第五話 喫茶店での語らい
野平麻里子さんと会うために僕は新しく洋服を購入した。
クローゼットにあるのは学生時代から着ているよれよれの服ばかりだったからだ。
さすがに初めて会う人にこれらを着ていくのはまずいと思った。
友人の阿良又に頼み、三日前の木曜日の夜にユニクロについてきてもらった。ブランド物なんて手は届かないが、ユニクロならぎり手が出せる。とはいえけっこうな出費にはちがいない。まあ、先行投資だと考えよう。
思えば瑞樹と会うときには服装なんて考えなかったな。そのことに気が付くとなんとなく僕がふられた原因がわかってきた気がする。
でもあの別れ方はないと思うけどね。
阿良又の勧めでネイビー色のセットアップ黒色のセーターを購入した。地味かなと思ったが、僕は身長があるのでシンプルなほうがいいと彼は言った。
いやいや身長があるといっても百七十二センチメートルほどだ。ほぼ男性の平均といっていいだろう。僕は女性のような優し気な阿良又の容貌のほうがうらやましいけどね。お礼に阿良又にはパンケーキをおごった。
さて、いよいよ当日の土曜日となった。
待ち合わせの場所は南海難波駅の改札口をで出てすぐのセブンイレブンにした。それが一番わかりやすいと思ったからだ。
僕は最寄り駅の住吉大社駅から普通難波行きの電車に乗り込む。
まち合わせの時間は午後二時にした。
ランチでもどうかなと思ったけど、初対面の男性といきなり食事というのもハードルが高いだろうと思い、やめておいた。
そのことを阿良又に相談したら、そのほうが良いと彼も賛成してくれた。
思えば、瑞樹の時も阿良又に相談に乗ってもらていれば良かったかもしれない。今更だが、反省点が多く見えてきた。次に生かそうと思う。
難波駅の改札を出て、僕はそれらしい人物を探す。
事前のメッセージでは薄茶色のトレンチコートを着ているとのことだった。
セブンイレブン付近を探すとそれっぽい女性を見つけた。
心臓がドキドキと早くなり、その存在を高らかに証明してくる。油断したら心臓が口からでそうだ。
僕は意を決して野平麻里子さんだと思われる女性に近ずく。
彼女はすらりと背が高くて、亜麻色のロングヘアーをなびかせていた。
近ずくとふんわりといい匂いがする。
柑橘系のさわやかな香りが漂ってくる。
これは香水の匂いだろうか。
「あ、あ、あの……の、野平、ま、麻里子さんですか?」
緊張しすぎて言葉がとぎれとぎれになってしまう。これではまるで不審者ではないか。
「もしかして水樹さんですか?」
その声はまさに鈴が鳴るような美声であった。アイドル声優並みの可愛らしい声だ。
「は、はい。そ、そうです」
緊張しすぎて声が裏返ってしまった。
僕の声を聴いて、野平さんはうふふっと可愛い声で微笑む。
その顔はどんな顔をしているのだろうか?
僕は興味津々で彼女の顔を見た。
だけど彼女の素顔は分からなかった。
野平さんは大きなサングラスをかけていて、白いマスクをつけていた。
だだ、その輪郭は卵型をしているというのだけがわかった。
「ごめんなさいね。私、ひどい花粉症で……」
ぺこりと野平さんは頭をさげる。
その時、僕は見てしまった。
野平さんの胸があまりにも立派なことにだ。
ぺこりと頭を下げたとき、そのメロンのようなたわわな実りがぷるぷると揺れた。
これはとんでもなく魅力的だ。
それに野平さんは背が高かった。
近くによって分かったのだが、僕よりもほんの少し高い。目測だが百七十五センチメートル近くはあるだろう。
高身長のお姉さんか。これは僕の大好物だ。それにメロンのような巨乳だし。
野平さんはまるでエロ漫画のヒロインのようなエッチなボディをしている。
こんなスタイル抜群の人が実在するんだと感動した。
おっと初対面の女性をエロ漫画の登場人物みたいだなんて失礼極まりないな。ごめんなさい。
「あの……私、大阪に来たら行ってみたかったお店があるんですけど。よかったら一緒にいきませんか?」
僕が野平さんのエッチな体を見て、エッチな妄想をしていると彼女はスマートフォンの画面を見せてきた。
僕は野平さんのスマートフ画面を確認する。
画面はグーグルマップであった。
場所はこの近くだ。いわゆる裏難波と呼ばれるエリアだ。
僕は日本橋のオタロードによく行くので、だいたいこの場所は分かる。
「ここなら、だいたいわかりますよ。えっと喫茶すみれというお店ですね」
僕はグーグルマップの画面を頭に叩き込む。
難波駅を出て、約十分ほどでそのお店に到着した。
よかった。迷わずにすんで。
喫茶すみれは良い感じに古くて落ち着いた雰囲気の純喫茶のお店で会った。
店の扉を開けるとカランカランと鈴の音がする。
店内にはうっすらとジャズの音楽がかかっている。
「いっらしゃいませ」
僕たちを上品そうな老婦人が出迎えてくれた。
僕たちはその老婦人に四人掛けのソファー席に案内された。
ソファー席に向かいあって座る。
「ご注文がきまりましたらそちらのベルをおしてくださいね」
老婦人はていねいに言い、テーブルにメニュー表置く。
次のお客さんが来たので、老婦人はそちらに向かっていった。
店内はそれなりに混んでいた。満員ではないが、週末の土曜日ということもあって、それに近い感じだ。
「このお店って創業七十年らしいですよ。名物はたまごサンドにメロンクリームソーダ、カフェオレらしいですよ」
メニュー表を見ながら、野平さんは説明してくれた。
「私、メロンクリームソーダにしようかな」
うふふっと可愛らしい微笑みの声がした。
「じゃあ、僕はカフェオレにしようかな」
僕はテーブルのベルを押し、先ほどの老婦人にメロンクリームソーダとカフェオレを注文した。




