第24話 プタハの局長
突入開始!
日向side
「ここが…時の番人」
完全に日が落ちた夜。俺達4人はすぐ目の前にある古びた洋館を見据え唾を飲み込む。なるほど…確かに凪の話のとおり気味が悪い場所だな…。
よくある雷がゴロゴロなっているような雰囲気ではないが、如何せん人の気配がない。俺達はまずその雰囲気に圧倒されていた。
「ふぅ…で?これからどうすんだ?日向?」
「…そうだなまずは入口を探す――と、言いたいとこだけど、見た感じ1つしかないな…」
真備の言葉に俺は溜め息を吐きながら、洋館の中央にあるバカデカい扉を指差す。デカい洋館だが、後ろには土砂崩れでもあったのか、洋館の後ろ部分は土砂で埋もれてしまっている。
だから俺達が見渡してもそこしか入口がなさそうだった。
「んじゃ、ちゃっちゃと行きますか」
入り口を確認し、気合い十分に意気揚々と歩みを進める真備。真備。その素直さはお前の美徳であり、すばらしいところだと思う。でも――
やっぱ、お前は馬鹿だ。
「マキビン。ストップ!!ストップ!!スト〜ップ!!」
あまりに無計画な真備の動向をいち早く察知した輝喜が真備の前に立ちはだかる形でその行方を制止する。
「んだよ輝喜…」
「はぁ…マキビン。マキビンはもっと疑うということを学んだほうがいいよ…」
「…なんであたしの弟。こんなにもバカなんだろ」
凪。頼むから俺の隣でため息を吐かないでくれ。そんなことしたら関係ない俺まで悲しくなってくる。
「はぁ?どういうことだ輝喜?別に入り口から入るのは当たり前なんだぜ?どこに疑う余地なんてあんだよ?バカだな〜」
「…真備。今のあんたに馬鹿って言われるほど屈辱的なことはないわ」
輝喜の話を凪が引き継いで話し始める。
「はぁ…いい真備?もしあんたがあっちの立場だった場合を考えてみなさい。攻められそうになっているこの状況で《はい、どうぞ》なんて簡単に玄関から入れてくれると思ってんの?………そんなわけないことはあんただってわかるでしょ真備?答えはもちろん…NOよ」
「……どゆこと?」
ついに凪が頭を抱えてうねり始めた。その足元は俺が思っている以上におぼついてない。だが、その気持ち。分からないでもないから俺まで巻き込まれそうだ。
あ〜ぁ。こりゃだめだな…。凪にはもう説明できないか…。仕方ない――
「真備…」
ここからは…俺が説明するとしますか…。
「はっきり言うと、これは罠だ」
「罠?」
俺の言葉が理解できないのか、小首を傾げる真備。はぁ…もういい。お前に理屈を理解させようとした俺達が間違ってたよ…。まったく同じタイミング。同じようにそう結論づけた俺と凪と輝喜は揃って深く溜め息を吐き出した。
はぁ…真備。あと小首を傾げる仕草、お前がやるとキモイから止めてくれ。
「はぁ…真備。とりあえず【懐虫】でドアを攻撃しなさい。それで万事解決するから…」
「は?なんでんな面倒くさいことしなきゃいけねーんだよ?それに壊虫だって使用回数にも限界があるんだぜ?そんな無駄なことに使うわけには――」
「いいからやりなさいバカ弟!!!!あんたは悩むな考えるな口を開くな!!!!話がややこしくなる!!!!次にあたしの言うことに逆らってみなさい!?あんたのその無駄についてる【検問消去】凪払ってやるからね!!!!Do you understand(分かった)!?」
「アイアイマム!!!!」
流れるような凪の罵倒や、女の子が口にしてはいけないような単語が混ざった命令に、真備は逆らうことなく式紙を一枚取り出す。
刺さるような凪の視線。それが原因かは分からないが、式紙を持つ真備の手がブルブルと震えて、狙いを定めずにいる。ドンマイ真備。
「ひっ!?懐虫!!」
そしてついに、後ろから来る凪の鬼のような睨みに我慢出来なくなったのか…。真備は勢いのある声(もしくは悲鳴?)と一緒に手に持った式紙を如何にも分厚そうなドアへと投げる。
初めひょろひょろと力なく飛ぶ式紙。だが、紙はみるみるうちに頭がナイフのような巨大な虫へと変化してドアへと突き刺さる。そして、次の瞬間――!!
