第26話 嘆くアマテラス
タイトル考えるの疲れてきたな・・・
日向side
「じゃあ2人とも!!派手に凪払うわよ!!!!」
『『あぁ(うん)!!!!』』
結界が破れる寸前。凪のその声と共に俺。凪。輝喜は一気に動き始めた。後ろを覗くことはできないが、おそらく俺達がさっきまでいた場所は哀れなことになっていると思う。
だけど今の俺にそんなことは問題nothing。この20秒。それが勝負だからだ。
「…逃げられると思ってイルのデスカ??」
デモンがそんなことを言ってるが今の俺たちには関係ない。なぜならば――
「はっ!!問題nothing!!その質問は愚問だぜ。だって俺たちは――」
「逃げるつもりなんて――」
「さらさらないんだからね!!!!」
――逃げるつもりなんてなかったからだ。
右へ左へ真ん中へ、3人でアマテラスから放たれるミサイルを避けつつ様々な方向へと旋回する。そして、三方向へと散っらばった俺達は再びアマテラスのほうに近づいく。
所謂現地集合というわけだった。
「はあぁああああああああああああああ!!!!」
まず最初に3人の中で一番脚が速い俺がアマテラスへと辿り着く。するとやはり俺に対する攻撃がかなり増加する。だが、これも許容範囲内の出来事だった。
――ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!
来るミサイル1つ1つを俺は切り落とし、間に合わないものはうまく体を捻って避けきる。
正直かなりきつい作業だった。だけど…これも十分に許容範囲内だ。アマテラスのミサイル発射口から放たれた迫り来るミサイルを俺はただひたすら切り裂き続ける。
俺に与えられた役割はたった1つだけ。それを絶対に完遂させてみせる!!
「はぁあああああああああああああああああ!!!!」
――ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!
このとき…俺は不思議な感覚に駆けられていた。まるで、頭で考える前に勝手に体が動くような…そんな感覚が。だけどこの感覚…身に覚えがあった。
ひたすら切り込むという動作を体が覚えているのだ。
そして俺は――この感覚に溺れかけてしまっていた。この心地よくはないが懐かしい感覚に、俺は落ち掛けていた。だけど…俺が溺れることはなかった。
――ガキィイイイイイン!!
ミサイルを斬ったときとは違う音が紅翼を持つ手から俺の頭の中へと伝わってくる。その音で俺は確信した。目的の場所へと辿り着いたのだと…。
俺の中の何かが溺れてしまう前に…俺はアマテラスのいる場所に着いたのだ。
「…斬る」
俺はそう呟くとアマテラスに刃をつきたてる。
だが、これで終われば本当によかったんだけど現実はそう甘くはなかった。
――ガキィイイイイイン!!
再び紅翼を持つ手から伝わってくる音に、俺の全身は凍りついた。なぜなら、アマテラスを斬りつけた感覚。
それはまるで鋼鉄に切り込んだような硬さだったからである。
「…ぐっ!!」
俺はあまりの硬さに手のひらにジンジンとした痛みを感じる。
それに伴い、体中に電撃を食らったような感覚にもみまわれる。やっぱそうそううまくいくわけがないか――
「アマテラスの装甲はコンクリートにダイヤモンドを混ぜ込んダ超硬化装甲になってイマス。たとえ魂狩デモ傷を付けることは Das ist unmoglich(無理です)」
聞きたくもない情報を言ってくれてありがとう。そんな悪態をつきたくなるようなことをデモンは俺達に語る。
だがしかし、ここで俺は1つの結論に至った。それは、やはり俺の紅翼――日本刀の刃ではあのアマテラスに傷をつけるのも難しいということだった。それはつまり――
「ここまでか――」
「…諦めましたか。日向?」
顔を伏せながら呟いた俺の言葉にそう返すデモン。しかし奴は大きな勘違いをしていた。確かにアマテラスに紅翼がきかないのはよくわかった。だが、別にそれ=俺の負けではない。
デモンお前は俺達がこのことを予想していなかったと思うのか?ここにいるメンバーを誰だと思っている。桜時学園始まって以来の秀才ばかりだぞ?お前の勘違いは実に滑稽だな。
――あぁ。確かにここまでだ。それは事実だし認めもする。ただし――
「俺の役目はな…」
――シュタンッ!!!!
