第29話 ゲイルへの粛正
ゲイルとの全面対決がついに始まる!!
そして日向にはある変化が・・・?
日向side
――キイィイイィインッ!!
狭い部屋…と、いうより廊下と呼べる場所。その真ん中、道をふさぐように張られた結界の中で刃と刃がぶつかり合った金属音が響く。
まぁ、その正体であり、斬り合いに集中している俺と先生はあまり関係のないことだけどな…。
「Hey、ドウシマシタヒナタ?イキオイガナクナッテマスヨ!!」
「ご冗談でしょ?先生?俺は最初からずっと問題nothingですよ!!」
ゲイル先生との斬り合いも既に5分。だが、ニヒルな笑みを浮かべたゲイル先生のそう軽口を叩き、はぐらかしてはいたが、実際には俺は限界へと近付いていた…。
日本刀とメス…リーチの長さなどから圧倒的に俺のほうが有利だと思っていたのは遠い過去の話…。
ゲイル先生は、俺の予想を遥かに上回るほどに…強かった。
――カキイィイィインッ!!
「…っ!!はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
メスと日本刀。このリーチの差は、近距離戦において逆に不利だと判断した俺は、いったんゲイル先生から距離をとる。
それを追いかけず、ゲイル先生は俺を自分のゾーンから簡単に逃がしてくれた。
それは、俺とゲイル先生との実力差を深々と俺に見せつけていた…。
「(日本語訳)…日向。あなたは強い。それは、あなたをずっと見てきた私だからこそ分かりま〜す。…ですから、いい加減に認めたらいかがですか?」
俺へと優しく咎めるような言葉。それは、喧嘩したたびに治療してくれたゲイル先生が治療中に語りかけてくれた言葉と同じであった。
だけど…それは、同じであって同じではない。なぜなら、今のゲイル先生の言葉は…俺自身を簡単に打ち砕く言葉だったからだ。
“信頼”“絆”これまでゲイル先生と築いてきた…すべての言葉を…。
「はぁ…はぁ…な、何をだ…ですか?」
「…Ah.ヒナタ。アナタハバカデハアリマセーン。ユエニ、アナタハワカッテルハズデスヨ〜」
その瞬間だった。俺の頬を高速で何かが通り過ぎる。昨日のレリエルの光の矢と似たような感覚。だが、実際には、それはまったくの別物であった…。
「…っ!?いつの間に――」
「…アナタ“ヒトリ”デハ、ワタシニカテナイトイウコトニ…デスヨ」
気がついたときには、ゲイル先生の右手からメスが1本消えていた。しかし、ゲイル先生の右手にはすぐに再び新しいメスが握られる。
そして、ゲイル先生は再び右手に現れたメスを構えると、瞬く暇もなくメスが投げられた。
――シュンッ!!
「くっ!!ゲイル先生!!」
――キンッ!!
俺は飛んでくるメスを紅翼で叩き落とす。
だが、ゲイル先生の猛攻は終わらない。すぐさま2撃、3撃と投メスを繰り返すのだった。
「ヒナタ!!アナタハアマイ!!ワタシガ、キヅイテナイトデモオモッテマシタカ!?ソノ“ヤイバ”ニ!!」
――シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!
「…っ!!先生!!俺はあなたを傷つけたくなんかないんです!!下手をすれば死んでしまうかもしれないんですよ!!そんなこと…俺にはできません!!」
「ソノケッカガ“ミネウチ”ト、イウワケデスカ?ハ!!ワタシモ、ナメラレタモノデスネェ!!ヒナタ!!」
「でも…それでも!!俺はあなたを…あなたを信じたいんです!!あなたは俺に守り方を教えてくれた恩人。知恵理を守るすべを教えてくれた人なんですから!!」
「ダカラ…ソコガ“アマイ”トイッテルノデスヨ!!」
――キィイイィインッ!!!!
