第25話 機械仕掛の女神
女神の間の正体とは?
デモンside
「そう…あんたかその気なら、あたしはあんたを凪払って進むだけよ…」
「Das kann ich nicht machen(…あなたには出来ません。決してね…)」
ワタクシの目の前にいる子供達。その中でも特に小柄な少女の言葉に、ワタクシは白衣をバサリと靡かせ、ポケットへと自らの手を入れマシタ。
それと同時に身構える彼ら。やはり一筋縄では行かナイ子達デスネ…。
さすがは水城が目を付ケタ子達デス。その反応はもうすでに子供の域を超えてマスヨ…。それに――
「………」
先ほどからワタクシを一直線に睨みつけてイル漆黒の瞳。ワタクシはその真っ直ぐな瞳に思わず恐怖を感じてシマイマシタ。
あの瞳。4年タッタ今でも忘れるコトはできマセン。あの瞳に隠された彼の悲しい日々。そして楽しかった日々を知ってるからこそ――
「…Entschuldigen Sie,bitte」
ワタクシは彼に謝らなければいけマセン。大人として、時の番人の一員として…あなたにはまた辛いコトを押し付けてシマイマス。
どうか…この不甲斐ないワタクシ達を恨まナイ――いえ…思う存分恨んでクダサイ…【日向】
「世の中には二通りの人間がいます…知を【知る者】と【知らない者】です」
唐突なワタクシの言葉に首を傾げる4人。でもワタクシの話は終わりマセン。いえ…むしろ――
ここからが、ワタクシの話の本題デス…。
「…いったいどういう意味よ。それは…?」
「…あなた方は知とは何だと思いマスカ?理論?証明?考察?知恵?…確かにそうデス。それらは間違いなく知であり、知の根と言えるデショウ…。ですがその神髄は違いマス」
そしてワタクシはポケット入れたままの手を抜きます。そう…知とは――
「知とは…【武器】デス」
抜き出されたワタクシの右手。そこにはあるものが握られていマシタ。
ワタクシの26年間溜めてキタすべての知を結集して造ったワタクシの武器。それを起動させるための黒いリモコンが――
「知。そして、それは時として【能力者】と【凡人】との間にある壁をも取り払うこともできるのデス。だから、私はあなた方を――倒しマス…!!」
そして、ワタクシはリモコンの真ん中にある赤いボタンに指を向けマシタ。これがワタクシの秘密兵器の起動スイッチ。ワタクシが日向にデキル最後の罪滅ぼし。
ワタクシはここであなたを止めてみせマス。これからのあなたの――あなた方の希望アル未来を消さナイために…!!
そう決意を固め、ワタクシは戸惑いなく…そのボタンを押しマシタ。
あなた方の希望アル未来を照らし出す太陽のような光となってクダサイ。
`
ワタクシの願いを届けてクダサイ【アマテラス】
日向side
俺はこの事態にただただ呆然とするしかなかった。とても問題nothingと言える状況ではない。
だが、この現実を俺達は受け入れるしかなかった。
――ゴゴゴゴ…ッ!!!!
響き渡る地響き。それと平行するように起こる地面の揺れに俺達は立つことさえもままならない。
さらに突然目を開けることもできないくらいの光を天井から吊り下がるシャンデリアが放ち始めたため、俺達は目を開けることもまともにできなくなっていた。
そう…それはまるで燦々と輝きを放つ太陽のような光だった――
「ぐっ…!!な、なんだ…!?いったい何が起こってるんだ!?」
「姉貴!!日向!!輝喜!!無事かあぁああああああ!?」
シャンデリアが放つ光で俺達は横にいる仲間の姿すら見つけることができない。耳に響く真備の声。だが、俺達は誰1人としてその声に応えることはできなかった。
そもそもなぜこの事態に陥ってしまっているのか?そんなこと解りきっている。突如としてデモンが白衣から取り出したあのリモコンが原因だ。
いったいデモンは何をしたんだ!?しかし、俺はこの状況の中、為すすべなく地面に張り付くしかなかった。
――ゴゴゴゴ…ッ!!!!
