第27話 恩人と呼ぶ男
守るための拳を教えてくれた人は・・・
守りたいものを奪う存在となった・・・
VSゲイル編、開始!
問題nothingだぜ!
日向side
「Hey!!ミナサンゴキゲンヨウ!!」
部屋――と、いうより廊下の中央に仁王立ちしといたその男。俺達の“友人”であるゲイル先生は、いつも通りのハイテンション。それに片言の日本語で話しかけてくる。
でも。なんでここに――
「先生!!ゲイル先生!!なんで…なんであんたがここにいんのよ!?」
驚きのあまり、キッとゲイル先生を睨みつける叫びにも近い凪の言葉。
だが、ゲイル先生は凪の言葉に応えず、スーツの上から羽織った白衣の胸ポケットから一枚の紙を取り出すと、こちらに放り投げる。
――シュルシュルシュル
パシッ!!
投げられた小型の紙は俺達のすぐ目の前へと落ちる。見た目、高級そうな紙でできたそれは、どうやら名刺のようであった。
俺達はそんなゲイル先生の行動に不思議に思いながら名刺を覗き見る。
だがそこに書いてあった言葉は俺達を驚愕で顔を歪ませるものだった。
「ソレガ、ワタシノホンライノ“ショクバ”デース」
明るさが消え、片言のみとなったゲイル先生の言葉は俺達には耳に入ってこなかった。なぜなら俺達はその名刺に見入ってしまったからである…。
┏━━━━━━━━━━┓
時の番人
医療局
局長"ゲイル・ハルトマン"
┗━━━━━━━━━━┛
ゲイル先生が投げた名刺。そこには確かにそう書いてあった。聞き慣れない単語もある。でも、それでも…俺達を驚愕させるには十分すぎる内容だ。
この名刺が意味すること。それは――
「ゲイル先生…俺達を…騙してたんですか?」
「…ハイ。ソウナリマスネ」
ゲイル先生は時の番人のメンバーだったということだ。
ゲイル先生はいつものハイテンションな言葉使いを納めて、ゆっくりと…呟く。
ゲイル先生とは、長いつきあいだから、俺にはゲイル先生の真意をつかむことことができた。どうやら…先生も心を傷めていらっしゃるようだった。
「…ゲイル先生。俺はどうしてもあなたが悪い人には見えません」
そのとき、はっきりとした口調で真備が言葉をだす。その言葉に、俺は少しだけ驚きをあらわにする。なぜなら、それは俺が言おうとしていた言葉だったからだ。
レリエルや刹那の件もある。おそらくゲイル先生も同じだと俺達は思っていた。
うまくいけば戦わずしてこの部屋を抜けられる。そう思った。だけど――
「――ムダデスヨ」
ゲイル先生の口からかえってきた言葉は、明らかなる拒絶の言葉。
それはいつも楽しげに笑っていたゲイル先生が俺達に見せた始めての脅しの言葉だった。
「ゲイル先生…!!」
「サテ。ワタシト、タタカッテモライマショウ?ヒナタ…マキビ…ナギ…コウキ?」
驚愕に驚愕が重なり、ゲイル先生へと言葉を投げつける俺。しかし、ゲイル先生はそんな俺の言葉を軽く受け流し、そう言言いながら両手の手の平を自分自身のほうに向けるように目の前に出す。
そう…その姿はまるで…手術の前の医師のような…そんな、仕草だった。
「デハ。オペヲハジメマス―― Come On!!」
ゲイル先生の短く鋭い声が響く。その刹那、温かい光が俺達を包み込み、あたりの様子を見ることができなくなる。
そのとき、俺の脳裏に懐かしい記憶が蘇る。ゲイル先生と初めて出会ったあの日の記憶が――
その日は、中学の入学式――と言っても【桜時学園】は小・中・高一環だが――だった。
それは入学式に起きた事件。だけど俺達には忘れられない事件でもある。なぜなら、それは輝喜との出会いの事件。そして、真備の心に深い傷が出来た事件だったからだ。
詳しくはまだ語れない。だが、ゲイル先生と出会ったのはその日の夕方。放課後のことであった。
俺達はその事件にて不覚にも怪我を負ってしまっていた。だから、怪我の治療をしてもらうために、その当時、出会ったばかりの輝喜の紹介で知り合った外国人の医師――それが、ゲイル先生だったのであった…。
俺はこの人に…大切なことを教わった。俺だけじゃなく知恵理の人生をも変えるほどに大切なことを――
日向side(3年前)
