表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

第8話 戦争には金が要る

「ふう……サッパリした。やっぱ汗かいた後はシャワーに(かぎ)るな」


 裏庭(うらにわ)に停車中のノア室内にて、シャワーを浴び終えた大和はバスタオルを肩にかけ、パンイチ姿でソファーに座った。


 冷蔵庫から取り出したての炭酸飲料(たんさんいんりょう)をプシュッと開け、(こし)に手を当てグイッと行く。


「くはあああぁぁぁぁぁぁっ! 美味(うめ)ぇぇぇぇぇぇっ!」


 キンキンに冷えてやがる!

 ノアが精霊(せいれい)さんと交渉(こうしょう)してくれたおかげで異世界でも問題なく電子機器が使えている。


 冷蔵庫はもちろん、冷暖房(れいだんぼう)、キッチン、テレビ、タブレット、AV機器。

 ノアの燃料(ねんりょう)武装(ぶそう)(いた)るまで何でもござれだ。


 ネットワーク環境(かんきょう)こそ存在(そんざい)しないが、本当にそれだけだ。

 電気代も水道代もかからない分、元の世界よりも快適(かいてき)かもしれない。

 魔法って便利(べんり)ぃ!


 ――ゴンゴン


「はいはい。ちょっと()ってて」


 玄関(げんかん)設定(せってい)した場所からノックが聞こえた。

 大和はTシャツとジーパンを身につけ応対(おうたい)に向かう。


「大和さん、こんにちは」

「日々の訓練(くんれん)(せい)が出るな」

「ようお二人さん。ここで立ち話もアレだし、まあ上がってくれ」


「うむ。では邪魔(じゃま)させてもらう」

「お邪魔します」


 (たず)ねて来たアレクとサツキを居住(きょじゅう)スペースに通す。

 冷蔵庫から麦茶(むぎちゃ)を出して二人に(すす)めた。


「この茶……美味いな! さっぱりとした味わいで実に(さわ)やかだ!」

「飲んだことのないお茶です! 何て言う茶葉を使ってるんですか?」


「茶葉っていうか……麦?」

「え?」

「麦って……あの?」


「ああ、あの麦だけど?」

「麦で茶を作るとか聞いたことがない……」

「パンやビールなら分かりますけど……麦?」


「俺の国では昔から飲まれてるものなんだけどな」

「ふむ……なるほど。サツキ、これは……」

「『使え』ますね。研究の価値(かち)充分(じゅうぶん)あります。お兄様に麦を大目に買い()むように進言(しんげん)しましょう」


 サツキがさらさらとメモを取る。


「何? 麦茶開発するの?」

「ええ、そのつもりです。麦茶は間違(まちが)いなく『(もう)かります』から」

「最悪失敗してもパンやビールに回せばいい。どう転んだところで問題は起きん」


「ヤマトさん、もっと何かありませんか? 向こうにあってこっちにないもの」

「できれば我々の技術で開発可能なものだと助かる」

「今日来た目的はそれか」


 大和の言葉に首肯(しゅこう)する二人。


「うちの領地(りょうち)、これといった特産品がないんですよ」

「私たちは今戦争をしている。軍資金の捻出(ねんしゅつ)必須(ひっす)だろう?」

「確かに」


 戦争には金がかかる。

 兵士たちの給料に食事、馬や飛竜などの維持費(いじひ)、武器や防具の手入れに開発など、挙げればキリがない。


「お兄様がやり手なので、何とか上手くやっているのですけど、さすがに戦争となると資金確保(かくほ)が難しくなります」


「そこで貴殿(きでん)の持つ異世界知識(ちしき)を利用させてもらおうというわけだ。幸か不幸か、この地は交通の要所(ようしょ)でもある。二国に向けてしっかりとした街道(かいどう)整備(せいび)されているため、商品を物流(ぶつりゅう)に乗せやすい」


「下地はある程度(ていど)できているわけか……」


 大和は考える。

 商品を出荷(しゅっか)するため道はすでにできている。


 あとは売れる商品を作るだけ。

 さて、何を出せば売れるだろうか?


「とりあえず話はわかった。世話(せわ)になっている以上協力はしたいけど、現状(げんじょう)何も言えないな」

「どうしてですか?」


「俺、この世界に来てまだ10日ぐらいだし、この街に来てから3日間、訓練しかしてないから街の事何もわからないんだぞ? そんな状態で商品開発なんて(こわ)くてできないだろ」


