コオイムシ、その運命
生の祭典
夜の湖畔は、湿った熱気と甘い藻の香りに満ちていた。
コオイムシ族の集落「水蟲の園」では、今宵、「生の祭典」が始まろうとしていた。族の者たちは、甲殻を輝かせた姿で、男女問わず水辺に集う。
彼らの肌は水滴で濡れ、背中の硬い甲殻は月光を反射して妖しく光る。
中央の水壇に立つリーダー、ゼラは、雌雄の区別を超えた美貌の持ち主だ。彼女の声が響く。
「今宵、我らは命を繋ぐ! 欲望を解き放ち、水の神に捧げよう!」
群衆は歓声を上げ、互いの体に触れ合う。
コオイムシ族の祭りは、誰もが誰とでも交わる乱痴気騒ぎだ。
倫理も秩序もない。ただ本能と快楽が支配する。
若手の戦士カイは、初めての祭りに胸を高鳴らせていた。筋肉質な体と鋭い甲殻を持つ彼は、すでに数人の女性と男性から熱い視線を浴びている。彼の隣にいたメス族のルナが、しなやかな指でカイの甲殻を撫でる。
「カイ、今夜は私の卵を背負う覚悟、できてる?」
彼女の声は誘うように低く、唇は水滴で濡れている。
祭りは一瞬で狂乱に変わった。カイはルナに押し倒され、彼女の柔らかな体が彼に絡みつく。ルナの指はカイの甲殻の隙間を探り、敏感な肌を刺激する。
「ここよ…私の卵を受け入れる場所…」
彼女の言葉に、カイの体は熱くなる。同時に、別のオス族のゼンがカイの背後に回り込み、力強い手で彼の腰を掴んだ。
「カイ、俺も参加させろよ。」
ゼンの低いうなり声が、カイの耳に響く。
水辺では、数十人のコオイムシ族が絡み合い、互いの体を貪っていた。
メスたちはオスたちの背中に跨り、卵を産みつけるための準備を進める。
産卵の瞬間は、快楽の頂点だ。メスの体が震え、卵がオスの甲殻に埋め込まれるたび、双方が叫び声を上げる。カイはルナとゼンに挟まれ、快感の波に飲まれる。ルナの産卵が始まると、カイの背中に熱い衝撃が走り、彼は獣のような咆哮を上げた。
祭りは夜通し続いた。カイの背中は、ルナを含む数人のメスの卵で覆われ、甲殻は新たな命の重みで輝く。他のオスたちも同様に、背中に卵を宿し、誇らしげに水辺を歩く。メスたちは満足げに微笑み、次の相手を探す。コオイムシ族にとって、これは愛でも独占でもない。ただ、種の存続と快楽の儀式だ。
夜明けが近づくと、湖畔は静寂に包まれた。カイは水面に映る自分の姿を見つめ、背中の卵をそっと撫でる。
「これが…俺たちの生き方だ。」
彼は新たな決意を胸に、仲間たちと共に次の祭りを待つ。
生存競争
「生の宴」から数日経ったある日、コオイムシ族のカイは、ルナや他のメスたちからの卵を背負い、誇らしげに水辺を歩いていた。卵は微かな脈動と共に命の鼓動を刻んでいる。
オスは卵が孵るまで守り、慈しむのである。
しかし、カイの平穏は長くは続かなかった。
ある夜更け、カイは水辺の岩陰で休息を取っていた。
背中の卵の重みが心地よく、新たな命を守る責任に浸っていた。
だが突然、背後に気配を感じた。振り返る間もなく、鋭い爪がカイの背中を引っ掻いた。
メスのサラだった。彼女の目は欲望で輝き、唇には危険な笑みが浮かんでいる。
「カイ、卵を背負って満足してるの?」
サラの声は甘く、しかし刺すように鋭い。しなやかな動きでカイに近づく。
カイは後ずさろうとしたが、サラの動きは素早かった。
彼女はカイの飛びかかり、鋭い腕の鎌で背中の卵を狙う。
コオイムシ族はメスが体格でオスに勝る。
「やめろ、サラ! 卵が…!」
カイの叫びも虚しく、サラの攻撃は容赦ない。鎌が卵を突き破り、粘液と共に砕けた卵が次々にカイの背中から流れ落ちる。
破壊の痛みと同時に、サラの熱い息がカイの首筋にかかった。
「これでいい…今、貴方は私だけのものよ。」
卵を失ったカイは、ショックと怒りで体が震えた。しかし、サラはそんな彼の感情を意に介さない。彼女の指はカイの甲殻を撫で、敏感な肌を刺激する。
「ほら、カイ、抵抗しても無駄よ。私の卵を背負うのが運命なんだから。」
彼女の体がカイに密着し、強引に彼を地面に押し倒す。
サラの動きは獣のようだった。
カイよりも一回り大きな身体のサラは、力ずくで彼を従わせる。
カイの体は本能的に反応し、抵抗する意思は快楽の波に飲み込まれていく。
サラは低いうなり声を上げ、産卵の準備を始めた。彼女の体が震え、カイの背中に新たな卵が埋め込まれる瞬間、双方の叫び声が湖畔に響き渡った。
卵の脈動がカイの甲殻に刻まれるたび、彼はサラの支配に屈していく。
コオイムシ族にとって、これは異常でも不道徳でもない。ただ、子孫を残すためのもう一つの儀式だった。
メスは己が子孫を残すため新たな卵を産み、オスたちはその重みを背負う。
夜が明ける頃、カイは水辺に倒れ込んでいた。背中にはサラの卵が新たに宿り、砕かれた卵の残骸は水に流されていた。
サラは満足げに微笑み、水辺を去っていく。
倒れ伏したままカイは、自分の背中の新たな命をそっと撫でた。
「これも…俺たちの運命だ。」
おわり