「こんにちわ〜ゲイル先生いますか〜?」
日もだいぶおちてきた夕暮れどき。自動ドアをくぐり抜け、輝喜の案内の元、俺達が入ったのは内装の真新しさから、おそらくまだ開院したてだと思われる病院。いや、診察所だった。
そんな、真新しい病院――桜時クリニック――に入った瞬間、大声で叫ぶ輝喜。すると、その叫びから数秒とたたないうちに病院の奥から1人の金髪の男が現れた。
「Hey!!ドウカシマシタカ?コウキ?」
「先生。少し喧嘩しちゃって…すみませんが、治療してくれませんか?」
「Ah…ナルホドデスネ。OK!!Of course.(もちろん)モチロンイイデスヨ!!」
最初。彼から受け取った第一印象は、ハイテンションな外人だった。輝喜の声に、喜びを現すようにニコニコとした表情をする。それもかなり印象的だ。
彼は、いままで生きてきた中でも始めて会ったタイプの人間だった。
「オヤ?コウキ。ソチラノ、ヨニンハドチラサマデスカ?」
「ふふ〜ん♪知りたい?先生?じゃあ特別に教えてあげるね♪みんなは今日知り合った俺の友達で♪右から――ヒナタン。チエリン。ナギリン。マキビンて言うんだよ♪」
「な、ナギリン…」
「マキビンって…なんだ…」
そう言えばこのときだったな…輝喜が始めて俺達のことをあだなで呼んだのは…。
天然な知恵理はそれほど気にはしてなかったけど――凪と真備は動揺してしてしまって、少し引いちゃってたな…。
まぁ、実際に俺も急展開について行けず絶句してたけどな。
そんな俺達の様子に、目の前の外人のお医者さんはクスリと笑みを漏らす。その笑みに、俺達は気恥ずかしそうに黙ってしまう。だけど…嫌な気分はしなかった。
「(日本語訳)ハハハハ。実に愉快なお友達ですね輝喜。では、私も自己紹介させて貰いましょう。
私は【ゲイル・ハルトマン】
この【桜時クリニック】の院長をしております。ゲイルとお呼びくださってかまいません。…よろしければみなさんのお名前を教えていただけませんか?」
確かに…あの紹介で分かるわけがないか…。だって明らかに本名じゃないもんな…。
そう思い、苦笑いした俺達は、それぞれ思い思いに自己紹介をするのだった。
「あたしは羽前凪。今日より桜時学園中等部の1年生となりました」
まず最初に自己紹介したのは凪。その姿勢はさすがといえるものであった。育った家柄もあり、しっかりとした礼儀を持ち合わせているようである。
深々と頭を下げる姿はまさに優等生のようだ。――口元が切れて血が流れ出てさえなければの話だがな…。
さらに言わせてもらうと、こいつチビだからどう見ても子供が背伸びしているようにしか見えない。不思議なものだな…。
「あ゛?日向。今、余計なこと考えなかったでしょうね…?」
「イエイエ。オレハ、ナニモカンガエテマセンヨ」
危な。そう言えば、凪は身長のことになると謎の第六感が働くんだったな…。その瞳はメデューサもビックリ。石にならないのが不思議であった…。
「はははは。日向ドンマイ。んじゃぁ次は俺だな!!羽前真備。お初にお目に…お目に…まぁいっか。会えてうれしいぜ!!ゲイル!!」
――ガツンッ…!!
いきなり真備の頭を凪が殴る。だが、今のは俺だってそうしてただろう。
真備。少しは自分の姉を見習えよ…。凪をみる限り、決して甘やかされて育てられてはいないだろう。
なのに…なんで、同じ育ち方をしてるのに、こんなにも正反対な2人になっちまったんだろうな…。主に体格とか性格とか。
まったくと言っていいほど正反対な2人。俺は、その2人を比較して、人知れず苦笑いするのだった。
「ちょっとあんた!!目上の人でしょうが!!ちゃんと【先生】をつけなさい!!お父様にいつも言われてるでしょ!?もう!!凪払うわよ!?」
この瞬間からゲイル先生のことを【ゲイル先生】と呼ぶのが共通認識となった。まぁ…俺にはゲイル先生を先生と呼ぶもう1つの理由があるんだけどな…。
「うるせーな!!俺の勝手だろ!?姉貴は黙ってろ!!」
「はぁ!?何ですって!!せっかくあたしが心配してあげてるのに…。もうあんたなんて知らないんだからね!!」
――バチイィイイイイイイイイイイイインッ!!!!
