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第91話 改革者の珍道中と闇勢力の会議

『人は飲酒を好む、それで飲むのはお酒だから』

―劇作家、小説家バーナーナ・デショー―




...................

ルザー達は馬車に乗って、ウォーム市を目指して進んでいた。

道中、立ち寄った街の司祭から、過去に異端者として火刑に処された修道士の肖像画を手渡された。

その肖像画を渡された意味は、お前も彼と同じ運命をたどると言いたかったのか、彼が行おうとした教会や人々の堕落を廃除して欲しいとの願いからなのかはわからなかったけど、前向きに考える事としたのだ。


また、他に立ち寄った街にて、そこでは大学の人文主義者達から歓迎され、教会で演説を行って欲しいとも頼まれたのだ。


「兄さん。旅はまだまだ続くのに、演説したら疲れますよ?兄さんはあまり体が強くない。よわよわのざぁ~こじゃないですか・・・」


「だが、私の声を聞きたいと言う人達がいるならば、私はそこに立たねばならない」


そう言って、ルザーは教会で演説を行う事に決めたのだ。

ルザーは教会の説教台に立つ。

噂を聞きつけた多くの人達が教会に集まったのだ。

その数は、教会に入り切れず、教会の中も人が密着する程のぎゅうぎゅう詰め状態である。


「押すな押すな!」


「誰か倒れたぞ!起こせ!」


「説教するっていうレベルじゃねえぞ!」


教会に押し寄せた民衆は、その人口密集の限界からか、ついに窓ガラスをカチ割り、文字通り教会からあふれ出したのだ。

この光景から、ルザーは民衆が抱く教会への不満が相当なものだと実感した。

また、個人がどうこうして収まる事でもない事も実感したのだ。


演説の後、宿でルザーは仲間達に言った。


「人多すぎ怖っ!!」


弁護士のジョナスは鼻で笑った。


「何を怖がることがあるんだい?みんな、君の支持者だぞ」


「いや、怖いんだ。あの民衆を見ただろう。あれは私の言葉に動いたが、私があの民衆を制御する事は出来ない。彼等が私の言葉を過激にとらえていたとして、もし、全員が暴徒となったらと考えると、恐ろしくてたまらないんだ・・・」


ルザーは恐怖に震えていた・・・


「改革は暴力で行われるべきでは無い。理性を持って行われるべきなのだ・・・無駄に血が流れてはいけない・・・」


そして、ルザーは立ち上がり、真剣な表情で言った。


「お酒が飲みたい!」


「に、兄さん!いきなりどうしたのですか!?」


「こんな気持ちの時はお酒を飲むべきだ!」


すると、同行していた学生達が、革袋に入れた赤ワインがあるとルザーに告げ、各々コップを手に、ワインを飲む事にした。


「やっぱりお酒は良い!お酒と恋を愛せぬ者は愚か者だ!」


「兄さん・・・聖職者ディスってます?」


「恋を知らぬ聖職者は皆、こじらせ童貞だ!だから変に女嫌いになって、女性を敵視しやがるんだ!」


「兄さん、飲みすぎでは?」


学生達は真剣にルザーの言葉を聞いていた。


「君達も、酔っ払いの戯言を真面目に聞かないで・・・」


弁護士のジョナスはこんな光景を見ても、動揺するどころか、少し楽しそうな感じだった。


「しかし、教皇から破門を突き付けられ、皇帝と立ち会う場所があのウォーム市というのはなんとも皮肉な話だと思わぬか?」


酔ったルザーは、それを聞いて笑った。


「ジョナスよ。言いたい事がわかったぞ。約400年前に、教皇と皇帝の間で協約が結ばれた地がこれからむかうウォーム市だったと、今回の私のこの出来事も、後世に大きな影響を与える出来事になるだろうと、そう言いたいのだな?」


