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初恋の人をNTRされた僕はマッチングアプリで出会ったグラマーなのっぺらぼうとつきあうことになりました。  作者: 白鷺雨月


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第三十九話 逮捕された元彼女は孤独を思う

 五月の下旬ごろ、男女二人組の私服警官が結城瑞樹のマンションを訪れた。結城瑞樹の愛人の一人が彼女を住まわせるために用意したものだ。3LDKの高級マンションだ。

 瑞樹は一時期芸能活動をしていたが、それもすぐにやめた。

 田崎優志郎に紹介される社長や資産家の男たちを相手にする方がはるかに楽であったからだ。

 彼らは若くて可愛いらしい瑞樹をちやほやしてくれた。やがて、瑞樹は自分のような生活に憧れる若い女性をその男たちに紹介するようになった。

 田崎優史志郎のビジネスを手伝えて、彼女は誇らしい気分でいた。

 皆を幸せにできていると瑞樹は思った。

 若い女の子たちは贅沢な暮らしができ、社長や資産家、実業家の男たちは女の子たちと楽しい時間を過ごすことができる。

 これは本当にウィンウィンのビジネスだと瑞樹は考えた。今では瑞樹自身が男たちの相手をすることは少なく、女の子たちの紹介やアフターフォローにまわることのほうが多くなっていた。


 黒いスーツを着た細身の女が警察手帳を見せる。

 大阪府警の生活安全課の警察官らしい。

 女刑事の名前は鍵村理恵かぎむらりえといい、階級は警部であった。

 その女刑事は瑞樹より若干年上にしかみえないが、それなりの地位にあるように見えた。

 隣の男は童顔で丸い眼鏡をかけている。

 彼も瑞樹に警察手帳を見せた。

 名前は早川宗介はやかわそうすけといい、階級は巡査部長であった。

 警察手帳なんてテレビのドラマでしか瑞樹は見たことがない。

 警察官が万が一マンションにきても逮捕令状がなければついていかなくていいと前に田崎優志郎から聞いたことがある。

「そ、逮捕令状は……」

 瑞樹は聞きかじった知識を元にかすかな抵抗をする。

 丸い眼鏡を中指でもどし、早川という刑事は紺色のジャケットの胸ポケットから一枚の紙を取り出す。

 そこには結城瑞樹の名前が書かれていた。

「結城瑞樹さん、あなたを売春防止法違反の容疑で逮捕します」

 冷たい、事務的な声で鍵村理恵は言う。

 隣の早川が手錠をとりだし、瑞樹の両手首にはめた。冷たい鉄の感触が手首につたわる。

 その瞬間、瑞樹の体から力が抜けた。


「田崎君、田崎君に電話させて」

 泣きながら瑞樹は鍵村理恵に懇願する。

 無情にも鍵村理恵は首をふる。

「弁護士を呼ぶことは認められているが、それ以外は認められない」

  鍵村理恵は瑞樹の背中を軽く押す。軽く押されただけなのに、それに抗うことはできなかった。


 パトカーに乗せられ、瑞樹は留置場に拘留された。

 瑞樹が逮捕されて数日後に田崎優志郎はインサイダー取り引き、金融詐欺、売春斡旋などいくつかの罪で逮捕された。

 あれだけいた瑞樹を褒めたたえ、ちやほやした男たちは一人も瑞樹を助けにあらわれなかった。 

 その中には弁護士もいたのに助けてはくれなかった。

 多くいた友人たちも誰も瑞樹のもとには来てくれなかった。

 

 一人、たった一人だけ結城瑞樹に面会を求めて来た男性がいた。

 アクリル板越しにその男はいた。

 化粧っ気のない瑞樹はその男の顔を見る。

 あまりぱっとしない平凡な風貌の男だった。

 瑞樹が相手にしていた男たちに比べればとるに足らないレベルに見えた。

 もう忘れかけていた顔だ。

 だけど彼を見て、思い出した。

 彼は水樹夏彦だった。

 悲しそうな顔で水樹夏彦は瑞樹の顔を見ていた。

 哀れみとは違う、本当に心の底から悲しんでいる顔であった。

「どうしてこんなことに……」

 絞り出すような声で水樹夏彦は言った。

「分からないの。きらきらした世界に行きたかったのに気がついたらこんなところにいたの」

 それは瑞樹の本心からの気持ちであった。

 どうしてこうなったのか本当に彼女は理解していなかったのだ。

「ねえ、あんなことをした私にどうして会いに来てくれたの?」

 自分でも水樹にはひどいことをしたという自覚は瑞樹には一応あった。切り捨てたはずなのに唯一手を差し伸ばしてくれたのはそんな彼だけだった。

 もしかして別れていなければ、こんなところに閉じ込めるられずにいたのかもしれない。それはもう今さらな話ではあったが。

「だって瑞樹は初恋のひとだから」

 言葉を選びながらという感じで夏彦は瑞樹の目を見て言った。

 その言葉を聞いて瑞樹は心からうれしいと感じた。だってあんなにいた男たちは誰も瑞樹の前にはあらわれず、初恋というそれだけの理由でこの人は来てくれた。

「ありがとう、ごめんね……」

 気がつけば瑞樹の瞳からぽろぽろと涙がながれ、頬を伝う。自分の涙が温かいなと瑞樹は思った。


 聞けば水樹夏彦は小さいが会社の社長になろうとしているということであった。水樹君は自らの手で明るい世界に行こうとしている。

 そうなのだ。

 田崎優志郎が見せた光輝く世界はまがいものの偽物だった。あの世界には自らの力でいかないと行けないのだ。他人の力をあてにした時点で自分は間違っていたのだ。

 憧れていた芸能の世界も努力なしにはいけなかったのだ。

 夏の撮影のとき、猫矢という小柄な女の子はスタイルを保つために食事や睡眠に気を使っているといっていた。別のモデルもサインを求められたら、どんな相手にもいやな顔一つせずに応じていた。

 ひるがえって自分はそんな面倒なことをしなかった。頑張らないものには誰も振り向かないのだ。

 ようやく瑞樹はそれを理解した。

 遅いが遅すぎるということはない。

 

 結城瑞樹は水樹夏彦の紹介で高齢の女弁護士の力を借りることになった。水樹の会社設立に尽力してくれた女弁護士だという。

 こんなおばあちゃんに何ができるのが不安だったが、他に頼れる人がいない瑞樹にとって唯一の存在なので頼らざるおえない。

 しかし、その弁護士宮部志麻子(みやべしまこ)の力により瑞樹は執行猶予となる。主犯の田崎優志郎は執行猶予なしの実刑判決を受けた。


 

 結城瑞樹はこのあと、みづき結という名前でセクシー女優の道を歩む。かなりの売れっ子になり、惜しまれながら引退する。ある程度の財産を築いた瑞樹は母親の故郷である姫路に移り住む。

 そこで瑞樹はスナック「みづき」を経営する。

 そのスナック「みづき」を訪れた地元の会社員の青年と彼女は結婚する。

 それはもう水樹夏彦とはまったく関係のない物語であった。

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