――ガンッ…!!!!
『『……………』』
俺達は――辺りの空気は死んでしまった。
何も起こらなかった空間に拍子抜けしてしまったのだ。なんぞや?
「…何も起きませんね」
輝喜の苦笑い気味に発せられた言葉に俺達は我に帰るのだった。
「おかしいだろ…何で何も起こらないんだ…?」
「…あっちが真備並みのバカってわけじゃ…ないわよね…?」
明らかに拍子抜けな状況に俺達は頭をひねる。俺の予想では【重火器の一斉掃射】や【鉄斧が落ちてくる】といったあ映像を予想してたのに…。いったいどういうことだ?
「…可能性としてはあたしらの行動を向こうが先読みして、事態に対策。さらなる罠を張ってるか――」
「俺達の深読みしすぎかのどちらかだね〜♪」
眉をひそめ、頭を悩ます凪と明るい輝喜の極論に俺は同意の意を表す。だが、どちらが正しいとは言えなかった。
真備以外の3人でこれから先のことを考える。下手に動いたら全滅だってありえる状況。俺達は慎重にならざるを得られない。だが、そのときだった――
――PiriPiriPiri♪PiriPiriPiri♪PiriPiriPiri♪
突然、今の状況とは不釣り合いな機械的な音楽音が鳴り響く。無論、機械音痴な真備が携帯を持っているわけがない。
ということは――
「…この着メロ。日向。あんたの携帯じゃない?」
俺は突然鳴り響いた自身の携帯をポケットから出し、パカリと開く。するとその画面に表情されていた名前は意外な人物だった。
「ち…知恵理からだ…」
『『…!!!!』』
俺の呟きに、真備を含んだ3人の顔が驚愕へと歪み。次いで引き締まる。
だがそれも当然だ。なぜならこれから助けようとしている張本人からの連絡。俺達の緊張感が高まるのは日をみるより明らかである。
俺は一度深く深呼吸をする。心を落ち着かせるためだ。そして、ゆっくりと携帯の通話ボタンを押し、耳に当てるのだった。
『…よぉ。日向…だよな?オレだオレ。分かるか?』
携帯を耳に当て、聞こえてきたのは知恵理と同じ綺麗な声だった。機械越しでも分かるその鈴のような声。
だけど、その言葉使いは知恵理とは違い男らしい。俺はこの一瞬で電話の相手を全て理解した。
「…“刹那”か?」
『おう。昨日ぶりだな』
俺の言葉にしっかりと応える刹那。俺はその声を聴くと、電話の相手を知り驚いてるみんなに聞こえるように携帯のスピーカーボタンを押す。
とたん、携帯から刹那の鈴のような声が一気に辺りに木霊した。
『ヤッホー。外のみんな聴こえるか〜?眼帯の奴は知らないけど、そのほかの奴は昨日ぶり!!』
「え…えぇ、昨日ぶり刹那。あんたこそ元気だった?ほら…あたしが切り裂いちゃった傷とか…」
『あぁ…その辺は気にすんな。オレもお前らと同じで完治してるからさ…。それより、時間がない』
昨日、一悶着あった凪と少しだけ話をすると刹那はすぐに真剣な声へと変わった。
「時間がない…。刹那。それってどういう――」
『…オレは今、水城の命に逆らって秘密裏におまえ等に連絡をとってる。つまり今のオレは反逆者ってことだ』
その言葉に俺達ははっとする。そうか…だから知恵理の携帯から連絡してきたのか…。確実に俺達へと繋がる知恵理の携帯から。
「反逆者って…。刹那。あんた、なんでそんなこと…」
『…オレにだって良心があるってことさ』
そう言って刹那はコホンと1回咳払いをして、話を続けた。
『と、まぁ…こんなこと言ってるけどオレにはこの組織を“本当に”裏切ることなんてできない。この組織にはいろんな恩があるからな…。だから今回は特別なんだからな!!』
「…ありがと、刹那」
刹那の言葉に凪がお礼を述べる。この言葉にはついつい俺達が面食らってしまう。凪がデレた…!?と。
『じゃ…じゃあこれからの流れについて説明するからな!?1回しか言えないからよく聞きやがれ!!』
「あ…あぁ問題Nothing。じゃあ頼む…」
あまりに凪の言葉が意外だったのか慌てたようにそう会話する俺と刹那。
だが、すぐに真剣な面持ちになる俺達についに刹那は話し始める。これから行われる【ゲーム】のルールについてを――
『ん゛ん…まずはドアだな…これは警戒しなくてもいいぞ。仕掛けや罠はないから』
「…つまり玄関は素通りでいいってことか?」