そのとき、事態はさらなる急展開を迎える。地面が地響きによる揺れとはまた違う揺れ方をしだしたのだ。
あまりの衝撃に、俺は急な光で潰れた目を無理やりこじ開け、驚きを保ちながら前を向く。光は止み思いの外視界は正常に機能している。
だが、俺の目に映ったのはにわかには信じられない光景だった。
「な、なんだ!?」
驚きのあまり俺はその光景から目が離せい。普通なら信じられない。だが、これは間違いなく真実だった。
「kinderspeisekarte(あなた方の為のメニュー)デス。存分にお楽しみクダサイ…」
そう言ってクフフ…と含み笑いをするデモン。だがその姿を俺達が確認することはできない。
なぜならデモンの前の床。そこがきれいに2つに割けまるで神話の中に出てくる女神のように【そいつ】が出て来て、そしてそれがまるでデモンを守るかのように彼の前へと立っていたからである。
「何よ…あれ…?」
「【女神】だ…」
呆然として凪と真備の声。無論、俺も同じ気持ちだった。これは…明らかに俺の――俺達の想像を超えている。
そんな代物が俺達の前へと現れたのだった。
「Ich hoffe,dass das Ihnen gefallt.(お気に召すとよろしいのですがね)」
「…Schlecht(最悪ね)」
デモンの前にいるそいつの正体。それは石像だった。
隣にいるデモンでさえ長身で2メートル近い高さがあるというのに、突然現れた石像はデモンのそれよりさらに高かい。
だかしかし、一番驚くのはその石像の容姿である。その姿はまさしく美女。とても綺麗な女の人だった。
それは【ヴィーナス】もしくは【自由の女神】とも呼べる美しさだった――
「…なぁ輝喜。なんか前に美術の教科書で見た気がしないか、あれ?」
「芸術品かな〜?俺もよくは覚えてないけど確かに見た気がするよ…」
疑問符を浮かべる真備や輝喜の呟き。デモンはその2人に応えるようにその【兵器】について説明を始めるのだった。
「これは、対人用決戦兵器【アマテラス】私の現時点での最高作品です」
作品…ということはこれはデモンが作ったものなのか…。もしかしたらこの人は芸術家なのかもしれない。
初めは頭の中でそう思考を巡らせるもすぐに否定する。なぜならさっき電話してたときの刹那の言葉を思い出したからである。
『最初は技術局のデモンさんが張り切ってたんだけどオレとレリエルが何とか止めさせたから…』
このときの刹那の言葉。その中に含まれる技術局のデモンさんという言葉を俺はしっかり覚えている。
ということは結論は1つ。
「…デモンさん。あなた技術者ですよね?どうしてこんな芸術作品を出したんですか?」
隠すことのない正直な思い。俺はそれをデモンに真っ正面から伝える。
だが、対するデモンはほんの少し…口元を歪ませる。そして一瞬後に高らかに笑い始めるのだった。
「ハハハハハハハハハハハッ!!!!Wunderbar!!!!Wunderbar!!!!ハハハハハハハッ!!!!」
「…何がおかしい?」
その非常識な反応に、少しだけむっとした俺は高笑いするゲイルに少しトゲトゲしく語りかける。
だが、デモンの方はそんな俺の態度を気にもせず、また1人で話を進めていくのだった…。
「ハハハハ…。Wunderbar…実にWunderbar…。すばらしいです。さすがは日向というところデスカ…」
「…!?俺の名前を…!!」
「そう驚くことはアリマセン…。アナタとワタクシはかつて同じ組織にイタのデスカラ…。ワタクシがアナタを知っていても当然デス…」
「…やっぱり、俺はこの組織にいたのか…」
デモンから出てきた言葉。それは昼間の時点で明らかになっていることだから特に驚くことはない。
だが、驚くこととその衝撃を受け入れることはまた別だった。
俺はいったい…昔、何をしていたんだ…。その謎が深まるばかりである。だけど…だけど今は――
「ウッセエェエエエエんだよ!!!!さっきから!!!!今は日向の過去がどうだろうと関係ねーだろ!!!!」
「そうよ!!あたし達はねぇ…日向の過去なんてどうでもいいのよ!!今大事なのは知恵理を取り戻すことだけなんだから!!話変えんじゃないわよ!!」
そうだ。今大事なのは俺の過去なんかじゃない。そんなものより大切な…ずっとずっと大切な…あいつのことだ!!