その刹那。デモンの横に高速で何かが近づく。そして俺はその正体を知っていた。
「さ〜すがヒナタン♪完璧な仕事だったよ♪」
「問題nothing!!行け!!輝喜!!」
そう言って俺が顔を上げたのと輝喜がデモンに殴りかかったのは同時だった。
「なにっ!?」
少しだけ驚きの表情を見せるデモンに俺達はニヤリと笑みを浮かべる。さすがに、ここまで来れば分かると思うが、俺はオトリだったのだ。
俺がアマテラスに攻撃を仕掛けていたのは輝喜がデモンに近づくのを気づかせないため…。これこそが、俺に与えられた唯一の仕事だった。
そして、俺達はここまで完璧に作戦を遂行したのだ。
「はあぁああああああああああああああああっ!!!!」
輝喜が殴りかかるのを見ながら俺はやった!!と確信を持つ。なぜなら、このコースは確実に仕留められるコースだったからだ。
…だが、それは相手がこのことに気づいていなかったらの話だったけどな――
――ブンッ!!
その音の正体は見ていなくてももわかった。
喧嘩のとき。相手の拳を避けるたびに聞いてた音だったからだ。そう。輝喜の拳をデモンが後ろ飛びで避けてしまったのだ。
「…ちっ!!」
輝喜の口から、輝喜らしからぬ舌打ちの音が俺の耳にまで届く。あのいつもニコニコしている輝喜の舌打ち。それは、悔しがっている証拠であった。
こうして輝喜の奇襲は失敗してしまったのだった。
「…Wunderbar!!なかなかにIntnressantな作戦だったデス。デスガ、技術開発局の局長であるワタクシのKopf(頭)を舐めないでいただきタイ。これくらいの作戦見破れマシタよ…」
地面へと着地しながら俺達の作戦は見破っていたと語るデモン。だが、その様子を見ていた俺と輝喜は口元を緩ませ――失笑したのだった。
「はははは…」
「くすくすくす…」
失笑しながら俺達はデモンの降り立った場所を見つめる。
その様子を不思議に思ったのか、デモンはついにしびれを切らして俺たちに問いかけてきた…。
「Warun lachen.(なぜ笑う)?何がオカシイ?」
少し、力がこもったデモンの言葉。それに輝喜はクスリと笑みを浮かべ、簡潔かつ明解に答えるのだった。
「…ねぇデモンさん。思い出してください。最初の俺達の言葉を…。さて、ではここで問題です。最初にヒナタンとナギリンは最初になんて言ったでしょ〜?」
その通り――戦闘準備を整えた俺達が最初に言った言葉を思い出してもらいたい。
―――――――――
――――――
―――
―
『でも…その前に――』
『真備を…あたしの大事なものを傷付けたあのオモチャを――』
『『ぶっ壊す!!!!!!』』
―――――――――
――――――
―――
―
――問題nothingか?
そう。つまり、もしもあのまま輝喜がデモンをしとめていれば、最初の俺達の言葉に矛盾がしょうじる事になる。嘘はいけねーってわけだ。問題nothing?
それと、さっき俺は確かに輝喜の奇襲が失敗したとは言ったが、別に作戦が失敗したとは言ってない。そもそも、アマテラスと対峙する俺に目を向けさせていたとはいえ、迫り来る輝喜に気付かないなんてあり得ない話だ。頭はいいらしいからバカじゃないし、デモン自身。それほど鈍感なわけでもないだろ。
そして最後の決め手。それはまだ作戦開始から13秒程しかたっていないということだ。それはつまり――
『『決着は既についているってわけだよ(♪)』』
「…っ!? Falsch!?」
作戦は現在進行形で継続中!!まだまだ俺達のターンってわけだ!!さぁ…行くぜデモン!!問題nothing以外の解答は求めてないけどな!!
「ぐ〜てんあ〜べんと!!こんばんわ。ずっとずっと会いたかったわデモン。そして…Auf Wiedersehen…デモン」
「な…何!?」
デモンの着地地点から僅か1メートル後ろ。そこに彼女はいた。そう…デモンにずっとずっと会いたかった彼女――羽前凪が。
全ては彼女の為に用意された布石。オトリとなった俺のアマテラスへの無謀とも呼べる攻撃も。そして、輝喜の奇襲と思わせ、実はオトリだったデモンへの攻撃も…その全部が――
――ガキィイイイイイン!!
