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時の秒針  作者: †HYUGA†
第一章;時の番人編
32/76

第31話 兄貴"姫ノ城空"

・・・失った兄の記憶を知る男、ゲイル


再び、ゲイルが日向を導き出す。


ゲイル編最終話!!


問題nothingだ!!


あ、ちなみにまだ次の部屋には行きません。


すみません・・・


日向side



「…終わりだ。ゲイル」




俺の言葉は無情にゲイルの耳元に届く。その証拠にゲイル先生は地面に崩れ倒れている。その姿は、俺の――いや、俺達の勝利の証であった。




「ナゼデス…。ナゼ、アナタハイママデ」


「簡単だよゲイル。隠し玉は最後までとっておく。だってその方がおもしろいじゃねーかよ」


「…ナルホド。タシカニソウデスネ」


「俺の力を浅はかに見たところ。それがあんたの敗因だよ…ゲイル」




――バキッ!!!!!!




何かが折れたような音が響く…正直、最後の1本がどうなったのか、わからなかったが、その音で俺は確認した。最後の1本の執刀を破壊したということを――




「…ゲイル。もう一度だけ言う。チェックメイトだ」




――バリンッ!!!!!!




最後に、言い捨てるような言葉をゲイルに投げかけ、俺はゲイルに背を向ける。


そしてその刹那、ゲイルの魂の【治癒結界】は粉々に舞い散った。


まるで桜吹雪のような…綺麗なピンク色に――




「…問題nothing」






真備side



「…崩れた」




ポツリと呟かれた姉貴の言葉。その言葉のとおり、俺達を拒んでいた結界は、呆気なく簡単に崩れ去っていた。


だが、姉貴が呆然としつつ呟いたり、俺が口を半開きにして絶句している理由は他にあった。それは――




「…姉貴。分かってるよな?」


「えぇ…もちろんよ」




どうやら姉貴も同じ気持ちのようだな…。


そうとわかった俺達はお互い頷き合うと、優雅にゲイル先生との決着をつけ、輝喜の様子を見に行こうとしている日向のほうにツカツカと近づく。




「ん?どうしたんだ2人とも?そんな清々しいまでの笑顔は…。俺の闘い。問題nothingだったろ?」




どうやら、日向が近づいてくる俺達に気づいたみたいだな。少し気味悪げな顔で俺達を見る日向。だが、その表情には嬉しさがにじみ出ていた。


あぁ、確かにすごかったよ…お前の戦い。だけどな…日向…お前ってやつは…。




「ふ〜ん。確かにすごかったわね。あんたの闘い。特に最後の技、あんなにほれぼれしたのは久しぶりだったわ…」


「そ、そうか?あ…ありがと…」




はぁ…お前もわかってないな…姉貴が人を誉めるときがどんなときか…。


いつも、その被害を受けている俺だから言うが。お前、歯食いしばれよ?




「日向。お前の技はすごかった。確かにすごかったぞ…だけどな――」


「お、おう。真備…」




と、俺達は日向の前で立ち止まる。そして――




「なんで――」


「はぇ?なんか言ったか凪?」




ははは…。日向、覚悟はいいか?何のことか分かってないのか、ぼけぼけっとした日向の顔。その顔を見ているだけで今の俺たちはイラッ☆とする。


本当に…本当に…本当に…!!お前ってやつはあぁあああああああああ…!!!!




『『なんであんなのがあるんなら最初から使わなかったんだあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!???』』




――ズガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!




「ぐぎゃあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!???」




…あ〜!!すっきりした!!


俺と姉貴は3メートル先の輝喜のいる場所まで吹っ飛んだ日向を眺めながら、パンパンと手をはたいた。


ざま〜みろ!!!!




「ひ、ヒナタン大丈夫?」


「ううぅ…」




ぶん殴った顔から煙が出ている(実際には出てない)日向を心配そうに、かつ顔をひきつらさせつつ覗き見る輝喜…。


は!!輝喜。そんなやつの心配なんてするんじゃねーよ!!




