第二十四話 コミックカーニバル開催
八月初めの日曜日、ついにコミックカーニバル開催の日がやってきた。
僕は麻里子さんと共にコミックカーニバルが開催されるインテックス大阪に来ていた。
江戸沢麻美香先生が主宰するサークル「江戸むらさき」の売り子をするためである。
サークル江戸むらさきにて麻里子さんが描いた「カレンの航海日記」も頒布される。しかも江戸沢麻美香先生の「触手人間28号とサキュバス姫」という新刊も頒布されるということで、かなりの人数がこのサークルのもとを訪れることは容易に予想できる。
この日、僕たちはサークルの運営を江戸沢麻美香先生に全てをまかせられた。それは麻里子さんを信用してのことだと思う。さらにこの先、サークル「江戸むらさき」を譲りたいとも言っていた。プロ作家でもある江戸沢麻美香先生は多忙でサークル活動からは少し距離をとりたいとのことだ。ただ完全に離脱するのではなく、一メンバーとして同人活動には参加したいとの意向だ。
まかされたからには僕たちはこのサークル「江戸むらさき」をきっちりと運営しないといけない。
僕たちは新刊と既刊をサークルのテーブルに並べる。インテックス大阪内はまだ一般入場者が来場していないのにもかかわらずかなりの熱気だ。
館内は一応エアコンはかかっているものの、サークル参加者の熱い思いで気温も上がっているように思われる。
この日の麻里子さんはいつものサングラスにマスク姿ではなく、なんとコスプレをしていた。
最初恥ずかしがっていたが、僕と猫矢夢乃さんのすすめでついに決断にいたった。
試しに宅コスしてみた麻里子さんに僕と猫矢夢乃さんとで可愛い可愛いと褒め称えたのが功をせいしたようだ。
麻里子さんのコスプレはデジタルクロニクルのキャラで仮面の姫騎士リリアである。
仮面の姫騎士リリアは巨乳キャラなので同じ巨乳の麻里子さんにはぴったりだと思う。
デジタルクロニクルのギルバート魔法学園の制服の衣装を麻里子さんは着用していた。
淡いピンクのブレザーに赤黒チェック柄のミニスカートという衣装だ。むふっミニスカートからのぞくむっちり太ももがエロい。太ももは太いから太ももっていうんだよな。
リリアがつける仮面は阿良又が制作した。プロレスラーがつけるようなマスクを阿良又が改造改良したものだ。
リリアは作中では鋼鉄のフルフェイスを装備している。それを元に阿良又がデザインした。いやあ、奴は手先が器用だな。猫矢夢乃さんの衣装を阿良又が作っているというのも聞いたし。
僕は新刊をテーブルに並べている麻里子さんをスマートフォンで撮影する。うふっ屈んでいるので麻里子さんの美巨乳が強調されているぞ。これはそそられるな。
「もう、夏彦さん。さぼってないで本を並べてください」
僕はぷりぷりと怒る麻里子さんにはーいと答えて作業に入る。ちなみに麻里子さんが屈むとそのぷりぷり巨尻が強調され、角度によってパンティーが見える。一応見えてもいい水着のようなものらしい。
麻里子さんの巨乳と巨尻をながめながらうへへっとにやけていると見知った女子の声がする。
「おはようございます水樹さん」
それは猫矢夢乃さんの声だった。
彼女は猫耳をつけて、麻里子さんと同じギルバート魔法学園の制服を着ている。さすがコスプレイヤーだ。メイクなんかも完璧だ。グラマーな麻里子さんとは違う可愛らしい魅力満載だ。
たしかこのキャラはデジタルクロニクルのベロニカだっかな。獣族のお姫様だ。
「おはよう夢乃さん」
僕は挨拶する。
「あら猫ちゃん、おはよう」
忙しく用意をしていた麻里子さんも友人の来訪に一旦手を止める。
「阿良又は?」
僕が尋ねると設営準備をしているという。僕たちには挨拶だけしに来たようだ。
また来るねと言い、夢乃さんは立ち去っていく。
後で猫矢夢乃さんのサークル「キャットアロー」の方にもたちよらないとな。
そうこうしているうちにコミックカーニバル開催の放送が鳴り響く。
館内の温度がさらに増したような気がする。
無数の足音が鳴り響く。
僕はお釣りの小銭入れを確認する。
緊張で若干手が震えている麻里子さんの手を握る。
「私の本だけ手にとってもらえなかったらどうしましょう」
いつも可愛らしい麻里子さんの声が緊張に震えている。
「大丈夫だよ。麻里子さんの本はとても面白い。それにエッチだしね。きっと手にとってもらえるよ」
僕はぎゅっと麻里子さんの手を握り返す。
これは麻里子さんの彼氏だからというわけではなく、一読者としての意見だ。麻里子さんの絵は見ただけでしゃぶりつきたくなるほどエロい。一人のオタクとしての感想だ。
結果的にその麻里子さんの心配は杞憂に終わった。コミックカーニバルが開始されてすぐに一人の参加者が僕たちのもとを訪れた。
どうやら江戸沢麻美香先生の新刊がお目当てのようで「触手人間28号とサキュバス姫」を手に取る。
ちらりと彼は「カレンの航海日記」を見た。
見てる見てる。
じっと見てる。
そして「カレンの航海日記」も手にとった。
「これもください」
彼は二冊の薄い本を手に取る。
「は、はい。二千円になります」
それからは大忙しだった。次から次へと参加者の人が来る。
だんだん僕は参加者の人たちの対応になれてきた。参加者の人が手にとった瞬間に金額がわかるようになった。
お釣りの計算もなれたらそれ程難しいことはない。ある程度のパターンが決まっている。それに細かいお金を持ってきている人が多いのでそれも助かる。
麻里子さんには参加者の話し相手になってもらった。まあ二言三言話をするだけだけど、参加者の人は喜んでくれた。顔は見えないけど麻里子さんのコスプレは可愛いからね。
撮影してもいいですかと訊かれたので、麻里子さんは快く応えていた。麻里子さんコスプレデビューだ。このあとツイッターを見たら、麻里子さんの画像が掲載されていた。
お昼過ぎになり、少しだけ落ち着いて来たので僕は外のキッチンカーにお昼ご飯を買いに出た。ついでにデイリーヤマザキで飲み物も調達しよう。
僕はサークルのテーブルが並ぶ館内を足早に歩く。
「あら、あなた水樹君じゃないの」
凛とした力強い女性の声が僕の名前を呼ぶ。
僕が振り向くとすらりと背の高い、切れ長の瞳をした美人が立っていた。
左斜めに切り揃えられた前髪が特徴的だ。
和装にビーチサンダルという面白い装いだ。まあ、コスプレイヤーの多いコミックカーニバルではそれほ目立たない。
彼女は僕を見て、うふふっと微笑んでいる。
記憶をたどり思いだす。たしか彼女は高校の時の同級生の竹河不由美だ。




