第33話 堕天使の栄光
凪side
「どうした凪!!まさかこの程度でギブアップなんて言わねーよなー!!」
「ふんっ!?当たり前よ刹那。あんたこそ、その可愛い顔に絶対に吠え面かかせてあげるんだからね!!覚悟しなさい!!」
「へ!!上等だぜ!!」
――キ――――ンッ!!!!!!
…あたしと刹那が戦闘をはじめて、すでに5分近く時間が過ぎていた。だけど結果としては、認めたくはないけどあたしは刹那に押され気味だった。
その原因は言わずもがな、あの見た目に反してハイスペックを誇る彼女の魂。
刹那の魂狩【雪化粧】である。
その形状は羽衣――はっきり言えば、布の形をしているのだが、あの布はただの布ではない…。
雪のような白い生地は、光の角度で何色にも見えるし、それに加えさらに驚きなのはその攻撃能力だ。
勢いよく斬りつければ人間の肌なんて簡単に傷つけられる。また、折り重ねれば少なくともあたしの攻撃なんて簡単に防ぐこともできる――
つまり、あの外見とは裏腹にその性能はかなりのハイスペック。もしかしたら私が知る魂狩のどれよりも高性能なのかもと思えてしまうほどだ。
ホント…Simple is the bestとはよく言ったものね。彼女の魂にはまさにその言葉がお似合いだった。
『『………』』
でも、実際問題これはかなりまずい状況だわ…。
あたし達の周りにある雪、刹那は雪の能力者というだけあって雪上での戦いに慣れてる。さらにあたしは協調すらできない状態…。
これは…かなり不利な状況ね。
『へ!!オレの雪化粧にこの部屋で勝とうなんて思わない方がいいぜ??』
そのとき不意に、戦闘が始まる前の刹那の言葉が頭によぎる。あの啖呵、まさにその通りだったわ。
今、あたしは確かに刹那の言った通りの展開になりつつある。つまり…あたしはあたしの敗北へと一歩一歩確かに前進しているということだ。
…さて、どうしようかしら。この状況を…一変させるためには――
「凪、いい加減分かったろ?この部屋でオレには勝てないぜ??そういう運命なんだよ」
「ふん、そんなことやってみないと分からないでしょ?第一、あんたがあたしの運命決めんじゃないわよ??凪払うわよ??」
「…そうだな。だがな、凪。オレがまだ本気を出してないこと…分からないわけじゃないだろ?」
「…そうね。気づいてないわけじゃないわ。でも、あたしだってまだ本気じゃないわよ?それが分からないあんたじゃないでしょ?」
「言ってくれるな…」
口先では何とでも言える。でも、状況が最悪なのには変わりなかった。そんな強気なことを言っても状況が変わる訳じゃないし…。
それに、刹那が本気じゃないことも分かっていた。なぜなら彼女は――
「んじゃ、そろそろ本気で行こうかな。果たしてお前にオレの姿を捉えることができるかな!?」
なぜなら彼女は――刹那は、まだあの姿を消す技を使ってない。昨日の夜。土壇場でキレた刹那が見せたあの技…。姿どころか、足音や気配すら消し去る、その名前のとおり【静寂】の技。
出来ないわけではないらしい。最初この部屋に入ったときに刹那はその技で姿を消してたから今もすぐに使えると考えたほうがいいでしょうね。
だけど、今それを使ってこないということは…。刹那は本気を出してないということである。嘗めてくれんじゃないのよ。
「…さて、じゃあそろそろ戦闘再開といきしましょ刹那。あんたのこと…凪払ってあげるからね」
「あぁ…いいぜ。お前の綺麗な鮮血…この目で拝んでやるよ。羽前の血はなかなか好みの味だったからな…」
今のあたしにはあの技に対処する方法はない。姿を消されてしまったら…あたしにはどうすることもできない。
でも、だったら――
「はあぁあああああああああああああああっ!!!!!!」
「うりゃあぁあああああああああああああっ!!!!!!」
だったら――使わせる前に戦闘不能にするまでよ!!
――キ――――ンッ!!!!!!