小柄な体型をフルに活用して、輝喜の後ろに隠れながら一緒にデモンへと近づいていった彼女の為の布石だったというわけだ!!
「なっ…!?」
「輝喜!!そっちに行ったわよ!!」
いつの間にか、気づかぬうちに近付いていた凪の突然の登場に、デモンはなす術なくその手に持ったアマテラスの操作スイッチを風神により弾かれてしまう。
スローモーションにすら見えた一連の動作。その先には、待ちかまえていたとばかりに輝喜がリモコンをしっかりとキャッチしていた。
「さっすがナギリン♪その姿に憧れる〜♪」
「はぁ…バカ言ってないでさっさと終わらせなさい。あのムカつく美術品の最後をね…」
「くすくす。そーですね♪じゃあさっそく…え〜と…さっきデモンさんが押していたボタンは確かこの辺りに……えい!!」
――ポチッ!!
ボタンを押しましたと分かりやすいその音と共に、アマテラスの口がまるで顎が外れたみたいに大きく開いた。どうやら間違いない。輝喜は問題nothingにボタンを押したようだ。
さて…じゃあここからは仕事じゃなくて俺の個人的な憂さ晴らしってわけだ。俺の炎は熱いかもしれないけど、全部喰わせてやるよ!!
『『日向!!』』
――ボオォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
凪と輝喜から同時に飛ぶ言葉に俺は紅翼を持ち直し、刃に炎を灯す。その行動に、デモンは慌てふためいた。
「日向!!な…何するつもりですか!?」
デモンから飛んでくる叫び声。だが、俺は止まることはない。
そして俺はアマテラスの口から目の前の俺へと向けられる砲門へと、日本刀の刃先で狙いを定めるのだった――
「Auf Wiedersehen Amateras(サヨナラ。アマテラス)」
――シャキンッ!!!!バリッバリリッバリッ!!!!
最後は、凪とデモンの会話から聞き取ったその言葉と共に、俺はアマテラスの口の中に紅翼を――日本刀の刃をぶち込んだ。
やはりそうだったみたいだ。いくら表面が堅い物質に覆われていても、中はこのアマテラスを動かすために様々な入り組んだ機械構造になっている。
そして入り組んだ機械構造になればなるほど精密機械ってのは、脆く壊れやすくなってしまうわけだ…。これが、アマテラスの弱点。精密機械故の繊細さというやつだった――
「…っ!?日向!!急いでその場を離れナサイ!!」
その刹那、唐突に響いてきたデモンの声に、俺は反射的にデモンのいる方角を見る。すると、そこには明らかに焦った様子のデモンの姿があった。
ただ事じゃない。その顔に、そう感じた俺は急いでその場を離れる。そして次の瞬間だった――
――バンッ!!バンッ!!ドガンッ!!ドガンッ!!ドガシャアァアアアアアアンッ!!!!
激しい爆発音と一緒にアマテラスが木っ端みじんに吹き飛ぶ。その爆発を、俺はただただ眺めることしかできなかった。デモンの言葉がなければ、俺は確実にあの爆発に巻き込まれていた。そのことを考えると、冷や汗がとまわない。それほど危ない状況だったのである。
「あ、あっぶねー…」
突然のアマテラスの爆発。その原因は解っていた。所謂"内部爆発"ってやつだ。
口に押し込んだ紅翼が蓋替わりとなり、ビームの出口を塞ぐ。そして行き場のなくなった力は仕方なく口の中で放出され。自爆したというわけだ…。
――ヒュンヒュン…
パシッ!!