『あぁ。最初は技術局のデモンさんが張り切ってたんだけどオレとレリエルが何とか止めさせたから…。ちなみに最終的に水城の《……出れない》って言葉がトドメだったな…』
「それはまた…お疲れ」
刹那。レリエル。お前らも大変なんだな…。知恵理といつも一緒にいる俺だからか、その苦労を分かち合うことができた気がした…。
『そんでもって、ドアから入って最初の部屋には1人。時の番人のメンバーがいるから…そいつと戦うってわけだ』
「…それが誰かは教えてくれないのか?せめて、お前とレリエル。それに水城の順番を教えてくれ」
『…すまない。それは教えることはできない。時間もないし、何よりそれじゃ…なぁ?』
「…なるほど、ご都合主義か。確かにこれ以上分かったら向こう側の人がおもしろくもなんともないな」
「…ヒナタン。どうしてそんな、電波みたいなこと言ってるんですか?」
気にするな輝喜。大人の事情というやつだ。そして、刹那の話は佳境へとさしかかった。
『続けていいか?そんでもって勝ったら次の部屋、また勝ったら次の部屋と進んでいっていく方式になるんだ。そして最後の部屋。そこに知恵理がいる。ちなみに部屋は全部で5つ。そのうちの3つはもちろんオレ、レリエル、水城だな。というわけでオレの説明は以上だ。何か質問あるか?』
なるほど。ようするにゲームにおけるダンジョンと同じってわけか…。
刹那の簡単かつ、分かりやすい説明に俺達から質問することは何もない。自分なりの解釈もできた俺はその意を伝えるために、携帯に耳を当てた。
「…問題Nothing。質問することは何もない。刹那。知恵理のこと頼んだぞ」
『…あぁ、わかってる。それと日向。知恵理から伝言だ――』
「…??」
『《待ってるからね…》だそうだ…。じゃあ、そろそろ知恵理を別の部屋に移さなきゃいけないから切るぜ。確かに…伝えたからな…』
「…ありがとな刹那」
俺の最後の言葉を聴くことなく、刹那と俺とを繋いでいた線は切れていた。
ありがとう。本当に…ありがとな…刹那。せして知恵理。絶対助けるから。だから…待ってろ…。
「知恵理…」
俺は最後に人知れずそう呟くのだった――
刹那side
「いいのか?本当に…」
暗闇の中。電話を切ったオレは白い携帯電話を目の前の人物へと投げる。
その人物は、オロオロとオレが投げた携帯電話を危なっかしい手取りで、受け取った。
「はわわわ…ふぅ。ありがと、セッちゃん。私のお願い聞いてくれて…」
「…あぁ。じゃなくて本当にいいのか?お前じゃくてオレが連絡して…」
「…私が連絡してもよかったんだけど…。今の私には連絡できないよぉ…真実を知っちゃった私には…」
「だけど言いたいことだってあるだろ?日向や凪達に何か…。何か…伝えたいことないのかよ【知恵理】?」
オレの言葉にその人物――知恵理は薄暗い部屋でも分かるくらいに悲しそうな表情で、オレに応える。
そして、その気持ちはオレには痛いほど分かる。いや…レリエルの真実を分かっていたからこそ、オレは胸が痛かった――
真備side
「知恵理…」
刹那との電話が切れたそのとき、俺達は日向の独り言をしっかりと耳に刻み込んだ。だが、それでも日向は、次の瞬間には何事もなかったように洋館のドアへ向けて歩き始めていた。その目に決意を秘めさせて――
日向はこういうやつだ。たぶん、自分でも本能的に知恵理を求めていることに気づいていないんだろう…。だけどこれだけは言える。
――知恵理のことを一番大事にしているのは間違いなくこいつ…日向だ。
これだけはいくら頭がいい日向がどれだけ否定しようとしても覆ることのない真実。知らぬは本人と知恵理だけだということだ――
「真備。何立ち止まってんのよ。さっさと行くわよ」
「おぅ!!分かってるぜ姉貴」
まぁ今はこのままでいいかな。2人のためにも…な。
そうこうしているうちに俺達はドアの前にたどり着く。その表面には、俺がさっき投げた懐虫が深々と刺さっている。
「じゃあ入るよみんな♪」
そのドアの取っ手に手をかけ、今にも開こうとしている輝喜の明るい言葉に日向と姉貴は無言で頷く。
もちろん、俺も2人に従い頷く。何の問題もなし。いよいよ突入という段階で俺は大きく深呼吸を――ん?