激しくぶつかり合う金属音。それと同時に飛び交う俺とゲイル先生の言葉。俺とゲイル先生しかいない、ここは…荒れていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
あがる息。軋む体。少なくとも俺は、限界間近だった。傷つけたくない。その一心で俺は闘い続けていた。
だけど、それももう…限界だった。不思議なものだ。信じてた人に裏切られて心も体もボロボロなのに…俺の“魂”は歓喜していた。
まるで久しぶりに闘う強敵に胸躍るかのように…。それは俺の中で渦巻く。
さっき、デモンのアマテラスと闘ったときと同じ感覚。俺は…すでに、その感覚にドップリと浸かってしまっていた…。だけど――
「はぁ…はぁ…はぁ…ゲイル先生。俺は…あなたを傷つけたくない…。これだけは…変わりません」
「……」
だけど、俺の頭は妙に冷静だった。これほどの感覚。薬と同じようにドップリと浸かっているというのに…俺は、刀の刃の方をゲイル先生へと向けることはなかった。
峰打ち。それだけを目的に、俺は刃を裏返すことは決してなかったのだ。
「…ヒナタ。ホントウニ…アナタハ“アマイ”」
「…別に構いません。俺はあなたを傷つけたくない。この心に嘘も偽りもありませんから」
「……」
「……」
「……」
「……」
「(日本語訳)…はぁ。分かりました。ここまで言っても分からないのならば、致し方ありません」
「…!!」
長い長い沈黙の終わりを告げたのは、どこか諦めたかのようにそう呟くゲイル先生の声であった。
そして、その次のゲイル先生の行動は、俺の予想を見事にかつ、遥かに裏切るものであった。
「…!!ゲイル先生!?」
「…ヒナタ。ソコマデイウノナラ、ワタシニモカンガエガアリマ〜ス」
その行動に、俺はただただ呆然とするしかなかった。なぜなら、俺と敵対し、俺も敵対する決心をしたというのに…ゲイル先生は、俺のすぐ目の前で――
――シャキンッ…!!
「…コレデスコシハワタシノ“ハナシ”ヲキイテクレマスヨネ?」
自分自身の喉元にメスを構えていた。
「げ…ゲイル先生。何を」
「(日本語訳)日向。勘違いしないでください。質問するのは私であってあなたではありませーん」
聞く限りでは、いつも通りのふざけ半分のような片言で明るい声。だけど、ゲイル先生の目は…本気だった。
「や…やめてくださいゲイル先生。俺は…俺はあなたのそんな姿なんてみたくありません…!!」
「…デハ、ワタシノハナシヲキクコトデスヒナタ。デハケレバ…」
「…!!でも…でも!!」
「(日本語訳)いい加減にしなさい日向!?“でも”も“なに”もありません!!何度言わせるつもりですか!!」
突然、荒げられたゲイル先生の声に俺の思考は停止した。今まで考えていたこと――ゲイル先生をどう止めるか――ということを含めて…。
俺の頭の中は真っ白になった。
「…ゲイル…先生」
「(日本語訳)日向。よく聞きなさい。私はあなたが分かってるものと思っていました。ですが、それはどうやら私の勘違いだったようです…。あなたは…まだ何も分かってなんかない…」
「…分かって…ない?ゲイル先生…それはいったい――」
「(日本語訳)…日向。あなたは…なぜ闘うのですか?なぜ人は…拳を振るうのですか?」
「…っ!?」
…唐突な質問。だけど、その内容は忘れることのできない言葉であった。
その質問は3年前のあの日。ゲイル先生から問われた内容とまったく同じ…。そして、俺はその応えを知っている。忘れるわけがない。
俺はこの時点でようやくゲイル先生の真意が分かった。先生は…先生は俺を試してるんだと。
「…ゲイル先生。それは…【目的】ですか?それとも…俺の…【意志】…ですか?」
逆に聞き返した俺にゲイル先生は深く息を吐くと、しっかりとした目で俺を見つめてくるのだった…。
「(日本語訳)…あなたがもし、私の言葉を覚えているのならば…今のあなたの質問の応えは、自ずと同じになるはずで〜す」
…やっぱりそうだった。この瞬間。俺は確信を得た。やはり、ゲイル先生は俺のことを試している。
でも…俺はゲイル先生から教えてもらったことを忘れた事など一度たりともない。あの日あの時のことを忘れたことなど一度としてない…。
だから…俺は叫ぶ。先生が…ゲイル先生が望む応えを。俺自身の口で――叫ぶのだった。
「ゲイル先生…俺の望みは…俺の望みは…俺の望みは知恵理を守ること!!それだけです!!ゲイル先生!!」
「…ソノトーリ。ワタシハアノヒ、タシカニソウオシエマシタ。デスガ――」
次の瞬間。空気が…揺れた。
「デスガ…デハナゼ!!ワタシヲタスケヨウトシテイル!!ヒナタ!!」