そのとき、俺の魂である日本刀【紅翼】がヒュンヒュンと飛んでくる。だけど俺は、それを慌てることなく見据えると、右手を挙げ悠々とキャッチするのだった。
ふぅ…これでやっとすべての任務が完了したというわけだ。
「時間もぴったり20秒…やりましたね!!ヒナタン!!ナギリン!!」
嬉しそうにまるで子犬のような笑顔の輝喜の声で俺達は勝利を確信するのだった。俺もそんな輝喜。そして凪と瞳を合わせると拳を突き出す。
「はぁ…まったく一時はどうなるかと思ったじゃない」
「はははは。まぁその辺は問題nothingということでいいじゃん!!なぁ?」
「…そうね。あんたの言うとおりだわ日向。終わりよければ全てよし。結果 all right!!ってわけね。まぁそんなことはどうでもいいわね」
「違いない…」
凪の声に俺はまんべんの笑みで答え、それはいつの間にか苦笑いへと変わる。そして凪も俺の突き出した拳に自身の拳を力強くぶつけて笑顔を創るのだった。
まぁ…何はともあれ、これでこの部屋で俺達に課せられた課題はクリアというわけだ。じゃあ、最後に個人的な我が儘だけど、これだけは言ってて締めとさせてもらおう。さんはい――
『『あ〜スッキリした!!!!』』
アマテラスをぶっ壊したことで感じた気持ちはどうわら同じだったらしく俺と凪はまったく同じ口調で示し合わせたようにそう同時に言って再び笑いあうのだった。
「ワタクシの敗北ですね…」
そのとき。笑いあう俺達の真上から、さっきまでとは違い、優しさを感じるデモンの降参の言葉が聞こえてくる。
見上げてみると、そこには俺達(特に凪)より遥かに背が高いデモンの姿があった。若干、横の般若(凪)から睨まれているのは気にしないようにしよう。見たら視線だけで殺されてしまうからな――
「…世の中には二通りの人間がイマス」
またしても、唐突なデモンのその言葉に俺達は身構える。だが、そんな俺達の思惑とは裏腹にデモンは優しく微笑み続けるのだった。
「…それは何?」
「知を【知る者】と【知らない者】です」
時間がたち。我慢できずに聞き返した凪の言葉に対するデモンの返答であるその言葉は、戦闘が始まる前にも聴いた言葉であった。
「…知を知る者は、知の海に溺れ、知を知らない者は知の海を泳ぐすべを知らナイ…人間トハ実に愚かな生き物デショウカ。ワタクシが言ってイル意味。ワカリマスカ?」
「……」
デモンの言葉に、俺はゴクリと唾を飲み込む。理由は分かっている。言葉に出ずとも、デモンの言わんとしていることが解ったからである――
「…知とは確かに武器デス。デスガ、知を知りすぎるトイウコトは、それだけ深く考えなければいけなくナル。いつの間にかワタクシの頭は堅くなってシマッテイタのデス。ワタクシは負けマシタ。あなた方の適度に知の海を泳ぐすべを知ったばかりの柔らかい頭を持つあなた方に――」
そこまで言うとデモンは少しだけ警戒心を出す凪に右手を差し出す。その顔はとても清々しく感じた。
「世の中には二通りの人間がイマス。【勝者】と…【敗北者】デス【敗北者】として…ぜひ…」
「……」
無言の凪はそのデモンの行動に警戒心を緩める。だけど、凪がデモンの手を取ることはなかった。
人を射殺せるのではないかというくらい鋭い目つきの凪は、そのままデモンの袖を引っぱり自分よりかなり背が高いデモンの顔を、自分の顔に近付けさせる。
そして耳元に自らの唇を寄せ、俺達にも聞こえるように、こう耳打ちするのだった――
「…デモン。あんたは真備を傷つけたんだから握手はしないわ。でも…あんたは、日向を助けてくれた。そのことについては感謝するわ。だから――」
そこまで言うと、凪は目の前にいるデモンの存在を忘れたかのように…振り返り、歩みを進めた。予想外ではあるが――予想通りな展開だった。
「…殴んなくていいのか?」
おそらく真備を起こすために――真備の事が心配であるがゆえに、真備のもとへと向かう凪。そのちょうど、俺とすれ違う瞬間。俺は凪にそう問いかけた。
答えは…すでに知っているけれどな――
「…バカね日向。分かってんでしょ?殴るのはあたしの役割じゃないことくらい」
「…あぁ。分かってる。それはおまえの仕事でも、ましてや俺や輝喜の仕事でもない。それは――」
――ギュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!