――ツカツカツカツカ…




俺と姉貴はさらにツカツカ…と、日向に歩み寄る。そんな俺達をまるでギギギ…と、機械のようにぎこちない動作で顔を上げる日向。


だが、現実は甘くはない。きっと日向には、俺達の冷たい視線が突き刺さっていただろう。俺達は…本気だった。




「…日向?」


「ふぁ、ふぁい!!!!」




鼻血でうまく喋れない日向。その様子は、昨日の朝のあの映像とデジャビュる。


…そういえば。昨日の調べ学習の時間に日向のやつ俺の助けてという目線を無視しやがったよな?その辺をきっちり、SI☆KA☆E☆SI☆しないとな!!


ふふふふ!!日向!!昨日とは立場は逆転だな!!さぁ…こっからはずっと俺のターンだぜ!!!!




「日向!!なんであんな技できんのに最初から使わなかったのよ!?」


「ひゃひぇはぁふぁふひぃひゃふぁふぁふふぁんふぁひょ(あれは隠し玉だったんだよ)!?」


「はぁ!?あんた何言ってんのかぜんっぜん!!!!分かんないのよ!?もっとハキハキ喋りなさいよ!!!!凪払うわよ!?」




――ドゲシッ!?ドゲシッ!?ドゲシッ!?ドゲシッ!?ドゲシッ!?ドゲシッ!?




…すまん。さっきのセリフはキャンセルするわ。だって…こっからはずっと姉貴のターンだからな…。


俺は、倒れてる日向にヤクザキックを繰り出す姉貴の姿に、鬼をみた。ドSという名の鬼を――


気づけば、俺の中には日向に対する恨みはなくなり、ただただ、同情の気持ちしかなくなった…。




「ふぁひぃひぃ。ふぁふぅへぇへふへ〜(真備。助けてくれ〜)」




正直、日向が何を言っているのかは分からない…。だが、その悲痛の叫びは俺の中へと響いた。俺の中にある良心とか、そんな何かに引っかかったのだ…。だけど――




「…そういや輝喜。脚、大丈夫か?」


「ふぅひぃふふほぉふぁほぉ!?(無視すんのかよ!?)」




俺は見ているだけで涙が出るような、日向の救済コール――じゃなくて、訳の分からない言葉を無視することに決定した!!


だって…あんな状態の姉貴の間になんか入りたくないし…。すまん。日向。安らかに眠れ…。




「ふふぁひぃふぁふぁ〜!!ふぁひぃひぃ!!!(裏切ったなあぁあああ真備!!!)」



「…今日はいい天気だなぁ」


「…マキビン。夜の…しかも建物の中で、そのセリフは明らかにおかしいんじゃないかなぁ〜?」


「…気にすんなブルータス。お前もだろ?」


「ん〜。そこはノーコメントでお願いねマキビン♪」


「ほぉふひぃ!!ほぉふぁへほはぁ!!!(輝喜!!お前もかあぁあああああ!!!)」




俺と同じく、日向のSOSコールを全面無視している輝喜に、反論の余地はなかった。




「さて、言い残すことはないかしら…日向?」


「ふぁふ!!ほぉほぉひぃひぃひふぁふ!!ふはふほほふあふ!!!(ある!!大いにある!!腐るほどある!!!)」


「…大丈夫。問題nothingよ」


「ほぉへぇはぁほぉへぇほぉへぇひぃふ〜!!!??(それは俺のセリフうぅうううううううううう!!!)」




…もう一度だけ言う。安らかに眠れよ、日向。


俺はお前と違って薄情じゃないから、骨は俺と輝喜でちゃんと拾ってやるからよ…。だから――




「…Are you OK ??」


「ひぃっ!?(ひっ!?)」




――ぎゃあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!




