第17話 時の番人
二日目の始まりです。
レリエルside
――キ―――ッ…
深夜の洋館。日向達と別れた俺と刹那は不気味な雰囲気のここの大広間に入りました。
大広間に入った俺達の目には大きな大理石の机が1つ――そして数個の椅子が見えました。
そしてその中の1つ。一番奥にある椅子に腰掛ける男を俺は見据えました。
「水城。只今戻りました」
「おう!!帰ったぜ!!水城!!」
その男――“時雨水城”は俺と刹那の言葉に、長い黒髪をたくしあげて額に手を置きます。
これは、水城が呆れたときにする定番のポーズ。すみません。少し軽率な言葉でしたね…。
「……お前ら、もう少し危機感を持って帰ってこい」
水城は相も変わらず無表情な顔で俺達に言葉を返します。
そして、そんな水城の言葉を聞いて口出ししたのは目の前で駄々っ子のように頬を膨らました美少女、刹那でした。
「え〜別にいいじゃん!!危機感を覚えることは何もなかったし〜!!」
刹那。水城が言いたいのはそう言うことじゃないと思いますよ?まぁ、不器用な水城の言葉使いにも問題がありますけどね…。
それに、実際には俺もあなたも死にかけましたよね刹那?俺は思わず苦笑いを浮かべてしまいます。
そのとき、俺は水城の目が怪しく光ったように感じました。やはり水城の目は誤魔化せませんでしたか。
「……刹那。腹はどうした?」
「っ!?」
的確すぎる水城の指摘に刹那の顔が驚きで見開かれます。
そして咄嗟に白い包帯で捲かれたお腹を隠すように両手を回した刹那は少し罰の悪そうに呟きました。
「…凪に斬られた」
その言葉を聞いた水城は一瞬だけ目を瞑りましたが、再び開けたときにはいつもの無表情で冷徹な顔を崩すことなく刹那を見ました。
ですが少しするとまるで興味がなくなったのか一度顔を伏せ再度俺の方に目を向け言葉を出しました。
「……まぁいい。それより報告をしろ」
「はい」
そして俺は水城の言葉にほっとしている刹那を横目に今夜の報告を始めます。
全ては俺自身に与えられた任務のため。そして、誰よりも日向達のため、知恵理のために――
「まず最初に、俺も刹那も無事に“ノルマ”を達成させることに成功しました。日向、凪、真備の3人は無事能力者として目覚めました」
「………」
水城は俺の報告に表情を崩すことなく聞き入ります。
この場にいる2人の幹部も同様に俺の報告に耳を傾けていました。
「双方の損傷は軽少。後々あまり問題ありませんが後で“日向達も含めて”医療局局長の【ゲイル】さんに治療をお願いしたいです」
「……ゲイル?」
俺の言葉の後すぐに水城は右側の席に座る1人の男性幹部に声をかけました。
その男性幹部の特徴は金髪で年は20代半ばくらい。そして無駄な筋肉がなく引き締まった体を持つこの組織で俺が最も信頼する御仁の【ゲイル】さん。
ゲイルさんは水城の言葉にゆっくり頷きます。
「ワカリマシタ」
時の番人の中で1番フレンドリーなこの人は普段は陽気そうな片言の声で話しますが、今は真剣な片言の言葉を出しました。
俺はそんなゲイルさんの言葉を聞いて、この部屋にある少し穏やかな空気に安心しつつ、言葉を続けました。
「…日向は別格としても、真備。凪の2人もなかなかの能力の持ち主でした。やはり羽前家の出身者なだけはあると思います。…ですが、水城。ちょっとしたイレギュラーが起こりました…」
「……イレギュラー?」
俺は水城、ゲイルさん、そしてもう1人の幹部である技術開発局局長のデモンさんの顔を見渡し――報告しました。
今回の1番大きな手土産を――
「では報告します…真備が“協調”するのを確認しました」
『『……!!』』
少し溜めてからの俺の言葉にゲイルさん、デモンさんの目が見開きます。水城も無表情のままとはいえ、どうやら驚いているみたいです。
それほどまでにこれは驚きでありイレギュラーな出来事だったのです。
「……確かなのか?」
俺の言葉が信じられないのか今度は刹那のほうを向いて水城は確認をとります。そして水城と目を合わせた刹那は俺の言葉が事実であるという証明として黙って頷きました。
「………」
そして再び黙ってこちらを見てくる水城。ですが、その瞳にはもっと詳しく説明しろと書かれています。
そんな水城の瞳に応えるため、俺はさらに詳しく説明をするために口を開きました。
「改めて報告させていただきます。俺と刹那はこのことを2人共確認しました。真備の魂狩“雷神”に雷がまといそれを自在に操っているのも確かにこの目で確認し確信も持っています。俺は少なくともAランク(上級)の能力…結論を言うと、彼は魂狩の扱いに関することの【天才】だと俺は考えます」
――ゴトリ…
俺のその言葉を聞いた瞬間、水城は椅子から立ち上がり大広間の扉に向かいます。
気のせいかいつもは無表情な彼の顔に少し笑みが浮かんでいるようにも見えました。
――まぁ…それはありませんか。