「グッモーニング!!真備」
「いってえぇえええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」
それは――真備の仕事なんだからな…。
怪我しているにも関わらず、凪はそんな真備の腹の一気に踏みつぶす。ありゃ…見てるだけで痛い。
俺と輝喜はそのあまりに過激な映像に、ただただ苦笑いするのだった。…そうだ。忘れないうちに――
「…デモン。あんたは確かに天才かもしれない。俺も、学園では天才なんて呼ばれてる。だけど、俺はただ効率がいいだけの偽りの天才。真の天才じゃない。本当の天才。それは努力だけで俺と対等――いや、俺を遥かに超える知識を持った――」
「いってえぇえな姉貴!!なにしやがんだ!?」
「うるさいわね。起こせっていったのはあんたでしょ!?いつも通り起こしてやったんだから文句言わないの!!わかった!?」
「怪我人の俺にいつも通りの起こし方なんかしたら死ぬわ!?」
「Non far niente.Non far niente.(気にしない。気にしない)」
「日本語喋れやあぁああああああああああ!!!!!!」
「――あいつ(凪)のことですよ…」
俺は、仲良く(?)口喧嘩を始めた羽前姉弟へと目を向け、本当の天才(彼女)の姿を目で追うのだった。あいつは…あいつは本当に俺なんかじゃ叶わない天才だからな…。
「…イタリア語まで話セルとは…日向。ナゼ彼女は、あそこマデ語学力に優れてイルのデスカ…」
「…それだけじゃない。あいつはドイツ語にイタリア語。日本語はもちろん、学園じゃ英語も習ってる。それに…フランス語もあいつは出来るんだ」
「Toll….(すごい…)」
そう。凪の語学力は、もうすでに中学生。いや、大学生の領域すら脱している。その能力にゲイルはただただ驚きの声をあげるのだった。
実際。あいつは、俺より頭がいい。それは寝ることに恐怖するあいつが眠れずに、勉強ばかりしているというのもある。だけど、一番の理由は――
「あいつには…国際的な仕事がしたいっていう夢があるからな…」
「Traum….(夢…)」
「…あんたにも、きっと夢があったはずだ。別にお前がどうしようが気にしないけど、その才能。もう少し役立てられるところで使えよ――」
そう言って、俺はデモンの前から離れていった。
「クスクス。なかなかにクサいセリフでしたね♪ヒ〜ナ〜タン♪」
「問題nothing。ほっとけ、輝喜…」
「ふふふ♪はいはい♪」
からかい半分。ほめ言葉半分の輝喜のその声に、俺は顔が赤くなったのを感じた。
別にいいじゃねーかよ…。たまにはクサいセリフを言ったってさ…。
俺は、嬉しそうにニコニコと肩を組んでくる輝喜の明らかに状況を楽しんでいる笑みを前に深く息を吐き出すのだった。
「夢…デスカ。確かに、ワタクシにもアリマスね…夢。次、会うトキにはお教えシマスよ…日向」
このとき、俺は後ろから聞こえけてきたデモンの呟きを気にする余裕なんて、なかった――
知恵理side
「…ヒナ君。よかったぁ」
薄暗く、不気味な部屋の唯一明るい場所。さこで、私は明るい原因であるモニターに映る映像を見ながら、そう案著の声を出しました。
実際ヒナ君たちが負けるところは想像がつかないし、思いたくもない。でもそれでも…私は心の底から画面に映るその映像が嬉しかった…。
肩を組むヒナ君とコウ君。その姿がとても…嬉しかったのでした…。
――だけどそんなときもつかの間。私はある一点――正確には1人を見て凍りついてしまいます。
画面に映る1人の存在。私は彼を見た瞬間に自分の中にある何かが激しく震えるのを感じ、目を離せられなくなったのです。私の中でずっとずっと私自身を追いつめ続けているその映像から――
――違う。こんなこと…誰も望んでない…。
傷だらけのマキ君を囲んで、マキ君の傷を突っついて遊んでいるヒナ君とコウ君。そんな2人を止めこそしないけど、苦笑いしながら傷の手当てをするナギちゃん。
本当に…本当に楽しそうな映像。だけど――
「…知恵理」
そのとき、私のすぐ後ろからセッちゃんが声をかけてきました。
心配そうなセッちゃんの声色。そっか…セッちゃん。私のこと心配してくれるんだね?でも…大丈夫。私は…私は――
私は、振り返りセッちゃんに表面上だけの笑顔を作るとその声に応えるのでした。
「な〜に?セッちゃん?」
「…オレもそろそろ部屋に行かなきゃいけないんだけど1人で大丈夫か?」
きっとセッちゃんは私の表面上だけの笑顔に気付いたと思う。
だけど、そのことを指摘することはありませんでした。私はその心遣いがとても暖かかく、とっても嬉しかった…。
だからこそ、私は偽る。心細い気持ちを必死に押さえつけ、私は…必死に笑顔を創りました。彼女に心配をかけないために――
「大丈夫だよセッちゃん♪私は大丈夫♪だってヒナ君達が助けにきてくれたから♪」
だから…私もセッちゃんの心遣いに気付かない振りをして表面上の笑顔でそう応える。
セッちゃんの心遣いを無駄にしないために…。
――うん大丈夫。私は大丈夫。少なくとも今のセッちゃんの言葉で元気が出てきた♪まだまだ私は頑張っちゃうんだから♪
やるぞー!!と腕を上げる私をセッちゃんはそれでも私を心配そうに見てきました。
もう…ヒナ君といい、ナギちゃんといい…なんで、みんな私のことそんなに心配するの?私は全然大丈夫なのに…。プンプンなんだからね!!
