第二十六話 受賞の報せ
サークルのテーブルに戻った僕は交代でお昼ご飯を食べた。テーブルを開けるわけにはいかないからね。
さっとご飯を平らげた僕は再び、テーブルに戻る。麻里子さんが他のサークルを見てまわりたいというので、僕は留守番をする事になった。
僕も交代で見て回る予定だ。さっき買い物に行く途中にめぼしいサークルはチェック済みだ。そうそう、猫矢夢乃さんのキャットアローにも陣中見舞いしないとな。
テーブルの上に残る薄い本は残りわずかになっている。バーターとはいえ、麻里子さんの「カレンの航海日記」もけっこうな売れ行きだ。残りは数えるほどになっている。
それに比例するようにサークルのテーブルを訪れる人は減っていく。
時間ができたので、僕は竹河不由美のツイッターをチェックする。
さっそくフォローし、竹河不由美のポストを眺める。へぇフォロワーが一万人もいる。いっぱしのインフルエンサーではないか。
けっこう自撮りなんかも載せている。あの美貌なら、さもありなん。
おっと海に行った画像があるな。
キャミソールという無防備な姿だ。
ふむふむ胸の膨らみと谷間がよく見える。これはおっぱいソムリエとしては保存しておかないといけない。
うんっ見知った顔が一緒に写っている画像があるぞ。
それは麦わら帽子をかぶった猫矢夢乃さんであった。撮影場所は兵庫県の雪城市だ。
ということは竹河不由美の友人というのは猫矢夢乃さんということか。
うーん、世間は狭いもんだな。
僕がツイッター廃人をしていると重そうな紙袋を持ち、麻里子さんが帰ってきた。これはこれはかなりの収穫物があったようだ。
ちらりと中をのぞき込むと肌色成分が多い薄い本が大量に詰められている。
麻里子さんって女子だけど成人男性向けの漫画が好きなんだよな。ご多分にもれず紙袋の中身は男性向けの薄い本がぎっちりとつめられていた。
これは後で僕も見せてもらわないといけないな。
「夏彦さんも見てきたらどうですか?」
麻里子さんにすすめられたので、僕はサークルのテーブルを離れて、コミカをみて回ることにした。
カタログを片手に僕はまずサークル「キャットアロー」に赴く。
キャットアローのテーブルはにぎわっていた。コスプレイヤー本人が手売りしてるんだものな。そりゃあ人気でるよね。
猫矢夢乃さんは朝バズにも出てるし、ファッション誌のモデルもしてるしね。ちょっとした有名人だ。最近YouTubeチャンネルも開設したし、その活動範囲は多岐にわたる。
たしか猫矢夢乃さんのYouTubeチャンネルは「猫の見る夢」だったかな。
「あっ水樹さん、来てくれたんですか?」
明るい声で猫矢夢乃さんが出迎えくれる。
「よおっ」
短く挨拶し、僕を見るのは友人の阿良又だ。
「けっこうな勢いだな」
僕がロム写真集を一つ手にとる。それは猫矢夢乃さんの私服バージョンのものだ。どうやら水着もあるようなので僕はそちらを選んだ。
人の彼女もエロい目で見るのが僕という人間だ。まあこうやってコミカで配布しているのだから、良いだろう。
「あの、よかったらサインしてくれるかな」
僕がリクエストすると猫矢夢乃さんはいいですよと微笑む。この子の笑顔はさすがに可愛い。それにいつも笑顔でいる。自分というものを彼女はわかっているのだ。
笑顔でいることで周囲に自分というものを売り込んでいるのだ。可愛い子に笑顔をむけられたら、誰だってうれしい。
さらさらとサインをして、猫矢夢乃さんは僕にロムを手渡す。
「ありがとう」
僕はお礼を言い、お金を手渡す。友人とはいえ、お金を渡すべきだ。友だち価格で負けてもらおうなんて、恥ずかしい行為だ。
「私の写真集楽しんでくださいね」
猫矢夢乃さんは僕にまた笑顔を向ける。
ええっ、楽しませてもらいますよ。
僕はサークル「キャットアロー」を後にした。
いろいろ見て回り、思ったより散財してしまった。だが、後悔はない。ここでしか手に入らない本を手に入れたのだから。
僕は麻里子さんの元に戻る。
どうやら江戸沢麻美香先生の「触手人間28号とサキュバス姫」は完売したようだ。麻里子さんの「カレンの航海日記」も残り十冊ほどだ。
これは大成功と言っていい成果だ。
「よかったね、麻里子さん」
僕が言うと吐息混じりの微笑みの声がかえってくる。
「ええっ本当によかったわ」
こうして僕たちの初のコミックカーニバルは幕を閉じた。
このあと、阿良又たちと合流してサイゼリアで食事をした。
うかれた僕たちはサイゼリアで豪遊した。麻里子さんはワインを飲みすぎてべろべろになってしまった。
猫矢夢乃さんは活動限界が来たようで、阿良又の肩に頭を乗せて、スースーと寝息をたてている。
「水樹さん、帰ったらコスプレしてせっ……」
さすがに公衆の面前で言って良いことではないので、僕は麻里子さんの口をふさいだ。
麻里子さんは僕の指をべろべろと舐めている。
帰宅したらコスプレエッチをお願いしたいが、それは二人だけの秘密にしてほしい。
「お前も大変だな」
阿良又の顔は慰め半分あきれ半分という不思議な顔だった。
騒々しくも楽しいコミックカーニバルからひと月が過ぎた九月の初めの頃だ。残暑というよりもまだまだ猛暑が続く、とある日のことだ。
僕は仕事のお昼休み、社員食堂でミックスフライ定食を食べていた。
僕はお昼ご飯を食べながら、竹河不由美が小説家になろうで連載しているWeb小説を読んでいた。
竹河不由美の小説は「貞操逆転世界のハーレム王子」というタイトルで内容はタイトルそのままだ。
王道展開でエッチなシーンもあり、正直面白い。
Web小説を読んでいるとラインの着信音がする。
ラインを開くと麻里子さんからのメッセージであった。
「やりました。やりましたよ夏彦さん。夢食みジャックが審査員特別賞を取りました」
やったーと万歳する仮面の姫騎士リリアのスタンプが送られる。
アートシティ漫画大賞の受賞者一覧のページの画像が送られる。
たしかに麻里子さんのペンネームのっぺらぼう麻里の名前が載っていた。




