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初恋の人をNTRされた僕はマッチングアプリで出会ったグラマーなのっぺらぼうとつきあうことになりました。  作者: 白鷺雨月


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第二十五話 再会

 竹河不由美に会うのは高校の卒業式以来だから、四年、いやおおよそ五年ぶりか。五年という月日が竹河不由美という女性を大人の女に変えていた。


 高校最後の年、三年生の時の同級生が竹河不由美だ。ちなみに阿良又は高校一年の時のクラスメイトでその時に友人になり、今でもつきあいのある唯一の存在だ。


 たしか竹河不由美は文芸部に所属していて、文学部が有名な京都の大学に進学したはずだ。




 竹河不由美の端正にして秀麗な顔を見て、僕の脳内にフラッシュバックのように記憶が蘇る。


 それは春の校外学習で市民ホールに演劇を見に行った時の話だ。


 座席は出席番号順だったはずなのに何故か彼女が隣に座ってきた。


「前田が代わってほしいだってさ」


 僕の方の肘置きに竹河不由美は肘を置き、淡々とそう告げた。まるで業務連絡みたいな口調だ。


 僕の方に肘を置いているのでその綺麗な顔が間近にあった。


「あんたみたいな童貞が私と演劇を観られるのだから感謝しなさい」


 ひどい言い様だ。まあ当時童貞であったのは違いないが。


「性生活が充実した高校生なんかいるのかよ」


 僕は思わず言い返した。


「違いない。私も処女だし」


 女子の口からでる処女という単語に僕は図らずも興奮してしまう。顔を赤くする僕の顔を見て、竹河不由美は可笑しそうにくすくすと笑う。


「あんた、面白いね。気に入ったわ」


 僕は何故か竹河不由美にきいいられてしまったようだ。


 演劇は思ったより面白かった。二重人格がテーマのようで主役の演じ分けに僕は感動すら憶えた。


 ふと隣を見ると竹河不由美は熱心にメモをとっていた。ただ演劇を楽しむだけでなく、何かを吸収しようという姿勢がみてとれた。


 うっすらとではあるが、竹河不由美という女子は遅かれ早かれエンターテイメントの道に進むのであろうと考えられた。


「ジギル博士とハイド氏を現代風に換骨奪胎したのね。シンプルなストーリーな分、主役の演技力がものをいうのね」


 竹河不由美の解説に僕はへえっとうなった。僕はただ単に演劇を楽しんだだけだけど、竹河不由美は何かを学びとっていたようだ。


「あなた、楽しそうに劇を観てたわね。ますます気に入ったわ」


 さらに気に入られたようだった。




 その校外学習以来、竹河不由美とは教室で言葉を交わすぐらいの関係にはなった。彼女はその美貌故、いわゆるクラスのカーストトップだったのでこれ以上の関係になることはなかった。


 卒業を控えたバレンタインデーの日、僕は竹河不由美からブラックサンダーをもらった。


「あんた童貞なんだからどうせチョコレートなんて貰えないでしょう」


 竹河不由美は僕の手にブラックサンダーを握らせた。


「私みたいな美少女にチョコレートをもらった記憶をその足りない脳に刻みなさい」


 あははっと竹河不由美は高笑いする。相変わらず口の悪い女だと思った。ただ、彼女の手は温かくて柔らかだった。




「高校以来ね」


 竹河不由美は微笑みかける。切れ長の細い瞳は日本画の美人絵のようだ。竹河不由美の顔を見て、手のひらに失っていた温もりが蘇る。


「ああっ、そうだな」


 僕は凡庸な返答をする。


「友だちがサークル参加してるから来てみたけど、コミカってすごい熱量ね。この何でもありな感じがたまらないわ。面白いところね」


 竹河不由美は決して好きなものを否定しない。それは高校の時から変わっていないところだと思った。


 僕たちは人の流れの邪魔にならないように壁際に移動する。


「ほらおもしろそうな本があったから買ったのよ。それにアクセサリーとかも売ってるのね」


 一歩近づき、竹河不由美は僕に胸元を見せる。白い首元に兎の銀ネックレスがぶら下がっている。和服の胸元の膨らみに視線を奪われる。


 麻里子さんほどではないけどなかなかのボリュームだ。


「そう言えば竹河って作家やってるんだって」


 視線を竹河の目に戻す。思ったより距離が近くになっているので思わず心臓がときめく。


「まあね。一冊だけだけど念願の書籍化できたのよ。今はライターとしての方に重点がいってるかな。そっちの方が収入いいしね」


 竹河不由美はセミロングの髪をかきあげる。ふんわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 麻里子さんの柑橘系の爽やかな香水の匂いもいいけど、竹河不由美の甘い匂いも良いものだ。


「水樹君は?」


 僕は竹河不由美のように夢をもって進んでいるわけではない。なんとなく流れみたいなもので麻里子さんを手伝っている。それにはやりがいも生きがいもあるが、自発的なものではないのは確実だ。


 竹河不由美のようにまっすぐに自分の夢に向かって進む人間に眩しさを覚える。




「普通の会社員だよ。あっでも今回サークル参加しているんだ」


 同級生に対してつまらない対抗意識をもってしまった。


「普通って一番大事よ。カルチャーってそういう普通の人たちに支えられてるんだから。あなた立派よ」


 あんなに口の悪かった竹河不由美に褒められるのは背中がくすぐったくなる思いだ。


「そうだ、水樹君。せっかく再会できたんだからライン交換しない。もしよかったらだけど」


 竹河不由美は僕の目を見る。その切れ長の瞳は天野喜孝デザインの女性キャラのように魅力的だ。


 僕はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、竹河不由美のスマートフォンの画面に写るQRコードを読み取る。


「水樹君ツイッターもやってる?」


 アニメの公式や声優のポストを見るためにアカウントだけを作ったものがある。


 僕は竹河不由美のツイッターもフォローした。


「じゃあね、水樹君。気軽にラインしてくれてもいいからね。ツイッターのDМも歓迎するわ」


 軽くウインクして、竹河不由美は人混みの中に消えて行った。





 僕はキッチンカーで焼き鳥丼を二つと売店でフランクフルトを購入した。デイリーヤマザキでスポーツドリンクと麦茶を合計四本購入した。


 サークルテーブルに戻るとその上の薄い本は残りわずかになっていた。


 麻里子さんにスポーツドリンクを渡すと彼女は美味しそうに喉をならしてごくごくと飲んだ。

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