眠たい授業
三題噺もどき―はっぴゃくじゅうご。
ガタガタと窓が震える。
かなりの強風が吹いているのか、塀沿いに植えられた木々はほとんど傾いているようにすら見える。少し離れた位置にある店の前に置かれていた旗は、店主が気を利かせたのか倒されていた。片付ければいいのに。
「……」
教室内は暖房が効いているので温かいが、外はとても寒い。
天気はいいのだけど……陽は照っているし、日向はきっと暖かいのだろう。
だけど全てをかき消すこの強風の中では日向の暖かさなんてものはないに等しい。
「……」
つい先ほどまで、体育の授業で外にいたから寒さは分かる。
あまりにも寒かったので、教師を恨みそうになった。
ジャージを履いても変わらない寒さの中で、どうして嫌いな体育をしないといけないのだろう。当の本人、教師は、それはもう暖かそうな上着を着ていたが。……あの人そういえばサッカー部の顧問だったな。
「……」
まぁ、そのおかげというか。
体育の後、この教室の温い暖かさ。
そして、つまらない授業。
「……」
そりゃまぁ。
寝る人が続出するわけだ。
「……」
此度の授業の教師は、寝ている人を容赦なく叩く人なので。
それはもう、必死に起きているようだけど。太ももを抓ったり、手の甲を抓ったり、なんとか目を開けていようと頑張っている姿がちょこちょこ見える。
それでも、限界を迎えた人が次々と叩き起こされている。
ほら。今だって、目の前で落ちた生徒の頭をポカリと。そんな事したら今のご時世叩かれるのは教師側だが。
「……」
まるで私は余裕のように言っているが。割と限界が来ている。
何せこの授業つまらないことこの上ない。
教師がそもそも嫌いなこともあるし、聞く気にもなれない。
それでも別にテストの点数は悪くないので、聞く必要あるかという感じだ。
「……、」
まぁでも、無意識に唇を噛む癖があるので、その痛みのおかげで起きていられる。
マスクをしているから気づかれないことをこれ幸いと。
下唇をわざと犬歯で噛むような真似をしている。
「……」
いつからついた癖なのか分からないのだけど。
そのうち切れる事があって、血の匂いが口内に広がるから気分が悪くなることもある。
自業自得でしかないので何とも言えないのだけど。
多分、ちょっとした好奇心の結果なのだと思う。それにストレスなんてものが重なって癖になったんだろう。
リストカットするよりはマシだろう。
「……」
あぁまた、叩かれてる。
アイツは何度叩かれても寝て起きてを繰り返すよな……おかげで授業が進まないし、周りはここぞとばかりに寝る。
教師がそこに集中するから。
「……、――」
――危ない。あくびが出るところだった。
なんとか噛み殺して、集中できない授業から意識をそらす。
授業に集中しろと言う感じだが、その方が眠くなるのだから仕方がない。
ぼうっと、外を眺め、ふと、花の植えられた花壇に目が行く。
「……」
ひらひらと何かが風に流されるように飛んでいた。
初めは花がそう見えただけかと思ったが、蝶々がいたようだ。
ここから……ここは一応2階だ……見えるくらいの大きさだから、相当なモノだろう。種類までは分からないが、しかしこの時期に蝶が飛んでいるのだろうか。
「……」
不思議に思いながらも、眺めていると。
その花壇のすぐ横にある、正門の近くに見知った顔があった。
「……、」
ぞろぞろと集団で歩いていても、眼を引くような存在感がある。
あの子は、気づいたのか、大きく腕を振る。
こちらはそうとはいかないので、小さく、ひらひらと手を振る。
ジャージを着ていたので、おそらく体育の授業だったのだろう。
……かなり寒いのか、隣の女子の手に絡みついている。
「……」
早めに切り上げて教室に着替えに戻るところだろう。
どうやら、もう授業も終わる時間のようだ。
お題:蝶々・太もも・噛む




