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第9話 辺境の街グラバー

「これが異世界の(まち)かぁ……まるでテーマパークに来たみたいだな」


 大和(やまと)(あらた)めてグラバーの街を見た第一声(だいいっせい)はそれだった。

 石畳(いしだたみ)舗装(ほそう)された大通り、ありそうでない文字で(えが)かれている看板(かんばん)西部劇(せいぶげき)に出てきそうなデザインの大衆食堂、剣や鎧で武装(ぶそう)した冒険者たちに、エルフやドワーフに代表される亜人族(あじんぞく)たち。


 どこからどう見ても一般的日本人が想像する異世界ファンタジー世界といった様相(ようそう)だ。

 そこかしこで魔法が使われていなければテーマパークと勘違(かんちが)いしても不思議ではない。


「もう帰れないけど、いち日本人としてこの光景(こうけい)はちょっと感動するな」

「ヤマト、貴殿(きでん)の言うテーマパークとは何だ?」


「うーん、簡単に言うと物語の世界観を()して作られた箱庭(はこにわ)の世界かな? 店の人やスタッフたちがその世界観に合わせた衣装(いしょう)を着てそれっぽく接客してくれるんだ。まるで物語世界の登場人物になったかのように錯覚(さっかく)できる楽しい場所だ」


「ほう、それは楽しそうだな」

「そのアイデアいただきました。実現可能か、お兄様に話してみます」


 早速(さっそく)使えそうな案が出たようだ。

 3人は会話しつつ街を見回る。


「まずどこに行きましょうか?」

「一応仕事なんだし武器防具屋からってのはどうだ? 昼飯にはまだ少し時間が早いし」


「そうだな。そうしよう」

「武器防具を取り扱うお店は工業地区にあります。ここからちょっと(はな)れているので、公営(こうえい)の馬車を使いましょう」


 街の中心にある噴水(ふんすい)、その近くにあった停留所(ていりゅうじょ)で待つこと15分。

 屋根(やね)はないがそれなりに格調(かくちょう)の高そうな馬車を、2匹の馬が引いて現れた。


 御者(ぎょしゃ)をしているのは小鬼(こおに)っぽい見た目の男性の亜人だ。

 (はだ)の色は人と同じ。

 小さな角が生えているところを見ると、ゴブリンではなくボーグルだろうか?


「どちらまで?」

「工業区の入り口までお願いします」

「はいよ」


 3人を乗せた馬車はそれなりの速さで道を進む。


「……ヤマト、サツキ」

「ん?」


「アレク様、どうかしました?」

「いや、その……私の気のせいかもしれないのだが、やけに視線(しせん)を集めていないか?」


 彼女の言う通り、道行く人たちのほとんどが3人に注目する。

 それは決して気のせいではなく、ヤマトたちもそれは感じていた。


「まあ、集めるよな……」

「めちゃめちゃ()れてますもんね……」


「揺れている……? 確かに揺れてはいるが、馬車はこういうものではないか?」

「いや、俺たちが言っているのは……」

「馬車の方じゃなくて、その……」


 サツキがアレクを指さした。

 彼女の指が示した先にはアレクの絶賛(ぜっさん)振動(しんどう)中の胸がある。


 男装のせいで普段外に出れず引きこもりがちだった彼女の巨乳は、元気()っぱい夢()っぱい。


 青空の(もと)、全力ではしゃいでいる。

 それはもう――ぶるんっ! ぶるんっ! って。


「――ッ!」

「サツキ、この世界ってブラジャーないの?」


「ブラジャー? 知らない単語ですね。どういうものなのですか?」

「えーと、女性専用の下着で、胸を(ささ)えるやつ。つけると胸が楽になるし形も(くず)れないって話だ」


「あ、それいいですね! どうやって作るんですか?」

「俺が知るわけないだろ。なんで男の俺が女の下着のことを(くわ)しく知ってるんだよ? 下着メーカーの人じゃないから、知ってたらただのやばい人じゃねーか」


「まあ、確かに」

「俺が知ってるのは形と概念(がいねん)だけだ。どうやって作るかは研究してくれ」


 大和はとりあえず絵を描いて形だけサツキに教えた。

 そうこうしているうちに場所は工業区入り口に到着(とうちゃく)

 3人は武器防具屋をゆっくりと視察(しさつ)する。


「剣、槍、斧、(つち)、弓……面白いところだと(むち)に杖か。ファンタジー要素(ようそ)はあるけど中世ヨーロッパ時代と基本的には変わらないな。鎧と盾は普通のもあるけど……ナニコレ? ビキニアーマー……? 定番っちゃ定番だけど、さすがにこれで戦うとか冗談だよな……?」