 戦争でカツカツになるであろう金をドブに捨てるような真似(まね)はできない。


「明日視察(しさつ)をさせてくれ。この世界は何ができて何ができないのか理解することが必要だ」


「わかりました。お兄様に(のち)ほど許可(きょか)をもらっておきます。お金も出してもらいましょう」


「いやさすがにそれは……って、俺この世界の金持ってなかった。訓練に参加(さんか)しているし、兵士と同じだけの給料ってもらえないかな……前借(まえが)りで」


「領地経営のために必要な資金だし、素直(すなお)に出してもらったら良いのではないか?」

「まあ、そうなんだけど……それはそれとして金は持っておきたい」


「わかりました。そちらも交渉しておきます、他に何かありますか?」

「この世界の服を用意してほしい。俺のこの服じゃ目立つし(あや)しまれる」


 ファンタジー世界ではTシャツとジーパンは浮きまくる。

 周囲(しゅうい)()け込むためにも普通の服が欲しい。


「わかりました。後で(とど)けます」

「サツキ、私にも(たの)む。さすがに学院の制服のまま街に出るわけにもいかん。どこに暗殺者(アサシン)がいるかわからないからな」


「「え?」」

「え?」


 サツキと声が(かさ)なった。

 何言ってるんだこいつ?――といった感じのリアクションである。


「あの、アレク様? もしかして一緒(いっしょ)に出かけるおつもりですか?」

無論(むろん)、そのつもりだが?」


「いやいやいやいやいやいや!? ちょっと待てよ!? アレク、お前さん自分の立場わかってる? 今回の内乱のゴール地点なんだよお前は。お前の首を取ったら戦争終了(ゲームセット)なんだよ? 敵側はお前を殺したくて殺したくてたまらないんだよ? (あぶ)ないって!」


「そ、そうですよアレク様! 私たち二人で充分ですって! アレク様は城内(じゅうぶん)にいた方が……」


「いや、私も行くべきだ。将来皇帝に即位(そくい)した時のことを考え、少しでも一般庶民の生活というものを理解した方がいい」


「それは別に今やらなくてもいいだろう? 戦争中の危ない時期(じき)にわざわざやる必要はないって」


「それは違うぞヤマト。戦時中の経済が疲弊(ひへい)しやすい時期だからこそ、庶民(しょみん)は本当の顔を見せてくれるのだ」


「……もしかしてアレク様、一緒に行きたいんですか?」

「うむ………………あ」


 不意(ふい)打ち気味(ぎみ)のサツキの質問に、反射的に(こた)えるアレク。

 いろいろ御大層(ごたいそう)名目(めいもく)(かか)げているが、(よう)はただ一緒に行きたいだけだった。


「ち、ちちちちちち違うぞ!? 私は本当に庶民生活を学ぶつもりで……」

「まあ、ずっと城内に引きこもるのって退屈(たいくつ)だしな。この世界娯楽(ごらく)少なそうだし」

「アレク様、我慢(がまん)の限界だったんですね……」


「そ、そんなことない! 私はただ――」

「アレク様」


素直(すなお)に一緒に行きたいって言えば()れてってやるけど?」

「どうしますか?」

「…………………………一緒に行きたい。連れてってくれ」


 消え入りそうな声でアレクが言った。

 サツキは「はぁ~」と深いため息をついて、アレクの手を(にぎ)る。


「わかりました。アレク様も行きましょう。全力で御身(おんみ)をお守りします」

「絶対俺たちのそばを(はな)れるなよ?」


「う、うむ! わかった! …………あの、二人とも」

「「ん?」」


「わがままを聞いてくれて……ありがとう」

「「どういたしまして」」


 話がまとまった。

 サツキは城内に戻るなり兄と交渉、明日の視察のための準備を終える。

 そして翌日(よくじつ)――


「おはようございますヤマトさん。では行きましょうか」

「ああ、行こうか。ところで俺の恰好(かっこう)どう思う?」


完璧(かんぺき)ですよ。どこからどう見てもこの世界の一般庶民にしか見えません。私はどうです? 貴族にはどう見ても見えないでしょう?」


「俺に聞かれてもわからないって。でもまあ、服のクオリティが落ちてるし、サツキが大丈夫って思えるなら大丈夫なんじゃないのか?」


「そうですね。服を用意してくれた侍女(じじょ)太鼓判(たいこばん)を押しています」

「そうか。ところでアレクの恰好だけど……」


「………………はい」

「………………エッチすぎない?」

「エッチじゃない!」


 街娘(まちむすめ)の恰好をしたサツキの横――女性用修道服(シスターローブ)に身を(つつ)んだアレクが遺憾の声を上げた。


「いやこれ絶対王族とかそういうことじゃなく注目(ちゅうもく)浴びるって。身体のライン出まくってるからある意味下着よりエロいわ。他の服なかったの?」


「アレク様のスタイルが予想以上によろしかったようで……女性用の服が全然入らなかったんです……」


「背、高いもんなあ……男物はダメだったの?」

「普段男装されているため、男物だと襲撃(しゅうげき)リスクが上がるので着せるわけには……」


「向こうはアレクを男だと思っているもんなあ」

「ええ、なので本来の性別の服で変装してもらおうとしたんですけど、普通の服は着れなくて……」


「それである程度体型に関係なく着れる修道服(しゅうどうふく)ってわけか」

「はい、でもこれは……さすがに……」


「エッチじゃない! 大体、この服は神に(つか)えるためのものだろう! そのような目で見られるはずあるものか!」


 あります。

 っていうか神に仕える云々(うんぬん)言ってその服を決めたのは人間です。


 昔の宗教(しゅうきょう)関係のお(えら)いさんが、神様をダシにして公然(こうぜん)と女性にエロい恰好をさせたのが今になっても続いているという事実を箱入り息子(お嬢)のアレクは知らなかった。


「とにかく、私も行くぞ。今さら連れて行かないとか言われても聞けないからな!」


 二人は説得(せっとく)を諦め城の裏口から出る。


 後日、ものすごい美人で背の高いエッチな感じの修道女(シスター)(うわさ)が街を()(めぐ)り、一目会って口説(くど)こうと教会に人が殺到(さっとう)することになるのだが、この時の三人は夢にも思わなかった。

ファンタジー世界のシスターの恰好が大好きです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