変態が恋した瞬間、世界が変わった
放課後の廊下。
いつものように亮は、
七海の胸をチラチラ見ていたことで春人に絞められ、
レイに呆れられ、
春乃に「最低」と言われていた。
そんな日常の中。
──亮は見た。
転校してきたばかりの女子生徒。
ふわりと揺れる黒髪。
赤縁のメガネ。
静かで、でも綺麗な目。
そして、落とした本を抱え込むように拾う姿。
「……あ、ありがと……」
亮に向けられた、控えめな微笑み。
その瞬間。
ドクン、と亮の心臓が跳ねた。
亮「……え……?」
頭が真っ白になった。
足が勝手に固まる。
胸が痛い。
視界の端で、彼女が歩き去っていく。
亮はただ、呆然と呟いた。
「……やっべ……
これ……マジのやつだ……」
こうして。
エロいだけが取り柄だった男に——
人生初の“本気の恋”が落ちた。
亮は部室へ戻るなり、机に突っ伏した。
レイ「珍しいね。亮が静かなんて」
七海「今日なんか変だったよ?」
春乃「どうせエロいこと考えてるんでしょ」
春人「……亮、何やった?」
亮「……俺……
人生で初めて……胸じゃないところ見て……
好きになった……」
全員「!?!?!?」
七海「胸じゃないって言う必要ある!?」
春人「亮が……本気の恋……?」
レイ「あの変態の……?」
春乃「人って成長するんだね……」
亮「なんだその目!!
俺だって恋くらいする!!」
レイ「相手は?」
亮は照れながら呟いた。
「転校生の……
山城 瑠璃さん……
なんか……すげぇ可愛くて……
笑うとき、ちょっとだけ目が下がるの……
反則……」
春乃「亮が……純情になってる……!」
七海「これはレアだね……!」
春人「……おいレイ、研究開始だ」
レイ「了解。
研究テーマ:
『変態が本気で恋した時、人はどう変わるのか?』」
亮「頼むから研究すんな!!!!!」
翌日の昼休み。
亮は瑠璃を見つけたが、
近づけずに物陰から見守っていた。
亮(やべえ……
名前呼ぶとか……無理じゃね……?
なんで手汗すごいの……?
俺どうしちゃったの……?)
春乃「なにストーカーみたいに覗いてんのよ」
亮「違う!! 違うけど……近づけねぇ……」
晴「亮くんが緊張してる……!」
七海「初めて見るかも……」
亮は深呼吸して、震える声で言った。
「……俺……
本気で大事にしたいんだよ……
今までみたいに、軽いノリで話したくない……
変に思われたら……嫌われたら……
無理……」
春乃は一瞬、黙った。
そして小さな声で言う。
「……亮がそんなふうに思えるって……
多分、本気なんだと思う」
亮「春乃……」
春乃「……だから……頑張りなよ」
亮は少しだけ涙ぐんだ。
「お前……優しいな……!!」
春乃「泣くな!!」
放課後。
瑠璃が図書室にいるのを見つけた亮は、
深呼吸をして、近づいていく。
心臓は爆音。
手は震えっぱなし。
亮「……あ、あのっ……!」
瑠璃「ん?」
亮「き、昨日……落とした本……拾った、亮……です……!」
瑠璃「あぁ……覚えてる。ありがとうね。
あなた……優しい人なんだね」
亮「っ……!!!」
その言葉だけで頭の中が真っ白になった。
亮「ち、ちが……優しくは……
いや優しいけど……違くて……その……!」
瑠璃はくすっと笑う。
「緊張してるの?」
「……すっっげぇしてる……」
瑠璃の目が優しく揺れた。
「……私、転校してきたばかりで……
まだ友達少ないから……
また話してくれたら……嬉しいな」
亮「……!!!!!
……ま、また……!
話す……!!!
全然話す!!!!!」
瑠璃は小さく笑顔をこぼした。
その笑顔は、
亮にとって“初めて胸以外に刺さった”笑顔だった。
帰り道。
亮は走って罰ゲーム同好会に飛び込んだ。
「おい!!
俺!!
今日ちゃんと話せた!!!!!」
全員「おおおおおお!!!!!」
春乃「亮……本当に嬉しそう……」
七海「よかったねぇ……!」
晴「亮くん……応援するよ!」
春人「亮。お前……
本当に変わったな」
亮は照れくさく笑った。
「……変わるよそりゃ……
本気で……好きになったんだもん……」
レイは微笑む。
「亮くんが“恋する時の顔”、
初めて見たよ」
亮「うるせぇよ……
でも……ありがとな、みんな」
こうして。
変態だった亮は、初めて“恋する男”になった。
その恋はまだ始まったばかり。
だけど確かに、
亮の心を本気で変えていた。