俺の高らかな宣言と同時に飛んできたのは厳しいゲイル先生の叱咤の言葉。その言葉は俺にとって…衝撃的だった…。
「サァ…ナゼデスカ?」
「なぜ…なぜってそれは…ゲイル先生は俺の恩人で…いつも喧嘩したときも嫌な顔せず治療してくれて…いつも俺たちを優しく見守ってくれて…強くて…優しくて…変わった身の上の真備や凪。眼帯の輝喜や、孤児の俺達を偏見なく見てくれる大人だから…だから…だから――」
「…ソレダケ。デショ?」
どこか、含み笑いのゲイル先生の言葉。それは、いつもと同じ優しい雰囲気の言葉のような気がした…。
「…それだけ。それだけって!!ゲイル先生!!」
「(日本語訳)事実で〜す。いくら見積もってもそれが限界。私は、あなたにとってそれだけの人間なので〜す。でも――」
そのとき、ゲイル先生のブルーアイにあのときの映像が映った気がした。
3年前のあの日。知恵理を守ると誓ったあのときの映像が――
「(日本語訳)でも…あなたは知恵理を大切にしている。幼なじみとして…家族として…。私はあなたたちを見てきました。だから、あなた達の関係も分かっているともりでーす…」
「ゲイル先生…」
「(日本語訳)…日向。あなたの一番大事なものはいったい何なのですか?」
その言葉に俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。俺の中にあるその事実に。
本当は苦しい。本当は辛い。でも、認めなければいけない。認めなければ…俺は…必ず後悔するから。だから――
「…俺の…俺の一番大事なものは…知恵理だ。たとえ、何を失っても…俺は…彼女だけは失いたくありません!!」
俺はその事実を認めるのであった…。
「(日本語訳)ようやく認めましたね…日向。そのうえで、私は言います。だったら前に進め!!あなたが助けたいのは私ではなく知恵理のはずです!!それを忘れてはいけません!!あなたが今、しなければいけないこと。それは――」
そう言ってゲイル先生は再びメスを構える。その瞳に…優しさはなかった。
「(日本語訳)それは――知恵理を助けにいくことです!!例え、私の屍を越えてでも!!知恵理を助けにいく!!それが!!私があなたに教えたことです!!」
「っ!!…やってやる。…やってやりますよ!!ゲイル先生…いや!!ゲイル!!俺はあんたを…倒す!!」
それが、俺のめいいっぱいの意思表明だった。
ゲイルside
…日向。やはりあなたは強く真っ直ぐだ。
私は日向の意思表示ともとれるその言葉に、何かこみあがってくる感情を感じました。うれしさと…かなしさ。この2つの感情が。
本当に…あなたは素晴らしく成長をとげましたね。…あの人、【空】も鼻が高いでしょう。
最後まであなたの成長を見守れないことが…とても残念です。日向。
「いくぜゲイル!!もちろん問題nothng以外の応えは受け付けないけどな!!」
――ボオォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
気高く燃え上がる炎…。その輝きは本当に綺麗で神々しいく感じました…。
なるほど、刀に炎がまとうのとまとわないのとでは威力はまったく違いますからね。では、私もその炎に…応えましょう!!
「エェ!!ワタシモゼンリョクデ、オアイテイタシマス!!ヒナタ!!」
「問題nothng!!くらえぇええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
「ハアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
――キイィイイイイイイイイイイイインッ!!!!!!!!!!
鳴り響く金属音。それは日向が上から振り下ろした日本刀を私は両手の指全てに挟んだ8本の執刀を使って受け止める音。
とてもナチュラルかつエクサイトな音は私を心の底から高揚させられます。すごい…これが…これが本当の“不知火日向”
その覇気は私の予想を本当にいい意味で裏切ってくれました…!!
――ジリジリジリ…
私の拳を焼く紅翼の炎。熱い。熱い。だけど、この【治癒結界】の中にいる限り、私の傷は傷はすぐに回復する。
それは、この結界の中にいるかぎり、私が圧倒的に有利であるということでーす。それでも…日向は、私に向かってきました。
「サスガニ…ヤリマスネ」
「まだまだこんなもんで満足さねーよゲイル!!!!」
「Excellent!!!!ソレデコソ!!アナタダ!!!!」
――シャキンッ…!!
日本刀とメスの鍔迫り合いから離れ、間をおかずに日向がもう一度紅翼を振りかぶる。
だけど、私もただ黙ってるだけではありませ〜ん!!!!
――シャキッ!!
