第19話 魂と体の協調
前の作品で誤字、脱字が多くてすみませんでした
凪side
「時雨…水城…」
口元で小さくリピートされたその名前にあたしは呆然としてしまう。なぜなら、その名前はあたしにとって大きな意味があるからだ
その名前は楓が――九尾があたしに教えてくれた名前。その名前とまさしく同じ名前を持った男が今、あたしの目の前にいた。
「……レリエル。こいつは誰だ?」
空気が凍るほど冷たい声。その声にレリエルが応える。
「羽前凪。風を操る羽前家の姫、羽前凪です」
その言葉に、あたしはゴクリと唾を飲む。どうやらあたしについての説明をしているようだ。
刹那やレリエルとは違って、こいつは少なくともあたしについて何も知らないようだった。
「……そうか。こいつが羽前凪か」
レリエルに水城と呼ばれたその男は興味なさそうにそう呟くと、長い黒髪を靡かせながらあたしのほうに歩み寄ってきた。
――カツ…カツ…カツ…
静かにゆっくりと、だけどしっかりとあたしに近づいてくる水城。あたしはその動きを見漏らさないように警戒する。
あの男が出すオーラ。もしくは気配というのだろうか…。何かは分からないが、そういった何かがあたしに警戒しろと忠告してきている。
刹那ともレリエルとも違う威圧感。あの男――時雨水城にはそれがあった。
「…………」
――カツ…カツ…カツ…
無言で放たれる時雨水城の威圧感にあたしは一歩、後ろへ後ずさってしまう。今まで感じたことがない空気に耐えられなかったのだ。
すでに、時雨水城はあたしの目の前まで迫っていた。
「……」
締め付けられそうな空気の中、あたしは時雨水城をにらめつける。これが、あたしの最後の抵抗であり強がりだった。
――カツ…カツ……
そして、遂にあたしの目の前に時雨水城が立つ。感じる。目の前に立った彼から放たれる押しつぶされるような威圧感を。
遠くからでは分からなかったが時雨水城。彼の身長はかなり高い。あたし達の中で一番高い真備よりも数センチは上だ。
あたしは30センチ以上上から見下ろされていた。
『『………』』
時雨水城は黙ってあたしを見下ろす。だが、その瞳はあたしを見下してるようにも思えた。そして、その視線をあたしが見返すといった形。気分は最悪だった。
嫌な時間ほど長く感じる。昔、誰かがそんなことを言ってたけど、今この瞬間はまさしくその通りだと思う。
水城の鋭く鷹のような目。それに見下ろされる時間はとても不快だ。そう…それは、まるで肉食獣が草食獣を見るような感じ…。ただし獲物を見る目ではない。
小さすぎて興味がわかないといった感じの目だ。
「水城。羽前凪に興味を抱きたいのは分かりますが、時間がありません。そろそろ行きましょう」
不意に放たれたレリエルの発言。その言葉にあたし達の時間は動き出す。
あたしは思わず安心して深く息を吐き出してしまった。正直、この男には関わりたくない。いや、関わってはいけないような気がしたからだ。だけと、あたしの願いは崩れ去る。他ならぬあたし自身の手によって――
「……期待外れだったな」
――ヒュオォオオオン…
再びあたしの頬を撫でた風の音と共に、あたしの耳に確かにその声が響いた。あたしは思わず、その声に顔を上げる。
そこには未だに長身の男があたしを見下ろしていた。
――カツ…カツ…カツ…
あたしが顔を上げたからか、あたしの目の前の男。時雨水着は長い黒髪を靡かせると、あたしを無視するようにあたしの横を歩いていく。
だが、そのときだった。
「……ザコ」
あたしとの出会い頭、あたしの横をすり抜けるときに放たれた言葉にあたしは目を見開く。時雨水城が放ったその言葉。最初、突然言われたその言葉の意味がよく分からなかったからだ。
――“ザコ”それってどういうことよ…?
そして、気付いたときにはあたしは時雨水城を呼び止めていた。なぜ呼び止めたのかは分からない。だけど、止めなければいけない。あたしはとっさにそう思ってしまったのだ。
「ま…待ちなさい!!」
――カツ…カツ……
あたしの声に時雨水城の足音が止まる。あたしは風すらもなくなった空間が静まったのを確認すると、意を決して後ろを振り返った。
「……なんだ。まだいたのか、ザコ」
「…悪いけど、初対面のあんたにザコ呼ばわりされる覚えはないのよね」
振り返った先、そこには立ち止まりあたしを無表情な目で見る時雨水城がいた。
再び浴びせられる見下したような言葉にあたしは彼を睨みつけ口を開く。そんなあたしの言葉に、彼は興味なさそうにあたしをその無の瞳に映した。
「……ふん。貴様などただのザコだ。満足に魂狩すら使いこなせないものなどザコ以外の何者でもない」
「…じゃああんたは満足に魂狩が使いこなせると言いたいわけ?」
「……あぁ。貴様が足元に及ばないくらいにな」
あたしを見据えて、はっきりと言い切る時雨水城。その言葉にあたしの冷静だった頭が吹っ切れた。
「そう…そこまで言うなら試してあげる」
あたしは右腕を真横に突き出す。昨日手に入れた新たな力を使うために――
「後悔しても…知らないからね!!舞い上がれ“風神”!!」
――ヒュオォオオオン!!!!