「…OK。問題nothing。真備。凪。お前らの言うとおりだ。記憶なんか糞くらえ!!過去なんか糞くらえだ!!俺達の前にそんな置物だけで挑んできたことを後悔させてやる!!」
「来い!!【雷神】!!」
俺の宣言に、先陣を切るかのように真備の叫びが木霊する。辺りにまき散らされる電撃。だが、そのほとばしる電撃は決して俺達に当たることはない。
真備が昨日より…そして、今日の朝より各段に魂狩の扱いに慣れた証拠だ。
この半日…俺達が何もしてなかったと思うなよ!!
――バチバチッ!!バチバチッ!!ピシャアァアアアアアアアアアアアアア!!!!
「…Ja,Ich bin damit einverstanden.(…なるほど、納得しました。)ただの物置には用はないというコトデスネ…」
耳につんざく雷の音。だがそれが止み、部屋が始めてと言っていい静寂となる。嵐の前の静けさ…ということなのか。その静けさを破ったのはデモンのその言葉だった。
「要するにアナタ方はワタクシの発明品を愚弄スルというデスネ…。まぁ、それも良いデショウ。その場合アナタ方を――」
静かなる威圧が込められたデモンの声と共に、アマテラスと呼ばれる石像の隙間から見えるデモンがその手に持つリモコンのボタンを押す。
すると、芸術品とも呼べるアマテラスの口が開き、芸術とはかけ離れた機械じみた筒のようなものが出てきた。あれはいったい…??
「ワタクシはアナタ方を――倒すまでデス…」
「…!?まさか!?」
いち早くその筒の危険性に気がついたのは…真備だった。そして、そこからの真備の行動の速さは尋常ではなかった。
真備はまず一番近くにいた輝喜を思いっきり蹴飛ばすと俺にアイコンタクトを送る。その意味を察知した俺はすぐさますぐ横にいた未だに状況を飲み込めずにいる凪を抱え急いでその場を退避する。
抱えている凪が小柄で軽いからかそれなりの速さで走ることができた。だが――
「無駄デスヨ…」
――ガガガガガガッ!!!!
だが――アマテラスが…デモンが俺達を逃すことはなかった。アマテラスが口を開けた時点で…俺達は――
突然響いたその不可思議な音に、俺は走りながらアマテラスへと目を向ける。でもそれがいけなかった。
「…っ!?くっそおぉおおおおおおおおおおお!!!!」
「ちょっ!?ちょっと日向!!どうしたっていうのよ!?ていうかいい加減離しなさいよ!!HENTAI!!」
脇に抱える凪が何か叫んでいるが今は関係ない。なぜなら時はすでに一刻も争えない状況になっているからである。
「…逃れラレルとは思わナイことデスネ」
「日向!!!!姉貴!!!!」
真備の叫び声が木霊する。どうやら真備も俺達の状況に気がついたみたいだ。だが…真備にだってもうどうすることもできない。
ここまで離れてしまったら…。もう…俺達がいるここまで辿り着くことは不可能だからだ…。
それに、もし追いついたとしても真備には何もできない。いや…俺や凪でもこの状況を打開することはできないだろう…。
俺と凪を追尾するかのように首を曲げながら照準を合わせるあの女神像――アマテラスからは…!!
そう…おそらく俺達はすでにアマテラスの標的としてロックされているのだと思う。なぜなら、それは向こうの立場となって考えれば正しい判断だと思うからだ。
――ガガガガガガッ!!!!