本当に…プンプン…なんだから…ね…。私は、心配してくれるみんなのことを思い浮かべる。みんな…本当に…ありがとう…。
私はセッちゃんに微笑みました。今度は偽りなく、いつもヒナ君たちに向けているような…本当の…笑顔で――
「…そうか。大丈夫そうだな知恵理。んじゃあ!!行ってくる!!じゃあな…」
「うん♪いってらっしゃい♪セッちゃん…」
悲しげな顔。だけど、最後には笑顔を見せて、セッちゃんは部屋の扉を潜っていきました。もうすぐ。もうすぐで始まるんだね…。
もうすぐ…闘うんだね…ヒナ君たちと――
だけど、その闘いを望まない私の願いは届くことなく、部屋の重たく冷たい扉は静かに閉じられるのでした。
日向side
「…さて。じゃあ次の部屋に行くか!!…と、言いたいとこだけど…」
「あははは♪」
頭を抱え、深く溜め息を吐き出す俺。心底楽しそうな輝喜の声が虚しく響く。
だけど、そんな俺達に共通していたこと。それは、2人とも前進から吹き出す冷や汗でいっぱいだったということだった。
理由はについては――あえて聞かないでくれ。
「問題nothing。真備がデモンにどうやって勝ったのかを聞いて、凪が輝喜の後ろに隠れていたのを知って大爆笑し、凪が往復ビンタしたとか。はたまたボロボロの真備にトドメさしにフライングダイブをしたとか…そんなことは絶対ないからな!!」
「…ヒナタン。ヒナタン。あのね…かな〜り言いにくいんだけどね…。声に…出てるよ?心の中のこと全部。ゼ・ン・ブ♪」
「なななな…なんだってえぇええええええええ…!?」
マジか!?マジなのか!?ぐっ…!?しまった!!これじゃあ俺が真備と同じ目に遭っちまう。明日は我が身ってわけか…。俺の目の前で、十字架をきる輝喜の姿が何故か霞む。
そうか…これが涙なんだな…。はははは。なんだこれ。しょっぱいや…。あははははは♪はぁ…現実逃避したっていいじゃないか…。人間だもの。
まるで処刑前の罪人のように、恐怖で顔がゆがむ俺は、輝喜の声にギギギ…と壊れたブリキのように後ろを振り返る。自らの罪を数えるために――
『『………』』
だが、俺の示唆したこととは裏腹に俺が恐れる凪も俺が恐れる原因となった真備も…。なぜか、新たな部屋へと向かう扉の上のほうを眺めているのだった。
ふぅ…とりあえず首の皮一枚繋がったわけだ…。
俺は、前進に走る恐怖から解放され、ホッとしたように息を吐き出した。しかし…ホッと胸をなで下ろしたのも束の間。俺は2人のその行動にある疑問を感じるのだった。
――ん?上のほうを見る2人…なんかこの映像デジャヴじゃないか?
そう思いつつ、上を見上げる俺。そしてその先にはこの洋館へ入るときと同じ――だが、よく見たら違うものがそこにあった。それは――
【治癒の間】
達筆な字でプレートにそう書かれた文字。どうやら…次の部屋は治癒という単語がテーマらしいな…。
皆で真剣な面もちで、考え込む。だが、俺達がそんなことを考えているとき…。
唯一、この状況でなにも考えていなかった真備がドアノブに手をかけ、ゆっくりと俺達を見ながら言い出すのだった。
「…何してんだよお前ら。さっさと行こうぜ?」
『『………』』
いまだに立つこともままならないため、凪に肩を借りてギリギリの状態で立つ真備。
プレートのことをいくら考えても、結果に行き着くことがなかった俺達は、その問いに頷く。
そして、その様子を確認した真備はドアノブを押すのであった――
――ギ―――――ッ…!!!!
