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時の秒針  作者: †HYUGA†
第一章;時の番人編
36/76

第35話 包み込む凪の魂

すみません!一週間ぶりの投稿です!


そのかわり過去最長!


しかもいままでに比べられないほど長いです!


今回は凪の心の中を書いてます。


はたして凪は再び戦うことはできるのか?


それではどうぞ!!


日向side



「な、凪…」




目の前に広がるあまりの出来事に、俺は見開いた目をその光景から外すことができなかった。


カゴの中にいる知恵理も同じような状況だった。だけど、それも仕方のないこと。なぜなら、あの凪が――いつもみんなを引っ張りガンガン進んでいく姉御肌の凪が…。


肩から血を出して倒れてしまっているのだから。




「う……そ……?」




口元を手で抑え、今にも泣きそうな知恵理…。その手は恐怖のためか、小刻みに震えている。


そして、その横では顔は無表情のままの彼の者の姿。そう――感情なく見つめる水城のに姿に俺は怒りを覚えずにはいられなかった。




「水城!!!!」


「……言っておくがあれは俺のせいではない。あいつらが勝手にやったことだ」




何…ふざけたこと……言ってやがんだ!!!!


刹那が自分の意志で凪を傷つける?自分の意志で凪を殺したりするだってか?…ふざけんなよ。


あの…たとえ敵であっても俺達に情報を教えてくれたあの子が…。今も、敵であふ凪のために泣いてくれてるあの子が…自分の意志でそんなことできるわけないだろうが!!




――パンッ!!!!




…乾いた音が部屋にこだまする。


その音は空気に伝わり部屋全体へて伝わり、俺だけでなく、真備、輝喜、レリエルの動きでさえ完全に止めさせるほどの衝撃を与えるのだった。


かくうえ、俺自身もその光景を信じられなかった。…あの知恵理が、水城の頬をひっぱたいたのだから――




「…何を言ってるの…あなた?」




いつもの知恵理からは考えられない冷たい声。物心がついてから、常に一緒にいたと自負している俺でさえ――初めて聞いたかもしれない。


彼女のこんな…怒りに身を任せたような声を。




「…あなたは、純粋なあの子の、刹那の心を惑わして…私の親友を…凪を傷つけた!!なのにあなたは自分が関係ないですって?ふざけないで!!あんな2人を見て何がおもしろいの?私達で遊んで何がおもしろいの?…私達をあなたの勝手なゲームに巻き込まないで!!!!」




…知恵理の口から放たれる言葉の数々に俺はさらなる驚きを隠せないでいた。


まず、知恵理が凪や刹那のことを呼び捨てにしたのだ。それだけで高らかと宣言した知恵理を凛々しくさせている。


さらに、言葉1つ1つに含まれる重圧…普段なら考えられない彼女の姿。こんな凛とした彼女を俺は初めて知った。だけど――




「……ふん。俺は事実を述べたまでだ。実際、俺には何の関係ない」




知恵理の凛々しい言葉に、水城は動じることなくそう切り返してきた。


こいつ…あくまでもしらをきり続けるらしい。




「うぅ…」




あまりに堂々、且つあまりに自らを正当化させたような水城の言葉に、悔しげに肩を震わす知恵理。そんな彼女に俺は何も言葉をかけられなかった。悔しさのあまり、涙を押さえきれずに流し始めた彼女に――俺は何も言えなかった。


…事実、証拠がない状態の今、何も言い返せないのだ。こんなにも…こんなにも2人が傷ついているというのに…。


俺達には何もできなかった。俺達には――




――パチンッ!!ザンッ!!




…弾かれる指の音。それに続く空気を斬る音。聞き覚えのあるその音はどんどん迫ってくる。


水城自身も、その音の主が自身に迫ってくることが分かったのか、腕に当たる寸前に、カゴから手を離して2つの部屋を隔てる壁の上に降り立った。そして――




――ダンッ!!!!