「…くそっ!?振り切れない…!!」
俺はデモンじゃないから分からないが、あれに標的を追尾する機能がついていると仮定する。その場合、俺だって確実に向こうではなくこちらを狙うと思う。
より邪魔な存在である魂狩を使える能力者が2人もいるこっちの方を…。
くそ!!凪を抱えたのは失敗だった!!さっきは4人別々に逃げるべきだったんだ!!そう地団駄を踏んでも後の祭り。今更言っても仕方がないことだった。
今更、凪を降ろすなんてことはできない。すでに狙いをこっちと定めた筒がこっちを向いてる今、凪を降ろすために一瞬でも止まったら遠慮なくドカンだろう。それだけは避けなければいけない。
「はぁ…はぁ…はぁ…!!」
だけど、このまま走り続けると確実に体力を削られいつかはドカンだ。しかも軽いとは言え、人1人を抱えている現状…もう時間の問題だ。
Uターンをして真備達のところへ帰ることももちろん考えた。だが、それでもUターンするときに一瞬止まらなければいけないし、そもそも真備達のとこへ言っても意味はない。巻き込むだけだ。
何か…何かないのか!?手立ては!?だが、走って体力を消耗した今の俺に策を講じることはできなかった…。チクショー…。もう何にも考えつかない。万策つきた…か。
こうなったら凪を安全な場所に投げて俺だけが犠牲に…。そう考えたそのときだった――
――ガッ…!!
「うわっ!?嘘だろ!?チクショオォオオオオオ!!!!」
「ちょっ…!!ちょっ…!!キャアァアアアアア!!!!」
――ズガアァアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
…俺と凪は、おそらく長年の荒廃で古びてめくれてしまった床に足を躓かせてしまい…。派手に転げ落ちてしまうのだった…。
「しまった…!!」
「いたたた…。ちょっと日向!!あんたちゃんと前見て走りなさいよね!?後ろばっか気にして…いったいどうした…って…い…う……の………よ…」
初め、俺へ数々の罵倒を流れるように言い切る凪。だが、それも俺の状態。そして後ろの状況を見てどんどん青ざめていく…。
どうやら現状を把握したみたいようである。
「…日向。最悪ね」
「…それは現在、俺とお前が立っている状況に対してか?それとも、こんなとこでまさかのドジっ子アピールをしちまった俺に対してか?」
「…そんなの決まってんじゃない。どっちもよ」
「お互いにな…」
お互い。それ以上の言葉はいらなかった。俺は自らの犯した致命的とも言えるミスを把握しているし、凪も自分が足手まといだったことを理解しているのだろう。だからお互い言葉はいらなかった。
そして、そんな俺達にデモンはニヤリと笑みを浮かべると…。静かに口を動かすのだった――
「Auf wiedersehen.Nagi.Hinata.(それではサヨサナ。凪…それと日向)」
――ピカッ!!!!ビイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
その刹那。俺と凪の間に閃光が走るのだった――
「…世の中には二通りの人間がイマス。【勝者】と…【敗者】デス…」
デモンのその言葉を…俺と凪は聞くことはできなかった…。
「はぁ…はぁ…誰が…はぁ…敗者…だって――?」
凪side
「はぁ…はぁ…誰が…はぁ…敗者…だって――?」
あたしは目の前で起こっていることに思わず両手で口元を覆ってしまう。信じられない…いや、信じたくない光景があたしの目に飛び込んできたからだ。
「アナタのコトデスヨ…。美しい光景だとは思いマスケド…頭が言い行動とは思いマセン…」
「はぁ…はぁ…余計な…はぁ…はぁ…御世話…だ…はぁ…クソヤロォ…」
「…喋ることも辛いはずデスのにさすがデス」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
――バタンッ…!!!!