だから――偶には、俺の苦労を思い知ってくれ…。ツンデレの姉を持ってしまった俺の苦労を――


日向の魂が消えゆくのを見守りながら、俺はそう呟くのだった…。






日向side



「で?ゲイル。どういうことか説明してくれるのか?」←2分で復活した。




あのおぞましい事件から数分。身体も心もすっかり回復した俺は、傷だらけの体を庇いながら、ゲイルの前へと立っていた。


仁王立ち姿で、ゲイルを見下ろす俺。そんな俺の言葉に、楽な姿勢で座っていたゲイルは深くため息を吐くと語り始めるのだった。




「…スミマセンヒナタ。ソレハイエマセン」




…はぁ。納得するわけないでしょゲイル先生…。


ため息を吐くことさえ忘れるほどのテンプレなゲイルの答えに、俺達は納得するはずもない。


そんな俺達の中で、ゲイルに最初に食ってかかったのは、やはり彼女だった。




「このごに及んで見苦しいですよ、ゲイル先生?」


「……」




来たよ…だんまり。


昨日の不良グループ――確か【アンチチェーン】だったけ?――のこともあるからな。その行動は危険フラグですよ?




「そう、ゲイル先生…。そのつもりな――」


「トリヒキシマセンカ?」


「――ら…って、取引きですって…?」




昨日のあの惨劇が俺の頭を過ぎったとき、凪の言葉を遮り、ゲイルは俺達にそう提案してきた。


…取引って…なんだ?




「ゲイル。取引って…今度は何を企んでるんだよ??」




俺達の中で唯一、警戒を解くことなく未だに雷神をつけている真備が俺の疑問をそのまま聞いてくれる。


俺は真備の質問の答えをじっくりと待つのだった…。




「(日本語訳)いえいえ。私が持ちかけていることに裏などありませーん。きちんとした正当な取り引きで〜す」


「…ふ〜ん。それじゃ、何と何を取り引きするのかしら?先生?」




絶対に騙されない。そう決意したような凪の表情に濁りはない。


だが、確かにこんな取り引き事は彼女が一番適任だと思う。素直すぎる真備やよく分からない輝喜よりは…ツンデレな彼女の方がね…。


そうこうしているうちに凪とゲイルとの取り引きはどんどん進んでいく。




「(日本語訳)あなた達は私に今回の時の番人(われわれ)の目的について聞かない…」


「…あたし達の利益は?」


「(日本語訳)Well…それでは、日向と輝喜。それに真備の治療、並びに私の友人の話でどうでしょうか?」




…確かに俺や輝喜、それに真備はかなりの傷を負っている。特に真備なんかは、アマテラスからの攻撃から俺達を庇った負傷で歩くこともままならない。


治療をしてくれるというのは確かにありがたい話だった。が――


ゲイルの友人の話?いったい、それは俺達にとって何の利益があるんだ?




