第11話 美しき雪化粧
二人に近づく影・・・
真備side
「ぐすっ…ぐすっ…」
あれからどれくらいたったかはわからない。そんな長い間俺はナギねぇを抱きしめ続けていた。
でも、辺りもだいぶ闇に染まってきたときナギねえはだいぶ落ち着いてきたようだ。
まだ俺の胸の中で涙を流してるけど、もうそろそろ終わると思う。
「ぐすっ…真備?」
「…なんだ?ナギねえ?」
「…ありがとう」
ふぅ…まったく。ナギねえがこんなに素直に謝るなんていつ以来かな…?
やべー覚えてねぇ…。
「真備…本当にありがとう。もう大丈夫よ…」
――まぁいっか。
俺はナギねえの言葉に反応してナギねえを抱きしめる手を離す。だがその瞬間。
――ドゴッ!!!!!
「ぐはっ!!」
俺は激しい痛みを腹に感じるのだった。なんだ?何が起こったんだ?
あまりの痛さに思わず膝を付いてしまう。俺は一瞬にして頭がこんがらがってしまっていた。
だがそのとき腹を抱えるように地面に丸々俺の目の前に俺を見下ろすかのように仁王立ちする影が現れる。見たことある影だった。
というよりこの影の正体は俺がさっきまで抱きしめていた――
「あんたがあたしを励まそうなんて100年早いのよ!!」
「……【姉貴】……」
その衝撃の正体はナギねえ――いや。姉貴が繰り出した激しいボディーブローをだった。何で俺がこんな目に…?俺はその痛みに耐えながらフラフラの状態で立ち上がる。そしてそんな腹を抱えて少しだけ屈んだ状態の俺よりさらに小さい彼女を思いっきり睨みつけた。
「姉貴…テメー!!いったい何しやがる!!」
「あら?そんなことも分かんないの?あたしなりのお礼に決まってんでしょ!!」
――えぇええええええ!?それってものすっごく…。
「理不尽だあぁああああああああああああああ!!!」
俺の心の底からの叫び声は俺達がいる森全体に響き渡った。でも俺は後悔なんてしてない。こんな理不尽な扱いでも、これが俺と姉貴との普段のコミュニケーションだからだ。その証拠に――
「…まったく。あんたがあたしを抱き締めるなんてどれだけおこがましいことか分かってんの?」
…こんな風に口では文句を言っている姉貴。だがその文句を言っている口元はうれしそうに笑っていた。
「うっせーなクソ姉貴。だいたい俺はロリには興味ねーんだよ。バーカバーカ」
だから俺も口ではこんな風に姉貴の悪口を言いまくる。だが内心では、誰よりも姉貴のことを心配していこうと思う。
「はぁ?ちょっと馬鹿弟。あんた今なんて言った?誰がロリですって?」
「あれ?聞こえなかったクソ姉貴。俺の。目の前にいる。俺の。双子の。クソ姉貴。のことをロリて言ったんだよ」
「うっさいわね!?一々言葉を切って強調すんな!?目障りよ!?」
「あら?姉貴のやつどこ行ったんだ?おーい!!姉貴ー!!子供みたいに迷子にでもなったかー?」
「いい度胸してんじゃない真備。あんたそんなにあたしの跳び蹴りがくらいたいわけ?え゛ぇ?」
「あれ?さっきからどうしたんだこの小学生。もしもし君〜迷子でちゅか〜?」
「きいぃいいい!!殺す!!絶対に殺す!!そこになおりなさい真備いぃいいいい!?」
「ハッハッハッー!!そんなこと言われてなおるやつがいるかよ!!バーカバーカ!!」
「殺す!!絶対殺すうぅうううううううう!!!!!!!!」
「ここまでおいで〜。ハッハッハッハッハッハッハッハッハッー!!」
鬼の形相で追いかけてくる姉貴に俺は颯爽と笑いながら駆け出す。だけど今回"も"俺は姉貴の追跡から逃れるつもりはない。
なんせ。姉貴がこんなに夜がふけって暗くなってから笑みをこぼすのはこれが始めてだからな…。
俺はそのことをうれしく思っていた。だから俺はその雰囲気を壊さないためにあえて道化を演じる。それが俺の行く我道だから――
「はぁ…さて。久々に思いっきり泣いて思いっきり笑ったしとっとと家に帰るわよ!!馬鹿弟!!」
あれから数分。俺達は走りまくった。その間に俺はボディーブローをくらったり、跳び蹴りをくらったり、スリパーホールドされたりといろいろあったが…まぁよしとするか。
「ちぇ。わぁーたよ」
俺はしぶしぶといった具合でそう言う。でもここまで清々しい気持ちは久しぶりだ。
日向と知恵理に会うまでは毎日が地獄だった。毎日毎日…昼には学校で虐められ、夜には姉貴の苦しむ姿を見る。そんな毎日だった。だが日向達に会ったあとも夜は地獄だった。
姉貴と俺は夕方まで日向達とぐったりするまで遊びまくる。だが夕方、日向達と別れたあとはまたあの地獄に苛まれる【予知夢】という名前の地獄から…。
だが、今日は違った。こんなに夜に気持ちがいいのは久々――いや。初めてかもしれない。
このまま進めばどれだけよかったか。このまま終わればどれだけよかったか。だが【運命】の鎖は俺達を逃がすことはなかった――
「いい関係だな…」
その声はまるで闇夜に響く鈴の音のようだった…。