そして、あたしのすぐ目の前で“そいつ”はまるで魂が抜かれたように崩れ落ちる。あたしは…崩れ落ちる“そいつ”を見ていることしかできなかった――
「ウソ…ウソでしょ!!」
あまりの光景にただ見ることしかできとなかったあたしは、そこでやっと固まっていた体を動かせるようになり、急いで目の前の“そいつ”のもとに駆け寄る。
「しっかりしなさいバカ!!」
あたしは必死だった。“そいつ”に駆け寄り、何度も何度も呼び掛け続ける。だって…だって――
「ねぇ…!!しっかりして!!お願いだから…お願いだから…!!目を開けてなさいよ!!【真備】!!!!」
その場に崩れ落ちたのはバカだけど…誰よりも強くて優しい大切なあたしの弟。【真備】だったからである。
信じられないとばかりにあたしに続いて駆け寄る日向。日向と同じような表情で向こうから全力疾走してくる輝喜。
だけど、誰よりも速く真備のもとへと駆け寄ったあたしが誰よりも速く真備の現状を知ることになった。ボロボロになった真備の姿を――
「はぁ…はぁ…あ…ね……き…はぁ…はぁ…」
「ま…真備!!気づいたのね!!喋っちゃダメよ!!ちょっと待って…今、ゲイル先生から貰った薬持ってくるから…。ほんの少しだけ…待って――」
「姉貴…ごほっ!!ごほっ!!ガハッ!!はぁ…はぁ…」
「真備!!!!」
身体中ボロボロで…口を開くのもきついはずなのに言葉を続ける真備。その姿にあたしはキュッと唇を噛み締めた。
なんで…。なんでなのよ…。なんで――
「なんで…なんであたしと日向を庇ったのよ…!!」
「…へへ」
あたしは真剣に聞いてるって言うのに、こいつは何を思ったのか嬉しそうに微笑みやがる。何よ…。何がそんなに嬉しいのよ…。
気付いたときには、あたしの頬を温かい何かが滴り落ちる。何かなんてことは聞かないでほしい。あたし自身だって分かってるから…。
だってのにこいつは――
「…はぁ…あ…ねき。はぁ…はぁ…はぁ…なく…なよ。泣かない…で…くれ……よ…」
「バカ…バカバカバカ!!」
あたしの頬に手を添え、今度はあたしに安心させるように笑顔を見せる。あたしはあんたを…あんたを守るって約束したのに…。そんな風に笑わないでよ――
「真備…」
「マキビン…」
いつの間にそこにいたのか、あたしのすぐ目の前には真備とあたしを見守るように日向と輝喜があたし達を見つめる。
その姿は真備にも見えていたらしくいったんあたしから目線を外し、日向と輝喜へと微笑んだ。
「へへ…2人も…ごほっ!!ごほっ!!無事で…よか…った…ガハッ!!」
「…問題nothing。俺も輝喜も大丈夫だ。お前のおかげでな…」
「うん。ありがとうございますマキビン…」
「はは…はぁ…はぁ…な…んか…照れる…な…」
ククッと笑顔を見せる真備。そして、真備の手があたしの頬から…スリ落ちた。
「真備!!!!」
「へへ…ちょっと…はぁ…はぁ…げ…んか…い…はぁ…はぁ…みた…いだ…」
「真備…。うん…分かった。あんたは頑張ったわ。だから…少し休んでなさい…」
だんだんと閉じていく真備の瞳。それを見ながら、今度はあたしが真備の頬へと手を添える。少しだけ…真備の表情が和らいだ気がした。
「…なぁ…はぁ…はぁ…あね…き…はぁ…そ…うだな…はぁ…俺…少しだけ…はぁ…はぁ…寝る…から…ガハッ!!ごほっ!!終わったら…おこ…して…く…れよ…?」
「…もちろんよ。起きなかったらあんたのこと凪払ってやるんだからね」
「はぁ…はぁ…そ…りゃ…怖…い…な…」
最後にはいつもの真備みたいにあたしへの皮肉を口走りながら瞳を完全に閉じる。そして、それからすぐにすぅーすぅーと寝息が聞こえてくる。その顔は、案外安らかな顔だった――
日向side
「…真備。ありがと」
俺は穏やかに寝息をたててる真備に語りかけ微笑む。真備が応えることはないが俺は真備の安らかな顔を見るだけで十分だった。
だが、俺はすぐに表情を引き締め振り返る。するとそこには――
「Enden(終わりましたか)?」