静かな静寂の間の部屋に再び綺麗な金属音が響き渡る。雪だらけの冷たい部屋にその音は少しだけ不釣り合いのように思えた。
ぶつかり合う鉄扇(風神)と羽衣(雪化粧)。あたしたちの闘いは、あたしたちの思いとともに再び荒々しく舞い上がっていった。
「マキ君!!!!」
だが、そのとき突然、真備の名前を大声で呼ぶ知恵理の声があたしの耳をつんざいた。そして――
――ドカアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
あたし達の左側にある、おそらく真備とレリエルが戦っていると思われる境の壁が何かがぶつかったような巨大な音と共に揺れ動いた。
「な…なに!?何なの!?」
「…あ〜ぁ。たっく…苛立ってやがんなあいつ…オレ達の目的まで忘れてるわけじゃねーよな…」
突然の事態に驚くあたしとは裏腹に、全てを悟ったかのような刹那の言葉。彼女の言うあいつとはきっとレリエルのことでしょうね…。
だとしたら、きっとあいつは…真備は…。
いったい、この向こうでは何が起こってるの?真備…あんた、無事なんでしょうね――
真備side
「ぃってぇ…」
くそ…油断したぜ。まさか…まさか、レリエルにあんな技があったなんて…。
まさか矢ごときに吹き飛ばされるなんて思ってもいなかったぜ。いてて…壁に打ち付けられた背中が割れそうだ。
「…神聖の斧」
「!?くそったれ!!!!!!」
――パチンッ!!ザンッ!!
だがしかし、レリエルは壁に倒れこんでいる俺に容赦なく矢を撃ち込んでくる。
でも、この矢はただの矢じゃない。俺は分かっていた。あの矢の恐ろしさを――
「ぐぅっ…!!!!」
――ザンッ!!!!
精確に俺へとむかって飛んできた矢を俺は紙一重、体をひねって避ける。だけど、これだけではこの矢の恐怖は終わらない…。なぜなら、この矢は――
「…能力圧縮解放。さぁ…行ってください――
【神聖の鐘】」
――ドカアァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
その刹那、俺がさっきまでいた場所のちょうど真後ろにあった壁が、まるで巨大な掘削機で破壊されたかのようにへこむ。
それは、俺へと放たれた矢を中心とした空間だった。
「あ、あぶねぇ…」
「…惜しかったです」
冷や汗が背中にしたり落ちる。ギリギリのところで避けれたが、この攻撃に当たったら圧力で骨折してしまうかもしれない。それくらい巨大な攻撃なのだ。
「さすがですね真備。まさか【神聖の斧】だけではなく【神聖の鐘】まで避けるなんて…ね」
「かなり危なかったけどな…」
はっきり言って俺はラッキーだった。あんな攻撃を一撃も受けることなく正体を見破ることができたからな…。
さっき、闘いが始まって、初めて攻撃を受けたときに俺は思わず矢を掴んでしまった。だが、すぐに投げ捨てていたため、光の波動を受けずに済んでいた。あのときはマジでびびったぜ…。
もし、あのままだったらきっと今頃俺の右手は粉々だっただろうな…。だが、結局近くで発動した波動で俺は壁まで吹っ飛ばされ、背中を打った…それがさっきの衝撃の真相である。
「ふぅ…で?そいつはいったい何なんだレリエル?ただの矢…なわけはないよな?あんなコンクリに鉄と鋼をトッピングしたみたいな壁をぶち壊してんだから…。どんな手品が隠されてんだ?」
「…まぁ、隠すようなことでもありませんからね。…これは、俺の技の中で最も威力が高い攻撃用の技。その名も【神聖の斧】と申します」
「【神聖の斧】…」
その言葉がどういう意味なのかはさっぱりであった。もしかしたら姉貴や日向あたりなら分かるかもしれない…が。そんなことは今はどうだっていい。
今、一番問題なのはあの矢【神聖の斧】の凄まじい破壊の力についてである。レリエルの話は続く。
「…そもそも、俺の光の矢は俺の体の中に流れている能力の力。そうですね…しいていえば魔力、とでも呼びましょうか?それを指先に集めて、集束させ、微量ながらも光の能力を帯びた一本の矢を生成してるにすぎないんですよ」
「……」
あら…なんかヤバい。さっそく難しい話になってきやがった。こりゃぁ…雲行きが怪しくなってきやがったな…。怪しすぎる。
話がどんどん難しい方へと流れていき、俺は口を開けることもできない。いや…口は開いてるんだけど…何というか…。俺はポカンとしていた。
「ですが、一本の矢を作るために必要なエネルギーはそんなに必要はありません。俺を一本の大杉としますと、矢はその杉からできる一本のつまようじ…とでも考えてください」
「……」
「さて、ではここで問題です。俺が矢を作り出す。ここまでは分かりましたよね?では、必要以上の能力を一本の矢へとこめたならばどうなると思いますか?」
「必要以上に…えっと…えっと…えぇええっと…」
――パチンッ!!ザンッ!!