音の正体――レリエルの光の矢は知恵理の入っている鳥カゴの棒の1本にへと突き刺さる。


それは…俺達を救ってくれたまさしく神の矢。


サジタリウスの矢だった。




「……どういうつもりだ、レリエル?」




壁に降り立ち、水城が無表情のままさっきよりも近くになったレリエルを睨みつける。


それに対してレリエルは水城の視線をサラリとかわし、あたかも当然のように応えるのだった。




「すみません。ちょっと手が滑りました」




白々しく簡潔的な言葉に俺は心から感謝した。知恵理も半泣きになりつつも何とかレリエルを見つめている。そんな知恵理の姿にはさっきまでの凛々しさは感じられない…。


いつもの弱々しく繊細な女の子だった。






凪side



「あんた、何の用よ?」




あたしはこみ上げる怒りを抑えながら楓に問う。


そよ風すらない無風のこの暗闇の中は何か居心地が悪い。たぶん、あたしが風の能力者だからだろう。


そして、あたしの目の前にいる金髪の美女――見た目は10代後半に見えるが実際は何百年も生きている大妖怪【九尾】である。


そして、あたしを生まれてからずっと苦しませ続けた存在…。


でも、何で今、出てきたのかしら?


疑問は尽きなかった。そんなあたしの疑心暗鬼な視線に楓はニッコリと…本当に笑顔で笑いかけてくる。




「わたくしは羽前家の守護妖ですよ?あなた様のピンチに駆けつけるのは当たり前です」




自分の胸に軽く手を当てながら大人の表情を見せる楓にあたしは何も言い返せない。


その雰囲気はおしとやか――知恵理によく似た雰囲気だったからか、さらにあたしは言葉を吐けないでいた。




「でも…申し訳ございません。わたくしはまだ表立って動けませんので今回はあなたへの助言という形にさせていただきます」




申し訳なさそうに語る楓はその見事な金色の髪をなびかせながら――って。あれ?おかしいわ…。


何か、楓の様子にあたしは違和感を感じた。それは、楓の金色の髪が――髪がなびいてる?


あれ。ちょっと待ってよ!?ここってさっきから無風でしょ!?なんで髪が…しかも楓の髪だけがなびいてるのよ!?




「ちょっと!!九尾!!」


「はい、なんでしょう?」


「なんであんたの髪はなびいてんのよ!?なんのトリックよ!?」




あたしの叫び声に一瞬キョトンとした顔になった楓だが、またたおやかな笑顔を取り戻し、さっきより優しい声で語りかけてきた。




「…さすが、というところですね姫。よく、お気づきになられました。やはり、あなた様は博識であらせられます」




そう言うと楓はクルリと一回転――9本の尻尾がある狐、九尾の姿へとなった。




「な、何よ?」




まじまじと見つめられる九尾の目にあたしはたじろぐ。だけど、九尾はあたしの態度に関係なく話始めた。




「まず、ここは夢の世界ではありません」




その言葉はあたしにとってみれば驚きの一言だった。




「はぁ?こんな嫌な空間が夢じゃないって言うんならいったいここは何なのよ!?」




あたしにとって夢とは嫌な空間というのが定義になっている。


予知夢で見せられる悪夢――これから起こるかもしれない危険な未来。その全てがまさに嫌な空間だったのがその理由だ。…だけど、九尾の次の言葉を聞いたとき、あたしはあたし自身を嫌悪したくなる衝動に駆けられた。なぜなら――




「…ここは、あなたの魂の中です」




なぜなら――あたし自身が嫌な空間だと思ったここが、あたし自身の魂だと知ったからだ。




「……」




思わず身が固まってしまう。だけど、あたしはすぐに悟ったのだ。


あたしの魂がどうしてこんな寂れているのかを――


魂?…なるほど、そういうことか。あたしの心は昔から変わらない。ずととずっと――




「暗く閉じこもった人間の魂は暗く閉じこもっているということね…」




いままであたしが歩んできた経緯、そして、今のあたしがどのような状態かを考えればすぐにわかった。


…あたしはひねくれ者なのだ。真備や日向、知恵理に輝喜の優しさに甘え、あたし自身からはみんなに何もしてない最低な女。


あ〜ぁ、あたしなんかになんでみんな仲良くしてくれるのかしらね…。泣けてくるわ…。


あたしの瞳は最早決壊寸前だった。刹那、ごめんなさい。あんたがあたしを狂わせる必要性なんてなかったわ。



なぜなら、あたしはすでに狂ってるのだから。



あたしがそう結論づけたとき、九尾は長い間(と言っても数秒)閉ざしていた瞳と唇を同時に開ける。


妖獣と謂えどもその姿は本当に様になっていた。



「…姫。あなた様はどうやら勘違いしていらっしゃる様子ですね。…ここが…この場所が暗いのは決してあなたの心が汚れているからではありません。あなたの魂が今、体から離れているからです」