「何が冗談なのだ?」

「身につければ魔法で身体能力が強化されるし、とても身軽(みがる)で動きやすいですよ?」


「いや、でもこれじゃ大事な部分が守られないような……?」

「金属部分で心臓と肺は守られますから」


硬化(こうか)が自然と発動するから、生半可な武器では傷一つ付かないぞ?」

「まじかよ……? ファンタジー世界すごいな……でもこれお前たち着れる?」


「普通に着れますよ?」

「上に服を着ればいいしな」


「あ、なるほど」

「ヤマトさん……いくらなんでもあの格好で戦場に出るわけないじゃないですか」


「私たちはお前からどんな変態だと思われていたんだ?」

「はははは……」


 曖昧(あいまい)に笑ってごまかした。

 先入観って怖い。


「さっき俺が言ったブラジャーってのは、このビキニアーマーの胸部分。ここをワイヤーと布で作って胸を支えるんだ」


 とりあえずブラジャーの話でお茶を(にご)し、視察を再開する3人。

 だいたいの店を回った後に中央区に戻り、次は提供される料理のチェック。


 どこの店も全体的に味が薄く、野菜や肉の味が悪い。

 サラダを頼んだらエグみの強い野菜の上に、塩を振られて出てくるだけ。


 どうやら調味料という概念がないらしい。

 こいつはひと(もう)けできそうだと、ヤマトは悪い笑みを浮かべた。

 そんな風に時間をすごし数時間後――、


「ヤマトさん、今日はありがとうございます。あなたのおかげで財政(ざいせい)(うるお)(うるお)いそうです」

「ひと儲けしたら俺にも少しでいいからボーナスを(たの)むよ」


「ヤマト、すまないがシャワーを貸してくれないか? 修道服が肌に張り付いて気持ち悪いんだ」

「あー……暑そうだもんなそれ。いいよ、()びてきな」


「すまないな」

「しかし……やっぱエッチだなその服」


「そ、そんなことない! わ、私は王族だぞ!? 王族がエッチな格好(かっこう)などするものか!」

「いや、エロに王族関係ないだろ。何食ったらそんなムチムチになるんだよ……っていうか、よくそのメスさを(かく)せているよな。こんなん一発で女だってバレそうなもんだけど」


「……頑張っていますので」

「サツキさんまじパネェな……」

「~~~~ッ! 話は終わりだ! 借りるぞ!」


 アレクは強引に話を打ち切りノアの中に入った。

 少しばかりした後、シャワーの音が聞こえてくる。


「私、お着替えをお持ちしますね」

「何か食えるものを作っておくよ。こっちの世界の飯はあんま口に合わない」

「サツキ様! 戻られましたか!」


 突然、城の中から一人の兵士が飛び出してきた。

 すごく(あわ)てている様子だ。

 一体何かあったのだろう?


「落ち着いて下さい。どうしました?」

「バルボッサ公爵(こうしゃく)の軍が現れました! その数1万!」


「1万!? 場所は!?」

「領地の最外周部分――オルトリンデ砦です。ですが……」


「まだ何かあるのですか?」

「現れたその場所がイベリコ平原……つまり、隣国の領内なのです」


「何ですって!? では……」

「隣国とは不可侵条約(ふかしんじょうやく)締結(ていけつ)中のため、常駐(じょうちゅう)している兵士の数が足りません。ムサシ様は大急ぎで部隊を編成中です。サツキ様も準備をお急ぎ下さい」


 では――と、敬礼(けいれい)して兵士は帰って行った。


「ヤマトさん! 私は大急ぎでアレク様の着替えを取ってきます! ノアさんをすぐに動ける状態にしておいてください!」

「わかった! (まか)せろ!」


 運転席に入り、キーを回す。

 エンジンに火が入りノアが覚醒した。


 ――おはようございます、大和。


「ああ、おはようノア、よく眠れたか?」

「ヤマト! 一体何事だ!? シャワーの音でよく聞こえなかったが何かあったのか!?」


「ああ……実は――ってお前なあ!」


 アレクの恰好(かっこう)に大和は思わず声を上げた。

 彼女は現在バスタオル一枚。


 ろくに身体も()かずに出てきたものだから全身濡れネズミ状態。

 そんな状態でバスタオルから谷間やらふとももやらお尻やらがはみ出している彼女は、正にセクシーダイナマイトという言葉を擬人化(ぎじんか)したような存在。

 夜寝ている時こんな格好で現れたら、間違いなく暴走して押し倒している。


 ――おやおや、ずいぶんと魅力的(みりょくてき)なお姿ですねアレクさん。

 ――悩殺(のうさつ)されましたか? 大和?


「されねーよ!」

「あっ!? ……す、すまない。見苦しいものを見せてしまって……」


「い、いや……大変すばらしいものを……ありがとうございます……」

「~~~ッ! そ、そんなことより一体何があった!?」


 彼女の質問に大和が答える。


「お前さんの叔父さんの軍隊が。砦の最外周部分――隣国の領内に出現したらしい」

「では――」


 大和が短く首肯(しゅこう)する。


「始まるぞ、戦争が」

次回バトルパート。

おそらくあと5話前後で終了です。

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