水城は普段からいつも一緒にいる刹那にすらあまり表情を見せない人間。
おそらく水城の醸し出す雰囲気が俺をそう感じさせたのでしょう。
「水城?」
刹那の呟きに水城は扉の前で振り返ると――
「……計画を早める」
そう呟いて自らがいつも着ている死神を思わせる漆黒のコートをなびかせながら自らの体を深く隠すようにコートの紐を堅く結びなおしました。
俺はそれが意味することを一瞬で読み取り言葉をかけます。
「あなたのノルマですね」
「……あぁ」
俺の言葉に水城はそう一言だけ応えると、コクリと頷きました。その言葉に俺は悟ります。明日は俺にとって――そして日向達にとって大変な日になることを…。
どうやら水城は明日行くつもりなのですね。
学校…【桜時学園】に。
でしたら明日の俺は水城の案内役ということになりますね。
まったく…やれやれです。明日は眠いという理由で学校を休むわけにはいかないようですね。
俺は水城の気まぐれに
大きくため息を吐き出しました。
「ゲイルさん。明日早くに学校にいかなけばいけなくなりました。治療を早くお願いします。…早く帰って寝たいです」
現在深夜一時。寝不足の顔を日向達に見せて疑われるわけにはいけませんからね。
「 I see…ワカリマシタ。“レリエル”」
ゲイルさんの優しい声に俺は安心して体を預けました。
「デハ…」
「お願いします。ゲイルさん。いえ…ゲイル先生」
そしてゲイル先生は彼自身の手から出される温かい光を俺に当てるのでした。
温かい…まるで、俺を包み込むような光。その光の前に俺の傷はみるみる塞がっていきました――
日向side(翌朝)
「眠い…まったく寝たりない…問題nothingじゃねーよコンチクショー…」
ムカつくくらい清々しく、気持ちがいい朝。登校途中の俺は欠伸を隠すことなくそう呟いた。
実際ただでさえ低血圧な俺には睡眠時間5時間はかなりきつい。隣に知恵理がいなかったら、そのまま、歩いたまま寝そうな勢いである。
その証拠に、片目は自分の力では開けないし、今朝も鏡を見たら目の下にうっすらと隈もできていた。
ちなみに言わせていただくと――
「俺の1日の平均睡眠時間は14時間だ」
「…ヒナ君。いきなりどうしたの?」
――しまった。寝不足でついつい言葉に出してしまったようだ。
こりゃ冗談抜きにマジでヤバいかもしれない…俺本当に大丈夫か?
「なんでもないよ知恵理」
「そう?」
ことの後始末のために俺は知恵理にそう言うと知恵理はまたしても可愛らしく小首を傾げる仕草で俺を見つめてきた。小首を傾げ、銀色の髪の毛が肩のあたりで柔らかく揺れる。その姿は反則だった。
なんだこいつ…無茶苦茶可愛い。可愛いすぎる…。
「ヒナ君。ただでさえいつも必要以上に寝てるのに…睡眠時間足りてる?」
「あ、あぁ…問題nothing」
俺は知恵理の小首を傾げる姿がツボなのか?とか考えていると、俺の顔の下から俺より背が低い知恵理が覗き込んでくる。
やめろ…やめてくれ。ここで上目遣いとかマジで死ぬ。俺を萌死させる気か貴様…。
このとき、俺は最大の敵は俺の目の前にいるこいつだということを知った。
ちなみに必要“以上”と言ったことは気にしない。だって、誰よりも俺自身が認めていることだからだ。
「そういえばヒナ君“肩”どうだった?」
俺が必死に悶えているとき、俺の顔から目をはずした知恵理がそう言いながら俺の後ろ肩を覗き見る。
解放された…。と心の中で思ったのは内緒だ。
――でも確かに知恵理がそんな興味を持つのは当然である。
俺も俺自身の傷口を朝早くに知恵理に叩き起こされたとき、無意識に触ったが、疑問に思わずにはいられなかった。なぜなら――
「知恵理と同じ。朝起こされた時には傷1つ残ってなかったよ」
そう言って俺は昨日レリエルの放った矢が当たったあたりをポンポンと叩く。
だがそこを叩いても俺はまったく痛みを感じることはない。俺が朝、起きた(起こされた)時には肩口の傷は一切なくなっていたからだ。
「昨日のことが夢だったら良かったのにな…」
「うん。でも実際は違よヒナ君…。あれは間違いなく現実だったよ」
知恵理の言葉に俺は相槌をうつ。朝、傷がないことを知った俺は確かめる方法を探した。そして、1つだけ心当たりがあった。
――――【魂狩】――――
――(ソウルテイカー)――
それは昨夜知ったと思われる俺の魂の姿。もしかしたら昨夜のことは夢かもしれないと思った俺は、それを発動させることでそれを確かめようとした。だがしかし――
《…来い【紅翼】》
――そしてその結果。
気付いたときには、俺の右手には銀色に輝く刃が握られていた。その刃は俺の淡い期待を裏切ってくれた証拠であった。
形がないほど粉々に――
「とりあえず学校に行って真備と凪に確認しないとな。あと輝喜にも…」
「コウ君?」
輝喜の名前を出すと知恵理は再び小首を傾げる仕草をする。なぜここで輝喜の名前を出したのか?