振りが大きい。紅翼を振りかぶる日向の姿を見たその瞬間、私は日向に向かってメスを突き立てる。
でも、日向はさらにその上を行っていたのでした…。
――シュタンッ…!!!!
「…ッ!!…ッ!?」
「……」
…そのとき、私はあまりの事態に言葉を出すことすらできませんでした。舞い上がる日向。突然のその事態に、私は目を疑いまーす…。
ですが、これは事実。私の見ているものは現実でした…。舞い上がる日向。そして、その背中には確かに――
「…紅翼の…天使」
――ザシュッ!!!!
…確かに…【紅い翼】が見えました…。その姿。まさしく【紅翼の天使】。そしてこれが…。
日向の…紅翼の【特性】
「…問題…nothng」
「グハッ…!!」
――バタッ…!!
…ですが、私がその姿を確認する前に、私の目の前が真っ赤に染まりました。あまりの痛みに地面に膝をつく私。その目線の先には、赤く色づくドロッとした液体がありました。
そのとき、私は初めてあの刃のような鋭く、嫌な音の正体を知りました。あれは…私の腕を紅翼が斬った音だということに…。
「グアァアア…!!グッ!!ミギウデノ“サイセイ”カイシ…!!」
「……」
その声とともに、私の右腕は治療されていきまーす。自己再生と言っても差し支えはないはずでーす。
でも…痛みは尋常ではありませんでした…。
「……」
視線を感じる。すぐ目の前から。ですが、傷が塞がりつつあるとは思いますが私は顔を上げることはできませんでした…。
それと、私は日向の戦闘力が先ほどより遥かに高くなっていたことに驚きを隠せませんでした。あの動きは、明らかにさっきまでの動きを驚愕している。
…急速に成長している?
私がそう思うのは必然でした。それに――
――カツン…
そのとき、すぐ目の前から聞こえる足音。妙に静まりかえった部屋。その音は異様にも感じまーす。
私は腕の痛みを我慢しつつ顔を上げました…。
「…っ!?」
すぐ目の前。そこには、私を見下ろす形で日向がいました。その背中には、さきほど見えた羽は見あたりませーん。
いつもどおり、そこには人間の日向がいました。…さっきのは、本当に幻想だったのか?そんな疑問が私の中に渦巻きまーす…。
しかし、私の疑問は日向のある一転に目がいった瞬間、すべてのことに合点がいきました。
そう、そこは日向の【瞳】。そこにはさっきまでとは変わらない日向の瞳がありまーす。
だけど、1つだけ変わった――いや、昔に戻ったといったほうがいいところがありました…。
血に染まる黒瞳。さっきまでの日向と違うところ…。それは、瞳の色。このとき、日向の瞳は――
血に染まったかのように紅かったのです…。
凪side(少し前)
「どう輝喜?いけそう?」
「うん。OKだよナギリン♪」
部屋に響きわたる金属音。そんな中、あたし達――実際には輝喜は、日向とゲイル先生の2人に気付かれないように着々と行動を進めていった。
どうやら“2本目”も簡単に抜けたようね…。
輝喜のその言葉に、あたしは緊張が解けたかのように一気に息を吐き出す。さて、あとは――
「…で?決行はいつにするんだ、姉貴?」
「まぁ、落ち着きなさい真備。物事にはタイミングってやつがあるんだから…。それに、やるのは輝喜。あんたじゃないわ。あんたとあたしはここで黙って指をくわえるしかないのよ…」
「…ちっ。クソったれが」
…そう。この作戦、あたし達は何もしない。いや、参加できないのだ。
これは結界の中にいる輝喜だからこそできる作戦。だから、脚が痛いのはわかるけどそれに鞭うって頑張って貰わないといけない。
この闘い。全ては輝喜の腕にかかってるていってもいいんだから…。
「…っ!?ナギリン。どうやら状況が動いたみたい」
「…そう。ついに始まるのね」
あたし達の闘いがね…。
「…じゃあ輝喜。後は頼んだわよ…good rack!!」
ちなみに、この英語表記は別に間違いじゃない。なぜなら、あたしがこの言葉に込めた意味は【健闘を祈る】という意味ではなく…。
【よい破壊を】という意味で使っているのだ。
「ふふ♪ナギリンO.K.…ヒナタン風に言うと問題nothing!!楽しみにしててね…」
あたしの言葉の意味が分かったのか、ぐっと親指を立てて拳を突き出す輝喜。それにあたしと真備も親指を立てる形で応えるのだった。
そして…そのときだった。
「エェ!!ワタシモゼンリョクデ、オアイテイタシマス!!ヒナタ!!」
「問題nothng!!くらえぇええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
「ハアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
――キイィイイイイイイイイイイイインッ!!!!!!!!!!