「え?」




驚きの表情で、顔を上げるあたし。すると、目の前にはすごく柔らかい表情をした妖狐の姿をした彼女の姿が。


その笑みはあの()の――知恵理の笑ったときの優しい顔つきにそっくりだった。




「魂とは能力…。わたくしは今、あなた様の体の方から話しかけているのです。…あなたが昨夜いたあの草原こそがあなたの心。あなたがわたくしが本当にいる場所を探り当てたらあなたの道は開けると思います…」


「…どういうことよ?」


「わたくしを探すことであなたが新しい力を手に入れる…と、いうことです」




九尾の全身にまとわれている金色の毛がふわりとなびく。


キラキラと輝くその姿はとても綺麗…。憎むべき相手にもかかわらず、あたしは彼女に見惚れてしまっていた。




「あんたを探す…。そんなの簡単じゃない。今、あたしの目の前にいるけだもの、それ以外に誰がいるっていうのよ??九尾??」




動揺したあたしは、なるべく心の変化を彼女に悟らせまいと、必死に冷静を装う。


でも、どうやら彼女にはすべてがお見通しみたいだった。




「…姫様。わたくしは逃げも隠れもいたしません。ですから、ホントのわたくしを――あなた自身を見つけてください」


「あたし…自身??」


「そうです。わたくしはあなたを守る守護妖。ですから、わたくしはあなた様の力…一部なのです。だからこそ、わたくしは誰よりもあなた様のことを知っております。誰よりも」




すべてを知っている。そんな顔をする獣の姿をした彼女に、あたしは息をのんだ。


確かに、あんたが今、あたしの考えたことを完全に読んだことは、その表情を見て分かったわ。


…だけど、あんたの言うことには納得できない。あたしのことをすべて分かってるですって?洒落にもならないわよ。だって――




「なに…言ってんのあんた?ふざけないでよ。そんなの…そんなの…っ!?思い上がらないでよ九尾!?あんたに…あたしの何が分かるってのよ!?」




あたしの心からの叫び。それは、虚空なこの暗闇にすら響くあたしの悲しみの声だった。




「…言ったはずです姫様。わたくしは、あなた様のことをすべて分かっていると…あなた様が生まれてきたそのときから、ずっと…わたくしはあなた様を見てきたのですから」


「ふざけんじゃないわよ九尾!!あんたは…あんたはあたしの気持ちなんてこれっぽっちも理解なんかしてない!!戯言もほどほどにしなさいよね!?分かっているですって…だったらなんで…なんで…なんであんたは――」