「まさにその通りだよルザー」


ルザーは笑った。


「そんなにプレッシャーかけるなよー」


笑いながら涙目だった。


「兄さん、情緒不安定すぎですよ・・・もう、今日は寝ましょう」


ルザーは、布団の中に入って、まるまって寝た。


「しかしジョナス先生。ウォーム市で結ばれた協約は、それ程問題を解決するような内容では無かったと言われていますよ」


「あの協約は、協約の内容が大事なのでは無い。協約を結んだ事が大事なんだ。同じく、ルザーは皇帝と対話すると言う事が大事になるんだ」


生徒達は首をかしげた。


「君達もそろそろ寝たまへ。明日も忙しいだろう。何処によっても、彼は有名人だから、休む暇なんて無いと思え」


ルザー達がウォーム市に到着するのは、まだ先の事のようだ。

...................



――――魔王軍に情報が入ったのだ。

ウォーム市で帝国議会が開催されるとの事。

ここで、魔王軍は各所に兵を潜伏させ、議会を妨害するという方針をとった。

ただ、魔王様は議会自体はそのまま開催させて、終わった後に攻勢にでるべきだと考えているのだが、魔王の右腕たる騎士、フリッツ・フォン・ジッヘンハイムは議会を襲撃する気でいる・・・

彼は、第一目標を神聖帝国皇帝の暗殺とし、第二目標を宗教改革のリーダーであるルザーを誘拐する事とした。


ジッヘンハイムの城、コロシュタイン城の広間に呼び出された私は、ジッヘンハイムが独断で進める作戦会議に参加する事になったのだ・・・


参加者は、城主のジッヘンハイムと私以外に狂気の魔女の愚者姫、ジッヘンハイムの戦友のハルハート12世・フォン・クロベルク、全身アーティファクト改造人間騎士の鉄腕ダッツ、毒の魔術師アリアンナ・ツヴァイツィガーが出席した。


「これより我ら魔王軍は、薔薇園における帝国議会を襲撃し、皇帝を殺す!」


愚者姫は歓声を上げて拍手する。


「友よ。拙者は皇帝を暗殺するのは反対である。ただ、第二目標のルザーの誘拐には賛成する。彼の影響力を魔王軍は必要とし、彼には魔王軍の力が必要であると知ってもらうべきだ」


ハルハート12世は冷静かつ、戦略的思想を重視する騎士であった。

騎士としても珍しく、勤勉なタイプであり、人文主義者でもあった。


「皇帝を殺す事にメリットは無い。ただ、選帝侯でかつ、大司教を狙うべきである。大司教の空位が諸侯の争いの種となり、魔王が望む結果を生むであろう」


そう語るのは鉄腕ダッツ。

彼は様々な諸侯に仕え、様々な戦場で戦って来た戦歴の持ち主である。

体の殆どはアーティファクトで機械化されているが、人の心を持ち続けている事が彼の誇りであるとの事だ。


「そんなのつまんな~い。せっかくだから、諸侯共皆殺ししよ?ね?ね?毒を使えば可能だよ?!そうすれば、みんな楽しい無政府状態!」


毒の魔術師マリアンナは無邪気に語る。

彼女は召使いとして、貴族に接近し、毒殺し、財産を奪う行為を続けて来た悪党である。


「それは却下だな」


広間の扉を開けて、魔王軍親衛騎士団の騎士達が入って来た。


「なんだ?オレ達に作戦を止めさせるようにと魔王から言われて来たのか?」


親衛騎士団の1人がジッヘンハイムに対してお辞儀をして、挨拶を始めた。


「自分はヨトゥン・パイパーと申します。親衛騎士団において、軍団長を務めています。魔王閣下より、あなた達の作戦がやりすぎる事の無いよう、監視するようにと頼まれて来たものだ」


「なになに~?せっかく楽しい作戦会議に水を差さないでほしいんですよぉ~。ズィー達はお帰りよぉ~~!!」


無駄にあおる愚者姫・・・


「帰れ~!」


さりげなく、何か小瓶を投げつけるマリアンナ!

しかし、小瓶は空中で止まったのだ!

いや、物凄い速度で移動した1人の騎士が受け止めたのだった!