なんだ…あれ…?
「…真備?あんたどうかしたの?上を向いたと思ったらいきなり止まったりなんかして…」
「マキビン。どうかした?」
姉貴と輝喜の声が耳に届く。だけど、俺は上げた目線を下げることはなかった。
そして、ついに業を煮やしたのか、日向達は俺の目線を追うように上を見上げる。日向達の死角――というより、上過ぎて見えなかった部分を――
「…なんだ…あれ?」
「何かの文字かしら?」
「だろ?何か書いてあるんだけどなぁ…。俺じゃあ読めねーんだよ…」
俺の目線を追った結果、どうやら日向や姉貴も俺と同じところに辿り着いたようだ。ドアの上。そこには確かに何か書いてあるんだけど…。俺じゃ遠すぎて読めない。
結果、俺は他の3人に頼ることにした。だが――
「どうだ日向。読めるか?」
「いや…遠すぎて見えないな…。凪は?」
「右に同じ。それ以前に街灯もないこんな山の中じゃ見えただけ奇跡よ。あれは…」
日向も姉貴も、最後には溜め息を吐き出し、文字を読むのを止める。でも…まぁ、仕方ないよな。あんな高いとこにあるうえ、辺りは真っ暗だし。
そして、俺達は字を読むのをあきらめようとする。どうせ関係ない字だろうと高をくくった。だが、そのときだった――
「…【女神の間】」
「え?」
突然の声に俺達はその声の主を凝視してしまう。誰もが読めないだろう。人間には読めないだろう…。そう思っていたときの一言だった。
その声の主は――
「“輝喜”…あれが読めたのか?」
驚きの顔の日向の言葉。だが、確かに不思議だった。あんな所にある字を読んだ輝喜が。
そんな俺達の眼差しに気がついたのか、輝喜はニッコリと俺達に微笑むと、再びあの文字を確かめるように上を向き口を開いた。
「右目が見えないからかな〜?…実は俺の左目の視力が4・0あるんだ〜。スゴいだろ〜!!」
えへんと胸を張り、まるでガキが褒めてもらいたそうにそう言う輝喜に俺達は感心する。
だけどこいつの知らない一面を見れたことが少し嬉しかったり悲しかったりした。
「そっか…3年も一緒にいて何で知らなかったんだろうな…俺達…」
「まぁヒナタン達は俺の右目ばかり気にしてたからね♪無意識に目に関する話題を避けてたんだよきっと♪」
「ははは…問題nothing。輝喜。お前の言うとおりだ…違いない…」
そうだな…。親友だと言っても知らないことってあるんだ…。すべてを知ろうなんて俺の傲慢なんだ…。
日向の乾いた笑みと輝喜の満面の笑み。その2つの笑みを見つつ、俺は息を吐き出した。
そうさ…。すべてを知ってるなんて…俺の傲慢なんだ…。このとき俺は寂しげな笑みを浮かべてることに気付いてなかった――
「【女神の間】か…どういう意味かしら?」
そのとき、唐突に響いた姉貴の冷静な言葉に俺は我へと帰る。それは俺だけじゃなく、日向や輝喜にも同じことが言えていた。
4人で再び目の前のドアを見上げ、ゆっくりとその意味を考え…ふと、輝喜が閃いたような顔で俺達の顔を見渡した。
「はいはいは〜い!!俺、分かっちゃったかもしれない!!このドアの向こうにはさ〜。きっと、物凄い美人がいるんじゃないかな〜と俺は考えたわけです」
そんな突拍子もない輝喜の言葉に俺達はため息をはいた。そんな単純な…。と、呆れてしまったのだ。だがしかし――
――美人。美人。美人ねぇ…。そう言えば昨日は美人じゃないけど美少女に会ったような…。
俺は頭でサラサラって昨日のことを整理する。確かに昨日は今までの人生でもかなり濃い1日だった。だが、それでも印象に根強く残るものがある。
後ろで縛った水色の髪。雪のような白い肌。そして水のような青い瞳。俺の頭の中で何かが弾け飛んだ。
`
『『刹那!!!!!!!!』』
次の瞬間。俺、日向、姉貴がほぼ同時にある人物の名前を叫ぶ。さっきまで日向の携帯で通話していたそいつの名前を。