そこには――さっきと変わらず同じ場所にボサボサの金髪に白衣を羽織った男。デモンがリモコン片手に立っていた。
その表情は真備を撃ったにも関わらずさっきと変わった様子はない。俺はその姿に底無しの怒りを覚えていた。
「…デモン。問題nothingだ。お前が何言ってんのかは正直俺には分からない…けど、これだけは言っておく――」
俺の言葉に気がついたのか真備を見るために屈んでいた凪は立ち上がり、輝喜も俺と同じようにデモンがいる方を振り返る。
きっとこのとき俺達は全員、同じことを考えていた。だから代表して俺が言わせてもらう。俺はお前を――
「俺はお前を――絶対に許さない…!!」
俺の言葉に凪と輝喜の瞳が鋭くなる。それを確認した俺は2人に見えるように…そして聞こえるように…発動させた。
「来い!!【紅翼】!!」
――ボオォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
俺の叫びと同時に俺達3人を囲むように、辺り一面から炎が舞い上がる。熱く燃えたぎる炎の渦。怒りのせいか、これまでの中で一番燃えたぎっていた気がした…。
「発動!!【風神】!!」
次いで、凪の声が一閃する。その刹那、凪の纏う風が俺達を囲む炎の渦が刃で斬られたように引き裂かれ、俺達の姿が露わになった。
日本刀を握りしめる俺と鉄扇片手の凪。それに力がこもった瞳をした輝喜の姿が――
「…凪。輝喜。俺達はこれから何をしなければいけないか…分かってるよな?」
「ふん!!愚問ね日向。そんなの決まってんでしょ。あたしの弟を傷つけたこと…後悔させてやるんだから…!!」
「そうだねナギリン。俺達はマキビンの仇を討たないとね。だから…あの人を…デモンさんを…」
そう言うと俺達は昨日の不良達との喧嘩のとき。それに今日の朝の水城との闘いのときと同じように俺は日本刀を、凪は鉄扇を…そして、何も持たない輝喜は人差し指を…デモンに突きつけた。
真備…お前が救ってくれたこの身体。絶対に…絶対に無駄になんかしない。だから、そこで見ていてくれ。俺達が――
『『断罪する!!!!』』
俺達が――勝利する瞬間を。
「でも…その前に――」
「真備を…あたしの大事なものを傷付けたあのオモチャを――」
『『ぶっ壊す!!!!!!』』
そう啖呵をきった俺は右から凪は左からそれぞれアマテラスに突撃する。
無謀とも言える賭だった。だけど動けないアマテラスには懐に入ってしまえばこっちのものだと考えたのだ。
「デモン!!覚悟は問題nothingか!?」
「応えは聞いてないけどね!!」
そして、俺達はアマテラスへとたどり着く。だけど…俺達の考えはつくづく甘かったことを思い知らされるのだった――
「Aegis System(守護機能)adfahrt reservierung enden…(発射準備完了…)」
――カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!
確かに聞こえてきたデモン呟き。その声を聞いた瞬間、俺達は知らぬうちに追い詰められていたのだった。
「ウソ…でしょ…」
「…ヤバいなんて問題じゃねーよ」
俺のと凪の呆然とした呟きが虚しく響き渡る…。なぜなら、歯切れのいいその音と一緒に露わになったのはアマテラスの左右の肩、脚から突如現れたミサイルだったからである。
「…Adfahrt(…発射)」
そして、デモンの口はしっかりとその言葉を口にし、手に持ったリモコンのボタンを高速で操作した。こればかりはドイツ語が分からない俺にだって分かる。
あれは俺達への…攻撃命令なのだと――
――ヒュンッ!!ヒュンッ!!ヒュンッ!!ヒュンッ!!
イージスシステム。そう呼ばれたアマテラスから放たれた大量に飛び交うミサイル。その光景に呆然とする凪はその場を動くこともできてない。
だが、そんな凪のもとへもミサイルは容赦なく降り注がれた。
「ナギリン!!!!!!」
「…っ!?羽前流式紙術――」
――ダンッ!!!!ダンッ!!!!ダンッ!!!!ダンッ!!!!
