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第1話 異世界初の交通事故

 運命とは――予定調和(よていちょうわ)

 あらかじめ決められている変えようがない未来(みらい)


 女神の力により人を()ねることを回避(かいひ)した大和(やまと)だが、『交通事故』という結果そのものは回避できなかった。


 つまり、どういうことかというと――


「危ねえええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 ――キキィィィィィィィッ!

 ――ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!

 ――ドゴーンッ!


「は、撥ねちまった……免許取得(めんきょしゅとく)以来、無事故(じこ)違反(いはん)だったのに……」


 気がついた時にはアクセルを()んでいた。

 その上撥ねた対象は、原型を(とど)めないほど肉塊(にくかい)と化している。(グロ注意)


 警察に調べられたら居眠(いねむ)り運転による一発免許停止で間違(まちがい)いない。


「ああ……どうしよう? せっかく交通事故を回避できたのに、異世界に来た直後(ちょくご)に事故っちまうなんて……俺の人生結局()んじゃった……いや()てよ? 異世界なんだから日本の交通ルールは適用(てきよう)されないよな? ならギリセーフか? 目撃者が出ないうちにさっさと――」


「こ、これは一体……?」

「す、すごい……小型とはいえドラゴンを一瞬(いっしゅん)で……」


 ――ダメじゃん!

 ――目撃者いるじゃん!


 大和は目の前が真っ暗になった。


「ああどうしよう……? 無関係じゃないだろうし、きっと責任(せきにん)とか追求(ついきゅう)されるよ……」

「あの、ありがとうございます!」


「助けてくれて感謝(かんしゃ)する!」

「おや?」


 どうやらその心配はなさそうだった。

 何らかのピンチを助けた感じのようだ。


 大和はトラックを()り、目撃者の姿を確認する。

 美形の男だ。

 声変りがまだなのか(みょう)に声が高い。


 着ている服といいおそらく貴族(きぞく)

 日本では見ることのない光景(こうけい)()の当たりにした大和は、自分が本当に異世界に来たんだということを徐々(じょじょ)に実感し始めた。


英雄召喚(えいゆうしょうかん)……まさか本当に成功するなんて……」


 男とは反対側の場所から声が上がる。

 こちらは女。

 軽鎧(ライトアーマー)を身に着けているので従者(じゅうしゃ)だろう。


「あ、あの! あなたが私の、私たちの英雄(えいゆう)なのでしょうか!?」

「え……?」


貴殿(きでん)がわが従者であり友、サツキ=グラバーの意思によって召喚(しょうかん)された者で間違いないのかと聞いてる」

「あー……うん、たぶん」


 握手(あくしゅ)(もと)められたので男の手を取り、大和は曖昧(あいまい)返事(へんじ)をした。

 男にしては随分(ずいぶん)と手が小さい気がする。


「ここに来る前、いったん神界とかいう場所で女神を名乗(なの)る女にそう言われたし、多分間違いないと……」


「女神! 神に出会(であ)ったのか!?」

「アレク様落ち着いて下さい! 異世界より(まね)かれし英雄は召喚の前に神に出会い、その者に相応(ふさわ)しい能力(スキル)を賜ると聞きます。であれば、やはり貴方(あなた)が英雄で間違いがありません」


 女は胸に手を当てて深呼吸をすると、大和を見つめて自己紹介を始めた。


「初めまして。私の名前はサツキ=グラバー。神聖ドナウディール帝国北方の辺境(へんきょう)、グラバー領主の妹であり、こちらのアレク様にお(つか)えする近衛騎士(このえきし)です」


「私の名はアレックス=フォン=ドナウディール。神聖ドナウディール帝国の第一位王位継承者(けいしょうしゃ)だ。よろしく英雄殿」

「よ、よろしく……」


 二人の自己紹介を聞いた瞬間、大和は嫌な予感(よかん)がした。

 いや……したと言うよりも強まったというほうが正しい。


 国家の王位継承者第一位とその従者が、他にお(とも)も連れていない。

 どう考えても嫌な予感しかしない。


 古典(こてん)ネット小説のど定番(ていばん)は、転移直後に貴族の令嬢(れいじょう)を助けること。

 そのくらいの覚悟(かくご)はしていたが、明らかにその数段上を行っているようなヤバい雰囲気(ふんいき)がある。


 しかし、だからと言って関わらないわけにもいくまい。

 自分は転移してきたばかりの異邦人(いほうじん)


 この世界のことは何も知らないのだ。

 ある程度(ていど)自分のことを理解しているこの二人から、この世界の情報を引き出すのが効率的(こうりつてき)なのは間違(まちが)いない。


「俺の名前は日野(ひの)大和(やまと)。日野がファミリーネームで大和がファーストネーム――って言っても意味(つた)わるかな?」


「ああ、大丈夫(だいじょうぶ)だ。ちゃんと伝わっている」

「さっそく聞きたいんだけど、ここは? 見たところ思いっきり廃墟(はいきょ)なんだが」


 (あた)りを見回(みまわ)しながら質問する。

 (くず)れた城壁(じょうへき)、ボロボロの城門(じょうもん)瓦礫(がれき)(あふ)れた大きな広場に、人気(ひとけ)(まった)くない周囲(しゅうい)状況(じょうきょう)

