泣きながらでも言わなきゃいけない本音がある!
放課後の屋上。
風が強い日だった。
そこにいたのは、
フェンスにもたれてひとりで泣いている 春乃(ツンデレ妹) の姿。
「春乃……?」
声をかけると、春乃はびくっと肩を震わせ、
慌てて袖で涙を拭った。
「べ、別に泣いてなんかないし!!
……風で目がしみただけで……」
隠そうとしているのに、声が震えていた。
俺はそっと隣に立つ。
しばらく黙っていると、春乃がぽつりとつぶやいた。
「……兄貴が、七海さんと付き合ってからさ。
なんか、私……変なんだよ」
「変って?」
春乃は胸を押さえて、苦しそうに続けた。
「兄貴が誰かに笑ってるの見ると……胸がキュってなる。
置いていかれるみたいで、怖くなる。
……でも、だからって兄貴の幸せ邪魔したくもないし……」
涙がぽたぽた落ちる。
春乃はずっと、家族である俺と“距離が変わっていくこと”が怖かったのだ。
「……ごめんね兄貴。
私、兄貴の一番でいたかっただけなの……
家族じゃない誰かに兄貴を取られるの、怖かった……」
春乃が泣いている。
初めて見る、妹の“むき出しの本音”だった。
俺はそっと頭に手を置いた。
「春乃。
兄妹の距離は変わらないよ。
変わったりしない」
「……でも」
「俺にとってお前は、ずっと特別だ。
七海ができても、それは変わらない」
春乃は泣きじゃくりながら、服をぎゅっと掴んだ。
「……やだよ。
兄貴が遠くに行くみたいで……
ほんとは、ずっとそばにいてほしいよ……!」
泣き声が風に溶けていく。
そのとき──
屋上の扉が、そっと開いた。
「……ごめんね、春乃ちゃん。
聞こえちゃってた」
七海が静かに近づいてきた。
その表情は優しくて、どこか切なかった。
春乃は一瞬びくっとしたが、七海は微笑む。
「春乃ちゃん。
あなたが春人のこと大切に思ってる気持ち、嬉しいよ」
七海はしゃがみ、春乃の目線に合わせて言った。
「春乃ちゃんが泣くのは、
兄妹の距離が変わるのが怖いからでしょ?」
春乃は小さくうなずく。
七海はそっと春乃の手を取り、
「大丈夫。
春人くんは――
“誰か一人だけ”が全部になるような人じゃないよ」
風が止まる。
七海は続けた。
「あなたの涙を見て、わかったの。
春人くんの世界には、
家族も、友達も、恋人も、全部大事にできる余白がある」
「……七海さん」
「だからね春乃ちゃん。
あなたが春人くんの大切な一人であることは、
恋人ができても絶対に消えない。
私が保証する」
春乃の涙がまたこぼれた。
七海はぎゅっと春乃を抱き寄せた。
「泣いていいんだよ。
“誰かを失うのが怖い”って思えるのは、
それだけその人を愛してる証だから」
春乃は、七海の胸の中で声を詰まらせた。
「……七海さん。
私、兄貴が大好きなの。
恋愛とかじゃなくて……
ずっと支えてくれた家族として……
ずっとそばにいたくて……」
「うん。わかってるよ」
七海はやさしく笑った。
「春乃ちゃんのその気持ち、
私も一緒に守らせて?
だって私も――
春人くんの周りにいる人たちを、大切にしたいから」
その瞬間、春乃の表情がぐしゃっと崩れた。
「……ずるいよ……そんな言い方……
そんなの、嫌いになれないじゃん……!」
「うん。嫌いにならなくていいよ。
むしろ、仲良くしよ?」
春乃は七海に抱きしめられたまま、小さくうなずいた。
そして俺は、そんな2人を見て胸が熱くなる。
この瞬間、理解した。
“恋人”と“家族”は奪い合うものじゃない。
大事な人が増えるほど、
俺自身も広がっていく。
春乃の涙が落ちた場所に、
七海の手が重なり、
その上に俺が手を添える。
三人の手が重なった。
七海がそっと言った。
「春人くんを好きでいてくれて、ありがとう」
春乃は涙の中で、初めて七海に微笑んだ。
「……うん。
……兄貴のこと、よろしくね」
七海は強く抱きしめ返す。
その光景は、
夕陽に照らされて宝石みたいに輝いていた。
「ねえ春人。
人ってね――
“誰かを奪われる”んじゃなくて、
“誰かを増やしていく”生き物なんだよ」
その言葉が
胸に深く、静かに刺さった。
七海は続ける。
「あなたが大切にしている人は、
私も大切にしたい。
それが“好きになる”ってことなんでしょ?」
俺は七海の手を握り返し、言った。
「……ありがとう。
本当に、ありがとう」
夕陽が沈む頃。
俺たちはようやく、
“家族・恋人・仲間”という
新しい形の絆を手に入れた。
そして――
ここから物語は、本当の意味で始まっていく。