次の瞬間。巨大な一本の矢が俺のすぐ横をすり抜ける。突然のことだったからその場を微動だにできなかった俺。だが、少しだけかすった頬の傷は痛いし、背中に流れる冷たい冷や汗も、最早滝のように大量に流れていた。
そして俺は、呆然としつつも振り返る。“それ”の正体を確認するために。
振り返った先。そこには、放たれた矢があの壁へと突き刺さった映像が俺の目に飛び込んできた。それもただの矢ではない。巨大な一本の矢。たぶんレリエルがさっきから言ってる矢の正体…【神聖の斧】が。
俺のすぐ…後ろに――
「危ないですよ真備。そこにいたら…ね」
「っ!?」
――ドカアァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
ぼそりと呟かれたレリエルの忠告も虚しく、次の瞬間、俺は壁から遙か遠くへと吹っ飛ばされていた。原因なんて…考えるまでもない。あの矢だ。
「…はい。では答え合わせです。必要以上の能力をこめられた矢。結果として、それは容量オーバーとして余計なエネルギーを外へと飛ばそうとするわけです。結果、圧縮から解放され、弾かれたエネルギーは膨張…さきほどのような巨大なエネルギー波となるのです」
「いっつつ…それが、お前の言うもう1つの技――」
「そうです。これこそが破壊を生む光…。それはまるで鎮魂歌を奏でる鐘の音のような破壊の旋律を刻む光の矢…」
そして、レリエルのフードで大部分が隠れた顔の中で、唯一見える口元に不適な笑みが浮かぶ。
そんな妖しく綺麗な笑みを、俺は本当にあいつらしいと思った。本当に…あいつらしいと――
「【神聖の鐘】です」
打ちつけ、ヒリヒリとする背中に流れ落ちる冷や汗が気持ちいい…。その言葉に、俺はヘヘッと少し笑みを作り額の汗を拭う。
でも、油断だけはしない。いや、油断する余裕すらない。今俺の中を占めるのは緊張感と高揚感…ただ、それだけだった。
「…は。マジで最高に楽しませてくれるよな…お前は…さすがだぜ」
「はははは。パーティーに招待された身としては当然ですよ…。まだまだ余興はたくさんありますからどうか楽しんでください?」
「…それはこっちのセリフだっつーの」
高まる気持ちを抑えつけ、俺は拳を構える。パーティーの再開だ…。
俺と同じように弓を構えるレリエルの姿が俺の瞼へと映る。その姿に死角はなかった。レリエルの矢はまさしく早撃ち――その技術は、もしかしたら拳銃にすら対応できるんじゃないか?と思うほどだ。
つまり、一瞬でも意識を別なものに移したらパチンッと指を鳴らされ、俺は射抜かれる…。そんな感じだった。
『『………』』
無言で拳を構える俺…。だが、状況で言うとかなり不利な状態だ。弓と拳…間合いが違いすぎるのだ。一歩でも動けば、その瞬間にパチンッ…俺は光の矢に射抜かれるだろう。
ちっ…やっぱ、こんな状態でレリエルを攻撃するためには…。この圧倒的な状態を逆転させるためには…やっぱりあれしかないってことかよ――
「…真備。いくらバカなあなたでも気付いてるのでしょう?この状況を逆転させる一手が何かを?」
「あぁ、もちろんだぜレリエル…。今のバカ発言はともかくとして、俺は全部気づいたぜ…おまえの弱点が何かってのがな」
「さすがです」
あぁ…そうだ。俺は気付いていた。確かにレリエルの放つ光の矢は速くて、そのうえ精確だ。だが、いくらレリエルが使ってる魂(武器)でも弓は弓。弱点も同じだ。
つまり、近距離に入られたら武器としては役に立たなくなるということである。これを考えたらあとは簡単。
弓を射た後、次の矢を構える前までのロスタイムを狙うしかないということだ!!