「……」




ぽたりと…滴り落ちる雫。あたしの瞳から溢れ出したそれは、暗闇へと消えていく。


その後、あの一滴の雫がどうなったのかは分からない。でもきっと、今のあたしと同じような運命を辿るだろう。


【予知夢】という未来への暗闇に堕ちたあたしのように――




「…姫様」


「うっさい…。話しかけんな…。あんたのせいで、あたしが…あたしがどれだけ…苦しんだと思ってんのよ…」


「……」




泣きじゃくるあたしに、九尾は何度も何度も話しかけようとする。


でも、そのたびにあたしが彼女の口を言葉で塞ぐ。何度も何度も…あたし達はこれを繰り返した。


暗闇にポツリと取り残されたかのようなあたしと九尾。風もない、音もない、あたし達以外には誰もいない。孤独感を感じるこの暗闇――あたしの魂。


こんなとこにいたら、いくらあたしでも空虚な気持ちになってしまう。ま、もともと空っぽなんだけどね。


だからついつい、涙も枯れてしまった目を彼女へと向ける。ここには、あたしと彼女しかいないから――




「…ねぇ、九尾。聞いてもいいかしら?」


「…姫様。はい、わたくしはあなた様をお守りするあなた様の一部。何なりとお聞きください」




彼女が私にかける言葉はいつも優しい言葉。だから、苛立つ。


なぜ、ここまで恨んでいる人間に優しくできるのかと。そんなことしてあたしに何を求めてるんだと――




「…九尾。あたしは…あたしはどうせればいいの?今のあたしに…なにができるの?」




でも、今はその優しさに甘えさせてもらうことにした。彼女がどんなことをあたしに求めているのかを確かめるために。




「…簡単なこと…ですよ」




すると九尾は再び一回転、金髪の美女である楓の姿になりニッコリと微笑む。


その瞬間、今の今まで真っ暗だった空間が少しだけ…明るくなった。はじめは何があったのか分からなかった。けど、よく周りを見渡してみるとある一点から光が溢れていることがわかり、そっちをあたしは凝視する。


…薄目で周りを見渡したかのように霞んだ光の先、そこには彼女がいた。ちょっと我が儘で、子供っぽくて…だけど、とっても優しい心を持った彼女が。




「…刹那」




光の先には両手を顔全体にかけて崩れ落ちている刹那の姿。泣いてんの、あんた?


あたしはすすり泣く刹那の姿に見入ってしまう。彼女が泣いている理由はおそらく――いや、確実にあたしだ。


あの子は確かにキレたら怖く恐ろしい子になってしまっていた。


昨日の姿からもそれは分かる…あのときのあの子はまさしく【戦闘狂】だった。


でも、だからといってあの子は異端な存在なんかじゃないわ。あの子だって普通に喜んで、悲しんで、笑って、楽しんで――普通に泣いてるのだと思う。


あたしは泣きながらあたしの名前を片言に口に出している刹那を見ながらそんな当たり前のことを考えていた。そして、あたしはある感情が沸き上がってくる。


今、現在進行形で知恵理に感じている感情…。


そして、あたしが今最も強くなっている感情だ。澄んだ綺麗な心を持った彼女。そんな彼女をあたしは――


あたしは――

…あたしは――

……あたしは――

………あたしは――




「…なんだ。応えなんて最初から決まってんじゃない」




そうだ。結局、あたしは最初から決めてた。決めてたんだ。あたしは彼女を――刹那を助けたいんだって。


…刹那を助けたいのよ。あたしは――




「…いい表情です姫。どうやら、お答えをお見つけになられたようですね」


「…べ、べつにあたしはそんなもん知らないわよ。あんたなんかの指摘に気づかされたりなんかしないわ。あたしはただ――」




その瞬間、辺りは再び真っ暗な暗闇に逆戻りする。でも、あたしの中は晴れ渡っていた。


応えを…見つけだしたことに。




「あたしはただ――見失っていたものを取り戻しただけよ。忘れちゃってた思いを…思い出した。ただ、それだけなんだからね」


「…そうですか。では、姫様。ぜひ改めてお聞かせてください。あなた様が何をお思いになったのかを。このわたくしめに――」




そして、楓の声にあたしの気持ちも逆戻りする。


楓に対する気持ちはこの際無視していくわ。なんせ今、あたしがやらなければいけないことはそんなくだらないことじゃない。


今のあたしに必要なのは――




「…えぇ、いいわ楓。特別に聞かせてあげる。さっきのあんたの言葉の意味はまださっぱり理解できていないけど…。気持ちの変化は大きいと思うわ。気持ち一つで考える力が変わるのよ!!」


「…では新しい考えとは?」




そんなの決まってるわよ!!




「あたしは刹那を助け出す!!たとえ、刹那がそれを望まなくてもあたしは刹那の心を開いてみせるわ!!だから、あんたの言葉、必ず解いてみせるわ!!」




そう言って、あたしは楓をビシッと指差す。もう…あたしを止めることは出来ないわよ!!


それがたとえ、あたしをずっと守ってきたあんただとしても――あたしはあんたを無視して進み続ける!!


あたしはもう…止まらない!!止まるわけにはいかないんだからね!!




「…くすっ」




なっ!?




「ああああ、あんた今笑ったわね!?」


「…いいえ。笑ってなどおりませんよ?」


「うぅっ!!嘘おっしゃい!!今【くすっ】って笑ったじゃない!?」


「姫様。失礼ながら申し上げますが…少しばかり自意識過剰ではありませんか?」




ムカッ!?