「貴様、軍団長に立てつく事は、魔王様への反逆と同じだ。処す」


「処すって、ちょっとした冗談じゃん。本気になって、怒ってだっさぁ~」


っと、マリアンナが話しながら、その頭は床に落ち、赤い噴水が噴き出し、マリアンナの体は崩れ落ちた。


「ただの外道が1人、消えた所でむしろ、魔王軍にとっては利益だ」


目にも止まらぬ早業とはこの事だ・・・

彼はいつの間にか剣を抜き、マリアンナの首を斬り落としたのだ。


「これは失礼しましたジッヘンハイム様。自分の部下、メルダースは魔王に対して厚い忠誠を誓っておりますもので」


「貴重な魔術師が1人死んだぞ。どうしてくれるのだ」


パイパーはお辞儀をした。


「申し訳ございません。代わりに、魔王軍より、4人の巨人の戦士を派遣してもらうように手配致します」


「親衛騎士団とやらは、そこまで偉いのか?」


「偉い?そんなジッヘンハイム様、誤解です。自分はただ、魔王閣下より、信頼を得ているだけであります」


何という、マウントの取り合い・・・

魔王軍はどうも、まとまる事が苦手なようだ・・・

作戦は結局、各々がベストを尽くすで決まってしまった・・・

さて、どうなることやら・・・――――




第92話 眠れる歴史の都へ



あたし達はウォーム市に向かっていたのだわさ。


途中の街で、人が大通りに集まってるのが見えたんだわさ。


「いったい、なんの集まりなんだわさ?」


すると親切な街の人が答えてくれたんだわさ。


「今、この道を勇者様がお通りになるそうだ。だから、みんなで歓迎しようと集まっているのだ」


「勇者?勇者なら、ここにいるんだわさ」


っと、ハレルを指さすも、街の人は眉間にしわをよせるんだわさ・・・


「何を言ってる。そんなガキンチョじゃ無い。もっと、品格のある勇者だ」


ハレルは軽くショックを受けたのよ・・・


「勇者が来たぞ!」


みんながざわつき始め、遠くから歓声が聞こえ始めたんだわさ。


あたし達はどんな人が来るのかと、人混みの合間を縫って、覗き見てみたんだわさ。


馬に乗った凛々しい姿の勇者がいて、その後ろに長い槍を担いだ歩兵が続いて大通りを行進しているんだわさ。


「あれが、勇者?」


「そうだよ。彼はシュヴァイツァーラントの英雄の子孫であり、勇者のハインリヒ・フォン・ヴィンケルリート様だよ。まあ、シュヴァイツァーラントは神聖帝国から独立したんだが、噂では、宗教改革に対抗する為とも、単純に傭兵として雇われたとも言われている」


「詳しいのねぇ~・・・」


しかし、身分も高そうな雰囲気のある勇者なんだわさ・・・

ウォーム市に集められる勇者はみんな、高貴な身分なのかねぇ~・・・

それに比べて、ハレルは・・・


「・・・ハレル。イメチェンだわさ」


「え?イメチェン?」


「このままだと、他の勇者達になめられるんだわさ!もっと、高貴な身分に見えるようにしなくちゃなんだわさ!」


「マジョリン。人は見かけじゃありません」


「聖職者ほど人を見かけで判断してるんだわさ!」


「うぐぐっ・・・」


「ハレル!王と王子に間違えられるようにするんだわさ!」


「そんな、高貴に着飾れって言われたって・・・ボクじゃどうしたって無駄かもだよ?」


「何を言っているんだわさ!なにものじゃ無くたって、夢を描くのだわさ!真っ白なキャンパスに色を足せば、ごちゃごちゃしてたっておしゃれにかわってゆくんだわさ!!」


「え?な、何を言っているかわからないよ・・・」


「でも、情熱はあるんだわさ!」


とりあえず服の仕立て屋にハレルを連れて行ったんだわさ!


「この子を、ナンバーワンイチバンにしてやってくれなのよさ!それこそ気が付いたらトップ独走して、ウィニングランしちゃってる程の男に!」


すると仕立て屋は、何か計算を始めたんだわさ・・・


「高いよ」


提示された金額を見たのよ・・・

げげっ!