再び、まるで古いホラー映画のような音を立てながら開く扉。それを俺たちは息を呑んで見つめる。
そして、開いたその奥はただ10メートルくらい長い廊下が延びているだけの空間だった。赤いカーペットが特徴的なその空間。どうやらここは本当に廊下らしい。
――だがしかし、この部屋の長い廊下。そのちょうど真ん中であるそこには、俺達にとって意外すぎる人物がいた。
その男の登場に、俺達は4人揃って呆けてしまう。なぜなら、彼は俺達にとって、とてもとても…身近すぎる人物だったからだ。
忘れるわけがないその男。忘れるわけにはいかないその男。その名は――
「ゲ…ゲイル先生…」
驚きで、数秒遅れた俺の呟きに、その男――ゲイル先生こと【ゲイル・ハルトマン】は、下降気味にあった顔をゆっくりと上げる。そして、ついにその表情が明らかになる。
俺が【恩人】と呼ぶ金髪の町医者の表情が――
「Hey!!ミナサン。ゴキゲンヨウ!!」
いつもと変わらぬその口調。これこそが、俺達の新たな戦いの始まりであった。
`
作「はい!!今回もまた、あの企画をしていきたいと思います!!題して――
第3回【時に至る軌跡】
この企画は【悟卵の酢】【ポンSARS】の提供でお送りいたしまーす!!」
日「いや!?スポンサーなんていねーし!!意味わかんねーよ!?」
知「わお!!ヒナ君ヒナ君!!この企画って悟卵の酢の提供だったんだって〜!!私、知らなかったよ!!」
日「は!?あるの!?悟卵の酢って会社あるの!?マジで!?」
知「?ヒナ君ポンSARSもちゃんとあるよ。もう…ヒナ君たら…最近人気のアイドルグループの名前も知らないなんて時代遅れ〜」
日「え゛俺なのか!?俺が知らないだけなのか!?ていうかポンSARSって何だ!?何でそんな名前にしたんだポンSARS!?」
知「なんか親会社がポン酢の制作会社なんだって〜。ちなみに、その親会社が悟卵の酢なんだよ〜」
日「親会社はお前らかあぁあああああああああああああ!!!!」
作「じゃあ今回の話に行きたいと思います。今回も、次回に予告したとおり知恵理の話をしたいと思います」
日「…始まる前からかなり疲れたけどな」
作「では、今回は知恵理の名前の話をさせていただきま〜す」
日「…あぁ。あの親父ギャグ的な名前か」
作「…まぁ、親父ギャグなのは認めるけどさぁ…もう少し、オブラートに包めよ。お前のヒロインだろうが…」
日「気にすんな。で?知恵理の名前がどうしたんだ?」
作「うん。まぁ…ぶっちゃけると知恵理の名前を考えるのにかなり苦労したって話しだ!!はい以上」
日「そこまで伸ばしといて結局それだけ!?」
作「はい!!それだけです。てなわけで次回予告。次回の時の秒針は――
俺は…この人に大切なことを教わった。
故に…俺はこの人のことをこう呼ぶ。【恩人】と…
次回【恩人と呼ぶ男】」
日「問題nothingだぜ!!」
知「…ヒナ君。私の名前なんてどうでもいいんだ…ぐすん」
日「え…いや…あの…」
知「いいんだよ…ヒナ君。無理しなくて…ぐすん…私はそれでも…それでも…。ヒナ君のヒロインだから」
日「違う!!俺はお前じゃなきゃだめなんだ!!お前が俺のヒロインだからダメなんだ!!お前だからこそ…俺が成り立ってるんだ…」
知「ひ…ヒナ君…」
日「だから…これからも…これからも俺のヒロインでいてくれよ?」
知「…ヒナ君…うん!!」
作「…何。この固有結界。むしろ俺邪魔じゃね?…あぁ。確かに知恵理はお前のヒロインだよ…」
次回に続く!!