しかしそのとき、凪は突如としてそこに現れた輝喜に抱えられその場を後にする。その刹那、さっきまで凪がいたその場所が吹き飛ばされる。まさしく九死に一生。その言葉がそのまま当てはまる状況だった。
小柄な凪をその腕に抱えた輝喜は、そのままさっきの俺と同じく凪を抱えて走る。
だが次の瞬間。さっきとは違い凪は輝喜の腕の中からするりとすり抜けると懐から一枚の紙を取り出すのだった…。
あれは…まさか――?
「―――【碧空】―――」
―――“へきくう”―――
――パリンッ…!!
…やっぱりそうだ。あれはやっぱり…羽前流式紙術。俺は、まるで凪を囲むように現れたその結界を見て全てを把握した。
四方八方をガードすることができる結界【碧空】それは、全方位をガードすることができる。まさしくほぼ“鉄壁”の結界だった。
ただし、発動するとその場から動けなくなるという弱点があり、結界自体の硬さも【虚空】より落ちる…らしい。
この半日で頭に入れた羽前流式紙術の情報をフルに回転させ、俺は頭を落ち着かせ状況を分析する。未だに不確定要素は多いが…。でも…1つだけ俺にも確実に分かってることがある。それは――
――ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!
それは――これで、ヤツの――アマテラスのイージスシステムの穴が出来たということだ。
とにかく、凪はうまくミサイルを避けきることに成功し、次いで…輝喜も凪が張った結界へと避難する。あとは――
「あとは…俺さえあそこに行けば体制を整えることができるってわけだな」
そう。あそこに行けば少しの間とは言え3人で集まり話し合う時間がとれるというわけだ。
それさえできれば…まだ俺達にだって勝機はある。
だけど、ここで一番の問題がある。それは…俺の危険性はまだ立ち去っていないということだった。
――ヒュンッ!!ヒュンッ!!ヒュンッ!!ヒュンッ!!
上、下、左、右からそれぞれ1つずつミサイルが飛んでくる。だが、俺には凪のような四方八方をガードする防御技はない。だったら…どうするか?
「…問題nothing。そんなの簡単だ――」
そうだ。答えは簡単。
防御ができないならどうすればいい…?防御できないならどう動けばいい…?昔の言葉にこんなものがある。“攻撃は最大の防御”それはつまり――
――シャキンッ…!!
全て…切り落とせばいいだけだ。
いつもより軽く感じる紅翼を握りしめ、俺は飛んでくるミサイルへと刃を向ける。
「…やってやるよ。全部…ぶった斬ってやる!!」
――シュタッ!!ザアァアアアアアアアアアンッ!!
そして俺の孤独なる闘いが始まる。誰1人として頼ることができない。俺だけの闘いが。
「次!!!!」
――ザアァアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
上からくるミサイルを切り落とし、右のミサイルを叩き斬る。
「はぁ…!!!!」
――ザアァアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
下からのミサイルはすくい上げるように斬り――
「ラストオォオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
左からきたミサイルは突っ込んできたところを真ん中から真っ二つに引き裂いた。
――ザアァアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「Wunderbar!!素晴らしい。素晴らしいデス…。さすがデス日向…。デスガ…コレで最後だと思わナイでくだサイヨ…」
遠くから聞こえてくるデモンの呟き。その僅かな声を横耳にしながら、俺は凪が張った結界へと飛び込むのだった――
「…Aegis System open.All Range!!(守護機能完全解放。照準完了!!)」
――カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!
デモンの言葉と同時にアマテラスは再び口を開いてレーザーの銃口が現れ、さらにミサイルの発射口も腹から3つ、胸から5つ、そして頭の脇――耳の部分からもそれぞれ1つずつ計14本のミサイル発射台が現れる。
凪が張った結界の――碧空の中に俺達はいるとはいえ、あれは確実にヤバい数だ。
一難去ってまた一難な状況…。俺達は絶体絶命な事態におちいっていた。
――ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!