おぉ…ありゃ痛い。凪のビンタなんて久しぶりに見た気がする。ていうか…逆らわなきゃいいのに…。
このときゲイル先生を含めた俺達は、一重に同じことを思っていた。
――と。あんなのはほっといて次は知恵理の番か。
「こんにちは先生♪姫ノ城知恵理といいます♪よろしくお願いします♪」
知恵理のしっかりした挨拶に俺は感心しながらうんうんと頷く。
だが俺がそう思ったそのときゲイル先生は――
「ヒメノジョウ…」
――確かに、知恵理の名字を呼んだ気がした。
だけど。このとき、俺はあまり気にした様子もなく、ただ単に復唱しただけだろうと思い、それを受け流し、そのまま自分の自己紹介をするのだった。
「俺は不知火日向。不承不承ながらこいつらの保護者みたいなものを勤めてます。…どうぞ、よろしくお願いします。先生」
「な!?ちょ!?ちょっと日向!!あんた何言ってんの!?」
「そうだ日向!!姉貴と知恵理はともかく俺は世話にはなってないぞ!?」
「──ちょっと真備?それどうゆうこと?」
「へ?い…いや……これは…その……」
真備が凪の修羅モードにはたじたじになるのをそのときの俺達は合掌して見ることしかできなかった。
「ちょ〜とお姉ちゃんとお話しましょうね〜」
「ま…待て姉貴!!そんないい笑顔で迫ってくるな!!逆に怖いぞ!?」
「──怒り顔全開よりはマシでしょ?」
「た…助けて……」
土下座までしだした真備に俺達は本当に哀れに思った。
でも、こればっかしは俺にはどうしようもない。
周りを見てみれば今日始めてこれを見た2人は絶句してた。
だけど、まぁ身長138cm(当時)の少女に159cm(当時)の少年が土下座してりゃそりゃ驚く…よな。
「ふふふ♪まあ落ち着いて2人とも!!ほらゲイル先生が呆れてるよ♪」
「え!?」
「――助かった」
知恵理の声に、常人の羞恥心というものを知る凪は顔を真っ赤ににして俯いてしまう。
だけど、それとは正反対に、真備には誰がどう見ていようが、聞いていようがどうやら関係ないようで、安心したように息を吐き出していた。
真備。小さく“助かった”って言ったことは黙っといてやるよ…。
「ハハハハ!!イヤーミナサンスバラシイ!!コレカラヨロシクオネガイシマスヨ!!ナギサン。マキビサン。チエリサン――ヒナタサン」
何故か、ゲイル先生が俺を見る目だけ哀愁――というか懐かしさを帯びた目のようになった気がした。
一体どうしたんだろうか。
「…トリアエズ。ミナサン、ヒドク“キズ”ツイテマスネ。チリョウシマショウ」
「え…あ、はい。お願いします」
だがしかし、俺の疑問がゲイル先生へと伝わることはなかった。そして、このときは俺も、それ以上その表情を気にすることはなかった…。
これが…忘れることのできない俺とゲイル先生との初顔合わせであった――
日向side(治療後)
「へ〜先生はギオン人なんですか」
「エエ。二ネンマエニホンニヤッテキマシタ」
治療も終わり、俺達は井戸端会議(世間話)をやっていた。なぜか、ゲイル先生的にも、病院的にも不釣り合いな和室で…。
ちなみに、真備はトイレに凪と知恵理はお茶を入れにキッチンにいる。だから、ここにいるのは俺と輝喜。ゲイル先生だけである。
それから少しの間、和やかな時間が流れていた。だけど、それを打ち砕く言葉がゲイル先生の口から出たのであった。
「ソウイエバ。ナゼミナサンハ、ケンカナンカヲシタノデスカ?」
それは唐突に訪れた、核心をつく質問だった。
「……」
あまりに唐突。かつ、俺が今一番触れてほしくない話題に、俺は口を完全に閉じてしまう…。
なぜなら、この当時俺は…暴力がきらいだったからだ。今でも好きってわけではないけどな…。
俺には…どうしても暴力をしたくなる衝動に駆けられるときがあった。その瞬間に至る理由はたった1つ。
「――あいつら。知恵理を無理やり連れて行こうとしやがったんだ…」
知恵理に危機が迫ったとき。ただ、その瞬間のみ、俺は拳を握りしめるのだ。ゲイル先生の目に押された俺はとうとうそのことを自ら口を割ってしまった。
そんな俺の独白をゲイル先生と輝喜が黙って聞き入る。時には頷き、時には目をつむり考え込む仕草をする。
そして…気付いたときには、俺は総てのことを吐露してしまっていた…。
「知恵理だけは…知恵理を傷つけるやつだけは…どうしても殴りたくなる…。暴力は嫌いなのに…俺は知恵理を助けるために暴力をしてしまう。先生…。俺は…俺はどうしたらいいんでしょうか?」
始めて会った人だったが、初めて会った相手だからこそ、俺はゲイル先生に全てのことを吐いてしまっていた。
そしてその上で俺はゲイル先生に答えを請うた。自分の過去の戒めのように――
