さんの言葉が、響きわたりました。





凪side



「あたしが風を送り続けたのにはある理由があったのよ」



 …水城に言われたのが少し気にくわないけど確かにふざけすぎたわね。


 ここからは真面目に話していきましょうか。




「理由〜?理由ってな〜に?」




 輝喜の言葉にあたしは無言で頷いた。




「まず、最初に言っとくわね。あたしの魂狩とあんたらの魂狩とは根本的なことが違うのよ」


「どういうことなの、ナギちゃん?」


「俺らとお前の魂狩に違いなんてあるのか?」


「そ、知恵理や日向の言うとおり。あたしの魂狩も見た目は他の魂狩と同じように武器の形をしてるわ。でも、あたしの魂狩はあんたらのとは違って、殺傷には特化してないのよ」


「つまり、ナギリンの魂狩は傷つけるための武器じゃないってこと〜?」


「その通りよ輝喜!!」




 物わかりが早いから助かるわ、みんな。




「う〜ん、分からん」




 分かってない馬鹿弟は無視ね。じゃないと、話が進まないから。




「……それで、なぜ刹那が【あぁ】なったんだ?」


「いいわ水城。説明してあげる」




 あの男は、気に入らないけど…仕方ないか。




「あれはね、あれが、あたしの風神の特性――





【風声鶴唳】の効果よ」


「風声鶴唳…。確か、怖じ気づいた人が、ちょっとしたことにも恐れおののくこと…だったか」


「さすがね…日向」


「お前…国語の成績は悪いもんな…」


「う、うっさいわよ!! 第一、五カ国語話せるんだから全部チャラよチャラ!!」


「へいへい、サーセン」




 まったく…日向のやつ、馬鹿にしてくれるじゃない。あとで覚えてなさいよ。




「…とにかく。あたしの風神の特性、風声鶴唳は攻撃に特化した特性じゃないってわけ。あたしはね、想像できるの。すべてをね」




 ――パチンッ…!!




 そしてあたしは指を鳴らした。その刹那、あたしはイメージする。


 彼女の――刹那の最も嫌いなもの…すべてを。




「ひっ…!!や、やめて…やめてやめてやめて…!!来ないでえぇええええ!!」


「…じゃあね、刹那。いい夢をね」


「い、いやあぁあああああああああああ!!…はぅ…」




 ――パタンッ…




 刹那。あんたはよく頑張ったわ。だから、安らかに気絶しくことね。


 おやすみなさい。




「…姉貴。いったい、何したんだよ?」


「これが【風声鶴唳】。無いものを有るものとして、有るものを無いものとする…。想像、いや【創造】の力よ」


「つまり…凪、おまえの力は…」


「そうよ。あたしの起こす風は――」




 “幻術”を見せる力があるのよ。






           `


日「知恵理。この階段歩くとき気をつけろよ?傾斜がかなり急だからな。ほら、手貸してやるから」


知「ありがとヒナ君。でも、大丈夫だよ」


日「知恵理。その問題、間違ってるぞ?明日あたるところだから気をつけないと?」


知「ふぇ?はわわ…ホントだぁ…ありがとう」


日「なぁ、知恵理。今日さ、Candleのプリンが安かったんだ。お前好きだろ?一緒に食べようぜ」


知「わぁ!!ヒナ君ありがとー」


真&凪『『うっぜえぇええええええええええ!!??』』


日&知『『わひゃ!?』』


凪「あーもう!!なんなのよあんたら!?今日は一段とましてリア充してるじゃない!?」


真「おい日向!!どうしたんだよお前!?いつもの三割り増し、知恵理に優しいじゃねーかよ!?」


日「…あ〜いや〜なんというか〜」


知「ねぇヒナ君?ホントどうしたね?熱あるの?風邪かなぁ?」


日「え゛…いや、熱はない。熱はないから、顔が近い近い近い!!??額で熱計ろうとするなあぁああああ!?」


凪「だったら何なのよ?正直、今日のあんたキモイわよ?」


日「き、キモイって…ひどい。い、いやさぁ…ほら?今日って、ひな祭りじゃん?」


真「今日は3月9日。ひな祭りは6日前だ…」


日「ま、まぁその辺は気にするな。今日はひな祭り。ひな祭りだろ?だからさ、女の子に優しくしようかな…と?」


知「はぇ?そうなの?」


凪「…まぁ理由としては一応成りたってはいるわね」


日「だろ?」


凪「じゃあその理論なら、あたしにも優しくしないとね。日向、ジュース買ってきて」


日「誰がテメーなんかに優しくするか!?」


作「はい。と、いうわけで次回予告。次回の時の秒針は――


 それは光の檻。逃げることのできない矢の包囲網。


次回【光芒の包囲網】」


日「問題nothingだぜ!!」


輝「ヒナタ〜ン!!そういえばあの件はどうなったの〜?ほら、このあいだチエリンの携帯にお茶かけて壊しちゃった――」


日「だあぁあああああああああああああああああ!!!!」


真「…あぁ。だから今日、知恵理のご機嫌とりしてたのか」


凪「…女の子の日は何だったのかしらね」


知「…ヒナ君。先5ヶ月お小遣いなし」


日「ご堪忍をおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



次回に続く!!

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