「ですが、あなたに避けられますか?俺の矢を」
「避けなきゃ俺が攻撃できねーよ」
そして俺は拳をギュッと握りしめる。脚は踏ん張り、いつでも動ける体制を作り構える。
右か?左か?それとも上か?下か?…。そうやって身構える俺…だったが、答えは違った。
そのことに気付いているのはレリエルと――【日向】だけだった。
「気をつけろ真備!!あいつには…レリエルには広範囲攻撃(神聖の槍)がある!!」
「何!?」
突如として響き渡る日向の声。俺に対するその忠告の言葉だったが…時すでに遅し。
レリエルは日向の声で注意力を散漫させた俺を見逃さなかった!!
「残念でしたね真備。これで終わりです!!
【神聖の槍】!!!!」
――パチンッ!!ザンッ!!
指を鳴らす音が響く。それは、レリエルの手から1本の矢が放たれたのを知らせる音だった。
矢は真っ直ぐ俺の体の中心目掛けて飛んでくる。そして――
「くっ!?ふざけんじゃねえぇえええええええ!!!!!!」
その映像に、俺は叫ばずにはいられなかった。矢は1本、また1本と増え続け、最後には20本ぐらいの矢が俺に襲いかかる。
これが神聖の槍――レリエルの広範囲攻撃。確かに厄介だ。でも…俺は、やるしかない!!やるしかないんだああぁああああああああああああああああ!!!!!!
「うらあぁあああああああぁあああああああああああああああおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
雄叫びを上げながら矢に突っ込む俺。
でも矢が俺の雄叫びでは怯えることはない。20本の矢は躊躇なく俺に迫ってきた!!
「全部避けたら俺を攻撃できるかもしれませんね」
対してレリエルは余裕の態度で恍閃弓を構えようとすらしてない。
避けることは容易くない…今までで最悪のピンチだ。だが、これを避けきれたらチャンス。ピンチをチャンスに変える。いくぜ!!レリエル!!!!
「最高のパーティーを楽しもうぜえぇえええええええええええええええええええええええっ!!!!!!」
さぁ!!パーティーの再開だぜ!!ヒャッハアァアアアアアア!!突撃しながら矢の感覚を調べる。バラバラに飛んでくる矢。その穴場を探すためだ。
そして…見つけた。あの大量の矢の穴を。覚悟しやがれレリエル!!
「いくぜ!!おらあぁああああああああああっ!!!!!!」
一番少ない部分を見極め、俺はそこに目掛けて走り出す。右、右、左、下!!
避ける順番を決めた俺は決断即行動!!回避行動に入った。まず…1本目!!
「っ!?」
右から飛んでくる矢。やっぱ…速い。だけど、俺は1本目の右の矢をギリギリのてころでひねり避けた。
さぁ…どんどんいくぜ!!レリエル!!続いて2本目!!3本目!!同時に行くぜ!!
「はぁっ!!!!」
右と左からほぼ同時にきた矢。それを俺は一気に両手で掴んだ…はずだった。実際に掴めたのは、右からの矢のみ。片方掴むだけで限界だった…。
左から来た3本目の矢に神経が行かなかった俺は…矢を掴み損ねた左肩ががら空きだった。そして――
――ザシュッ!!!!!!
「ぐぅっ…!!!!」
向かってきた矢は精確に俺の肩を射抜き、俺の痛覚神経を刺激する。痛みで、今にも脚をつきそうになる…。でも、負けるわけにはいかない。
俺は負けるわけにはいかない…いかないんだよ!!!!いくぜ!!ラスト…4本目!!
――バンッ!!!!
痛みでフラフラとしながらも、俺は足元に飛んできた矢を飛び避ける。思わず、崩れ落ちそうになる。でも…まだ、俺はやらなきゃいけないことがあった。
さぁいくぜ!!!!こっからは俺のターンだ!!!!!!