どうやら日向と姉貴も同じ答に辿り着いたみたいだ…。確かにあいつは美少女だ。それもかなりのだ。だが、姉貴はどこか納得がいかなさそうな顔をしていた。
「う〜ん…。でも…刹那は女神というより…乙女って感じよね…。年齢的にも容姿的にも…」
「…その違いは何だ」
姉貴の呟き。それは俺達にはさっぱり分からない違いだった…。
だが、彼らは知らない。このとき外部マイクで凪の声を聞いていた知恵理が凪の考えに同調して刹那を褒め称えたたおていかことを…。そして刹那の顔が真っ赤になってる事を――
「まぁ…とりあえずこの先に待ってるのが刹那かどうかは入ってみたら分かるだろ…」
「う〜ん…まぁそうね。不本意だけど、今回はあんたの言葉に同意するわ」
「そうだね♪ナギリンの言うとおり♪本当に不本意だけどね〜♪」
「問題nothing。不本意だけど仕方ないな…」
「お前ら俺に何か恨みでもあるのか!?」
四方八方からたこ殴り。親友全員からフルボッコ☆って何だこの状況!?
俺はこの仮面投下(四面楚歌のことです)な状況に頭を抱え、うがー!!と言いながら頭を掻き毟っる。最早周りに俺の味方はいないかった…。
す べ て の 者 が 敵 に み え る。
「…とまぁ冗談はここまでにして」
「俺には冗談には聴こえなかったけどな…」
俺の言葉に3人が苦笑い気味に頷いた――あまり頷いて欲しくないけど――のを見た俺ははぁ…と溜め息を吐き、ドアへと手をかけた。
締まりがない始まり方だなぁ…と内心思いながら。
――ギ――――ッ…!!
今どき下手なホラー映画でもないくらいのベタな音を出して開くドア。
開けた瞬間に溢れる明かりその奥には洋館にはありがちな玄関ホール。それにシャンドリア(シャンデリアのことです)が吊されていた…。
そしてそのホールの真ん中にいる1人の男。ボサボサな金色の髪。俺よりもさらに大く、姉貴より一回り近く大きな大男。そんな男が目をつむり、静かに佇んでいた。
「お前は…誰だ…?」
「それ以前に日本語通じるのかしら…?」
警戒を怠らず、目の前の男にそう問いかける日向。同じく警戒を怠らず男の様子を伺う姉貴は、男にいつでも噛みつける体制をとっていた。
そして、そんな2人とは対称的に俺はその2人の後ろで輝喜かばう形で輝喜の前に立っていた。輝喜を守るためである。
重たい空気が辺りに流れる。そしてついに、目の前の男が口を開いた――
「Ich freve mich,Sie kennen zu lernen.(初めまして)」
…少なくとも女神には見えないその大男はゆっくりと目を開けると、流れるような外国語が口から出てくる。
正直、俺には理解できない。それは天才だとうたわれる日向や、もちろん輝喜も理解できてないはずだ。だけど――
「Deutsch Auforen?(ドイツ語。止めてくれるかしら)?」
「Oh Entschuldigung.(これは…失礼しました…)」
この中で唯一。この言葉を理解している奴がいる。他ならぬ…俺の姉貴だ。
男と同じように流れるような発音で、そう応えた姉貴に男は驚いた表情をした。
「失礼。失礼。すみません…。興奮のあまりつい母国語で話してシマイマシタ」
だが次の瞬間。男の口から発せられたのははっきりとした日本語。俺はそのあまりの拍子抜けな感覚に言葉がなかった。
姉貴がいったいどんな話をしたかは分からない。だがこれで俺達も理解できるようになった。
「へ〜…ゲイル先生と違ってちゃんとした日本語が話せるんだ〜」
「ワタクシ。大学では第2外国語で日本語を選択シテイタもので…」
「あっそ…。でもやっぱり所々に怪しいとこあるわね…まぁ仕方ないか」
確かに普段からゲイル先生のあの片言の喋りを聞いていたからか、じゃっかん違和感を感じる。
だが、そんな中俺の考えとは関係なくその男は話は進めんでいった――
「ワタクシは【デモナン・カイハーツ・キルデ】ドイツ人の技術者で時の番人の【技術開発局】の局長を勤めてオリマス」