それは俺には確かな確信と疑惑があったからだ。だけど、何より――輝喜が心配だったからである。
輝喜は――あいつは俺達と似通った存在だから、もしかしたら俺達と同じかもしれない。
なぜならあいつは――
「知恵理。輝喜の運動神経は俺達並み動体視力と握力は俺達の中じゃ随一だ。これが意味すること…分かるか?」
俺達と似通った存在。つまり“驚異的運動能力”を輝喜は持っているということ。これはあることを指し示していた。
知恵理は考えるような仕草を見せるが一時すると苦笑いをして見せる。まぁ天然娘にはちょっときつかったかな…。
俺は一度深く溜め息を吐くと知恵理にも分かるように独り言のように呟いた。
「…能力者であるための第2条件“驚異的運動能力”」
「…あ!!」
どうやら気づいたみたいだな。
「そうだ。輝喜は能力者である確率が高い。下手をすると昨日のうちにレリエル達の仲間の1人が接触してるかもしれないということだ」
俺の言葉に知恵理は肩を震わし顔をうつ伏せてしまう。両手で自分の肩を抱く知恵理。たぶん昨日のことを思い出してるのだろう。
そんな知恵理の姿に俺は安心させる意味も込めて知恵理の髪をそっと撫でる。彼女に触れるとき、そのとき俺は一番優しい俺になれるのだ。
「…大丈夫。大丈夫だよ知恵理。あのレリエルだぜ?刹那だって、あんなにいい子だったんだ。もし輝喜があいつらの誰かに出会っていたとしてもきっと大丈夫だよ」
「…ヒナ君」
どこか清々しい顔で俺の手を取る知恵理。その仕草に俺は知恵理の意図をすぐに読み解いた。
「あぁ。じゃあまた遅刻ギリギリみたいだし、早く学校に行くか!!」
「うん!!」
俺の言葉に元気よく応える知恵理。その笑顔を見た俺は繋がれた手をギュッと握りしめると一気に学校に向かって駆け出すのだった。
俺の親友達。そしてこれから俺達と大きく関わりを持つことになるあの2人――
“堕天使”と“死神”が待つ学園へと――
`
作「今日は海の日〜(これは2010年7月19日の投稿作品です)」
凪「そうね〜あたしも早く海に行きたいわ」
知「うん!!私も今年は海に行きたい!!ね?ヒナ君!!」
日「……」
膝を抱え込み部屋の隅で暗くなっている日向。
日「ヒナ君?」
凪「…あんた。一体どうしたのよ?」
ヒ「…………………………………へ?いいいいや!?ななな何でもないぞ!?」
知「…本当に?」
ヒ「も…も…問題nothingだ!!」
凪&作『『嘘だろ(でしょ)?』』
日「な…何のことだよ?」
凪「あんた動揺しすぎよ?いったいどうしたっていうのよ?」
日「も…問題notillageだ」
知「…ヒナ君。動揺しすぎてnothngの綴りが間違ってるよ??」
凪「それじゃ【問題ない】じゃなくて【無農薬問題】になるじゃない?その年でボケが始まったんじゃない?」
日「…はて?凪ばぁさんや、儂は誰じゃったかのぅ?」
凪「本当にボケんじゃないわよ!?ていうか誰がばぁさんよ!?」
知「………あ!!」
日「(ピクッ!!)」
突然の知恵理の閃きに日向がビクつく。
凪「…??…どうしたのよ知恵理??」
日「ブンブン…!!ブンブン…!!ブンブン…!!」
必死に×だと知恵理に訴える日向。
知「…あれ。ヒナ君?」
知(どうしたんだろヒナ君?あんなに必死に…そうか!!ヒナ君の唯一の弱点だからみんなにも知って貰って弱点克服したいんだね!!分かったよヒナ君!!)
日(なんでだろう…。寒気が止まらない。知恵理のやつ何か勘違いしてないか?まさか“あれ”をあかす気じゃないよな…。止めてくれ!!それだけは絶対!!)
知「うん分かったよ。ナギちゃん。実はヒナ君はね――」
作「いいところなんですけどここで次回予告。次回の時の秒針は――
学園に来る日向と知恵理は真備と輝喜、悶と出会う。一方そのころ凪は悩んでいた。
屋上で1人膝を抱える凪。そんな彼女の前にあの人物が現れる…。
次回【雨滴る死神の男】」
日「問題nothng…じゃねーよ!!何喋ろうとしてんだ知恵理ぃいいいいい!!」
知「はぇ?ヒナ君。どうしたの??分かった!!ヒナ君の弱点をみんなに知られるのが恥ずかしいんだね!!」
凪「なんですって!!日向の弱点!!それはぜひとも聞きたいわね!!」
日「間違ってない!!間違ってないけどなんか間違ってる!!」
次回に続く!!