第92話 眠れる歴史の都へ
『酒を知る者は飲んべである』
―哲学者ヘーゲルナッツ―
あたし達はウォーム市に向かっていたのだわさ。
途中の街で、人が大通りに集まってるのが見えたんだわさ。
「いったい、なんの集まりなんだわさ?」
すると親切な街の人が答えてくれたんだわさ。
「今、この道を勇者様がお通りになるそうだ。だから、みんなで歓迎しようと集まっているのだ」
「勇者?勇者なら、ここにいるんだわさ」
っと、ハレルを指さすも、街の人は眉間にしわをよせるんだわさ・・・
「何を言ってる。そんなガキンチョじゃ無い。もっと、品格のある勇者だ」
ハレルは軽くショックを受けたのよ・・・
「勇者が来たぞ!」
みんながざわつき始め、遠くから歓声が聞こえ始めたんだわさ。
あたし達はどんな人が来るのかと、人混みの合間を縫って、覗き見てみたんだわさ。
馬に乗った凛々しい姿の勇者がいて、その後ろに長い槍を担いだ歩兵が続いて大通りを行進しているんだわさ。
「あれが、勇者?」
「そうだよ。彼はシュヴァイツァーラントの英雄の子孫であり、勇者のハインリヒ・フォン・ヴィンケルリート様だよ。まあ、シュヴァイツァーラントは神聖帝国から独立したんだが、噂では、宗教改革に対抗する為とも、単純に傭兵として雇われたとも言われている」
「詳しいのねぇ~・・・」
しかし、身分も高そうな雰囲気のある勇者なんだわさ・・・
ウォーム市に集められる勇者はみんな、高貴な身分なのかねぇ~・・・
それに比べて、ハレルは・・・
「・・・ハレル。イメチェンだわさ」
「え?イメチェン?」
「このままだと、他の勇者達になめられるんだわさ!もっと、高貴な身分に見えるようにしなくちゃなんだわさ!」
「マジョリン。人は見かけじゃありません」
「聖職者ほど人を見かけで判断してるんだわさ!」
「うぐぐっ・・・」
「ハレル!王と王子に間違えられるようにするんだわさ!」
「そんな、高貴に着飾れって言われたって・・・ボクじゃどうしたって無駄かもだよ?」
「何を言っているんだわさ!なにものじゃ無くたって、夢を描くのだわさ!真っ白なキャンパスに色を足せば、ごちゃごちゃしてたっておしゃれにかわってゆくんだわさ!!」
「え?な、何を言っているかわからないよ・・・」
「でも、情熱はあるんだわさ!」
とりあえず服の仕立て屋にハレルを連れて行ったんだわさ!
「この子を、ナンバーワンイチバンにしてやってくれなのよさ!それこそ気が付いたらトップ独走して、ウィニングランしちゃってる程の男に!」
すると仕立て屋は、何か計算を始めたんだわさ・・・
「高いよ」
提示された金額を見たのよ・・・
げげっ!
高額なんだわさ!!
「マジョリン・・・無駄な抵抗はやめましょう」
「うぐぐっ・・・」
あたしゃ、挫折したんだわさ・・・
「マジョリン・・・今すぐは無理だけど、いつかはきっと、ふさわしい男になるよ」
う~ん、でもけなげなハレルかわいい!
ずっとずっとギュッとギュッと離したくないんだわさ~!
「落ち着けマジョリン!」
あたしゃメメシアに頭を叩かれたんだわさ・・・
「そもそも、わたくし達にそのような余裕はありません」
・・・余裕が無い。
「なら、ドラゴン城伯やダイムラー辺境伯の財政支援を利用するんだわさ!」
「っめ!!」
「くぅ~ん・・・」
「衣装の為だけに、そんな大事なつながりを利用するのではありません!」
「でも、メルセデスお嬢様ならわかってくれるかも・・・」
「でもダメです!!」
結局、ハレルイメチェン作戦は何の成果も得られぬままに終わったんだわさ・・・
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ルザーの顔は青ざめていた。
長距離の移動と、立ち寄る場所で多くの人達との交流、そして、演説を行い、心身共に疲れ果てていた。
旅の目的である帝国議会出席のプレッシャーや、道中で襲撃されるかもしれぬ恐怖もまた、彼を追い込む要素として働いていた。
過度のストレスから、演説の後に吐血して、倒れ込んでしまう事もあった。
だが、彼は進む事を止めなかった。
フランコノファード帝国自由都市に到着し、ここでも多くの人達から歓迎を受けた。
街の聖職者や貴族達が宿泊場を貸してくれた家に話を聞きに押し寄せて来るのだ。
しかし、ルザーは疲労困憊であるにもかかわらず、彼等を拒む事は無かった。
街の色々な人達と話し終え、夜も遅くなり、ようやく休息が取れるようになった。
「ああー!忙しい日!」
ルザーは外を見ると、夜中であった事に気が付いた。
「・・・の、夜!」
弟も、ルザーのサービス精神にあきれていた。
「兄さん。そんなに疲れ果てているなら、断ってしまえばいいのに・・・兄さんが無事、ウォーム市に到着できるか心配です。いや、ウォーム市に到着してからが本番ですし、その後もどうなるか・・・兄さんにはこれ以上、無理して欲しく無いのですよ・・・」
「心配させて済まないな・・・だが、主より与えられたこの使命・・・背くわけにはいかないのだ・・・」
やはり、弱音は吐いても芯は曲げないのが彼の生き方だったのだ。
「しかし、旧約の民の連中とも話したが、どうして彼等は我が救世主を認めないのだろうか?だんだん腹が立って来たぞ!」
「まあまあ、それが彼等のポリシーなんだろう。我々には理解できない事だがな」
っと、弁護士のジョナスはルザーをなだめる。
「せっかく救いの道を説いているというのに、あいつらは」
「待て待て、そんな旧約の民の悪口を言うと、後世でその言葉が悪の軍団によっていいように利用されてしまうぞ」
悪の軍団・・・?
そんな曲った十字架を掲げるような軍団はどんな連中なんでしょうね?
「ちょっと、肩がこった。軽く運動をすべきだな」
っと、ルザーは立ち上がる。
「兄さん、この前吐血したばかりなのに、無茶しないで下さいよ」
ルザーは同行する学生達を集め、床に9本の棒をひし形に並べて立てた。
「ルザー先生。それは、占いですか?」
通常はこの棒を悪魔に見立て、ボールを転がして多く倒せれば、災いから逃れることが出来るという、迷信的な行いであった。
「いや、ただの肩ならしだよ」
っと、ルザーはボールを滑らせるように転がした。
そして、9本の棒を見事に倒したのだ。
「うむ、調子がいい!」
学生達もそれを真似て、遊び始めた。
これが、スポーツとしてのボウリングの始まりである。
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