「ソウデスカ…」
ゲイル先生はそう言うと輝喜に目配せする。それが何を意味する事かを分かった輝喜は一つ頷くと二人がいた部屋から出て行ったのだった。
俺が呆然とその様子を見ていると不意に俺の頭の上に温かく大きなものが覆い被さった。
「先生?」
俺が顔を上げるとそこには優しい笑みをしたゲイル先生。
何故かは知らないが俺はその笑顔に見覚えがあった気がした。
「(日本語訳)…人は、なぜ人を傷つけるのか…。分かりますか?」
「…気に入らないものを打ち砕くため…ですか?」
「ハイ。デスガソレハセイカイデアリフセイカイデモアリマス」
「どういうことですか?」
俺の言葉にゲイル先生はどこか遠くを見るような目をするのであった…。
「(日本語訳)…これは、あくまで私個人の考えなのですが…。人は守るために拳を使うのでしょう。では何を守るのか?それは、何でもいいのです。自分が大切なものを守るために拳を使え…と、私はあなたに言いましょう…」
「大切な…もの?」
すると先生は俺の頭の上に乗せた手で俺の頭をかきなでながらさらに言葉を繋いだ。
「アナタハ…チエリサンノコトヲ、ダイジニオモッテイルンデスネ」
「な!?」
その瞬間の顔を自分自身で見てみたかった。たぶん首筋まで真っ赤になっていたと思う。
そんな俺の様子をニヤリとした顔で見ているゲイル先生…。でも…不快ではなかった…。
「ハハハハ!!ジャアコンカイノハボウリョクデハナイデスヨ!!」
「どういうことですか?」
この当時、殴ることは暴力と考えていた俺はその言葉の意味は分からなかった。だからこそ…このとき俺は本当に大切なものを学んだのだのだった。
「(日本語訳)日向。大切な人を守るのに振るう拳は…暴力ではありませんよ」
優しい――とても優しい声が俺の中に溶け込んでいく。
そう…それは、まさに包まれた感じだった…。
――ポタッ…ポタッ…
俺の目から水滴が流れ出る。俺は、どれだけこの言葉に救われたか…今となってはどうでもいい。
だけど…俺が流した涙。とても暖かく…とても心地いい涙だった。それだけは…俺は確かに覚えていた…。
「あり…ありがとう……ございました……」
流れ出る涙を抑えることなく俺は声を押し殺して――泣いた。
俺は大切なことをこのとき知った。そしてこれ以降俺は知恵理を守るためだけに喧嘩をするようになる。
大切なものを守るために…。だけど――
日向side(3年後)
「Come-On!!【執刀】!!」
ゲイル先生が叫んだ次の瞬間、温かい光がゲイル先生の周りからあふれ出てくる。その光は…昔の記憶にあるあの大きな手に似ていた…。
でも、その輝きも一瞬のこと――気づけば光の中心にはゲイル先生がいた。そして先生が前に出している手の指の間には銀色の物体…。
「ナイフ?」
真備の言うとおりナイフにも見えないことはない。でも違う。あれは――
「【メス】ノソウルテイカー【執刀】!!」
俺に守るためにの拳を教えてくれた人は今。
――俺の守るべきものを奪う存在となった。
`
作「今回は用語解説とします!!let's go!!」
・医療局
時の番人にある4つの部署の1つ。その名前のとおり、医療関係を受け持つ部署で治療、病院の運営、ケアなどが主な仕事とする。
局長は【ゲイル・ハルトマン】年齢は25歳である。
ちなみに【ヴィシュヌ】とは地球を維持していると言われる神である。
・桜時クリニック
桜時市にある小さな病院で【ゲイル・ハルトマン】が院長を勤めている。
作「はい。というわけで時の番人の機関。医療局のお話でした〜」
日「なんか、実際はどうでもいいような話ばかりだったけどな…」
作「おいおい。あんた、一応主人公だろ(笑)」
知「そうだよヒナ君!!みんなヒナ君みたいに全部すぐに理解できるわけじゃないんだからね!!めっ!!」
日「…すみません」
作「日向は知恵理にかかれば形無しだな(2828)」
凪「ちょっと作者!!それより!!さっさと次回予告しなさい!!」
真「姉貴を怒らせないうちに速く…(ぼそぼそ)」
――ドカーン!!キラン☆
輝「あははは〜♪マキビンはお星様になりました〜♪」
作「…さっさと予告やるか。え〜こほん!!それでは次回の時の秒針は――
ゲイルとの決闘開始!!ゲイルの執刀の持つ力とは…いったい?
そしてついに、魂狩の秘密が明かされる!!
次回【治癒能力の神髄】」
日「問題nothingだぜ!!」
作「じゃあ今回の後書きはここまで。次回のこの時間にまた会いましょー!!」
日&知『『じゃ〜ね〜』』
凪&輝『『また次回もよろしく〜!!(♪)』』
真「うぅ…なんか、この作品。俺の扱いだけひどくねぇか…」
次回に続く!