その中で、俺達はミサイルの着弾音を聞きながら話し合いを続けた――
「くっ…!!あまり持たないわよ…どうすんの?」
「まずはあれに近付かないことには何もできないし…。どうすれば…」
「…ねぇヒナタン。ナギリン。俺にいい考えがあるんだけど――」
いつものニコニコとした顔じゃなく、真剣な…鋭い目をした輝喜の表情に、俺達も表情を強め…輝喜の話を聞き入った。
輝喜が思いついた作戦。それを俺達は身を固めて聞き入った――なるほど。おもしろそうだ…。
「凪。結界はあと何分くらい持ちそうだ?」
「桁一つ違うわよ。分じゃなくて秒。あと30秒くらいね」
「ヒナタンもナギリンもいい??これは出てから20秒の速攻作戦。当たって砕けろとは言わないけどダッシュで片付けちゃお♪」
いつも通りの輝喜へと戻った輝喜のその言葉を最後に、俺達は結界が崩れ去るまでの残り秒くらいを静かに待つ。
――ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!
――あと5秒…。
「日向。あんたが一番気張らなきゃいけないんだからしっかりしなさいよ??」
「…問題nothing。分かってるって凪」
――あと、3秒…。
「輝喜。頼んだぞ…お前に全てがかかってるんだからな…」
「くすくす♪もちろん♪任しといてヒナタン♪」
そして結界の強度の残り時間は減っていく。残り時間。あと…3…2…1――
「じゃあ2人とも!!派手に凪払うわよ!!!!」
『『あぁ(うん)!!!!』』
――ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!ダアァアアン!!
そして俺達の起死回生へと向けた作戦が今…始まった。
`
作「今回もゲストを呼んでお話していきたいと思います!!本編ではすぐに倒されちゃったこの人で〜す!!」
真「んだと、こらあぁああああああああああ!!!!!!」
作「ということで、双子の片割れ羽前真備さんでーす」
真「ぐっ…!!これでも姉貴達庇ったりして大活躍だったのに…!!」
作「まぁまぁ、今回は真備への質問コーナーなのでここは抑えて抑えて…」
真「お前が原因だろ!!…はぁ…まぁいい。俺への質問だろ??さっさと済ませてくれよ??」
作「はいはい」
真「…なんか嫌な予感しかしないんだが…気のせいだよな?」
作「気のせいですよ。気のせい。えー、では…さっそく最初のお便りに逝きたいと思います。あなたは凪に下克上するという作戦を考えているという噂があるのですが――」
真「ちょちょちょちょっと待てえぇえええええ!!どこから出てきた話だ!?それは!?しかも今さらっと字が違ってなかったか!?」
ペンネーム【ニコニコ眼帯】さんからのお便り
真「…あいつか!!あのくそ輝喜!!!!」
作「ちなみに似たようなお便りでもこんな質問がありまして――」
真備が凪を殲滅して痛めつけて調教して【検閲消去】にして禁断の姉弟××しようとしているって本当ですか(笑)
ペンネーム【問題nothing】さんからの便り
真「おい!!こいつらは俺に死ねと言ってるのか!?そうなのか!?」
作「さあ〜?」
真「ていうか、一通目は輝喜だし二通目はどう考えても日向だよな!?しかも日向の文の最後に(笑)がついてる時点であきらかにこの状況楽しんでるよな!?なぁ!?」
作「お好きな解釈でお受け取りください」
真「くっそ〜…あいつら〜…ぷぎゃ!?」
――ドガシャアァアアアアアアアアアンッ!!!!!!
凪「あ〜ん〜た〜は〜!?」
凪登場(哀)
真「あ…姉貴…なんで…ここに…??」
凪「知恵理からあんたがよからぬことを考えてるって聞いたのよ」
真「んなバカな!?知恵理がそんなことを言うわけが――はっ!!またあいつらかあぁあああああああああああああああ!!!!!!」
凪「話はゆっくり聞かせてもらうわよ…」
真「いやだ〜!!HA・NA・SE!!」
凪「だが断る!!作者!!あんたはさっさと次回予告をしなさい!!」
作「あ〜はい…(南無南無)さて、時の秒針。次回は女神の間決着編!!
果たして日向達の作戦とは何なのか?アマテラスの弱点とは??知恵理の運命とは??
次回【嘆くアマテラス】」
日「問題nothingだぜ!!」
真「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!」
日&輝『『ドンマイ♪』』
次回に続く!!