「散々やってくれたんだ…覚悟しやがれ!!!!レリエルウゥウウウウウウ!!!!!!」
肩の痛みを抑えながら俺はレリエルに突撃する。…決まった。
俺は走りながら勝利を確信する。いくら弓の扱いに長けていても…インファイトなら俺の方が圧倒的にぶがある。俺の勝利は確定的だった。
「うらあぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
矢の雨をくぐり抜けた俺はレリエルに一発いれるために拳を振り上げる。
完全に油断していたレリエルは大慌てで恍穿弓を構える。そう…思っていた。
「…本当に、すごいですね真備。あなたは最高ですよ。…どこまでも真っ直ぐで…ねじ曲げた運命も自分の力だけで切り開こうとする。俺には…絶対に真似できません」
「はあぁあああああああああああああああっ!!!!!!」
…だけど、それは俺の勝手な思い込みだった。なぜなら、俺をみるあいつの口元は――
「ですが、それゆえに…あなたは脆い…」
あいつの口元は――恐ろしく歪んでいた。
「マキ君!!マキ君後ろ!!」
「っ!?避けろ!!真備!!!!」
そして、こだまする日向と知恵理の声…。このとき初めて俺は自分の失敗に気付かされた。
自分が犯した…最大の失敗を――
「射手座の矢は…狙ったものを必ず射抜きます…必ず…ね」
――ザシュッ…!!!!!!
…背中に響く肉をえぐる音。それと一緒にきた痛み。その痛みは、さっき俺の左肩を射抜かれたときの痛みとまったく同じものだった。
「ぐあっ…!!!!な…なん…だ…と…」
――バタンッ…
…さっきとは違い、背中と肩へと貫かれた痛みに、俺は耐えらることはできなかった。そして俺は、ついに脚をついてしまう。
そんな俺を、レリエルは見下ろすかのように俺の前に立ちはだかる。その姿はまるで…神に屈服したかのような画だった。
「な、なんで…なんで…後ろから…光の矢が…」
突然のことに、俺はレリエルを目の前にしても愕然としてしまっていた。こんなはずじゃ…こんなはずじゃ…なかったのに。
この事態に、俺は…俺は…何もできなかった。今の俺は…無力だった。
「ふふふ、まさかこの鏡に何の意味もないものだと思ってたんですか?」
「鏡が何だってんだよ!?」
レリエルの言葉に俺は思わず声を荒げる。だが、それは虚勢でしかなかった。レリエルもそれが分かっているのか、俺の虚勢を鼻で笑う。その態度に俺は何も言えなかった。
「これは俺の魂…恍閃弓の特性【栄光】です」
「【栄光】…」
またしても聞いたこともない言葉。だが、この凄まじく冷たい空間でその言葉はあまりに不釣り合い。俺は直感的にそう思っていた。
「…お前の魂狩の特性。いったいどうゆう意味なんだ?」
「はい。俺の魂狩――恍閃弓の特性【栄光】これを説明するのは案外簡単なんですよ…」
「簡単…だと?」
「えぇ。簡単です。俺の魂狩の特性【栄光】これを一言であらわすなら――」
――パチンッ!!ザンッ!!
その刹那、レリエルが浮かでいる鏡の1枚に向けて光の矢を放ち――直撃する…。このままではあの鏡は光の矢に射抜かれ割れてしまう…そう思った。
だが、その矢は――
「いっ…!?うそだろ!?」
その矢は――矢はそのまま鏡を割ることなく、まるで鏡に呑み込まれるかのように鏡の中に吸い込まれていくのだった。
「いったい何が…っ!?」
俺が驚いてるとさらに奇怪な現象が起こる。その映像は嘘でも冗談でもない。矢が――吸い込んだ鏡から再び光の矢が出てきたのだ。そして――
――ザンッ!!!!
「うわっ!?」
…再び勢いを殺されることなく飛んできた矢を俺は右手で掴み取る。このとき、俺の頭の中はすでにパンク寸前だった。
「これが俺の恍閃弓の特性の持つ能力の1つです。鏡やガラスなどの光り物に当たると光は反射しますよね?それと同じように、俺の光の矢も光り物に当たると反射するんです」
「三行で分かりやすく頼む」
「光の矢。鏡に当たる。戻ってくる。でしょうか…解りましたか?」
「いや、まったく全然!!これっぽっちも!!」
「はぁ…自信持って言わないでください…」
そう言うと、レリエルはまるで呆れたかのようにため息をつく。いや、あれは呆れたわけではなさそうだ。諦めた…と、言った方がいいのかもしれない。
俺にとっては見慣れた光景だった。
「…まぁ、これ以上は理解しなくてもいいですが、一応聞いておいてください。俺の魂狩の特性【栄光】これの真の力は――
“恍閃弓から放たれた矢は光と同じ性質を持つ”
ということです。工夫次第で100通りでも200通りでも様々な闘いができるようになる最高の特性。まさしく栄光【栄光】です!!」
そう言って両手を広げるレリエルは今にでも高笑いをしそうな勢いでそう宣言する。その言葉の50%は俺は理解できなかった。
だが、俺にもただ1つ。分かっていることがあった。それはまだこのパーティーが――
「へ!!つまんねー話は終わったか…レリエル」
それはまだ、このパーティーが――終わってないことだけだった。
そう…まだこのパーティーは終わってない。俺はまだ…闘えるんだからな!!