「あんたの友達になんて興味ないわよ」




俺の疑問とは余所に、凪はゲイルを軽く突き放す。


俺もゲイル先生の話には悪いがあまり興味を持てなかった。


その名前を聞くまでは――




「(日本語訳)…その友人の名前が…【空】と言ってもですか?」


「…っ!!!???」




その刹那、俺の瞳はこれでもかというほどに見開く。それと同時に、肩が小刻みにふるえ出す。


甦る記憶。抱きしめられた感覚。俺はもう何年と味わってない家族の記憶というものを…思い出した…。




「…誰よ、それ?真備…あんた聞いたことある??」


「ないな…初めて聞いたぜ。輝喜は??」


「俺もだねぇ。そんな覚えやすい名前。俺が忘れるわけないでしょ♪」




…確かに、凪や真備、輝喜にとっては重要な名前じゃないかもしれない…。だが、俺と知恵理にとってその名前は――




「ゲイル…?」




俺は蚊の鳴き声ほどの、今にも消え入りそうな――しかも、小刻みに震えながらの声でおそるおそる確認する…。


そんな俺の様子に、真備達は驚いたような顔で見つめてくる。…関係ない。


今の俺にはゲイル――いや、ゲイルの言葉しかなかった。ゲイルが呼んだ…あの名前しか。なぜなら――




「…ゲイル。それは…その名前は…【姫ノ城空】…のこと、なのか?」




驚きのあまり塞がらない口から出てきた言葉。その言葉に、ゲイルは無言のままだった。


無言の…“肯定”だった。




「姫ノ城…姫ノ城って、まさか知恵理の!?」


「でも…チエリンに家族は…」


「……」




そして、俺の発した言葉は、少なからず真備達にも衝撃を与える。


姫ノ城の名前を聞いてすべてを悟る凪。同じくすべてを悟ったであろう輝喜の顔には複雑な表情が浮かんでいた。まぁ、俺と知恵理の家庭事情を知ってるんだから当然だな…。


最後に…終始一貫で無言を貫く真備の姿が目に入る。だが、その表情は他の2人同様厳しいものであった。真備も分かってるみたいだ。俺の言葉の意味を。俺の言葉の重大さを――




「ゲイ…ル…。どういう…ことなんだ…?」


「(日本語訳)…日向。これはあなたにも有意義な話で〜す。あなたも知りたいたずですよね?かつて【兄貴】と呼び慕った少年の話を…ですよ?」


「…っ!?」




その言葉は、俺にとって悪魔のささやきと同等のものであった。そう…ゲイルが話そうとしている少年の名前は――【姫ノ城空】…知恵理の実の兄にして、俺が【兄貴】と言って慕った憧れの存在…。


そして【問題nothing】という言葉の本来の使い手である人物でもある。


俺の知恵理以外の唯一の家族“だった”存在。その情報は俺にとって、喉から手がでるほど欲しい情報だった…。




「…ゲイル。あんたは兄貴のことを知って…るんですか?」


「…ソレヲオシエルノハトリヒキニオウジテカラデ〜ス」




その言葉は俺の中でグルグルといろんなものを揺さぶる。…どうしよう。個人的には――兄貴の話を聞きたい。


だけど、流されたら俺は時の番人がなんで俺達を狙ったかという情報を失ってしまう…。


必死に頭を抱える俺。だが、その努力はすべて無駄となるのだった――




『『いいわ(ぜ)(よ♪)取り引きに応じる』』




…俺の親友の3人が同時に、しかも3人共、同時に――かつ、独断で取り引きに応じたのだ。


驚きで固まる俺。でも、3人の目に迷いはなかった。




「…イイノデスカ?」


「えぇ、もちろんに決まってんじゃ――」


「ちょ!!ちょっと待て!!お前ら!!自分達が何を言ってるのか分かってるのか!?」




俺はこの行動を止めるために必死で口走る。だけど――




「ちっ…日向。あんたは黙ってなさい!!」


「舌打ちした!!今、このロリっ子舌打ちしやがった!!」


「あ゛ぁ??あんたバカなのの?凪払われたいの!?」


「日向、すまん!!」


「む、むぐー!?」




だけど――俺の口は、真備と凪にしっかり塞がれてしまうのだった。思わず漏らした本音については忘れよう…。


忘れないと…凪払われるからな…。




「あははは♪ヒナタン、相変わらずだなぁ。ゲイル先生♪いいんです!!」




そして、両足を怪我して動けない輝喜がゲイルにニッコリと笑顔を向けながら肯定する。


…ど、どうなってるんだよ?俺の頭は混乱する。…いや、本当は分かっていた。それは、こいつらのことを考えると当然な話だ。


俺だって…きっと同じ立場なら同じことをしていたと思う…。


輝喜の肯定の言葉が終わると、俺は真備と凪の手から解放される。それに、俺は抵抗することはなかった…。




「……」


「あんた、自分が今いったいどんな顔してるかわかってんの?」




続けざまに出された凪その言葉に、俺ははっとする。その様子に気づいた凪は、溜め息を吐き出し、いつも持ち歩いている小さな折り畳みの鏡を開き、俺を写し出させるのだった。