毒舌…。この女(?)毒吐いた…!!ていうか、あんたキャラ変わってない!?なに考えてんのよ!?




「あ、あんたね〜…何考え――」


「…姫様。あなた様はどうやらわかっておられるようですね」


「――え…てん…のよ?」




あたしの言葉を遮り楓はそう言った。


…分かってるって何をよ?




「ちょ、ちょっと待ってよ!?あたしはあんたの言葉を何にも分かってないわよ?」


「…はい。確かにあなた様は何もわかってませんね」




…あんた、さっきと言ってること矛盾してるわよ?


どうゆうことよ?




「ですが、それは――」


「??」


「あなた様の頭の中では、ですが…」




そう言うと楓はまたクスクスと笑い出す。


なんかムカつくけど自然とその笑顔があたしを安心させていた。…不覚にもね。




「…頭で分かってないんならあたしは何にも分かってないんじゃないの?」


「…いえ、あなた様は分かっております」




やっぱり矛盾してるんじゃない?




「どうゆうことよ?」


「…あなた様は今朝何を言っておられたか覚えていらっしゃいますか?」




…今朝のことって、何かあったかしら?


今朝は思い出したくもないことはあったから忘れられないけど…。


あたしは途中から自暴自棄になってたからそんな喋ってなかったと思うわよ?




――だめ、思い出せない。




「その表情はどうやら覚えてないようですね」


「…悪かったわね」




そのニコニコとした顔が今はとても恨ましく見えた。


でも、あたしのそんな内心に関係なく彼女は言葉を続ける。




「あなたはこう言いました…"自分は空っぽだと"…」


「っ!?」




そ、そういえばそんなこと言った――いや、言葉には出してなかったから思った、か…。


でも、確かにあたしは確かにそんなこと考えてたわね。だからといって、それがどうかしたっていうの?




「魂は心…これは魂狩ソウルテイカーは人の心。つまり、人の性質と同じ意味であることをあらわします」


「…性質?」


「あら?あなた様は彼らの性質をよく分かっておいででしたはずですが?」




すると、再び辺りは明るさを取り戻す。


だけど、光の発信源は今度は4つある。その光の中にはどれも、あたしの無覚えのある4人映っていた。




「姫様。あなた様は朝、彼らについても述べていたはずです。彼らの本質についてをです」




…あっ!?


その言葉に、あたしはものすごく心当たりがあった。




「…まさか!!」


「そうです。その通りです姫様。


知恵理様は【優麗な輝き】

輝喜様は【屈強な意志】

真備様は【純粋な心】


あなた様はよく分かっていらっしゃいますね」




た、確かにあの3人のことはそれで間違いないわよ。でも、それだったらあたしは――




「はい姫様。あなた様は空っぽ…確かにその通りです。…ですが、だからこそ、あなた様しか持てない性質があるのです」




空っぽのあたしにしか持てない性質?




「…あなた様は、その空っぽの心の中に包み込めることができます。あなた様はその空っぽの心に学んだ知識を詰め込むことができます。…あなた様はその空っぽの心に全てを受け入れることができますよ」


「そ、それがどうかしたのよ…?」




あたしのその言葉、そしてあたしの疑心暗鬼な態度に楓はここにきて初めてニコニコとした顔を止め、あきれた様子でため息をついた。

「…姫様。まだお分かりにならないのですか?」


「…生憎、あたしは日向みたいな天才じゃないからね」




憎まれ口を叩くあたしに楓は再び深いため息をこぼすのだった。




「…まあ、よいです。ようするにあなた様は他の皆様方同様、性質をお持ちになっている。わたくしが言いたいのはそのことです」


「あ、あたしの性質?」


「えぇ、あなた様の性質、それは――」




楓はこれまでで一番の笑顔となる。見ほれてしまうほどの優しい笑顔に。




「全てを優しく包み込むことのできる【寛大な包容力】です」




でも、そこから出てきた言葉はあたしにとって予想外すぎる言葉だった。…包容力、ねぇ〜。


あたしにそんなものがあるのかしら?だってあたし…自分で言うのもあれだけど、素直じゃないわよ?