 聞きたくないけど聞かなければ。


「ここはわが国がかつて使っていた(とりで)だ。(もっと)も、十年以上前に廃棄(はいき)、されたが」


「そんな場所に身分のお高いお二人で何を?」

逃亡(とうぼう)です。現在わが帝国は内乱(ないらん)最中(さなか)にあります」


叔父(おじ)のバルボッサ=ドナウディールが裏切ったのだ! 宰相(さいしょう)と組みわが父を毒殺し、帝位簒奪(さんだつ)目論(もくろ)んでいる!」


 ああ……やっぱりとんでもないレベルの面倒事(めんどうごと)だ。

 大和は頭の中が一瞬(いっしゅん)真っ白になった。


「皇帝とそれに(つら)なる直系の子孫を根絶(ねだ)やしにしてしまえば、継承権(けいしょうけん)は叔父のものとなる」


「アレク様を()(もの)になどさせません。バルボッサ公爵(こうしゃく)――いや、逆賊(ぎゃくぞく)バルボッサの行動にいち早く気づいた私は、アレク様を()れてひそかに帝都を脱出(だっしゅつ)しました。現在は私の兄が(おさ)める北の辺境(へんきょう)、グラバー領を目指(めざ)して逃亡中です」


「……二人で?」

「ああ」


人望(じんぼう)なさすぎでは?」

「タ、タイミングが悪かっただけです! 本当に急だったので!」


「いや、時間に余裕(よゆう)があっても私はサツキ以外に(たよ)るつもりはない。サツキ以外は……信用できん」

「アレク様……」


 何やら複雑(ふくざつ)事情(じじょう)がありそうだ。

 これ以上このことについては話さない方がいいだろう。


「俺を()び出した経緯(けいい)は?」

「追っ手に(おそ)われたのだ。剣も魔法もそれなりに心得(こころえ)はあるのだが、小型とはいえドラゴン相手ではさすがに私たちだけでは――」


「王家に(つた)わる召喚術でどうにかできないかと思って……伝説では、この術で英雄を呼び出した初代皇帝が国を(おこ)したとありますので……」

「……そうでござるか」


 状況のやばさに大和は若干(じゃっかん)魂が抜けかけた。


「頼む大和、どうかこの状況を(くつがえ)してくれ!」

「神様から頂いた能力(スキル)で私たちを助けてください!」

「って言われてもなあ……」


 何と言うべきだろうか?


「あの女神、俺に何かくれたらしいけど、そのことについて何も言わなかったんだよ。すぐにわかるからって。だから(いま)だに何ができるようになったのかわからん……あ、この世界の言語がわかるようになってるから翻訳(ほんやく)能力をくれたのかも」


「……え?」

「そうなん、ですか?」

「ああ」


「な、ならおそらく貴殿の能力ならこの状況を能力なしでも覆せると思ったのだろう!」

「あなたのいた世界ではきっと国士無双(こくしむそう)の武人だったんですよね!? それこそ一人で千人を相手取るほどの一騎当千(いっきとうせん)――」


「いや? 俺のいた世界はともかく国は平和そのものでな。ここ百年近く戦争とかそういうのはなかったし、プロの格闘家(かくとうか)でもないから一騎当千とかそういうのは――」


 運送業(うんそうぎょう)をやっていたから力は人並(ひとな)み以上にあるし、サーキットはともかく峠も走りこんでいたから、何度かガラの悪い連中とケンカになった経験もある。


 そういう(やから)をことごとく打ちのめしたことから、腕っぷしの方は自信があるが、この場合そういうレベルではないだろう。


「じゃ、じゃあ何をやっていたんだ?」

「ドライバー」


「それは何をするお仕事なんですか?」

「色々あるけど、俺がやっていたのは荷物(にもつ)を運ぶ仕事だよ。朝から晩まで重い荷物をトラックに乗せて、西へ東へ運ぶ流通(りゅうつう)(かなめ)だ」


「お、終わった……」

「わが命運もここに()きたか……」


 アレクとサツキが崩れ落ちた。

 大和は人が(ひざ)から崩れ落ちる(さま)を初めて見た。


「ま、まあまだ(あきら)めるのは早いって! 戦闘面で助けることは(むずか)しいとは思うが、逃亡なら多分いけるぜ!」


「本当か!?」

「ああ、幸い俺の相棒(あいぼう)一緒(いっしょに)に喚ばされてきたからな」


 クイッと指でトラックを指し示す。


「二人とも、アレに乗れよ。この世界の移動手段はまだわからないが、少なくとも馬や歩きよりはずっと早いぜ」


 おかしい……最初はテンプレ古典系なろうものを書いてみようと思って神様チートとトラック転移をやったのにすでにテンプレから外れている……

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