――…っ!?あ〜ぁ…なんて顔してんだよ…俺…。




女の子らしい鏡に写された俺の顔。その顔を見た瞬間、俺は自分自身に呆れてしまった。…今にも…泣きだしそうな顔をしていたからだ。




「はん!!やっと気がついたのかよ日向!!たく…そんな顔されても俺達は困るだけだってーの!!」


「もう…マキビンもナギリンも素直じゃないんだから…。でも、そうだよヒナタン。その顔されて黙ってられるほど俺達は冷酷じゃない。知ってるでしょ♪ヒ〜ナ〜タン♪」


「…凪。…真備。…輝喜」


「ふ、ふん!!べ…べつにあんたなんかのために言ってるんじゃないんだからね!!…でもね、日向。これだけは覚えときなさい――」




そして俺は…ギュッと、小さな体に抱き締められる。温かい…小さな体に…。




「…あたし達は、ずっとあんたの友達よ」




その言葉は、俺の心の中を…綺麗に染め上げるのだった。あぁ…そうだったのか…。




「へ!!当然だろ!!」


「そうだねぇ〜ヒナタンが望むならいつまでも〜」




そうだ。俺は何を気にしていたんだろうか…。答えなんて、簡単じゃないか…。そう。俺にとって…お前らは…大事な親友。だったら、ゲイルの取り引きの答えなんて考えるまでもなかったんだ。