高額なんだわさ!!


「マジョリン・・・無駄な抵抗はやめましょう」


「うぐぐっ・・・」


あたしゃ、挫折したんだわさ・・・


「マジョリン・・・今すぐは無理だけど、いつかはきっと、ふさわしい男になるよ」


う~ん、でもけなげなハレルかわいい!

ずっとずっとギュッとギュッと離したくないんだわさ~!


「落ち着けマジョリン!」


あたしゃメメシアに頭を叩かれたんだわさ・・・


「そもそも、わたくし達にそのような余裕はありません」


・・・余裕が無い。


「なら、ドラゴン城伯やダイムラー辺境伯の財政支援を利用するんだわさ!」


「っめ!!」


「くぅ~ん・・・」


「衣装の為だけに、そんな大事なつながりを利用するのではありません!」


「でも、メルセデスお嬢様ならわかってくれるかも・・・」


「でもダメです!!」


結局、ハレルイメチェン作戦は何の成果も得られぬままに終わったんだわさ・・・



...................

ルザーの顔は青ざめていた。

長距離の移動と、立ち寄る場所で多くの人達との交流、そして、演説を行い、心身共に疲れ果てていた。

旅の目的である帝国議会出席のプレッシャーや、道中で襲撃されるかもしれぬ恐怖もまた、彼を追い込む要素として働いていた。

過度のストレスから、演説の後に吐血して、倒れ込んでしまう事もあった。

だが、彼は進む事を止めなかった。


フランコノファード帝国自由都市に到着し、ここでも多くの人達から歓迎を受けた。

街の聖職者や貴族達が宿泊場を貸してくれた家に話を聞きに押し寄せて来るのだ。

しかし、ルザーは疲労困憊であるにもかかわらず、彼等を拒む事は無かった。

街の色々な人達と話し終え、夜も遅くなり、ようやく休息が取れるようになった。


「ああー!忙しい日!」


ルザーは外を見ると、夜中であった事に気が付いた。


「・・・の、夜!」


弟も、ルザーのサービス精神にあきれていた。


「兄さん。そんなに疲れ果てているなら、断ってしまえばいいのに・・・兄さんが無事、ウォーム市に到着できるか心配です。いや、ウォーム市に到着してからが本番ですし、その後もどうなるか・・・兄さんにはこれ以上、無理して欲しく無いのですよ・・・」


「心配させて済まないな・・・だが、主より与えられたこの使命・・・背くわけにはいかないのだ・・・」


やはり、弱音は吐いても芯は曲げないのが彼の生き方だったのだ。


「しかし、旧約の民の連中とも話したが、どうして彼等は我が救世主を認めないのだろうか?だんだん腹が立って来たぞ!」


「まあまあ、それが彼等のポリシーなんだろう。我々には理解できない事だがな」


っと、弁護士のジョナスはルザーをなだめる。


「せっかく救いの道を説いているというのに、あいつらは」


「待て待て、そんな旧約の民の悪口を言うと、後世でその言葉が悪の軍団によっていいように利用されてしまうぞ」


悪の軍団・・・?

そんな曲った十字架を掲げるような軍団はどんな連中なんでしょうね?


「ちょっと、肩がこった。軽く運動をすべきだな」


っと、ルザーは立ち上がる。


「兄さん、この前吐血したばかりなのに、無茶しないで下さいよ」


ルザーは同行する学生達を集め、床に9本の棒をひし形に並べて立てた。


「ルザー先生。それは、占いですか?」


通常はこの棒を悪魔に見立て、ボールを転がして多く倒せれば、災いから逃れることが出来るという、迷信的な行いであった。


「いや、ただの肩ならしだよ」


っと、ルザーはボールを滑らせるように転がした。

そして、9本の棒を見事に倒したのだ。


「うむ、調子がいい!」


学生達もそれを真似て、遊び始めた。

これが、スポーツとしてのボウリングの始まりである。

...................




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