これまで以上に激しい金属音がこだました。この瞬間、あたしは確信を得た。
このときが来たと…。
「いよいよね輝喜。用意して…」
「うん。行くよナギリン」
あたしの指示に、輝喜は痛そうな脚に鞭打って、立ち上がる。さぁ…行くわよ。そしてついにそのときは訪れた。
――シュタンッ…!!!!
あたしたちの誰もが予想しなかった予想外な形で…。
――バサッ!!バサッ!!
「…っ!?な…なによ…あれ。…日向…なの?」
「マジ…かよ…」
「…赤い翼。ヒナタン…天使みたい」
一瞬。ほんの一瞬だけ現れた日向のその姿。そのあまりにも美しい姿に…あたしたちは絶句してしまっていた…。
あまりに煌びやかで…あまりに神々しいその姿はまさしく…【紅翼の天使】
これが…【紅翼の天使】。これが…“不知火日向”
――ザシュッ…!!!!
「…問題…nothng」
「グハッ…!!」
そして、あたしたちがハッと気付いたときには…状況が一変していた…。
――バタッ…!!
痛さゆえか、膝をついてしまうゲイル先生…。その右腕からはおそらく、あたし達が呆然としているうちに斬られたと思われる血のあとが…。
でも…この結界の中だからか、ゲイル先生が一声かけるとすぐに止血され傷が癒されていく…。
それを見たあたし達は叫ぼうとして開けた口に何を言わせればいいのか分からなくなっていた…。
そして“時”は…動き出した。
「ヒナタ。アナタ…ソノ“メ”ハ、イッタイ…?」
…唖然とした表情。だけど、どこか納得したといったゲイル先生の表情がそこにあった。そして、その言葉により、あたしたちの間にも戦慄が走る。
幸か不幸か、あたしたちの位置からは日向の目を見ることはできない。それでも…あのときの映像がフラッシュバックしてくるのには十分だった。
それは、今日の朝…屋上での出来事。怯えた目でこっちを見た日向。そのときの彼の瞳。それこそがまさに紅だったのだ。
さらに、そのときの日向の口から放たれた言葉…。あれは――
だけど、あたしのフラッシュバックは日向達の次の会話にかき消されるのであった…。
「…ゲイル。俺の目がどうかしたのか?」
「…ヒナタ。アナタ…マサカキガツイテナイノデスカ?アナタノヒトミ…アカイデスヨ」
ゲイル先生の言葉に、あわてた様子の日向は持、っていた紅翼で自分の目を覗き見る。
「あれ?確かに紅い。俺…どうしたんだ?」
その会話の内容。そして、日向の様子からあたしは日向がいつもの日向だと察した。
そして、冷静な頭を取り戻し、いつもの日向だと気がついたあたしは、本来なら真備と2人で叫ぶはずだった作戦開始の合図を――
「日向!!!!」
あたし1人で叫んだのであった。
日向side(少し前)
な…何なんだ。この感覚?体の自由が…体のコントロール権が俺にはないようなこの奇妙な感覚は…?
デモンと戦ったときも感じ取ったこの感覚に、俺は戸惑いを隠せずにはいられなかった。
まるで、体に染み付いた何かが勝ってに体を動かしているみたいな…この感覚に…。
「……!?」
顔を上げたゲイルがこっちを見て何かに驚いていた表情となる。いったいどうしたんだ…?
ていうか…傷、もう治ってるよ…。はぁ…鬱だ。せっかく勇気振り絞って斬りつけたのに…。
でも…ゲイル。本当にどうしたんだ…?いったい何に驚いているんだ…?
そして“時”は…動き出した。
「ヒナタ。アナタ…ソノ“メ”ハ、イッタイ…?」
…唖然とした表情。だけど、どこか納得したといったゲイルの表情がそこにあった。
目…瞳?俺の瞳がいったいどうしたっていうんだ…?だが、次の瞬間。俺は戦慄することとなる。次のゲイルの言葉に――
「…ゲイル。俺の目がどうかしたのか?」
軽い気持ちで聞いてみたがゲイル先生の言葉は俺を慌てさせるのだった。
「…ヒナタ。アナタ…マサカキガツイテナイノデスカ?アナタノヒトミ…アカイデスヨ」
な、なんだって…!?