問題nothing。ありがとよ…俺の大事な…【親友達】




「…ケッシンハツキマシタカ、ヒナタ?」


「あぁ…問題nothingだゲイル。俺の答えは――」




悩む必要なんてない。悩むより前に…信じろ。




「俺の答えは――Yes。聞かせてくれゲイル。姫ノ城空――兄貴の話を」




―――――――――


――――――


―――





「すっげぇ…こんなに速くキズが治るなんて…」


「…そうだな真備。本当に…不思議なもんだな」




あれから数分。俺と輝喜…それに、真備の3人はゲイル先生が再び張った【治癒結界】での治療を受けていた。


これが、なんとも不思議な感覚なんだ。


一瞬…とまではいかないが、急速的スピードで傷が治る感覚…。とても、新しい感覚だった。


ちなみに、真備のキズはあんな大怪我だったにも関わらず、ゲイルの治療が始まる前にはもうすでに大部分が塞がっていた。


そのため、治療時間もさして俺達と変わりはないでいた。…真備。お前、いったいどんな呪縛を受けてんだよ。


そんな俺の心の声が真備に届くことはなかった。




「んじゃぁ先生?治療中悪いと思うんだけど、聴かせてくれるかしら?日向が…兄貴って、言ってる奴について…」




ふと、そのとき、俺達の中で唯一結界の外側にいる凪が、同じく結界の外にいるゲイルに話を振る。


これは余談だが、ゲイルが外にいる理由は警戒のためである。ゲイル自身が言うには結界の中にいなかったら、実はゲイルの戦闘力は格段に落ちるそうだ。


だから、ゲイル先生には外から俺達の治療をしてもらってるというわけである。




「…ワカリマシタ。“ソラ”ニツイテ…デシタネ」




ゲイルの言葉に俺達は無言で頷く。


どうやら、凪や真備も兄貴が俺の慕う人物で、知恵理の兄だということが凪達の興味を惹いたようであった。


そして、ゲイルの話は始まった。




「フゥム…ソウデスネ…マズハナニカラハナシタラヨイデスカネェ…ヒナタ、アナタハナニヲシリタイノデスカ?」


「兄貴の何を…か」




正直、それはまったく考えていなかった。いや、たった今聞いたばかりではあるから当然と言えば当然だが…。


…でも、思い付かないわけではなかった。




「…ゲイル。じゃあ始めにあなたと兄貴との関係…を、教えてください」


「Oh.I see…ソウデスネ、マズハソコカラセツメイシナケレバイケマセンデシタネ…ワカリマシタ」




そこでゲイルは一息ついた。どうやら…長い話になるみたいだ。




「ソレデハ、ミナサン。ワタシノツマラナイハナシニ、ドウゾサイゴマデオツキアイクダサ〜イ」




そして、ゲイルは語り出した。俺の知らない…兄貴についての話を――




「(日本語訳)…姫ノ城空。この名前を聞いて、あなた方はおそらくこう思ったはずで〜す。この人は、知恵理の近親者だと」


「…そうね。私はそう思ったわ。で?実際の所はどうなのよ?」


「(日本語訳)Yes.凪、あなたの思ったことは実にすばらしい。わんばふぉ〜で〜す。そう、あなたの思ったとおり…姫ノ城空。彼は――知恵理の実の兄で〜す」


「実の…兄…」




オウム返しのように、ゲイルの言葉を真備が復唱する。その顔は、驚きを隠せないという表情であった。




「(日本語訳)…そして、彼はそれと同時に私の――私達【時の番人】の仲間でもありました。…いや、この場合は戦友とでも呼ぶことにしましょうか」


「…戦友?」




いつものテンションは形を潜め、自重気味なゲイルの言葉に真備は疑問付を浮かべる。それは俺達も同様で、全員揃って首をひねる。その様子が可笑しかったからかゲイルはくすりと少しだけ笑みを漏らしていた。




「(日本語訳)そう…私と彼の関係を言い表すと、そう言うのが妥当ですね。…私が時の番人の医療局(ヴィシュヌ)に入ったのが約6年前。そして、それと同期で時の番人の持つ能力者の部隊の一員として入ってきた男…それが空でした」




…6年前。それは、俺達にとって特別な年だった。


なぜなら、その年は――俺と智恵理、そして兄貴が親のいない子供が住む孤児院の施設をでた年だったからだ。


そして…施設を出た俺達が、この街。桜時市に来た年でもあるのだ。




「ちょ、ちょっと待ちなさい!!ゲイル先生!!」


「May not!!…ナギ。ハナシテルトチュウデ〜ス。ハナシニワリコマナイデクダサ〜イ」


「…いいえ、質問よ。ゲイル先生。…気になったんだけど、6年前っていうとその空っていったい何歳なのよ?知恵理のお兄さんなんでしょ?日向…あんた達って知恵理のお兄さんとそんなに年が離れてんの?」




ゲイルへの質問。だが、凪は途中で質問の矛先を俺へと変えてくる。当然の疑問だと思った。なぜなら兄貴は知恵理の実の兄。年の差なんて、たかが知れているのだからな。


そして、俺はその質問の応えとしてもう一度首を振った…横に。




「…“生きて”れば、兄貴は今…18歳…かな」




思わず呟いてしまった俺の言葉に、凪はハッとしたように俯いた。




「…ごめん」


「問題nothing。気にすんな…凪」




俺は凪の横髪(頭撫でたら殺されるからな)を優しくなでながら、そう訂正する。そう…お前が気にすることなんてないんだよ…凪。




「…ふぅ。お前が言いたいのは、時の番人に入ったとき兄貴が何歳だったかってことだよな?」




優しくさとす俺に凪は無言で頷き返した。普段から無駄に言葉を紡ぐ彼女にしては珍しいことだった。


少し潤んだ涙目の顔。そこには、確かに彼女のツンデレの奥に隠された優しい心があった。




「(日本語訳)…12歳、空が時の番人に入った年齢は12歳でした。あの時のことは今でも覚えていま〜す。あの映像は…衝撃的でしたからね…」




意味深なゲイルの言葉。それは、あたかもそこにゲイルが言う“あの映像”がリアルタイムで流れているかのような物言いだった。




「12歳…か…。だがよ先生。何故にそんな乳臭さが抜けたか抜けてないかってぐらいのガキが時の番人に入ったんだ?そんなこと…普通はしねーだろ?」


「……」




そこに、すかさず口を挟んだのは真備だった。その言い分にゲイルの瞳が大きく揺らぐ。それは悲しみというよりも寧ろ、知られたくない真実に触れられたかのような表情であった。


…でも、確かにそうだ。なんで、兄貴はそんな小さいときに時の番人に入ったんだ?いや…それ以前になんで入れたんだ?