――ザシュッ!!
「ぐうぅううううっ!!!!」
レリエルを睨みつけながら立ち上がると同時に、俺は肩に刺さった矢を引き抜く。痛みが全身に周り頭がいかれちまいそうだ。
だが、俺は踏ん張った。踏ん張って…俺はレリエルを睨み続けた。
――ザシュッ!!!!!!
「ぐうぅううううっ…!!!!ぐあぁああああああああああああああああっ!!!!!!」
そして、背中の矢も一気に引き抜く。最早痛みなんてない。あるのは――
「ぐあぁああああああああぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁああああああっ!!!!!!うぅぅっし!!!!!!楽しくなってきたぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁああ!!!!!!」
今の俺にあるのは――最高のパーティーになったこの喧嘩を楽しみたいという高揚感だけだった。
「…やはり、立ち上がるのですね…光に栄光を。そして、何よりもあなたに栄光を――【栄光】は決して俺だけのものではありません。寧ろ栄光という言葉は…俺なんかよりはあなたにこそ相応しいと思います」
「知るかよそんなこと!!そんなことより俺は…テメーをぶん殴れりゃいいんだからな!!!!!!」
さぁ行くぜレリエル!!パーティーの再開だぜ!!俺はお前を――最後まで“信じ抜いてやるぜ”!!!!
`
作「はい!!というわけで最初のコーナーは【羽前凪の憂鬱】で〜す!!」
真「ついには合法的になりやがった!?」
作「このコーナーは凪さんにいろいろと相談しようというコーナーで〜す。では、お願いしま〜す」
凪「いつでもいいわよ下僕ども!!おーほっほっほっ!!」
輝「あれれ??ナギリンいつからそこにいたの〜?」
真「それ以前にまずはグチャグチャに崩壊しちまったキャラにツッコメよな…」
作「え〜では、当然の事ながら真備はスルーという「ふざけんなあぁあああ!!」ことで、早速相談に行きます。
ペンネーム【松竹梅】さんからのお便りです。
うぃ〜す羽前姉。それと読者ども。俺を覚えてるか?不知火達の担任教師の松竹梅太郎だ」
真「明かしちゃったよこの人自分の名前!?」
作「相談を聞いてくれ。実は俺のクラスにはいつも居眠りをしている【S・H】という生徒がいるんだけど、これがどうしようもない怠慢ヤローなんだ」
真「そうだけど!!そうだけども!!あんたが言うなぁああああ!!!!」
作「んでさ〜そいつをガツンと言わせたいんだ。なぁ羽前姉。教えてくれ。どうすれば…俺はあいつを痛みつけられるんだ!?…だ、そうです」
真「あんたはそれでも教師かあぁああああっ!!!!!!」
輝「あはは♪先生も大変なんだね〜」
作「てなわけで、凪さん。お答えをどうぞ!!」
凪「塩酸…」
真「へ?」
凪「グルグル巻きにして天井から吊し、目に塩酸を入れる。そうすればいつも寝てる日向でもきっと目を覚ますと思うわ!!!!」
真&輝『『はあぁあああああああああああ!!!???』』
梅「それだ!!」
真「うわっ!!梅ちゃん!?だめじゃないっすか脇役がこんなとこにでしゃばっちゃ!?」
梅「えぇ〜い!!黙れ羽前弟!!そんなことより…見ていろよ不知火!!俺がきっちり目を覚まさせてやるからなあぁああああああああ!!!!!!」
真&輝『『日向逃げろ(て)えぇええ!!!!!!』』
作「はい!!では、次のコーナー――の前に次回予告。次回の時の秒針は――
それは冷たく独りぼっちの世界。そして、それは彼女の魂の世界…。
次回【静寂の雪"風花"】」
日「問題nothingだぜ!!」
真「あ〜ぁ。梅ちゃん…行っちゃった…殺されなきゃいいけどな…日向に」
輝「祈ろうマキビン。ヒナタンの機嫌が良いことを…」
次回に続く!!