その言葉に、俺は慌てて何か顔を見れるものを探す。何か…何か…!?
あった。俺は鏡となるものを右手に持っていた…それは日本刀。紅翼である。
俺は急いで紅翼に顔を写して目を見てみるのだった。
「…っ!?」
確かに…日本刀――紅翼に映った俺の瞳。それはまるで血に染まったかのように紅かった…。
「あれ?確かに紅い。俺…どうしたんだ?」
この事態に、俺は呆然と呟いてしまう。なんで…どうして…紅くなってるんだ?
【日向】は出てきてないのに…なんでぬんだ?
疑問は絶えない…。だけど、俺に考えさせられる時間は与えられなかった。
「日向!!!!」
「…っ!?凪!?」
突然狭い部屋中に響きわたる高音の叫びに近い俺を呼ぶ声に、俺は振り返る。この部屋でこんな声を出せるのはただ1人。凪だった。
だが、そんな凪の姿を見るより先に俺はとんでもないものを目にする。
「…っ!?うおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「なっ!?冗談だろ!?」
思わず、そう言いたくなる光景。でも現実だった。
そこには…痛そうに片方の脚を引きずりながらも、声を張り上げ懸命に走ってくる輝喜の姿が。目を疑いたくなる光景だった。だけど――
「輝喜を守りなさい!!!!」
真備ならともかく、輝喜はバカじゃなければ、こんな場面でふざける奴でもない。ましてや輝喜の瞳は強い意志をはらんでいた。
それに加えて、凪の否定を許さないという言葉の叫びまでプラスされたなら、俺を駆り立てるのに十分すぎる材料だった。
「っ!? O.K.!!問題nothing!!こっちは任せろ!!」
正直なにが起こっているのかは分からない。だけど俺は敢えて何も考えずに、輝喜を背にするようにゲイルにへと立ち向かった。
――キイィイイイイイイイイイイイイインッ!!!!!!!!
合わさる刃と刃。再び立ち上がったゲイルと俺はまたしても鍔迫り合いの形で立ち止まる。何かよくわからないけど…行け!!輝喜!!
「マサカ…!?」
そのとき、ゲイル先生が顔が目に見えて慌て始めた。あ〜もう!!マジでいったい何なんだよ!?
「日向!!そのまま押さえ込め!!」
「サセマセン!!!!」
真備の叱咤とゲイル先生の叫び声が重なる。
そして、さらにそれと同時に輝喜が俺とゲイルの横を一気に駆け抜けていく。ゲイルが…狙いじゃないのか!?
この事態に俺の頭はさらに混乱していった。
「行っけえぇええええええええええええええええええ!!!!輝喜いぃいいいいいいいいいいいいっ!!!!」
だが、そんな俺の様子とは関係なしに状況はドンドン進んでいく。そして、最早何度目になるか分からない凪の響いたとき…ついに、ゲイルも動き出した。
――キンッ!!
「ソコカラサキハ――」
――ドゲシッ!!
「ぐはっ…!?」
「“ツウコウキンシ”デ〜ス!!!!」
鍔迫り合いの状態。そこからゲイルは、俺の日本刀を上に押し上げるとそのまま俺の腹に蹴りを入れて俺を倒す。
いくら能力者で驚異的身体能力を持っていてもそこは大人と子供。腕力の差はひをみるより明らかである。そのうえ、平均的な中学男子の体格の俺に入れられた大人の蹴り…。
俺の戦闘力は一気に刈り取られていった…。
「マチナサイ!!コウキ!!!!」
――ガシッ…!!!!
だけど…それでも、俺は痛みに耐えながら走る輝喜のために、輝喜を追いかけようとするゲイルの脚を必死に掴んだ。
行かせねぇ…絶対に行かせねぇよ!!!!ゲイル!!!!
――ギュウゥウウウ…!!!!
「…ッ!?ハナシナサイ!!ヒナタ!!」
「問題nothing…それは聞けない相談だゲイル。それにゲイルだって言ってたじゃねーかよ――」
――シャキンッ…!!!!
必死にもがいて俺の手から離れようとするゲイル。だけど、この音を聞いた瞬間、顔から一気に血の気が引いていった。
「こっから先は――」
「ヤ…ヤメナサイ!!ヒナタ!!」
青ざめるゲイルの顔。その目線はゲイルの脚を必死に掴む俺の左手とは反対の俺の右手へと向けられる。日本刀を――紅翼を持った右手へと。
さぁ…粛正の時間だ!!覚悟はいいかゲイル!!もちろん、問題nothing以外の応えは――
「通行禁止だってな…!!!!」
――ザシュッ!!!!