「姫様。あなた様がそれを認めようが認めまいが、あなた様の心の性質は【寛大な包容力】なのです。…ですが、認めてくださらないとあなた様は魂狩の真の力は使えません」


「真の…力?」




真の力…真の力ってまさか!?




協調(チューニング)です」




あたしの考えは楓の言葉で確信となった。あたしはその言葉に耳を疑うと同時に喜びを感じていた。


今朝は協調ができないがために、水城に相手にすらされなかった…。それどころか、無闇に彼に挑み赤子の手を捻るように簡単に負かされてしまった。


あたしのプライドはズタズタにされたのよ。…でも、今はそんなの関係さいわ。今のあたしは知恵理を助けたい…そして、刹那を助けたい!!


そのあたしにとってその言葉はまさしく天からの贈り物なのだった!!




「楓…あたしは、あたしはどうしたら…協調ができるようになるのよ?」


「…わたくしは先ほど言いましたよ。あなた様が認めれば自ずと道は開かれます。真備様は自分で自分の性質を見抜いていらっしゃるからいきなり協調ができたのです。双子の姉でいらっしゃるあなた様ならきっとできます」




いままでにないほど力説する楓に今だけは感謝だ。


あたしは自分の今までの行動を見直してみる。


そうすれば自分の性質を認とめることができると思ったから。あたしは瞑想するように、瞳を閉じ――回想を始めた。




回想する。


昨日の昼間…あたしは転校したての悶を【街】で助けた。


悶のことを放っておけなかったから――




回想する。


昨日の夜…あたしはいきなり襲ってきた刹那を許した。


刹那が本当はあたし達を襲おうとはしていなかったから――




回想する。


数時間前…あたしは真備を傷つけたデモンを許した。


デモンが本当は悪い人間じゃないって知ったから――




回想する。


今…あたしはあたしを殺そうとした刹那を助けたいと思っている。あの子の涙を視たから――





あはははは!!あたしの行動、よくよく考えてみればみ〜んな楓が言った通り全てを許そうとしてんじゃん!!


あ〜ぁ…なんであたし今まで独りでシリアスぶってたんだろう?答えなんて…簡単じゃない。


あたしは…あたしは――




「あたしは今のあたしのままでいいってことね!!」


「正解です姫様」




楓の賞賛の言葉、それと同時に今まであたしの目の前にあった真っ暗闇な空間は嘘だったように明るさを取り戻した。




「え…?」




一瞬にして、まるで夢から覚めたように、あたしは広々とした草原の真ん中に立っていた。


――その風景はまさしく昨日の夜、気絶したときに見た一面が風を受け入れているように優しく草がなびいついる温かい草原。


その中を吹き抜ける温かな風を全身に浴びながらあたしは草原の真ん中で楓と向かい合っていた。




――ヒュウウゥゥゥ…




風があたしの髪を優しく攫う。


それは、とても心地のいい風だった。




「…あたし、こんな気持ちがいい風…初めて」




ぼんやりと呟いたあたしの言葉に、楓がニコリと微笑んだ。




「…はい。ですが、お忘れなく。この風はあなた様の風だということを」


「あたしの…【風】」




あたしはこのとき生まれて初めて自分の心が熱く湧いていた。


これまでずっと空っぽだったあたしの(たましい)に、能力(ちから)が入ってくる。


これが…これが魂狩の真の力。



協調(チューニング)




「…さぁ、姫様。お目覚めください。あなた様はわたくしの問いに見事お答えになりました。…現実に…夢の世界からお目覚めください。そして…知恵理様と刹那様をお助けください」




そう言って、ニコニコと楽しそうに笑う楓はあたしの目の前まで歩いてくるとあたしの頬を優しく撫でる。


…あたしにとって、彼女は憎き相手――九尾。だけど、この姿であるときはなぜか憎めないあたしがそこにいた。


あたしはおとなしく肌を撫でられながら楓の顔を見上げる。


彼女の顔は…優しかった。




「目覚めの時間です。姫様、あなた様の御武運をお祈りしております」




そしてそれは、素直じゃないあたしが――




「ありがとう、楓。あたし必ず2人を助けるから…」




久しぶりに素直になった瞬間でもあった。






刹那side



「…ぐす…ひっく…凪…」




涙は…いくら拭っても溢れてくる。


オレが殺した。この手でオレは…凪を殺したんだ。次々に溢れてくる思いに、オレは押しつぶされそうになる。


悲しい…。なぜかは分からないけど無性に悲しい。


その理由を…オレには知るすべはなかった。



――ドガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!!!!!