凪side
「…誰?」
唐突に響いてきた鈴の音のような綺麗なソプラノの声。あたしはその綺麗なソプラノの声を放った人影を追う…。
そしてその声に合わせるようにして1人の少女が木の影から姿を現した。
綺麗な子だ――彼女を見た最初の感想は【綺麗】ただそれだけだった。
ポニーテールにくくりあげられた水色の長い髪。蒼いサファイヤのような瞳。そして月明かりを受けて青白く発光する白い肌――さらにそれを全て凌駕する繊細で整った顔立ち。
まさしく美少女だ。
余談だがあたしの周りにはなぜか美形が集まっている。
日向や知恵理。輝喜はともかくとして真備だってスポーツマンのような爽やかな所が印象的な美形の少年だ。
そして、かくうえあたしも背が低いとはいえ…整った顔立ちだと自覚している。
だけどそんなあたしでもこの子は綺麗に感じる。いや。綺麗すぎるのだ。
それほどまでに完璧な存在だった――
「姉弟愛か…俺が一番欲しかったものだな…」
そう呟くように言うと少女はこっちを向いた。
「はじめまして。時の番人に所属する能力者の1人【刹那】と言います!!よろしく!!」
ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべながら、その可憐な体のどこから出すの…?そう思えるくらいに元気な声でハキハキとした紹介文だった。その元気よさはまるで子供のように感じる。
「はぁ…刹那…さん?ですか?」
「刹那です」
あたしが情景反射で返した名前に少女はかんぱついれず応える。
どうやら名前の呼び捨てをご所望のようだ。
「…刹那?」
「よし!!OK!!」
あたしが再び名前の呼び捨てで呼ぶと刹那と名乗った彼女はそう切り返した。どうやら正解だったようね…。
「…で?クロノスか能力者か何か知らないけど俺達になんか用か?」
そのときここまでずっと黙ってた真備が声を出す。どこか警戒心があるそんな声。
だが真備の問いに返ってきた言葉はあたし達にとってかなり衝撃的なものだった。
「いえ。ただちょっと――」
刹那がそこまで言ったとき彼女の目が一気に鋭くなった。気づけばさっきまでのフレンドリーな雰囲気はなくなりあたし達ですら寒気を感じるほどの殺気がほとばしる…。
「――襲いにきました」
その言葉にあたし達は耳を疑った。
「…知ってるか?中国では俺みたいな雪を操る少女のことを雪の女神【青女】と呼ぶんだぜ?そして彼女が起こす雪害を…人々は悪魔のような雪【白魔】と呼ぶんだ…」
すると刹那は右手と左手を手のひらを上に向けた状態で前に差し出した。
「…来い【雪化粧】」
――ヒュオォオオオオ!!!!
その瞬間。刹那の周りはまるで暴風雪のようにまいあがり。一瞬にして凍てついた。そしてその嵐が去ったとき。彼女の差し出された両手には一枚の布が乗っていたのだった…。
「羽衣の魂狩【雪化粧】」
これがあたしの忘れられない夜の始まりだった。
`
日「…こんにちは。本日も始まりました桜時ステーション。アナウンサーの不知火日向です」
輝「同じく美濃輝喜です」
日「本日は知恵理アナウンサーが風邪で休みということなのでこの2人で進めていこうと思います」
備「よろしくお願いします♪」
日「さて。では本日最初のニュースです。
【やっぱり近親相姦?怪しい双子の関係!?】
最近学校で噂になっている双子の姉弟【羽前真備】と【羽前凪】が学校帰り抱きしめあっていたのが目撃されました」
輝「学校でも人気が高い2人。その2人の大スクープなのか?それではどうぞ――」
凪&真『『って!?おーい!!』』
日「ちっ。何だようっさいな近親相姦カップル。今ニュース流してんの分かる?ニュース!?」
凪「知らないわよ!?だいたい何!?この【報道ステー○ョン】みたいなセットは!?」
輝「前に知恵理が言ってたじゃないですか?ここは異次元みたいなものだから何でもありなんですよ?」
日「そういうことだ。だからお前らは気にせずラブラブしてこい。そうしないとスクープにならないんだからな」
凪&真『『そんな事実はないわあぁああああああああああああああ!!!!!』』
作「はい。何か知らない展開ですが次回予告行きます。時の秒針。次回は――
突如現れた謎の少女刹那。彼女と雪化粧の力を目の当たりにした真備と凪。
そんな2人はついに羽前家に隠された力を使う決意をする。
次回【羽前家の秘密】」
日「問題nothingだぜ!!」
日「だ〜か〜ら〜!!もっと近づけよ!!ラブラブしろよ!!じゃないとスクープにならないの?分かる?」
真「知るかボケ!?なんで俺が姉貴とラブラブしなきゃいけないんだよ!?俺はロリコンじゃねーよ!?」
凪「何よ!?あたしだって誰がこんな馬鹿弟とラブラブしなきゃいけないのよ!?虫ずが走るわ!?」
真&凪『『上等だ(じゃない)!!面にでろやあぁああああああああああ!!??』』
日&輝『『…仲いいな』』
次回に続く!!