第三話 マッチングアプリのススメ
僕は初恋の人にたった三文字のメッセージを送られ、別れた。
ラインにメッセージを贈っても既読すらつかない。
ブロックされているので当たり前か。
もちろん電話をしてもつながらない。多分、着信拒否されているのだろう。
僕はどうしてこんなにも嫌われたのか。考えても考えても答えはでない。初恋の人だっただけにメンタルがかなり崩れた。頭がどうにかなりそうだった。
十二月はほぼ惰性で過ごした。クリスマスなんてものも僕には関係なかった。会社からの休日出勤にも答えた。働いているほうがふられた辛さを忘れられるからだ。
年があけて、正月二日に友人の阿良又光司が僕の部屋に遊びに来た。手には二リットルのコーラに大量のお菓子が入ったビニール袋が握られている。
阿良又はビニール袋からお菓子の袋をいくつか取り出し、テーブルに置く。ためらうことなく阿良又はパーティー開けをする。
どうやら阿良又はお菓子パーティーで僕を慰めに来てくれたようだ。
「阿良又、すまないな」
さっそく僕はハッピーターンをかじる。こんなときでもハッピーターンは美味しい。
「おまえ、分かりやすいぐらい落ち込んでるな」
阿良又はグラスにコーラを注ぎ、一気に飲む。
僕たちはテレビにテンプレ異世界アニメをたら流しながら、お菓子を食べた。
チョコフレークとハッピーターンを交互に食べると無限に食べられる気がした。
「これってその結城さんかな」
テンプレ異世界アニメはストーリーが読めるので良いとおもっていたら阿良又がスマートフォンの画面を見せる。
それはとある金持ちたちが集まるホームパーティーのワンシーンのようだった。
「インスタグラムに流れてきたからスクショしたんだ」
阿良又は画面を指で拡大する。
そこには俳優並みのイケメンをみつめて微笑む瑞樹が映し出されていた。
「推測っていうか想像なんだけどこれって結城さんの彼氏かな」
阿良又の言う通り、瑞樹は女子の眼でそのハンサムを見つめている。周りにいる人たちも美男美女ばかりだった。
僕なんかが逆立ちしても敵わないほどのイケメンたちがそこにいる。画面を見ただけなのに敗北感に支配された。
「結城さんって人、ああいう世界にいきたかっのかな」
阿良又が言う世界は僕のようなオタクが踏み込めない輝いた人たちがいる世界のことだと思う。
お金のある人たちが集まる世界で僕たちは門前払いもいいところだ。実力も才能もあり、容姿にも優れた人たちが光り輝く世界だ。
陰キャオタクの僕や阿良又からは最も縁遠い世界だ。
僕は深いため息をついた。
「まあ、飲めよ」
阿良又は僕のコップにコーラを注ぐ。
少し前にはまった異世界アニメの女の子のキャラがデザインされたガラスのコップだ。
デジタルクロニクルという作品のマリアというキャラだ。ウサギ耳巨乳と僕の性癖ど真ん中のキャラであった。
僕はコーラを飲み干す。思わずげっぷをしてしまった。コーラを飲むとげっぷがでるのは必然だ。
「そうだ、水樹。おまえマッチングアプリに興味ないか」
スマートフォンをタップして阿良又はとあるアプリの画面見せる。羽の生えた小さくて可愛らしい男の子のキャラが画面の右端に飛んでいる。
それは天使の導きというマッチングアプリの画面だった。
いやいや、彼女にふられたばかりでマッチングアプリなんて節操なさすぎるよ。
「いや、今はいいよ」
僕は断ろうとしたが阿良又がやるだけやってみなよと半ば強制的にインストールさせた。どうやら別の会員の紹介がないと登録出来ないようだ。
驚いたことに阿良又はこのマッチングアプリで彼女を作ったという。
月額三千円だけど紹介特典で半額になった。
まあ、暇つぶしにでもなるかなと思い僕は阿良又が帰ったあと登録をした。
名前に年齢、職業を登録する。
名前は水樹冬彦で年齢は二十二歳、職業は会社員と登録する。
写真も登録しないといけないようで僕は部屋で何度も自撮りし、一番ましな写真を登録する。
自撮り写真と瑞樹の隣いにたハンサムの顔を脳内で比べてしまい、心が傷ついた。
無理矢理頭を振り、瑞樹のことを頭から追い出す。
趣味はアニメと漫画、ゲームと書いた。
僕なんかがマッチングアプリで彼女なんかできないから、正直に書いた。
阿良又は背は低いが女顔のイケメンだから彼女ができたのだ。ぱっとしない顔の僕には無理な話だ。瑞樹のことは奇跡に近い。奇跡は二度も起きないのだ。
登録したあとAIが性格判断する。
けっこうな数の質問に答えさせられた。
そのうちの一つにに顔は気にしませんかとあった。
僕は人のことが言えるほどイケメンではないのでいいえをタップした。
思いのほか登録に手間取ったので、その日は疲れて眠ってしまった。この一月の間、瑞樹のことが頭から離れなくてよく眠れてなかったんだよな。久しぶりにぐっすり眠ったような気がする。
マッチングアプリ「天使の導き」に登録してから一週間が過ぎた。
アプリから通知があるので開いてみるとなんとメッセージが一件届いていた。
それは野平麻里子という二十六歳の女性からであった。