次の瞬間。これまで聴いたことがないような激しい轟音がオレの視線を上げさせる。


…そこには信じられない光景があった。


俺とレリエルの部屋を分け隔てている壁が――あのデモンさんが造ったダイヤ混じりの特殊な壁が…その轟音と共に一瞬で崩れていたのだ。




「う…ウソだろ…?」


「ナギねぇ〜〜!!!!!!」




俺の疑問の言葉を全てぶっ飛ばすような大声が部屋中に響き渡る。


驚きで、崩れた壁のほうを振り返ったオレが見たのは――




「はぁ…はぁ…ナギねぇ…」




崩れ去った壁により巻き起こった大量のホコリ。その中に立つ1人の男。


 “真備”だった。


まさか…あいつがこれをやったのか!?驚きを隠せず、オレがそう思ったそのとき――




――ヒュウウゥゥゥ…




頬を暖かな風が撫でた。


飲み込まれそうなほど心地の良い風だった。だが、それはありえない。だって、ここは部屋の中なのだから――


でも、俺の疑問は一瞬にして崩れ去る。それこそあの壁よりも遥かに脆く。




「うっさいわね!!静かにしなさいよこの…馬鹿弟!?」




なぜなら――その風に乗って、今オレの一番聞きたくなくて…。


一番聞きたかった声が聞こえてきたからだ。







真備side



「水城…今の話は、本当か?」




震える肩を押さえることができず、俺は睨みと共に水城に問いかける。


押さえられない理由は分かっていた。俺は…俺は、あいつのことが許せないのだ…!!




「……羽前真備。貴様には関係のない話だ」


「……」




そして、人をあざ笑うかのような冷徹なその態度がさらに俺を苛つかせる。


俺には関係ないだと?サラッとふざけたことを言いやがって…!!


その瞬間。水城に対する俺の中の何かが一気にキレた。


そうか、お前は俺にそんなにぶん殴られたいんだな?そうなんだな?


握りしめた拳が痛いほど固く握られる。我慢なんかできない。できるはずは…なかった。


あぁ、そうかい…。だったらお望みどおり…。




葬ってやるよ!!!!!!




「死ぬやあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」




俺は水城のいる部屋と部屋とを隔てる壁へと立ち向かう。型すらなってない、完全なる怒りにまかせた拳だった。




――ブオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!




…このとき、俺は自分の頭が体に追いつけないことに気がついた。速い、速い、速い、速い、速い。


俺の体がまるで俺の体じゃないみたいに動く。速いなんてもんじゃない。まるで、飛んでるみたいに…体が軽かった。


…っ!?ヤバい!!ぶつかる!?




「っ!?うらあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」




ぶつかると思った俺はとっさに拳を振り上げる。


頭で考えるよりも先。すでに俺の体が、反射的に拳を振り上げていた。


背中に冷や汗が流れる。だが、もう後戻りはできない。後戻りなんか考えるより先に、俺の体が、拳が、すでに後戻りなんか許さないと言わんばかりかに激しく雄叫びをあげていた。




――ピリッ…ピリッ…!!




…そうかよ。テメー…俺の体の一部のくせしやがって、俺に逆らうのか?だったら容赦しねぇよ…。


覚悟?そんなもん、最初からあるに決まってる。


俺を誰だと思ってやがんだよ?俺は羽前真備。陰陽師、羽前家の次期当主。そして――



 羽前凪の双子の弟だ!!




――ピシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!




拳がさらに高らかと雄叫びをあげる。そんなにあわてんなよ雷神…。


慌てて暴れなくても、俺が…俺が――




「俺が全部ぶっ壊してやるからよおぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」




――ドガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!!!!!