「グッ…グアァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
――聞いてないけどな!!
俺の右腕から放たれた決死の一撃。それはしっかりとゲイルの脚をとらえることに成功するのだった。
「グゥ…グゥ…!!!!」
足を射抜かれ、さすがに立つこともままならないゲイルはその場に膝をつく。それでも刺さる続ける日本刀――紅翼。見るからに痛そうだ…。
…ゲイル。いくらあなたでも…俺は易々と親友を傷つけさせやしない!!たとえ…あなたでも…な!!
――ブシャアァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!
「グアァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
三度響きわたるゲイルの叫び。それは、俺が日本刀を抜いたときに生じた痛みによる叫びだった。
それと同時に吹き出す血潮。紅翼にもベッタリついたそれは地面を…服を…俺達の肌を汚す。ふと、見てみればいつの間にかゲイルの白衣は血で真っ赤に染まっていた。そう…今の俺の瞳のように…。
だけど、力でねじ伏せられても必死に食らいついて、ゲイルに一撃を与えた俺と同じように――
「グゥ…!!ワタシハ…ワタシハアァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
――シャキンッ…!!!!
ゲイルの方も…さすがと言えるほどに諦めが悪かった…。その姿に俺は――
「くっ…くっそおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――シュンッ…!!!!
…何もすることができなかった。それは一瞬の出来事。まさしく刹那の攻防という言葉がぴったりな状況であった。
気がつけば、俺の努力は虚しくも…崩れ去った。輝喜へと向かって投げられたメスによって――
――グサッ!!!!
「ぐっ…!!??」
そのメスは見事に輝喜の怪我してないほうの脚に突き刺さる。まさに神業。いや…この場合は執念のたわものと言ったほうがいいかもしれない。
それほどまでにすさまじく正確な一撃であった。
――バタンッ…
…そして、輝喜は倒れる。部屋の反対側。奥へ続く方の扉近くのそこで。輝喜は力尽き、倒れ込んでしまう…。
その姿に俺は――
「…ごめん輝喜。俺…守れなかった」
ただ、謝ることしかできなかった。俺のせいで…俺のせいで…何らかの思惑が失敗したのだと…。そう思うと、俺の中には謝罪の気持ち。それしか出てこなかったのだ…。
「……」
そして、訪れる静寂…。
痛みが走る体を俺は必死に動かし、なんとか上半身だけを起こす。
ゲイル先生は多量の血の跡があるとはいえ、すでに傷はふさがっており、メスを投げた状態で固まっていた。
後ろを見る余裕がないから凪と真備の様子は分からない。だが、一言も話さない限り…2人にも余裕は感じられなかった。
そして、残る1人。おそらく、誰もが彼の動向を見守ってると思われる輝喜は倒れたまま…動くことはなかった…。
…俺はおそらく、この中で唯一状況を把握できてない。だからこそ、輝喜の行動の意味を知りたかった。なぜあんなことを…。なぜあんな行動を…。
疑問は絶えず俺の頭に押し寄せる。と、そのときだった。
「いててて…あぁ。逃げきれなかったなぁ〜」
これまでの静寂から解放されるかのように、その声が聞こえてくる。輝喜だった。
その声を聞く限り、大事はなさそうで一安心である。俺は彼のそんな様子に安心したように息を吐き出した。
「輝喜。大丈夫よね?」
「大丈夫か!?輝喜!?」
途端。鳴り響く心配げな真備と凪の声。だが、その言葉には、輝喜を心配する以外にも別の意味が込められている気がした。
別の…意味が…。そして、俺はその意味を意外な形で知ることになった。
――キラン…
真備と凪の心配げな声。その声に輝喜は声はなく行動で応える。
挙げられた右腕。その拳の中に部屋の光でキラリと光るそれがあった。あれは…まさか――
俺の結論は…正しかった。
「ふふ♪ナギリン。マキビン。そんなに心配しないでよぉ〜♪もちろんmission completeだ・か・ら♪」
……は?