深まる謎はさらに深い謎を呼ぶ。そして、その真実を知る人物は…ついに、その鍵をかけたように重たい口を開鍵し開く。


すべてを…俺達が知らない。知るには早熟すぎる真実を語るために――




「…【チルドレン】」


「子共…(チルド…レン)?」



それは俺にとって、まさしく――決して開けてはいけない禁断の(パンドラのはこ)であった…。




「(日本語訳)…昔。「…【チルドレン】」


「子共…(チルド…レン)?」



それは俺にとって、まさしく――決して開けてはいけない禁断の(パンドラのはこ)であった…。




「(日本語訳)…昔。第3次世界大戦より以前、時の番人には能力者を子供の頃から鍛えて最強の能力者集団を創るという計画があみました…それが【チルドレン計画】空は、その計画に参加していた7人の被験者の1人だったので〜す…」




【チルドレン計画】…正直、話が飛びすぎて信じられない話だった。


だが、それに対して俺の中ではその単語になぜか納得できた自分もいる。自分の気持ちの中で生まれた矛盾。


でも、正直なところでは信じたくない気持ちが一番だった。そんなものに兄貴が関わってたなんてことを…。




「チルドレン…計画…」


「(日本語訳)…Yes.空はその中でも最も優秀な方で、No.1の能力者として被験名【聖空の騎士】という名前も授かっていました。ですが、人懐っこくて、誰にも好かれる実にわんだふぉーな性格の持ち主でもありました。…利用する大人として、私には彼は実に眩しすぎる存在でしたよ」




遠い目をして語るゲイル。その背中を見た俺達は最早、何も言えなくなっていた。


そのとき、俺には確かに見えていた。あのときの――3年前。桜時クリニックで触れたゲイルの温かい手のひらが…


そして、忘れもしないあの日の言葉。俺がゲイルを恩人と呼ぶ理由であるあのメッセージが…。




「(日本語訳)…4年前。彼は1つの願いを私に託しました。他ならぬあなた、日向のことで〜す」


「…俺…ですか?」


「(日本語訳)…えぇ、そうで〜す日向。あなたと…そして知恵理とを頼む…と、彼から言葉を託されました。そんなこと…当たり前ですのに…」


「ゲイル…」




その言葉は俺のすべてを包み込む。包容されたとでも言うのだろうか?抱き締められたよう。そんな感覚だ。


このとき、俺は改めてゲイルの――“ゲイル先生”のすごさを感じていた。やっぱり…この人は。ゲイル先生は俺の――


【大恩人】なんだと。




「…ホント、適わないなぁ…あんたにも…兄貴にも…な」


「…ソレハ、オタガイサマトイウモノデスヨ…ヒナタ」


「え…?」




小さすぎて聞こえなかったその言葉。だが、その言葉の意味を知るのは、また別の機会――




「サテ、ワタシノハナシハオワリデース」


「っ!?」




次の瞬間、俺達を囲む治癒結界の壁が一気に崩壊する。そのときは突然に訪れたのだ。


ゲイルの言葉に驚きつつ、俺は自分と輝喜、それに真備の体を順に見て回った。




「治ってる…」




そこには怪我らしき傷痕はなく、元通りの俺達の肌があるのみであった。最初からなかったかのように…白い肌のみが。




――キンッ!!キンッ!!