壁を破る。マジでできるなどとは思ってもいなかった。だが、そんなことはどうでもいい。


そんなことより…俺は叫んだ。腹の底から一気に叫んだ。




「ナギねぇ〜〜!!!!!!」




必死に声を荒げて叫ぶ俺。だったが、未だに前はいっさい見えない。


ホコリを飛ばそうと手で仰ごうとした。だがしかし、体が言うことを聞かなかった。


な、なんだよこれ…息が上がってる?


俺はいつの間にか凄まじいくらい息を荒げていた。


それでも、俺はナギねぇの名前を呼ぶ。たった1人の姉なんだ。奪われたくない。


その言葉だけを支えに俺はナギねぇの名前をひたすらに呼んだ。そのときだった。




――ヒュウウゥゥゥ…




風が吹いた。しかもただの風じゃない。どこか暖かく、とても気持ちのいい風だ。


その風は俺の周りに漂っていたホコリを全てかっさらうと部屋の端へと消えていった…。




「うっさいわね!!静かにしなさいよこの…馬鹿弟!?」




そして、部屋中に聞こえるくらいの大声。間違いない!!


俺は声の出どころを見え探すために見回す…いた。


雪が降り積もっている部屋、その真ん中あたりで鉄扇を構えている少女。まさしく我が親愛なる姉だった!!




「あたしをなめんじゃないわよ刹那!!!!」




彼女、ナギねぇが叫ぶ姿はとても勇ましかった。






           `


作「今回のお題は、もしも、世界が100人の幼馴染ならば?では最初は主人公、不知火日向さんの意見で〜す」


日「やめろ!!そんな世界崩壊まで秒読みの世界なんて想像したくもねーよ!?」


知「うぅ〜…ヒナ君。ひどいよぉ〜…」


日「当たり前だ!!ただでさえド天然なお前が、1人だけでも苦労してんのに!?あと99人もいたらカバーする俺、死ぬわ!?マジで過労死するわ!?」


凪「…ま、日向の気持ちも分からないこともないわね。知恵理ったら、世界崩壊の10分前でも鼻歌歌いながらシチューかき混ぜてそうだから…」


真「…むしろ世界崩壊のスイッチを炊飯器のスイッチと間違えて押しそう」


日「…やめろ真備。洒落にならねぇ」


輝「あははは〜♪チエリン=核弾頭だね〜♪こらいこら〜い☆」


知「むぅ…みんなまで〜。もう、知らないもん!!私、そこまで天然じゃないんだからね!!プンプン」


知以外『『知らぬは本人だけ…か』』


作「じゃあ、お次の意見に行きましょう。もしも、世界が100人の幼馴染ならば?ヒロイン、姫乃城知恵理さんの意見で〜す」


知「世界が…100人のヒナ君…?……………………………いいかも(ぼそっ)」


凪「…かなり長いこと考えたわね」


真「まぁ、あれじゃねーのか?妄想してたんだろ。日向onlyの逆ハー生活を」


輝「うわぁ〜…めんどっちそうだなぁ」


日「…つか、お前がよくても俺がいやだからな?」


知「えぇ〜!!なんで〜?」


日「よ〜し知恵理?よ〜く考えような?もし、だ。もし世界が100人の俺なら、誰が俺の飯作るんだ?お前1人なら絶対に無理だろ!?」


知「はわ!!そこは考えてなかったよぉ〜!!」


真「…自分で作るっていう選択肢はないんだな」


輝「というかヒナタンて、もしかしてチエリンより厄介な存在?」


知「はわわわ…どうしよう。ヒナ君1人あたりカレーライスなら2杯だから…でもヒナ君、カレーのジャガイモは嫌いだしなぁ…」


凪「で?こっちはこっちでなに真剣に考えてんのよ…」


真「こいつらの固有結界にはついてけねぇよ…」


輝「というわけで結論♪どっちに転んでも2人は結局2人のままなので〜す♪」


作「はい!!じゃあ次回予告いきます。次回の時の秒針は――


風、吹きて有幻となり。

風、凪て無幻となる。


次回【幻影の風声鶴唳】」


日「問題nothingだぜ!!」


真「…そういやさ、1つ疑問なんだがよ?世界が100人の幼馴染なら――って、それ幼馴染しかいなくねーか?」


凪&輝『『あ…』』


日「…その発想はいらなかったよ」



次回に続く!!

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