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初恋の人をNTRされた僕はマッチングアプリで出会ったグラマーなのっぺらぼうとつきあうことになりました。  作者: 白鷺雨月


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第十四話 顔喪失症

 病院に行く前に僕は野平さんの家でシャワーを浴びた。

 熱いお湯を浴びると炬燵で寝てしまっただるさが吹き飛ぶ。

 このバスルームで野平さんが全裸でお風呂に入っているのを想像すると何だか興奮してくる。

 驚いたことに下着まで用意していてくれた。用意が良すぎるな。もしかして、野平さんも僕が泊まることを想定していたのか。

 だとしたらお守り代わりに持ってきた例のものを使うのもそう遠くない未来かもしれない。

 僕はこれまた用意してくれたバスタオルで体を拭く。もしかして野平さんの下着があるかもと洗濯かごをのぞくが、さすがにそれはなかった。

 いつか野平さんの下着姿も見てみたいものだ。


 

 奈良県立大和(やまと)記念病院は野平さんの家からタクシーで二十分ほどの距離の場所にあった。

 受け付けを済ませた野平さんがロビーに帰ってくる。いつものサングラスとマスク姿だ。

 あの下にあんなに可愛らしい顔があるなんて、思ってもみなかった。

 特にあの厚めの唇がセクシーなんだよな。あの唇で僕の体のあんなとこやこんなとこをキスをされたら、もうどうなることやら。

 おっと病院でエロい妄想にふけるのはまずい。

 三十分ほど野平さんと小声で雑談したら、看護師さんが呼びに来た。

 僕たちは野平さんの主治医である佐渡綾乃さどあやの先生が待つ診察室に入った。


 佐渡綾乃先生は銀縁眼鏡の似合うセクシーな女性であった。この人妙に色気があるな。まるでセクシー動画の女優みたいだ。担当は精神科だという話だ。

「こんにちは、野平さん。メールは確認させてもらいました。顔喪失症に進展があったとか」

 セクシー女医の綾乃先生は僕と野平さんを交互に見る。

 僕は佐渡綾乃先生に向かって座っている野平さんの背後に立つ。そっと彼女の背中に手を当てる。このまま前に手を回しておっぱいを揉みたい衝動にかられるが、そんなことをしている場合ではない。


 するりと野平さんはサングラスとマスクをとる。

 佐渡綾乃先生はその瞬間、銀縁眼鏡の奥の瞳を大きく見開いた。分かりやすいほど驚いた顔をしている。

「野平さん、あなたの顔が見えるわ」

 ぐっと近づき、佐渡綾乃先生は野平さんの顔をまじまじと見る。

「先生、そんなに見られると恥ずかしいですわ」

 野平さんが頬を赤く染める。

 頬を赤らめる彼女も可愛いな。


 これで一つ分かったことがある。

 それは野平さんの素顔が僕以外にも見えているということだ。

「先生も見えますのね」

 野平さんは何度かまばたきする。それにしても彼女、まつ毛も長いな。

「ええ、もちろんです」

 佐渡綾乃先生は答える。

「今までどんな治療も効果がなかったのですが、これは驚きですね」

 佐渡綾乃先生は野平さんの顔にふれ、口の中を見たり、目を見たりしている。


「先生、見ていて下さい」 

 診察をしている佐渡綾乃先生に僕は声をかける。

 そっと野平さんの背中に当てていた手を離す。

 次の瞬間、ざざざっとノイズが走り野平さんの顔がクレヨンのぐちゃぐちゃモザイクにおおわれる。


「こ、これは……」

 佐渡綾乃先生は野平さんの顔から手を離す。

 セクシー女医は形の良い胸の前で腕組みをする。

 僕が野平さんの左手を握るとクレヨンのぐちゃぐちゃモザイクはすっと跡形もなく消えていった。


「なるほどこれは興味深いですね」 

 その後、佐渡綾乃先生さらに言葉を続けた。

「これは推測の域を出ないのですが水樹さん、よくお聞き下さい」

 こほんっと佐渡綾乃先生は咳払いをする。その銀縁眼鏡の奥の知的な瞳を僕に向ける。

「顔喪失症は顔に大きなコンプレックスを抱いた人がなると言われています。何せ症例があまりにも少ないのでそういう説があるという程度ですが。簡単にいうともう誰にも顔を見られたくないと強く思った人が顔喪失症になるのです。そして野平さんもその例外ではまりませんよね」

 じっと佐渡綾乃先生は野平さんをみつめる。

 こくりと野平さんはうなづく。

 そんなコンプレックスを抱くようになるにはどれほどの事が野平さんにあったのだろうか。


「そこで水樹さん、あなとという存在が野平さんの心を癒したのです。水樹さんに触れられている間だけ、野平さんは心からの安らぎを得て顔喪失症が表にでるのを防いでいるのです」

 佐渡綾乃先生は次に僕の顔を見た。

 なんとなくだけど佐渡綾乃先生の言いたいことが分かった。それだけ野平さんに信用されているかと思うと無情の喜びだ。

 誰かに頼られるというのはけっこう心地よい。

 僕の手を野平さんは痛いほど強く握る。

「簡単に言うと水樹さん、あなたが顔喪失症の治療薬となりえるのです」

 佐渡綾乃先生はそう言い切った。


 簡単な検査を終えた僕たちは診察室を後にした。

 病院を出たあと、タクシーですぐに帰らず少しだけ歩いた。

 もちろん手をつないでだ。

 僕が手を握っている間はサングラスとマスクをとり、野平さんは可愛らしい素顔を風にさらしている。

「あの……水樹さん……」

 野平さんは大きな垂れ目がちな瞳で僕を見る。

 いやあ、本当に可愛らしい顔をしているな。

 キスしたくなるよ。

「何でしょうか」

 僕も野平さんの顔を見る。彼女の顔は飽きずに見ていられる。

「私のこと離さないでくださいね」

 ふーと大きな息を吐き、野平さんはその言葉を吐き出す。

 もうこれは完全に告白だと思う。

 もちろん、答えはイエスだ。ここまできて断るなんてあり得ない。

「当たり前じゃないですか。野平さんが嫌がっても離しませんよ。僕、野平さんの手が好きです。温かくてとても気持ちいいんです。好きです、野平さん。つきあいましょう」

 その言葉は自然と口から出た。

 不思議と緊張はなかった。


「はい、つきあいましょう水樹さん」

 晴れやかな顔で野平さんは言った。

 冬のある晴れた日の午後の出来事であった。


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