その刹那、あたしの周りに突風が吹き荒れる。竜巻のような風があたしを囲むように渦を巻く。
その風の中、あたしは心を落ち着かせようと深く息を吐き出す。そして、周りの風を一気に切り裂いた。
――ザシュッ…!!
「…鉄扇の魂狩【風神】」
竜巻を切り裂き、再び太陽の光の下に戻ったあたし。その手には確かに鉄扇。風神が握られていた。
「水城。あんたのその幻想をあたしが凪払わう!!」
――シャキンッ!!
風神を開き、あたしは時雨水城を睨みつける。だが、そんなあたしの動きにもかかわらず時雨水城は一歩も動こうとはしない。
あたしを嘗めてるのか、はたまた価値もないと思っているのか…。あたしはその水城の態度に冷静さなど完全に失っていた。そしてあたしは普段のあたしが絶対にしないことをしてしまう。
「はあぁあああああ!!」
冷静な頭を完全に失ってしまったあたしは考えもなしに時雨水城に挑んでいく。それが間違いだとも気づかずに。
駆け出し始めたあたし。だが、やはり水城はその場から動こうともしない。それどころか、魂狩を出そうともしない。
あたしは一瞬、動こうともしない水城を攻撃することに躊躇してしまう。だけど、それこそがあたしの間違いだった。
「……羽前凪。そこが貴様の弱いところだ」
そして、あたしの一瞬の戸惑い。時雨水城はそこを見逃さなかった。あたしは知ることになる。目の前の恐怖を――
「【水堅・天象】」
――ジャバンッ!!!!
右手を掲げる時雨水城。その刹那に手のひらに現れた水に風神の攻撃を防がれるとは思いもよらなかった。
あたしはただただ目の前の光景に唖然とする。
「ウソ…」
あたしの攻撃は――時雨水城の差し出した右手…正確には右手の前に現れた水の塊を前に完全に止められてしまっていった。
信じらんない光景をあたしは目の当たりにする。あたしは必死に風神を握る手に力を入れる。だが、そこから動かすことはことはできなかった。
あたしは完全に敗北したのだ。時雨水城に――
「……羽前凪。貴様は甘い。故に貴様はザコだ」
そのとき、時雨水城の声があたしの耳にやまびこのように何回も響いてくる。
だけど、怒りは感じなかった。まさしくその通りだと痛感させられたからだ。あたしの怒りはいつのまにか――悔しさになっていた。
――カランカラン…
あたしはショックのあまり、風神を持つ手から力が抜ける。最早、地面に落ちた風神を取る力さえなくなっていた。
絶望に打ちひしがれる。時雨水城の「……ザコ」という言葉は今のあたしには、まさしくピッタリな言葉であった。
あたしは弱い。力や技術以前の問題に、あたしは心が弱い。あたしは水城の言葉にそのことを気付かされた。
今のあたしでは――あの男には絶対勝てない。あたしは知らぬうちに瞳から涙を流してしまっていた。そのときだった――
――パチンッ!!ザンッ!!
指を鳴らす音。何かが空気を斬る音。それら2つの音が、冷え切ったあたしと時雨水城の空気を破壊した。あたしと水城の間を切り裂く形で――
あたしと時雨水城の間を断ち切ったそれは、あたし達の間を断ち切っただけで止まることなく、屋上の敷地内を軽く超えて空の彼方へと消えていった。
あたしは聞き覚えのあるその音に、目線を音の発信源へと向ける。するとそこには――
「いい加減にしてください…2人とも」
相も変わらずかすれかすれの声。だが、機械を使っても分かるくらいに怒りに満ちた声をした人物がそこにいた。
指を鳴らす音。空気を斬る音…。想像はしていたがあれはやはり“恍閃弓”の放った光の矢。
あたしを助けたのは間違いなく“レリエル”だった。
「……レリエル。貴様、どういうつもりだ?」
少しだけ力が入った時雨水城の声に、あたしの思考回路が回帰する。そして思考が回復して最初に見えた映像。それは――対峙したレリエルと時雨水城だった。
「水城。あなたは計画を忘れたのですか?」
「……無論、忘れてなどいない。俺は俺のやるべきことをしたまでだ」
「…水城。例えそうだとしてもやりすぎです。計画を早めた今、俺達はもっと慎重に動くべきです。それが分からないあなたではないでしょう?」
「……問題はない。こいつには自分の立場を知る必要がある。故に、こいつは絶望しなくてはならない」
「…っ!?確かに、あなたの言うことにも一理あります。ですが!!あなたのしていることは間違っている!!」
――ギリギリ…
レリエルの手に、再び恍閃弓の光の矢がセットされ、時雨水城に向けられる。
だが、時雨水城はその矢すらも、あの無表情な顔で軽く流していた。
撃ちたければ撃て。とその無表情な顔で言っているのか、それとも貴様に撃つことはできない…。と高をくくっているのかは、あの無表情な顔から見抜くことはできない。
だが、その無表情の顔に見られるレリエルは、やがてその弓を下ろすのだった。
「…水城。ここで、あなたと闘っても俺ではあなたに勝ち目はありません。退かせていただきます」
「……賢明な判断だレリエル」
時雨水城の言葉にレリエルの唯一見ることができる唇が見えた。その口元は悔しそうに固く結ばれていた。
「…ですが、もう一度だけ言わせていただきます水城。あなたは間違ってる。確かにあなたの考えは正しい。でもあなたはやり方を間違えてます。今、このときも――」
それはレリエルの最後の抵抗だった。確かに、フードで隠れて見えないが、あたしには見えていた。
フードの下から時雨水城を睨みつけるレリエルの鋭い眼が――
「……ふん」
そんなレリエルの言葉に時雨水城は、鼻を鳴らし右手にあった水の塊を握りつぶす。
あたしの風神を止めるほどの強固な水。しかし、水城はそれを躊躇なく握りつぶしたのだった。
――バシャッ!!!!!