「デモナン・カイハーツ・キルデ…」
オウム返しに俺は男の名前を呼ぶ。すると男は俺の声に気がついたのか、ニッコリと微笑むと呟いた。
「Ich freue mich,Sie zu sehen.(あなた方とお会いできて光栄です)」
「は…?」
「あたし達に会えて嬉しいって言ってんのよ…。にしてもその名前。なんとかなんないの?長すぎんのよ…」
「エェ。ですが長い名前なのでワタクシの周りは縮めて【デモン】と呼ばれてオリマス。ですからミナサンも、ぜひそうお呼びクダサイ…」
姉貴の言い分に、苦笑いを浮かべながらそう応える男――いや、デモン。
そして姉貴とデモンとの話は最も重要なところへと到達する。
俺達がこの場所に来た目的。俺達とデモンがなぜ今、この場で顔を合わせることになったのかを――
「ん。じゃあそうさせてもらうわデモン。こっちもやることやっちゃえば文句ないんだし。そういうわけだから――」
そう言うと、姉貴はデモンの後ろへと見えるこの屋敷の奥へと続く階段を指差した。
「――この先。行かせてもらってもいいかしら?」
「…それとこれとは話が違いマスネ。Unterschied(違い)デスネ」
途端。俺達とデモンとが孕んでいた空気が一変する。そう…俺達は敵同士。いくら話が合っても、それだけは決してひっくり返らない事実だった。
「そう…あんたかその気なら、あたしはあんたを凪払って進むだけよ…」
「Das kann ich nicht machen(…あなたには出来ません。決してね…)」
こうして俺達と時の番人との闘いが始まった――
`
作「Yahoo!!今回は新キャラ登場ということで、今までで一番人気があるキャラクターに来てもらいました〜」
レ「こんにちは。なぜか謎な人要員なのに一番人気のレリエルと申します」
作「はい、丁寧な挨拶ありがとうございます。本当に書いてる自分も何で人気があるか分からないんですよねぇ…?」
レ「くすくす。キャラ投票では1位になってみせますよ♪」
作「はははは…さて、あなたの正体うんぬんはこの際無視して今回は話の流れについて教えていただきたいと思いまーす」
レ「俺が知ってることでよければ何でもお聞きください」
作「ありがとうございます。では、さっそくですけど【デモナン・カイハーツ・キルデ】さんはどんな人ですか?」
レ「はい。お応えします。デモンさん。彼はとても紳士な人ですね。技術開発局の局長らしく頭もよくて確かボストンの大学にドイツから留学したらしいです。後はそうですね…《世の中の人間は二通りある》が口癖なんです」
作「なんですかその口癖?」
レ「どうやら昔の経験だそうです」
作「そうなんですか…じゃあ、技術開発局って何ですか?少なくとも自分は【プタハ】って名前は聞き覚えがないんですけど…」レ「はい、お答えします。そもそも時の番人の名前の由来は時を司る神【クロノス】から来てます。それと同じで時の番人にある4つの部署も神様の名前から来てます。そして、4つの局の1つがこの【技術開発局】なのです。ちなみにプタハとはエジプトの創造神のことなんです」
作「はい、ありがとうございました。それにしても時の番人って一体何なんですか?」
レ「それはヒ・ミ・ツです♪」
作「………」
レ「あ、そろそろ刹那がゴネるころなので帰りますね」
作「え゛。せめてこの場の空気戻してから……チッ。逃げたな。まぁいっか。じゃあ次回予告行きます。時の秒針、次回は――
最初の部屋【女神の間】。その名前の由来となる女神がついに現れる。
果たしてその正体とは?
次回【機械仕掛の女神】」
日「問題nothingだぜ!!」
作「はい。じゃあ最後にデモナン・カイハーツ・キルデの名前の由来ですが…分かりますよね?
【何でも開発できる】です。
それではみなさん。また次回会いましょー!!」
次回に続く!!