「っ!?しまった!!」




さらに、俺達を囲む結界が崩れたのと同時に鈍い金属音が響く。それは一瞬の油断だった。


俺達が目を離したその瞬間にゲイルは執刀を使い、自らを囲うように治癒結界を発動させていた。




「ゲイル先生!!!!」


「サァ…ツギノヘヤヘイッテクダサ〜イ。ワタシノヤクワリハ、コレデオワリデ〜ス…」




叫ぶ凪を無視し、そう言うゲイルの指さす先には、屋敷のさらに奥に進む扉。だが、ゲイルのその言葉に俺達は納得するわけにはいかなかった。




「おい!!ちょっおい!!待てよゲイル先生!!話ってそれだけなのかよ!?そりゃあんまりだろ!?なぁ!?」


「…スミマセ〜ン。ワタシガハナセルコトハ、ココマデナノデ〜ス。ダカラ、アキラメテツギノヘヤニイッテクダサ〜イ」


「ぐっ!!」




真備のまくし立てるような怒声にも臆することないゲイル。やはり、ゲイルは俺達の言葉にはもう聞く耳持たないみたいだ。それはもう…変えられない事実だった。




「…問題nothing。わかったよ…ゲイル」


「ま、待てよ日向!?本気か!?お前が一番このことは知りたいはずだろ!?諦めんのかよ!?なぁ日向!!」


「ただし!!!!」




標的を俺へと変えた真備の怒声を、俺はさらなる巨声で抑えつける。


そして、静かになったら今度はゆっくりとした口調で…【確認】した。


そう…問いかけではなく、決まりきった事実を確認したのであった…。




「…ゲイル。次に会ったときにはもっと詳しく聞かせてくもらうからな」




俺の言葉の意味。しっかり解釈してくれよ、ゲイル。


それからいっとき、沈黙の時間が過ぎる。だがしかし、押し黙ったゲイルだったが、もう逃げられないと悟ったのか、それから時間を置いた後…じっくりと…頷いたのだった。




「All right…truly…You are a complete an absolute fool…(分かりました…ホントに…あなたは全くバカですね…)」


「All right…truly…You are a complete an absolute fool…(分かりました…ホントに…あなたは全くバカですね…)」


「…あぁ。問題nothing。今の言葉…誉め言葉として受け取っておきますよ――【ゲイル先生】」




そして、それを見た俺達は次の部屋に向かう。


俺が確認したこと…それは無言で行われた俺達の会話の中にしっかりと含まれていた…。




『また今度、会ったときに聞かせてもらいますよ?ゲイル先生…』


『…エェ、ワカリマシタ。デハ“マタ”アイマショウ…ヒナタ』




それは、無言で語られた俺達の言葉であった。






           `


作「今回は時の番人(クロノス)の秘密を少し明かしちゃいます」


水「……特別だぞ」


作「水城の許可が出たので話しまーす。さて、作品内で出てきた【チルドレン計画】その被験者達の設定を教えます!!


では、どうぞ!!!!」




〜被験者一覧〜


No.7 雲雀春姫

(ひばりはるひ)

被験名【絶倫の歌姫】


少し前の話で水城が口にしていた人物です。

被験者の中では一番格下ですが、唯一の女性被験者です。

第三章から登場予定



No.5 神無月透馬

(かんなづきとうま)

被験名【沈黙の暗殺者】


詳しく語れない人物の一人ですが三章の重要人物です。 第三章から登場予定



No.2 御薙仁

(みなぎじん)

被験名【明星の闇】


透馬と同様詳しくは語れないが物語の重要人物である。

第三章から登場予定



No.6 響音弥

(ひびきおとや)

被験名【破壊の旋律】


プロローグや少し前に出てきた人物。物語の重要人物になります。

第三章から登場予定



No.4 時雨水城

(しぐれみずき)

被験名【雨の死神】


現在時の番人に唯一所属する被験者。

時の番人のリーダー格として日向達の前に立ちふさがる。




No.1 姫ノ城空

(ひめのじょうそら)

被験名【聖空の騎士】


知恵理の実の兄にして日向が兄貴と呼び慕った人物。

物語の最重要人物の一人だがすでに故人です。

今後出てくるかもしれません。



No.3 不知火日向

(しらぬいひなた)

被験名【紅翼の天使】


言わずと知れた主人公。

被験者の中で最年少、七歳で被験者になった一番の規格外。

現在、被験者だったころの記憶が無くなっているがその戦闘力は現在も健在。

今後の活躍に注目してください。




作「以上、【チルドレン計画】の被験者達でした〜」


水「……俺達の秘密が少しは分かっただろう?」


作「でも、時の番人の一番の目的がまだ分かってませんよ?」


水「……そこはまだ明かせない。……それより作者、早く次回予告をしろ」


作「は、はい…。はぁ…やっぱ水城ってこぇ〜…ま、まぁそれはさておき、次回の時の秒針は――


新たな部屋に進む日向達。だが、その先にはさらなる激闘と悲劇が待っていた。


次回【雪光のWバトル】」


日「問題nothingだぜ!!」


作「今回は落ちも何もなく終わります!!それではまた次回会いましょー!!」



次回に続く!!

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