だが、その水の塊はさっきまで本当に風神を止めていた水なの?と疑うほどあっさりと――しかもかなり水らしい音を出して崩れさる。
その呆気なさに、あたしは呆然としてしまった。
「……いいか羽前凪?一度しか言わないからよく聞け」
呆然とするあたしに時雨水城は言葉を投げつける。その表情に変化はない。最初と同じ、無表情の顔のまま。
そして、会話自体もあたしの意志を無視した一方的な会話だった。
「……能力者は自分の能力を魂狩を通して発動させることにより真の戦闘力を得る。……レリエルの光の矢がいい例だ。やつは恍閃弓に己の能力である【光】を加えることでそれを光の矢として飛ばしている。……これを俺達は【協調】と呼んでいる。……そして、これができるAランク(上級)能力者とできないBランク(一般)能力者とでは――その戦闘力は、天と地の差だ」
時雨水城はそこまで一息も息を入れることなく言い切る。知恵理や真備あたりなら聞き取れなかったであろうその言葉はあたしにも、少し理解できなかった。
だけど、これだけは分かる。あたしは日向や真備とは違うということは――
――ガチャッ!!!!!
「アネェキィイイイイイイイイ!!!!無事かぁああああああああああああ!!!!」
あたしがそう結論を出したとき、屋上へ入るための扉が勢いよく開いた。初めは何が起こったのかは分からない。だけど、叫ぶようなその声を聞いてあたしはやっと理解した。
あの馬鹿(真備)だと――
「凪!!」
「ナギちゃん!!」
「ナギリン!!」
そして、真備に続くように3人の男女が顔を出し、思い思いの呼び方で、あたしを叫び呼ぶ。あたしはその顔を見た瞬間、何を言っていいか分からなくなった。
――なんで、みんないるのかは分からない。だけど…嬉しかった。
こんなあたしにも、まだ心配してくれる親友がいるということが、何よりも嬉しかった…。
あたしは…まだまだ闘える。いや、闘うんだ。誰よりもみんなのために――
`
作「はい!!今回は前回の続き!!ラジオ放送風あとがき後編をお届けしまぁあああああす!!」
刹「…まだ続くのか」
作「じゃあさっそく今回のコーナーいきまーす【不知火日向の問題nothing】!!」
輝「あはは〜♪カオスはどこまでも続きますね〜♪」
作「このコーナーは日向に対する質問を日向本人が一言で答えてくれるコーナーで〜す」
日「問題nothingだぜ!!」
刹「凪といい日向といいどこから出て来くるんだよ?」
作「では、さっそくお便りいきたいと思います。ペンネーム【天然娘】からのお便りです――
ヒナ君。昔の事を忘れられないのは分かるけど…無理してない?キツかったら…いつでも相談乗るから…ね?私はいつでもヒナ君の味方だから…
――だそうです」
輝&刹『『重ぉおおおおおおおおおおおおい!!!???』』
刹「何これ!?さっきまでの気楽な雰囲気はどこ行ったの!?」
輝「というよりヒナタンの過去にいったい何が…!?」
作「では、日向さん質問の答えを一言でお願いします!!ではどうぞ!!」
日「問題nothingだぜ!!」
輝&刹『『軽ぅううううううううううううい!!!???』』
輝「ヒナタン!!その一言で済ませちゃったらいろいろまずいよ〜!!特にあなたのすぐ近くの幼なじみとの人間関係が!?」
刹「そうだぞ日向!!考え直せ!!」
日「問題nothingだぜ!!」
輝&刹『『………』』
作「さて、ラジオ放送風あとがき。いかがでしたか?名残惜しいですが今日はここまで〜それじゃあみなさん。バイバーイ!!ついでに次回予告。
屋上に駆ける日向達。だが、その前に現れたのは死神だった。
その右手に持つのは死神の武器。それは――
次回【死神の魂狩】」
日「問題nothingだぜ!!」
追伸・この放送を聴いてた知恵理がショックを受けて一週間、日向と口をきかなくなった。だがしかし――
実は放送の日向は録音機とハリボテだと判明。翌日、作者は日向と凪に折檻されました…。
次回に続く!!