「ほ、本当に?あたし達を安心させるためについてる嘘…なんかじゃないわよね?」
「あは♪ナギリンたら心配性だなぁ〜♪これ見てよ。こ〜れ♪」
――ピーン…
その刹那、輝喜の手にあったそれは、輝喜の手によって軽く凪たちがいる方へと投げられる。
俺のすぐ上を通り過ぎるそれ。スローモーションのようにも感じたその動作にて、俺は輝喜の手にあったそれを正確に確認するのであった。
――カランカラン…
そして、凪たちのすぐ目の前に落ちるそれ。それを見た真備と凪は――
『『や、やった〜〜!!!!』』
それを見て同時に同じことを叫んでいた。いや…だから、なんでだよ?
俺の頭はますます混乱するばかりで、いっこうに事態の打開にはつながらない。本当に何なんだ?輝喜のこの行動の意味は…?
だけど、俺以外のやつらにはすべて解かっているらしく。話は俺の意志とは関係なく、勝手に進んでいった。
「…ヨロコブノハ、マダハヤクアリマセンカ?」
さらに続くゲイル先生の意味深な発言…。ついに、これはただ事ではないという雰囲気だ。それでも…俺にはこの事態がさっぱり分からないのに変わりはない。
最早、このままでは埒が明かない。そう思ったそのとき、凪はさらに訳の分からない言葉を出してくる。そう…他ならぬ、俺のことについてを――
「はん!!問題ないわゲイル先生!!だって、最後の1本は日向が抜くんだからね!!」
「はぁ…?」
そう高らかと宣言する凪の目の前。そこにはさっき輝喜が投げたそれを含めた3本のメス――執刀が落ちているのだった…。
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作「はい!!じゃあ今回は心理テストをしたいと思いま〜す!!」
刹「いきなりすぎるわボケ!?」
凪「はぁ…いつものことながら藪から棒ね…」
日「しかも、なんで心理テストなんだ?興味ないから帰っていい?」
輝「え〜♪おもしろそうじゃん♪一緒にやろうよ〜ねぇ〜」
日「ガキかお前は!?ったく…何言われても俺は帰る。じゃあ――」
知「わぉ!!心理テストするの!?面白そう〜!!ヒナ君!!ヒナ君!!一緒に頑張ろうね☆」
日「――なと、見せかけて問題nothing!!そうだな頑張ろうな!!知恵理!!」
真&凪&刹「っておい!?」
輝「あははは♪さ〜すがチエリン。ヒナタンの扱いは天下一品だね〜」
作「あの〜そろそろいいっすか?」
日「問題nothing。いつでもいいぜ作者!!いや…ゲームマスターよ!!」
作「いや…俺そんな名前じゃないから…はぁ…まぁいいけど。それじゃ…行きますね?あなたが好きな動物を2つ選んでください」
日「俺はライオンと狼かな。すごく格好良いいじゃん!!」
知「私は猫派だから猫ちゃんオンリー♪でも可愛い猫ちゃんとちょっとヒナ君似の猫ちゃんにわけよ〜っと!!」
真「猪と…鯨かな?この間食ったときうまかったし…ジュルリ」
凪「はぁ…あんたってホントバカ。美味そうといえば鷹と針鼠に決まってんじゃない」
輝「じゃあ俺は敢えて可愛いパンダと醜い顔のコウモリを選ぼうかな〜♪」
刹「…なんでこいつらこんなにひねくれてやがんだよ…馬とリスで」
作「なるほどね〜さて、以上のことから次のことが分かります。
最初の動物は普段あなたが見せている顔。
2番目はなかなか見せないあなたの内面です。
結果は以下の通りそれでは結果をオープン!!」
〜普段の顔〜
日向→誰にでも親しまれる中心
知恵理→おっとりとした天然
真備→何事にも当たっていく猛進
凪→気が強い高飛車
輝喜→マイペースで楽しむ楽天家
刹那→元気いっぱい1人走りする存在
日「へぇ〜知恵理のことよくわかってんじゃん」
知「あー!!ひどいよヒナ君…私天然じゃないもん!!」
真「俺って突っ込んでいくタイプなのか?」
凪「あんたの場合周りまで巻き込むでしょ!?少しは自重しなさい!?」
輝「確かにナギリンは高飛車、ヒナタンについても正しいと思うな〜♪」
刹「…なんか俺の真備のに似てね?」
作「では、みなさんの本当の顔を発表…は次回にして予告いきまーす。次回の時の秒針は――
その炎。日輪のごとくすべてを燃やし尽くす烈火の世界となる。
次回【日輪流炎術】」
日「問題nothingだぜ!!」
日「本質か…あまり知られたくないんだけどな…」
知「ひょ?」
次回に続く!!